★公開日: 2022年5月28日
★最終更新日: 2022年5月29日

最新ニュースから気になる話題を、プロ目線でコメントする。
そんな今回のニュースは、鳩の糞まみれとして炎上中の大阪の精米工場についてお話していきましょう。
みんな「けしからん」で激おこしてるけれど、これって害虫獣防除の専門家からすればどう見えるんでしょうか。それを伝えたいと思います。

本日の時事食品ニュース
参照画:MBS NEWSより
参照画:MBS NEWSより
食ネコ
食ネコ
ていうか、根本だったはずのホチキス針混入対策はどこに行ったんだにゃ…?
この記事の内容
  • 専門性:低(一般レベル)
  • 対象:特になし
  • この記事から得られること:ハト対策とは、実際にはどんなことをするのか、それは幾らくらいかかるのか、について

 

執筆者紹介と本日のポイント

まずは、ご挨拶を。

高薙紹介
高薙先生(Twitter)

…とまあ、こんなぼくがこの記事を書いてます。

そして今回のポイントは、一言で言えば、ハイ。
「みんな揃ってド素人」、です。
んじゃ、早速ながら本題、行きましょう!

大阪の精米工場が鳩の糞まみれで炎上

「食品業界ニュースピックアップ」。
食品衛生関連のニュースに対し、専門家としての解説を加えていく、こちら。
本日のお題は、大阪の糞まみれ精米工場についてお話をしていきましょう。

まず、そのニュース紹介。こちらです。

【『ハトのフン』ある中で給食用に精米…保護者「ありえない」 市は工場に立ち入り調査】
(2022年05月23日)
 学校給食用の米を納入していた大阪府枚方市の精米工場で、ハトが入り込みフンが落ちるなど、不衛生な環境で作業が行われていたことがわかりました。
 守口市教育委員会などによりますと、5月17日、守口市の小学校の給食の米に異物が混入していたため、保護者などが米を納入する精米工場「JA北河内営農センター」を調査したところ、工場内にハトが入り込み、フンがある中で精米が行われていたことがわかったということです。…(以上引用)
(MBS NEWS)

参照画:MBS NEWSより
参照画:MBS NEWSより

これについては、先日のウィークリーニュースでも触れたニュースですね。

「糞まみれのコメを子供たちに食べさせているのか!」
「どうしてJAは現場査察をしないんだ!」
とPTAのご父兄揃って激おこのご様子がメディアに放映されているんですけど、これって実際どうなんでしょうか。
この人達やこのメディアは何を知っていて、こんなに他人を叩いて「けしからん」面ができるのでしょうか。

食品衛生と、そのための害虫獣防除に関わる身から、ちょっとばかりお話をしていくとしましょう。

挿画:ポイント

最初は給食への異物混入だった

そもそも、この「鳩の糞だらけ精米工場」の問題のコトのきっかけは、といえば、給食の異物混入から始まったものでした。

5月17日、大阪府守口市の小学校の給食に、ホチキスの針が混入していたことが発覚したのです。
しかしニュースにも書きましたが、今週は本当に給食の異物混入が多かった。
紹介するのもキリがない位でしたからね。

【小学校の給食にホチキス針混入、校内調理を一時停止 大阪・守口】
(2022年05月20日)
 大阪府守口市の市立小学校の給食にホチキス針が混入していたことが20日、市教育委員会への取材でわかった。どの段階で針が混入したかは不明だという。…(以上引用)
(朝日新聞)

挿画:給食に異物混入

てゆーか、そもそも論なんですけど、ぼくからすればやれハト云々の前に、これ自体がどうかと思いますけどね。
だって、金属異物の混入つってもこれ、機材や施設の劣化破損の由来じゃない。
それ以前の、ホチキスですよ?
食品工場関連の方々なら、ここで呆れ顔になること間違いなしでしょう。

なのでこんなことはよもや言うまでもないですけど、一般的な衛生管理の考えでは、ホチキス本体はもちろん、ホチキス止め書類の厨房施設の持ち込みはタブーです。
なぜなら、金属異物対策上、脱落しての異物リスクになるもの、定数定位置管理の出来ないものは製造・調理現場に持ち込むべきではないからです。
金属探知機もない、というのであれば余計そこは気を使うべきです。

ということはこれ、基礎的な持ち込み制限品のルールが守られていないうえ、問題になった時点で、給食施設なのか、原材料の製造段階なのか、どの段階で起こったかすら把握できていない、つまりは仕組み自体が何もできちゃいない。

寧ろこっちの根本的な問題がないがしろになってしまい、話題的にはキャッチーだけどお金さえかければなんとかなるハトだけに目が向いてしまった現状は、はっきり言って逆にヤバいし、こういう環境はどうせまた何か違う深刻な問題を再発するんだろうな、としかぼくなんかは思わないんですけど、でも「けしからん」派はそういうことには全く興味がないのでしょうか。

おっと、先に進みましょう。
そして、この混入経路の原因究明調査のために、教育委員会らが立ち入り調査のため、給食の白米の精米工場に査察に行ったことで、話が思わぬ方向に向います。

それが、今回のこの「精米工場、行ってびっくり中は鳩の糞だらけ」事件です。

少しばかり長いのですが、ニュース記事を引用してみます。

小学校に給食の米を卸している大阪の精米工場にハトが入り込み、不衛生な状態で作業が行われていた問題で、工場の中では数年前からハトが確認されていたことが分かりました。

23日、大阪府枚方市の精米工場・JA北河内営農センターに立ち入り調査を行ったのは、米を納入していた市の職員たち。

【守口市教育委員会 太田知啓教育長】
ーーQ:今日もハトがいた?
「きょう目視で確認できたのは2羽でした」
「近日中にハトを駆除するというのは伺っています」

この工場からは守口市、寝屋川市、門真市、枚方市の学校給食やスーパーなどに米が出荷されていました。

5月17日、守口市の小学校の給食の米にホッチキスの混入していたため保護者などが調査したところ、ハトが工場に入り込み、フンがある中で精米が行われていたことが発覚しました。

JAの担当者から説明を受けた守口市教育委員会によると、ハトは少なくとも数年前から工場にいたことが分かりました。

調査が行われた23日も、工場の屋根や窓にたくさんのハトの姿がありました。

衛生管理に疑問を抱いた守口市の保護者らは22日、PTAの総会を開き、教育委員会の職員も出席しました。

4時間にわたる話し合いで、市が納品を受けていた4年間、現場の視察を行ったことは一度もないことが明らかになりました。

【保護者】
「JAと契約していたら、食するものを頼んでいる業者なので監査入っているはず」

【守口市教育委員会の担当者】
「直接、精米所に行くことはしておりません」

【保護者】
「こんな状況で工場で精米されている米を、守口市の子どもたちは無洗米として食べているんです」

保健所によると、精米作業は機械の中で行われるためフンなどが混入する可能性は極めて低く、健康被害も確認されていないということです。

市の調査を終え、JAの職員が取材に応じました。

【JAの職員】
「20日に(保健所に)立ち入り調査いただいた回答を待ってる状況です。指導になるのか行政処分になるのかわからないどういう回答が出るか分かりません。それではそういうことでよろしくお願いします」

JAは全ての米の精米・出荷を停止していて、「衛生管理の認識に欠如があった」とコメントしています。…(以上引用)
(カンテレ)

食ネコ
食ネコ
よくよく見てみると、人間は無茶苦茶ばっか他人に言ってるんだにゃ…。

うーん……。
色々とツッコミどころを散りばめたような、いかにもな素人メディア内容でしかないんですけど、でもちょっとこれ、順を追って見ていきましょう。

挿画:ポイント

ハト対策の難しさ

その前に、知っておくべきことがあります。
それは、ハト対策ってどんなことをするのか、ということです。

鳩も害虫獣である以上、虫やネズミと同様に、対策の基本は変わりません。
虫もネズミも、そしてハトも、害虫獣対策における基本対策というのは決まっていて、それが「寄せない」「入れない」「増やさない」「すぐ殺す」の4段階です。

鳩対策も防虫対策も、基本は同じ
  1. 寄せない(環境リスク対策)
  2. 入れない(侵入リスク対策)
  3. 増やさない(発生・生息定着リスク対策)
  4. すぐ殺す(拡散リスク対策)
食ネコ
食ネコ
1「寄せない」
2「入れない」
3「増やさない」
4「すぐ殺す」
は虫だけじゃなくて、あらゆる害虫獣対策の根本にゃ。
ぜひとも覚えておいて欲しいにゃん。

ただし。
ハトの場合、虫とはちょっと違っていて、これらの対策に結構な制限があります。

まず、これらのうち「寄せない」対策、つまりは環境リスクに対する誘引防止対策というのが現実的には困難です。
例えば、CDみたいなキラキラと光るような何かで「寄せない」という対策も世にはあるのかもしれませんが、しかし正直、こんなものの効果は「おまじない」以下の、雨乞いレベルです。
こんなものでハトが寄ってこないのだったら、最初からこんなことになっていません。

次に、「入れない」。つまりは侵入防止対策。
これも彼らには恐らく難しいのでしょう。

というのも一般的に精米工場といったらフォークでひっきりなしに工場内に原料米を搬入したり、精米を搬出しなければいけないので、シャッターの開放頻度は自ずと高いものとなる。
というか、単にシャッターは日中の稼働中ずっと開けっ放し、なんでしょう。
これはこれで、色々な点で問題がありますが、そういう普通にダメな工場なんでしょう。だから問題になるんです。

であれば前室を作る、あるいはシャッターの開閉管理を徹底する、ということになる。
とすると、前室設置工事か、各シャッターをセンサー開閉の自動高速シャッターなどに入れ替えるしかありません。
ざっと見た感じ、それを導入するのに1台数十万円かかりますので、数十万円×シャッターの台数分、がそのコストとなります。まあ、まとめて300~500万円くらいじゃないかな。
勿論、これは「入れない」対策だけなので、これ以外に残る対策も必要です。
つまり、どう考えても現実的じゃありません。

ということは、残る対策はもはや3「増やさない」ための生息定着防止対策と、4「すぐ殺す」ための早期駆除対策、となります。

挿画:ハト

しかし、更に、です。
ハト対策においては、ここに以下4つの独特の問題が生じます。

1つ目。
まずハトは高所まで飛ぶので、何らかの手段を行うときにはどうしても高所作業になりがちだ、ということ。
同時に、場内全域となることが多いので、自ずとその工事は大規模化しがちです。
要するに、一般的に考えられているよりも、ずっと高額です。

2つ目。
これは「すぐ殺す」、つまり捕獲・駆除対策についてですが、実はハトというのは、そうむやみやたらに捕殺したりしてはいけない、ということです。
勿論これは行政に申請許可をもらえばいいだけなのですが、しかし申請を出して許可がおりないと勝手に捕まえたりは出来ません。

3つ目。
同じく「すぐ殺す」の捕獲・駆除対策についてなのですが、もしその対策を行ったとしても、とくにハト駆除というのはその効果があるかどうかはやってみないと判らない、ということです。
なので長期化することも多いです。
つまりそのぶんだけ、これまた費用がかかりがちです。

これらのハト駆除の難しさこそが、精米工場側の「問題なのはそんなこと十分にわかっているけれど、でもこれまで出来なかった」理由につながっているのは間違いないでしょう。

参照画:MBS NEWSより
参照画:MBS NEWSより

ハト対策とは何をするのか

これらを踏まえながら、もう少し具体的に見ていくとしましょう。

先の4段階を踏まえて、一般的な鳩対策には、主に次のようなものがあります。
というか、次のもの位しかこの世に存在しません。
あとは、もし探せばどこかにあったとしたって、そんなものは現実的な有効性のほとんどない夢物語な類です。
鷹匠によって追い出すとか非現実過ぎてマジで笑えます。

鳩対策とは
  • 増やさない:生息防止対策(防鳥ネットや防鳥針など)
  • 捕まえる:捕獲・駆除対策

例えば、というか例えなくたってぼくがこの工場に呼ばれて「何らかの対策を提案してくれ」と泣きつかれたら、その状況に応じて上の2つの提案のどちらかを行うでしょう。
何故なら一般的な業者は、同じ行動を取るからです。
しかし、これらはそんなに簡単ではありません。

まず、根本的な対策としたら、防鳥ネットを天井部や壁面などに設置し、ハトが生息しずらい環境を作る、というのがあります。
しかしそのためには高所をネットで覆い尽くす、ということになりかねません。
なぜならある1エリアをネットで覆えば、ハトは違うエリアに移るだけなので、結局は全面を覆うしかないからです。

しかも高所ですからね。
高所作業車を使ってそれが出来るかどうか。

そしてこれだけ広い精米工場の高所全面をネットで覆うとなると、どこの業者に頼んだとしたって、恐らく100万円じゃとてもじゃないけれどきかないでしょうね。

挿画:防鳥ネット

んじゃ仕方ない、捕獲・駆除対策をしようか、という落としドコロに至ったのでしょう。
報道で答えた職員の「近日中にハトを駆除するというのは伺っています」というのが、それです。

行政に申請書を提出し、1週間後くらいに許可がおりればそこから駆除施工が出来ます。
では、どうするか。
いくつか方法はありますが、ハト小屋を作って、そこにオトリのハトを入れて場内のハトをそこに追い込む、というのが一般的です。
仲間だと思わせて、オリの中におびき寄せる、というわけです。

とはいえ仲間と言ったって別に誘引力もそこまではないので、ハトが入ってくれるかどうかは、かなりのレベルで運頼りです。
しかも死んだら即腐敗するので、こまめに業者の回収が必要になります。
いやあ…これ、面倒臭いんだわ…。
(ぼくが昔、作業員である現場に通っていた時代のことを思い出しつつ)

おっと、いずれにせよ回収作業だってそりゃタダではないので、当然その回数ぶんだけ出張回収のための作業費用が発生します。
しかもいつまでそれが続くかは、オリに入ってくれるハト次第なのでわかりません。
1ヶ月なのか、2ヶ月なのか、もっとかかるのか、それとも入ってくれないのか…。

ま、捕まりきろうが、捕まらなかろうが、効果があろうがなかろうが、企業相手に設備と作業が発生しますから数十万円のコストが必要です。
これはハトの数量次第ですが、見積金額はやっぱり高額ではあるでしょう。
駆除業者も「やってみないとわからないですが、それでも本当にいいですか?ゼロにはならない可能性が高いですよ、それで後で言われても対応できませんよ?」と言うでしょう。ぼくでも言います。
ちなみに普通だと、捕獲0羽というのは余りないものの、全滅はかなり難しい、出来たら相当にラッキー、というレベルだと思っていただければいいでしょう。

あと捕獲というのはその場限りの対応であって別に生息させないという根本的な対策ではないので、また別のところから飛来してしまえば、当たり前ですけど、別途対策が必要になります。
そしてこういう環境はやっぱり再発するものだし、こういう工場は喉元過ぎればやっぱり開放しっぱなしだというのが、まあ定説です。

でもこの工場は、そういうことまで考えてないのでしょう。
取り敢えず、安めに場当たりで済まそうというのが透けて見えてしまっています。

参照画:MBS NEWSより
参照画:MBS NEWSより

「けしからん」の適当さ

それと、そもそも毎度なんですけど、教育委員会というのはただの教育行政であって、公衆衛生のプロでも何でもありません。
こういう人たちに給食の衛生管理を求めても、素人が素人にモノを言うだけなので、何の効果も改善も期待できるものじゃありません。

いい例が、素人のPTAが「どうして監査しないんだ」と彼らにケチをつけているのですが、そんなことは素人が監査なんて出来るわけがないからです。
だって、素人が現場監査できるなら、ぼくらは必要ないんですよ。

この場合、「代行監査」といって、素人じゃその良し悪しや問題についてジャッジ出来ないからぼくら専門家が評価してくれ、と雇われることは確かにあります。
ぼくも何度となく行ってきた業務です。
でもそれだって、そう安くはないですよ、専門家ですからね。
それを給食の原材料の仕入先業者、全てに対してやれ、というのですか?
そのコストは質問者のあなたが出してくれるんですか?

ただし、その一方で保健所は厚生労働省管轄の、つまりは公衆衛生のプロです。
それが、「精米工程は機械内だから問題がない」と言っています。
細かな現場の状況はぼくは知りませんが、これはそれなりに根拠のある発言でしょう。
少なくとも上のような素人問答よりは全く論拠にもとづいています。

挿画:ハト

まとめ

今回はハトのフンまみれ精米工場について、害虫獣防除をしてきたぼくのような専門家からそれがどう見えるか、についてお話しました。

最後に。
ぼくは立場上、専門的なことも知っているうえに、どうしても現場である製造工場側に寄り添って、外側からあたかもな正論を無責任に言うだけの「けしからん」にはかなり冷ややかな身であるのは、確かです。

また保健所が言う通り、精米工程は機械内でしょうから、ダイレクトな汚染の危険性はかなり低いのかもしれません。
ハトの糞害に由来するような病原性細菌なども、給食で生米が出されるわけじゃないんだから、炊きあげる段階で加熱殺菌されて健康被害などは生まれないでしょう。
つまり、保健所の言うように「問題がない」というのも十分に一理頷ける対応です。

にも関わらず子供たちが食べるのにありえへん、と叫んでいるPTA父兄は、じゃあ一般に売っている牛乳も「ありえへん」から飲ませないのでしょうか。
あるいは、お肉はどうなんですか?解体の際に糞尿汚染は避けられませんけど、それもありえへんと叫んで子供には食べさせないのですか?

…とこういう素人目線の「けしからん」をイジり出したらキリもなくなるんでこれ以上はやめておきますけど、でもそんなぼくでも、それじゃ全くこの状況がいいのか、と言われればそんなこともないのも事実です。
糞が直接入らないのだから別に放置してもいいだろう、とも思いませんし、ダニなどの寄生虫やアレルギーの問題は、若干ではあるものの、そこに残ります。
一応ながらそのことだけは、最後に触れておきましょう。それでは。

 

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