★公開日: 2022年5月16日
★最終更新日: 2022年5月16日
ネットなどでも「大腸菌群」と「大腸菌」を一緒くたにしている人が、時折見られます。
しかし、実際には「大腸菌群」と「大腸菌」は大きく違うものです。
にも関わらず、大腸菌群が陽性だとなると反射的に「危ない!」「汚い!」「衛生的でない!」と飛び交う始末。
「どうやら別物らしい」と知っている人も、んじゃ何がどう違うんだと聞かれると、実のところ理解していなかったり、なーんてことも多く見られます。
ではそれらは一体、何がどう違うのでしょうか。
今日はこの違いや、更には「病原大腸菌」についてお話していきましょう。
なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)
この記事の内容 |
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大腸菌とは何か
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
さて、前回までで、どうやら「大腸菌群」というのは「大腸菌」とは別物のようだ、ということが見えてきたかと思います。
でもそこでもう一つ疑問が浮かんできませんか?
「ていうか、そもそも大腸菌ってなんだろうか」と。
そこを後編では追っていくとしましょう。
では、そもそもからして「大腸菌」とは、何か。
「大腸菌」というのは、人間や動物の腸内にいる数多い腸内常在細菌のなかでも最多となる細菌の1つです。
ただし一般的には、そのほとんどが無毒(非病原性)です。
というかむしろ、ビタミンや乳酸などを作ったり、食べ物の吸収に約だったりなど、ぼくら人間にとっては欠かせないほどに有用な菌でもあるんです。
「大腸菌」は生物学的には、「Escherichia coli」と呼ばれます。
1885年、エシェリッヒ博士が発見し、その名が付けられました。ちなみに「コリ」は「大腸」の意味です。
…と、ここで食品衛生をかじった方々は、そこでよく言われている「E.coli(イーコリ)」を思い出すかと思うのですが、それとは微妙に違っていることは、一応断っておきます。
尤もこの段階で説明するにはちょっと(かなり)ややこしくなってしまうので、ここでは敢えて踏み込みません。
というのも、これもまた結構話を始めてしまうと長くなってしまいますので、これについては後に別に解説記事を書くとしましょう。
現段階では、そういうもんだと思っていてくれればいいです。
さて。
この大腸菌はその多くは基本無毒なんですが、とはいえ腸内菌ですから、もし食品の中にこれらが存在するとなると、その食品はひとや動物の糞便汚染の危険性が高まってしまいます。
とはいえ自然界にも大腸菌は広く存在する細菌なので、「必ずしも」というわけでもないのですが、いずれにせよ食品の大腸菌による汚染は糞便由来の汚染を推測させるものであって、あまり好ましいものではありません。
よって、一般的には生肉や魚介類、生野菜などといった自然での汚染を受けやすい非加熱の食品に対し検査を行うことが多いです。
また大腸菌はその特徴(菌体抗原:O)などから多くの種類に分類されています。
そしてそれが解析された順番に、「O(オー)幾つ」と番号がつけられています。
食中毒で知られる、冒頭の「O157」というのは、その157番目のナンバリングがされた大腸菌だということです。
病原大腸菌とは
このような大腸菌ですが、しかしごく一部ではあるものの、それらの中には食中毒など、ひとの健康を害するものも存在します。
それらを「病原大腸菌」と呼びます。
この「病原大腸菌」というのは人間の健康を害する悪い大腸菌の、言ってしまえば総称なのですが、一般的には「下痢原性大腸菌」についてを指すこととほぼ同意となっています。
そして、この「病原大腸菌」(下痢原性大腸菌)には、次の5種類があります。
最初の老人ホームで問題になったのは、かの悪名高き「O157」ですが、これは「腸管出血性大腸菌(EHEC)」の一つです。
「下痢原性大腸菌」 |
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さて。
これを書いている本日、いや正確には先週の金曜日だったのですが(週末を挟んでチェックが遅れてしまいました汗)、こんなニュースが飛び込んできました。

【都内コロナ療養施設で29人が食中毒…弁当のガパオライスなどから「O166」検出】
(2022年05月13日)
東京都は13日、新型コロナウイルス患者の宿泊療養施設(新宿区)で、提供された弁当を食べた患者ら29人が食中毒を起こしたと発表した。下痢や腹痛を訴え、20歳代女性1人が入院した。全員が既に回復したという。
都によると、弁当は港区のイタリア料理店が製造し、4月23日に提供されたもので、ガパオライスや湯葉とキクラゲのあえ物などから病原性大腸菌「O(オー)166」が検出された。同区のみなと保健所は、同店を13日から7日間の営業停止処分とした。…(以上引用)
(読売新聞)
この「O166」というのもまた、「下痢原性大腸菌」(病原大腸菌)の1つです。
いずれにせよここでポイントなのは、数多い大腸菌のなかでも「下痢原性大腸菌」(病原大腸菌)というのはごく一部である、ということです。

大腸菌群とは何か
さて、もう少し「大腸菌群」について迫っていきましょう。
「大腸菌群」とは何か。
前編でも少しばかり触れましたね。
そこでもお話した通り、そもそも「大腸菌群」という細菌分類学上の生物的な分類はありません。
少なくとも医学細菌額としてそのようなものはなく、これは公衆衛生の世界でのみ使われる用語です。
まず「大腸菌」というものがあって、それに似たような仲間の菌があります。
クレブシエラ、シトロバクター、エンテロバクターとかが代表的ですが、これらのなかには土の中にいるような、糞便に全く関係ない菌も多くあります。
これらをもまとめひっくるめて、「大腸菌群」としているのです。
要するに「大腸菌群」とは、「ひとや動物の糞便由来の菌(大腸菌)+普通に自然界に広くいる菌(糞便とは関係ない菌)」です。
なので当然ですが、「大腸菌」=「大腸菌群」ではありません。
よって「大腸菌群」が存在していたからといって、それすなわち糞便汚染がされた、というわけでは全くありません。
勿論、「大腸菌」をも含むので、その可能性は残りますが。
でもまんまそれを糞便汚染だというのには、さすがに無理があります。
というのも、この「大腸菌群」というのは、それこそ土壌や水、空気中など自然界のそこらじゅうに広く存在しているからです。
んじゃなんでそんな「大腸菌群」なんてくくりをするのか。
前回も書いたように、それは検査の簡易性や便宜上のために作られたものです。
改めて前回出した「大腸菌群」の特性を、再度見てみるとしましょう。
「大腸菌群」の条件 |
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この特徴のうち、一番最初の特徴、つまり48時間以内に「乳糖を分解させて酸とガスを生成する」というのが、検査上で非常に便利に使えるのです。
それに、「大腸菌群」は70度1分の加熱で死滅します。
だからこれらが検出されれば、加熱が不足していたことの指標になります。
あるいは、そこらじゅうに存在しているので、加熱殺菌のあとに、微生物汚染があったかどうかの指標にもなります。
例えば、生肉をまな板の上で切った。そのまな板に焼いた肉を置けば、生肉に付着していた大腸菌群がその焼いた肉にも付着します。
二次汚染が生じるわけですね。
こうした細菌汚染を調べるのに、便利だからです。
(「大腸菌」が生肉や魚介類、野菜などといった非加熱の食品に対して検査を用いることが一般的であるのに対し、それらについて「大腸菌群」の検査をすることがあまりないのは、そのように意味がないからです。って、まあそりゃそうですよね。)
その結果、生物学的な多少のはみ出しはあっても、糞便による汚染リスクや食中毒リスクの早期発見を考慮したほうがいいだろう、という考えのもとで大腸菌群というものがつくられた、というわけだったのです。
なお前回の通り、この大腸菌群というのは、そもそも飲料水の衛生の適切性を示す指標として分類されたものだったのです。
水の衛生は非常に重要だ、だから大腸菌よりも広く指標となるだろう、ということです。
そのため長く水道水は大腸菌陰性が基準となっていたのですが、それもどうなの?乱暴じゃね?という話になって、2004年以降、大腸菌に変わりました。

まとめ
今回は、前編、後編と二部にわたって「大腸菌」と「大腸菌群」の違いについてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら後編では、「大腸菌」やその中に含まれる、食中毒を起こすような「病原大腸菌」についてお話させていただきました。
いかがでしょうか、
「大腸菌」と「大腸菌群」の違いが判っていただけましたでしょうか。
まとめると、
大腸菌群>大腸菌>病原大腸菌
というわけです。
また大腸菌群の中には普通に自然界に存在する菌も多く含まれているため、大腸菌群が検出されたイコール糞便汚染だ、というわけでもありません。
多くの食品には、それぞれ「成分規格」というのがあります。
細菌数このくらいまで、大腸菌群は陰性、みたいなものが省令なんかで出されています。
そこで「成分規格」の規格基準が外れたものが出ることが時々あります。
そういう場合、一応法律違反になってしまうので、行政として製品回収(リコール)をメーカーに命じます。
それが今回の最初に出したアイスクリームだったというわけです。こういう例は時折あります。
さて、最後に。
大腸菌の解説のところで、「E.coli(イーコリ)」というものを出しました。
これもまた「大腸菌」の意ではあるのですが、しかしこれも便宜上作られた、生物学的な意味とは違った指標菌だったりします。
いわゆる「糞便系大腸菌群」、てやつですね。
これについては、また別途記事を書くことにしましょう。それでは。