★公開日: 2022年5月15日
★最終更新日: 2022年5月16日
ネットなどでも「大腸菌群」と「大腸菌」を一緒くたにしている人が、時折見られます。
しかし、実際には「大腸菌群」と「大腸菌」は大きく違うものです。
にも関わらず、大腸菌群が陽性だとなると反射的に「危ない!」「汚い!」「衛生的でない!」と飛び交う始末。
「どうやら別物らしい」と知っている人も、んじゃ何がどう違うんだと聞かれると、実のところ理解していなかったり、なーんてことも多く見られます。
ではそれらは一体、何がどう違うのでしょうか。
今日はこの違いや、更には「病原大腸菌」についてお話していきましょう。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
この記事の内容 |
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O157とアイス回収は別の話?
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
昨年、2021年の年末に、広島の高齢者施設でO157の感染者が発生し、1名の死亡者まで出てしまいました。
(※注釈1)
【O157感染者1人死亡 広島県福山市の高齢者施設】
(2021年12月18日)
福山市は17日、同市瀬戸町の高齢者福祉施設「サンフェニックス」で発生した腸管出血性大腸菌O157の患者1人が死亡したと発表した。
(略)
市保健所などによると、同施設の感染者数は16日時点で、死亡した1人を含め計22人。…(以上引用)
(中國新聞)
「O157」というのは、食中毒を起こす類の「大腸菌」の一つです。
毎年、夏近くになると、大概こうした大腸菌による食中毒が問題になるものです。
またその一方で、先日も触れましたが、昨年夏、京都でカップアイスから「大腸菌群」が検出されたことでリコール(回収)対象になるということが報じられていました。

【カップアイス909個を回収、検査で大腸菌群陽性】
(2021年08月20日)
京都府南丹保健所は20日、成分規格検査で大腸菌群が陽性になったとして、南丹市美山町の業者が製造したアイスミルク909個について、回収命令を出した。健康被害の情報はない。…(以上引用)
(日テレNEWS)
さて。
皆さんは、このカップアイスを、先のO157などの病原大腸菌による食中毒に引き寄せて、「大腸菌が入っているなんて、けしからん!だから回収されるんだ!」と思ったりしてませんか?
それ、認識が全く間違ってますからね。
ではどのように違うのでしょうか。
※注釈1:一応説明を加えておくと、この上の場合は糞便などを介しての感染症であって、食中毒ではありませんでした。だから昨年の食中毒統計の死者数に含まていなかったんですね。

大腸菌群の陰性は加熱殺菌の証し
まず、こちらのカップアイスの中に含まれていたのは「大腸菌群」です。
「大腸菌群」は「大腸菌」とは違いますし、ましてや「病原大腸菌」とは全く違います。
なので、このカップアイスを食べて食中毒になるかと言われれば、全く完全にゼロかとまでは言いませんが、ほぼほぼなりません。
てゆーか、ならんでしょうね、まず普通に考えて。
んじゃ何で回収対象になっているんだ、といえば先日のアイスクリームの記事にも書いた通りです。
詳しくは上の2記事を読んでいただければご理解できるかと思いますが、要するに、アイスクリームにおいて「大腸菌群陽性」は、食品衛生法にある「成分規格」に違反するからです。

「一般社団法人日本乳業協会」さんのところからご拝借。
前にも書きましたが、このように「アイスクリーム類」には「大腸菌群陰性」が食品衛生法で定められているのです。
正確には、食品衛生法に基づいて国が定めた「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」ってのがあるんですね。
通称、「乳等省令」。
にゅーとーしょーれー。乳頭の奨励じゃないです。(いらんねん)
でここに、世に出すアイスクリームは「大腸菌群は陰性」じゃないとあかんよ、と書かれているのです。
よってこれは法令違反として、市場に出してはいけないとあるので、回収対象となるわけです。
ただそれだけのことなので、けしからんもヘチマも全くありません。
これ自体は、実は割とよく「あるある」です。

大腸菌群は衛生の指標菌である
さあ、ここから「大腸菌群」というものをもっと探っていくとしましょう。
先日触れた話でもあるのですが、多くのアイスクリームは次のような流れで作られています。

簡単にはしょると、まずアイスクリームの元となるアイスミックスを作ったら、これを「加熱殺菌」する。
ここで多くの細菌を殺すことで、汚染のリスクを減らすわけです。
これは先の「乳等省令」にて、「68℃30分の加熱殺菌か、それと同等以上の殺菌」と決められています。
まあ、多くはその同等を計算で算出し、例えば「80℃60秒以上」などと殺菌基準を設定していることが多いでしょう。
ではどうしてそのような温度設定になっているのか。
多くの食中毒菌がその加熱条件で失活させることができるからです。

しかしこれが、何らかの問題で、加熱不良が起こってしまった。
こうなると、菌が死滅せずにミックス内に残ってしまう危険が出てきます。
ではその加熱不良の有無をどう評価すればいいのでしょうか。
このときに指標として用いられるのが、「大腸菌群」というものなのです。
大腸菌群は、先の法律上の「68℃30分」という加熱条件(かその同等の加熱)が行われば、確実に死滅します。
つまり大腸菌群が検出されていないということは、しっかりとその法律同等の加熱殺菌がなされたことの証拠となるわけです。
これが「大腸菌群」というものの指標の役目その1、です。
もしくは、この加熱殺菌後の工程で、手指や器具、機械の洗浄不足のせいでそれらについていた菌を付着させてしまったり(二次汚染)ということがなかったか。
これが指標の役目その2、となります。
というのもアイスクリームというのは、この加熱殺菌の後にもいくつか工程を踏んでから凍結させるので、こうした汚染が他の乳製品に比べると割としやすいのです。
で、それらの衛生指標として、この大腸菌群というものが使われているのです。
加熱食品における「大腸菌群」の指標が示すこと |
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後にもう少し詳しく開設しますが、そもそも「大腸菌群」というものは、普通に自然界にいくらでも存在してます。
だから未加熱食材からは普通に検出されます。仕方ないんです。そういうものです。
今から20年位前のことですが、ぼくがこの話でいつも思い出すのは、不二家が賞味期限切れの牛乳を使用して袋叩きになっていたときのこと。
生クリームから大腸菌群が検出され、TVやメディアからもぼろっかすに言われたんですね。
いやいや、待てやと。
生クリームというのは殺菌後の牛乳を用いて加工されるため、大腸菌群の汚染が時折生じやすくなるものです。
しかも「洋生菓子」については、大腸菌群がもし陽性だったとして、「衛生規範」には定められてあったものの(過去形)、それイコール直ちに法令違反とはいいがたい。
そのことをあんたらホントに判って話してんのか、と落胆していたことを思い出します。
というのも当時はぼく自身が、不二家さんに衛生管理として仕事上関わっていましたので、なおさらのことでした。

生物的に大腸菌群は存在しない?
さて、ではこの「大腸菌群」とは一体何なのか。
まず、一般的に「大腸菌群」は次の条件とされています。
まあ、余りここらまで細かく覚えていなくてもいいですが、こういうものがあると思ってください。
「大腸菌群」の条件 |
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ところで。
これらの条件は、実は細菌における学術上の分類ではありません。
あくまでその細菌の特徴や性質でくくっただけに過ぎません。
つまり、生物的には「大腸菌群」という細菌は存在しないのです。
ではどうしてこんな「大腸菌群」という分類が人為的に作られたのか。
実は1970年、水道の水質汚濁に対しての環境基準が設定されたのですが、この当時、大腸菌のみを検査で検出する細菌の培養技術や知識がまだ開発されていなかったというのです。
そこで、上のような特徴や性質を備えた細菌たちを「大腸菌群」という分類にして、大腸菌のかわりにし、糞便汚染の指標にしてきた、ということが言われています。
どうでしょうか、大腸菌群の有無というのがそれ自体でイコール糞便の汚染ではない、というのが少しずつ見えてきたのではないでしょうか。

まとめ
今回は、前編、後編と二部にわたって「大腸菌」と「大腸菌群」の違いについてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、「大腸菌群」とはどんなものであるかについて、ざっくりとお話させていただきました。
上にも書いたとおり、加工食品における大腸菌群の有無というのは、「加熱殺菌」と、その後に二次汚染がなされたかどうかという「製品の取り扱い」についてを評価するものです。
加熱食品における「大腸菌群」の指標が示すこと |
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一方で、野菜や果物などの非加熱食品や生のままの海産物、魚介類からは、当然ながら大腸菌群はよく検出されるものです。
だって、加熱殺菌してないんだから、当然です。
しかしこういうところで検出される大腸菌群は、大概が土の中などの自然界にいる菌たちです。
こういうものも、実は大腸菌群に含まれている、というかそっちのほうがむしろ多いのです。
さて、色々なことが見えてきましたね。
次回の後編ではいよいよ「大腸菌」について解説していくとともに、O157などの病原大腸菌についてもお話していきたいと思います。ではまた。