★公開日: 2022年5月11日
★最終更新日: 2022年5月11日

本日、5月9日は「アイスクリームの日」であることを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今日はアイスクリームのお話をするとしましょう。

実は、アイスクリームって保健所の全食品の中でも細菌汚染での法令違反が多かったりするんです。
これは一体どうしてでしょうか。
その謎について、前回から今回にかけてお話していくとしましょう。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

今日のお話のポイント
  • アイスクリームは「乳等省令」によって「大腸菌群陰性」が定められているが、そうではない食品も多い。
  • アイスクリームから検出された「大腸菌群」は、「大腸菌」とは別物である
  • アイスクリームは、その製造環境や工程の特性から、比較的大腸菌群の汚染につながりやすいことがある

 

5月9日は「アイスクリームの日」

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もしこちらから来られた方は、まずは「前編」を最初に読んでください。)

皆さん、前回もお話したとおり、この下書きを書いている本日5月9日は「アイスクリームの日」です。
もっとも、こちらの後編をアップしたのはすでに5月10日になってしまっているのでしょうが、とにかく5月9日は「アイスクリームの日」でした。

で、この「アイスクリームの日」に何を書くのかといえば、食品衛生関連のウチらしいお話をしようかな、と。
そこで持ち出したのが、こちら2020年の東京都が行った「収去検査」の結果報告です。

参照画:2020年度東京都食品別収去検査結果

おっと、この「収去検査」というのは、行政つまりは保健所が定期的に、市場に出回っている多くの食品をサンプリングして行っている検査のことです。
これは食品衛生法30条に基づく監視指導業務であり、また28条に基づく検査業務です。

食品衛生法第28条
 厚生労働大臣、内閣総理大臣又は都道府県知事等は、必要があると認めるときは、営業者その他の関係者から必要な報告を求め、当該職員に営業の場所、事務所、倉庫その他の場所に臨検し、販売の用に供し、若しくは営業上使用する食品、添加物、器具若しくは容器包装、営業の施設、帳簿書類その他の物件を検査させ、又は試験の用に供するのに必要な限度において、販売の用に供し、若しくは営業上使用する食品、添加物、器具若しくは容器包装を無償で収去させることができる。

さてその2020年夏の検査結果が、上の通り。
食品全般、計4,792品を集めてこの結果。
細菌検査での法違反品は、アイスクリームが3品。
あとは「殻付きかき」が1つだけ。
ということは、圧倒的にアイスクリームに法違反が見られている、という結果となっている。
そしてこの結果は、毎年似たようなものであり、また東京都以外でも、多くの自治体での結果も、多かれ少なかれ、変わらない。

これは一体どういうことなのでしょうか。
さあ、後編、行くとしましょうか。

挿画:アイスクリームが法違反品最多?

細菌についての規格基準

さて、前編で、食品衛生法において、食品には幾つかの「成分規格」というものがある、というお話をしました。
そしてその中には微生物、つまりは食品内の細菌に対して設けている規格基準というものが存在するんだよ、というお話をいたしました。

で、アイスクリームにも「大腸菌群は陰性ではないといけない」という細菌に対する規格基準があって、これに反すると法違反品になってしまう、というところまでお話しました。

さて、この規格基準というものは、「食品衛生法」に基づいてお役所さまが食品の成分規格だったり保存規格だったりと、その他様々な基準を定めたものです。 
ですから当然、行政機関である保健所はそれに準じて粛々と検査を行っています。

では実際に、細菌についての規格基準にはどんなものがあるのでしょうか。

食品の微生物規格基準の参照例
  • 「食品、添加物等の規格基準」(厚生労働省告示)
  • 「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(乳等省令)
  • 「生食用食肉の衛生基準」
  • 旧「衛生規範」

以上、これらの法令によって、やれこの食品は一般生菌数がこのくらい、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、大腸菌(E.coli)がこのくらい、などとアイスクリーム同様に定められています。

これらのうち、上3つは食品衛生法という法律上、守りなさいね、じゃないとあかんよという基準です。
つまり、これらに定められられている食品は、その規格基準から外れると直ちに法令違反になります。
今回の「乳等省令」によるアイスクリームでの大腸菌群陽性がまさにそうですね。

またユッケでの食中毒の一件以来、「生食用食肉の衛生基準」は結構重要視されるようになりました。

ところで、一番下に「衛生規範」てのがあるじゃないですか。
で、ここに”旧”とあるが、どういうことか。
実は昨年2021年6月、この「衛生規範」は、食品衛生法の法改正にともなって廃止されたのです。

ただし、そんな「衛生規範」も未だに根強く現場の指標としては、十分に使われているものです。

さて、その「衛生規範」だが、これは一体どんなものか。
この「衛生規範」には、次のような衛生規範があります。いや、かつてはありました。(過去形)

衛生規範
  • 弁当及びそうざいの衛生規範
  • 漬物の衛生規範
  • 洋生菓子の衛生規範
  • 生めん類の衛生規範
  • セントラルキッチン/カミサリー・システムの衛生規範

そもそも「衛生規範」とは何か。
この「衛生規範」とは、食品の中でも特に食中毒の問題となりそうな食品に対し、厚生労働省が衛生管理上の目安を定めたものです。
当然、守るべきことではありますが、しかし「目安」はあくまで「目安」なので、それに対しての法的拘束力はありません。

よってここでの規格基準を逸脱していても、そりゃ決してよくはないけれど、だからといって食品衛生法違反とは直ちにならない可能性があります。
例えば、シュークリームやケーキなどの「洋生菓子」は、「一般生菌」10万以下に「大腸菌群」と「黄色ブドウ球菌」が陰性、みたいな風に定められていました。(過去形)

ということは、シュークリームやケーキなどの生菓子は、大腸菌郡が陽性でも法令違反にはなりませんが、アイスクリームが大腸菌郡陽性だと法令違反になるわけです。
同じ、大腸菌郡の陽性にも関わらず、です。

いや、そんなどころじゃない。
細菌の観点から考えて、食品衛生法上、市場に出てはいけない食品というのは「腐敗した食品」「食中毒菌によって汚染された食品」の2つです。

そして、世の食品すべてがアイスクリーム類のように、細菌に対する規格基準が定められているわけではない。
というか、先の「洋生菓子」のように、大腸菌群が陽性でも法令違反にならない食品のほうが、実は圧倒的に多い、というかほとんどなのです。

ん、待てよ?
アイスクリームは、大腸菌群が陽性となると、法令違反で行政措置となる。
だから今回のように、法違反品として取り上げられている。

しかし一報で、例えばシュークリームなんかは、生クリームでこれも割と大腸菌群が出やすいけれど、でもんじゃ仮に大腸菌群が陽性になっても、旧「生洋菓子の衛生規範」では規格外にはなるけれど、でもこのような収去検査では違法扱いにはならない。
いや、どころか多くの食品において、もし大腸菌群が陽性になったとしても、そんな規格が存在しないので、このような収去検査ではやはり同様に、違法扱いにはならない。

おやおや?
あれ、これ。また何か見えてきた感、ないですか!?

挿画:虫眼鏡

大腸菌群は大腸菌とは違う

「いや、だって大腸菌群って、要は”うんこ菌”でしょ?
それって汚くない?食中毒になるんでしょ?」

ちょっと待って下さい、
この「大腸菌群」と「大腸菌」を一緒にするというのは、そこそこにカジッた人ですら時折見られる、「あるある」です。

詳しくは、後にそれ専用の別の記事を出します。
そこで名一杯解説します。
なので、とりあえずは「全くの別物…とまでも言えないが、でも違うもの」と思ってください。

まず第一に、「大腸菌群」と、糞便由来の「大腸菌」(E.coli)は全くの別物ですし、またそれと食中毒を起こす病原性大腸菌とは、更に全然別の話です。
そして食中毒菌を食べない限り、原則的に食中毒は、起こりません。

そして、「でも汚いんでしょ」と言うかもしれませんが、この「大腸菌郡」というのは、そこらにいる土壌菌などの雑菌も含めた総称のことです。
なので、「大腸菌郡」が陽性になったからといって、それイコール「汚い」でも、ましてや「食べたら食中毒」になるでも、ありません。
詳しくはまた後に、別記事にて解説します。

ちなみに、先の表でアイスクリーム類と同様に法違反品とされた、「殻付きカキ」。
アイスクリームの上のものですね。これを見てみましょう。

参照画:2020年度東京都食品別収去検査結果

アイスクリーム類とは違って、こちらはE.coliが検出されたことで、法令違反にされている。

あのね、「E.coli」てのは、「大腸菌群」ではなくって、糞便由来の「大腸菌」だということです。
これは、「生食用かき」の規格基準を超えていたから、アウトなわけです。

「生食用かき」の成分基準
  • 一般生菌数:50,000 以下/g
  • E.coli最確数:230/100g以下
  • ]腸炎ビブリオ最確数:100/g以下(むき身のもの)

つまり、同じ口に入れるものでも、かたや大腸菌群の陽性でダメ。
かたや、大腸菌(E.coli)でダメだということになっているわけです。

では、なんでそんなややこしい「大腸菌郡」なるものを、衛生の指標菌としているのか。
それは、2つの意味があります。
「加熱殺菌がしっかりされたか」と、「衛生的に作られたか」です。

「大腸菌群」の指標が示すこと
  • 加熱殺菌の適切性
  • (加熱殺菌後の)製品の取り扱いの適切性

そもそも「大腸菌群」というのは、「加熱不足」と「二次汚染」を見るためのものです。
というのも、「大腸菌群」は加熱がしっかりなされれば、死滅します。
にも関わらず生存しているということは、加熱工程での問題があったか、じゃなければその後の工程で、菌を付着させてしまったか、のどちらかです。

だからこれを評価するために原則あるのが、この「大腸菌群」というものです。
ここをくれぐれも、押さえ間違いのないように。
なお、この話は近くにまたゆっくりと、腰を据えてやるとしましょう。

挿画:ポイント

乳製品は特別枠?

「大腸菌群」が、すなわち食中毒を起こすような「大腸菌」ではないことは、まあ、わかった。
でも、法律に書かれているくらいだから、そりゃ「大腸菌群」が陽性だとダメなんでしょ?
そう思うかもしれませんね。

でも、意外と「加工食品全般」からすれば、「大腸菌群陽性イコール法令違反」、てのは少ないものです。
どのくらい少ないのかというと、全ての食品のうちで「大腸菌群陽性イコール法令違反」というのは次のものしかないくらいに、です。

大腸菌群陰性のみが法令で許されている食品の代表例
  • 乳および乳製品
  • 氷菓
  • 清涼飲料水
  • 魚肉ねり製品
  • 冷凍ゆでだこ・ゆでがに
  • 加熱食肉製品(一部)
  • 冷凍食品(一部)

え、多い?
いやいや、待ってください。「全ての加工食品のうち」ですよ。

しかもこれらは、そのほとんどが加熱殺菌の製造工程が前提である。
つまり、先程から言っているように、「大腸菌群陰性は加熱殺菌の証」、だからです。

繰り返しになりますが、加工食品に対し、その加工によって「加熱殺菌がしっかりなされているか」、「衛生的な環境で衛生的な取り扱い」をしているか。
その2つを見るのが、「大腸菌群」という指標です。
だからこそ、加熱殺菌工程が重要なものが選ばれている。

と、そうなると、アイスクリームなどの「乳製品」が割と幅広く「大腸菌群陰性」対象になていることがわかるかと思います。
そう。
ちょっと離れて見てみると、この「乳等省令」対象には、「大腸菌群陰性」がついてまとわるのです。

挿画:乳等省令

アイスクリームは汚染されやすい?

これまでのことから、色々なことが判ってきた。
少しばかり、ここでまとめていきましょう。

まず、「アイスクリーム類」というのは、「乳および乳製品」であり、それらを定める「乳等省令」によって、法律的には「大腸菌群陰性」でないと法令違反となってしまう、ということ。

とはいえ、「大腸菌群」というのは、いわゆる糞便由来の大腸菌でも、ましてや食中毒を引き起こす病原性大腸菌の意でもないこと。
で、その「大腸菌群」というのは、あくまで「加熱殺菌」や「食材の取り扱い」の指標でしかないこと。

だから、それほどまでに多くの食品において、「大腸菌陰性のみが適法」というのは少ないこと。
またあっても、それらはそもそもからして加熱調理が基本だからこそのものである。
…と、ここまではわかりました。

で、ここでもう一つの疑問が浮かびます。
なるほど、アイスクリームなどの「乳および乳製品」において、割と厳しめに「大腸菌陰性のみが適法」が求めっれていることがわかった。
でも、言うても「乳および乳製品」って一杯あるよね。
牛乳から始まって、チーズだ、ヨーグルトだ、バターだ…。

これらのうち、ではどうしてアイスクリームが法違反トップなのか、そこが説明されていないではないか、と。

実のところ、これについては、実はちゃんとした説明は存在していません。
ただし、とはいえ実際に検査してみると、意外と今回のように市場に出回っているアイスクリームには、実は大腸菌群の陽性検出という隠れ法違反品がそこそこレベルには多いものだ、という事実だけは共有されている、というのが現実です。

多くのアイスクリームの製造工程は、大体が次の通りです。

作成画:アイスクリームの製造工程

アイスクリームの元となるアイスミックスを作ったら、これを「加熱殺菌」する。
これは先の「乳等省令」にて、「68℃30分の加熱殺菌か、それと同等以上の殺菌」と決められています。
まあ、多くはその同等を計算で算出し、例えば「80℃60秒以上」などと殺菌基準を設定していることが多いでしょう。

いずれにせよ、この「加熱殺菌工程」がアイスクリームを作る上で、微生物対策上最も重要なポイント(重要管理点:CCP)になります。
ですから、ここで大腸菌群を死滅させないといけません。
じゃないと、この後にそれができる工程はないし、またこの後に大腸菌群を付着させてしまうと、それが除去されなくなってしまいます。
そしてアイスクリームの問題の一つは、この後の工程がちょっと多いことです。

例えば香料やブレンダーなどはその後に添加しないといけません。
つまり殺菌後にこれらの添加作業を行うことになります。
この際に、大腸菌群の汚染が生じればこれを除去出来ず、製品として出回ってしまうことになります。

またそれ以外にも、次のようなことが汚染経路として考えられます。
アイスクリームは、実はわりと工程が煩雑なぶん、他の乳製品よりも大腸菌群の汚染がしやすい、という特徴もあるかもしれません。

大腸菌群陰性のみが法令で許されている食品の代表例
  • パステライザーやフリーザーなどの洗浄不足
  • 殺菌不良
  • 機器の洗浄不足
  • 従事者の手指の洗浄不足
挿画:アイスクリーム

まとめ

今回は、5月9日の「アイスクリームの日」にちなんで、前編、後編と二部にわたって「法違反品とされることの多いアイスクリーム」についてのお話をさせて頂きました。
そしてこちらの後編では、アイスクリームと大腸菌群についてお話するとともに、その理由について解説いたしました。

要するにアイスクリームなどの乳製品は「乳等省令」によって大腸菌群の陰性が定められている。
そのため、大腸菌群陽性は法令違反となってしまう。
いくつか法令として定められている、そうした大腸菌群に対する規格基準は、しかしそれほど多いわけではない。
しかも他の食品に対して、アイスクリームは原料や製造工程面でも、ときに問題が発生しやすい状況にある。
これがその、アイスクリームに法違反品が多い理由です。

アイスクリームは、凍結状態による保管がなされるため、食中毒原因にはあまりなることはありませんが、しかしゼロではありません。

実際、アイスクリーム類ではありませんが、2010年に宮城県のファミリーレストランでソフトクリームによる黄色ブドウ球菌の集団食中毒が起こったことがあります。
このときは、店内のソフトクリーム製造機の故障によってその殺菌工程に適切な殺菌温度に至らず、その結果、黄色ブドウ球菌が増殖し毒素生成に至った、ということが原因でした。
似たような殺菌工程での問題は、アイスクリームにおいても考えられない話ではありません。

なお、大腸菌群と大腸菌については、近く別途記事を書く予定です。こちらもお楽しみに。ではまた。

 

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