★公開日: 2022年5月9日
★最終更新日: 2022年5月15日
本日、5月9日は「アイスクリームの日」であることを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今日はアイスクリームのお話をするとしましょう。
知っていますか?
アイスクリームって全食品の中でも細菌汚染での法令違反が多かったりするんです。
これは一体どうしてでしょうか。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
今日のお話のポイント |
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Contents
5月9日は「アイスクリームの日」
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
皆さん、本日5月9日は何の日だからご存知ですか?
実は5月9日は、「アイスクリームの日」、だというのです。
この「アイスクリームの日」が制定されたのは1964年と、かなり古い。
丁度ゴールデンウィーク明けのこの5月9日は、アイスクリームのシーズンが始まる時期でもあります。
そこでこの1964年の5月9日、「東京アイスクリーム協会」が記念事業を開催。
都内の施設や病院などにアイスクリームをプレゼントしたのが、その始まりとされているようです。
さて、このアイスクリームというのは、実は行政が行う全食品への検査のなかで、ダントツで食品衛生法での法違反が多い。
これはどういうことなのでしょうか。
そんなにアイスクリームというのは危ない食品だ、ということなのでしょうか。
え、だって冷たいよね?

法違反品のダントツ最多がアイスクリーム!?
「いや、そんな法違反なんて他の食材でもあるんじゃないの?」
そう思いますよね。
ちょっと面白いデータを紹介しましょう。
これは2020年の夏に東京都が行った検査結果報告です。

厚生労働省下の保健所では様々な食品を市場から集めて検査しています。
これを「収去検査」と言います。
その基準や範囲、時期、その他諸々はその時次第です。
2020年度の東京都の夏のこの「収去検査」では、市場に出回っている4,792品を検査対象としました。
そしてその結果、法違反とされたのが、こちらです。
判り易いようにピンクで染めたところを見てください。
アイスクリームが3件、細菌検査での法違反品になっています。
やはり同様に「魚介類」の「殻付きかき」というのもありますが、こちらは1件のみ。
アイスクリームのほうが多いです。
いかがでしょうか。4,792品を集めてこの結果です。
この4,792品には、魚介類やら冷凍食品やらお菓子やら惣菜やらお肉やら野菜やらと、ぱっと普通に思いつくほとんどの種類の食品が選ばれています。
別にアイスクリームだけが選ばれているわけじゃない。

「わかった!
アイスクリームだけ多く検査してるんだ!」
いいえ、アイスクリームの検査数は、135品目。これは決して一番抜きんでいるわけじゃない。
例えばお肉の加工品は、727品目。弁当類は、503品目と、アイスクリームの数倍です。
にもかかわらず、法違反品は、アイスクリームだけです。
ちなみに先に、「殻付きかき」の違反が1件ありましたが、魚介類の検査数は105品目。
確かにアイスクリームよりは少ないですが、だからといってそれほど差があるわけではありません。

「わかった!
この年はたまたまアイスクリームに偏ったんだ!」
いいえ、そういうわけではありません。
例えばその前2019年の結果報告には、このようにあります。
3 食品等の収去検査結果(表6、表7)
食品等 5,946 検体について、58,567 項目の検査を実施し、6 検体(7 項目)の違反を発見した(違反率 0.10%)。
違反品については、改善指導等の必要な措置を行った他、生産者を所管する自治体へ通報を行った。(1) 細菌検査
成分規格、食中毒菌等の細菌検査を 33,002 項目実施した。
その結果、大腸菌群を検出した「アイスクリーム」等 5 検体(6 項目)が違反となった。
太字にしてるところを見てください。
そう、
その前年度でも、やはりアイスクリームだけが全食品の中で細菌検査での法違反となっているのです。
これらからわかること。
それは、全食品のなかでもアイスクリームの細菌汚染、つまりは大腸菌群による法違反はダントツに多い、ということです。
これってどういうことなのでしょうか。

時々起こる、アイスクリームの回収事例
ええ!?
そんなにアイスクリームってやばいの?
もしかして、アイスクリーム食べたら食中毒になっちゃうの?
…と一般の人ならそんな反応をしかねないですよね。
ちょっと待った、と言いたい。
何事にも、物事には理由があるもの。
これが一体どういう意味なのか、食品衛生のプロが答えましょう。
さて、時々ですが、アイスクリームの回収事例ってのがあります。
そのうち多いのが、「大腸菌群」が検出されたから回収、というものです。
例えば嘗てはハーゲンダッツなんかでもありました。
昨年の夏には、京都でやはり大腸菌群の検出によってアイスミルクが回収されています。
これもやはり法令違反によるリコールです。

【カップアイス909個を回収、検査で大腸菌群陽性】
(2021年08月20日)
京都府南丹保健所は20日、成分規格検査で大腸菌群が陽性になったとして、南丹市美山町の業者が製造したアイスミルク909個について、回収命令を出した。健康被害の情報はない。…(以上引用)
(日テレNEWS)
ほれみろ、やっぱりアイスクリームはヤバいんだ。
そう短絡的に決めつける前に、まず知っておくことがあります。
それは「何故、回収まで至っているのか」ということです。
アイスクリームが法違反って、んじゃ、どんな法令を破っているのか。
そこが実は重要です。

食品衛生法第13条とは
さて話を最初のデータに戻して、もう少し細かく見てみましょう。

このアイスクリームの「違反法・違反条文」を見ると、「食品衛生法第13条第2項」とありますね。
つまりこの法律を破っているからアイスクリームは3件、法違反品となったのです。
言うまでもなく、「食品衛生法」というのは、食品衛生における基本法です。
そしてこの「13条」には、「お上が定めた食品の規格基準を外れたもの作っちゃいけないよ」、って書かれています。
要は、こういった規格基準から外れたものを取り締まるための法的根拠がこれです。
第十三条 厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又は販売の用に供する食品若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる。
② 前項の規定により基準又は規格が定められたときは、その基準に合わない方法により食品若しくは添加物を製造し、加工し、使用し、調理し、若しくは保存し、その基準に合わない方法による食品若しくは添加物を販売し、若しくは輸入し、又はその規格に合わない食品若しくは添加物を製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、保存し、若しくは販売してはならない。

さあ。
ここでもう一度、先の表を見てみるとしましょう。
「違反法・違反条文」である、上に引用した「食品衛生法第13条第2項」と書かれている右に、「違反内容」として「成分規格違反」とありますね。
この「成分規格」というのが、つまりこの法律が指している、お上が作った規格基準です。

つまり、東京都の保健所はこの法律の定める「成分規格」に則って検査を行い、その結果、上のようなアイスクリーム複数の違反品が出た、というわけです。

アイスクリームの区分
さて、もう少し見てみると、おや?「アイスクリーム類」の分類のなかでも、一般名称として「アイスミルク(ソフト)」とありますね。
つまり、この検査で検出された3件の法違反品は、いずれも「アイスミルク(ソフト)」だった、という。
一体なんでしょうか、「アイスミルク」とは。

「ていうか、そもそも「アイスクリーム類」ってなんだ?」
「それってアイスクリームとは違うのか?」
当然、そう思いますよね。
一般的なアイスクリームは、法律での分類では、「乳及び乳製品」となります。
牛乳を主原料としているからです。
この「乳及び乳製品」には、それこそ牛乳からアイスクリーム、バター、チーズ、発酵乳、乳飲料などまでが入っています。
で、そうした乳製品、正確には「乳及び乳製品」を取り仕切る省令があります。
「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」。
俗に言う「乳等省令」というもの。
「乳頭」ではありません。「乳等」です。(それいらない)
で、この「乳等省令」に、「アイスクリーム類」としてその定義が書かれています。
乳又はこれらを原料として製造した食品を加工し、又は主要原料としたものを凍結させたものであって、乳固形分3.0%以上を含むもの(発酵乳を除く)をいう。

で、そこで更にアイスクリームを、「アイスクリーム」、「アイスミルク」、「ラクトアイス」と3つに分類しているのです。
アイスクリーム類 |
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とまあ、このように分類されているわけです。
つまりこれが「アイスクリーム類」における各々の、成分の規格基準つまりは「成分規格」です。
そして逆にいえば、この「アイスクリーム類」というのは、「アイスクリーム」「アイスミルク」および「ラクトアイス」の総称のことです。
ということは、実は今回のお話も、正確には「アイスクリーム類」が一番、法違反が多い、というお話だったわけです。
ちなみに、先の表を見ると、「食品分類」として、「アイスクリーム類・氷菓」とありますね。
なんだろ、「氷菓」って。

この「氷菓」というのは、アイスキャンディーやシャーベット、かき氷などの類のことです。
乳成分をほとんど使用しない(正確には「乳固形分3.0%未満」)というのが基準です。
似たような氷菓子だけど、乳を余り含んでいないので「アイスクリーム類」じゃないよ、というわけです。

アイスクリーム類の成分規格
さてこの表をよく見ると、右欄のほうに、「検査結果」として「大腸菌群陽性」とある。
つまり、これらのアイスクリーム類は、細菌検査を行って「大腸菌群」が陽性だった。
だからアイスクリーム類に定められている「成分規格」の違反となった、というわけです。

お、だんだんと全体像が見えてきたんじゃないですか?
さて、先の3つの「アイスクリーム類」の「成分規格」以外にも、実は先の「乳等省令」によって定められているものがあります。
それが微生物、細菌に対する「成分規格」です。
実は「アイスクリーム類」というのは、このように決められています。

「一般社団法人日本乳業協会」さんのところからご拝借。
このように「アイスクリーム類」には、各々、細菌数と大腸菌群の陰性が定められているのです。
そして3検体の「ラクトアイス」から大腸菌群が検出されたことで、これらの「アイスクリーム類」が法違反品とされた、というわけです。

まとめ
今回は、5月9日の「アイスクリームの日」にちなんで、前編、後編と二部にわたって「法違反品とされることの多いアイスクリーム」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、どうしてアイスクリームが法違反品になってしまったのかについて、解説していきました。
どうですか。
最初はちょっとわからなかったけれど、なんとなく見えてきたのではないでしょうか。
後編ではより突っ込んで、アイスクリームと大腸菌群についてお話していきましょう。ではまた。