★公開日: 2022年5月8日
★最終更新日: 2022年5月9日

昨日、5月6日は「コロコロの日」であることを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今日は「コロコロ」、つまりは「粘着ローラー」に係わる、毛髪の異物混入対策のお話をするとしましょう。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

今日のお話のポイント
  • ローラー掛け」は毛髪対策の三原則うち「持ち込まない」ための対策である
  • ローラー掛けでは「手段よりも目的」「分数よりも精度」を忘れないこと
  • 「ローラー掛け指数」とは「全回収テープへの付着毛髪数÷回収したテープ数」であり、1以上なら良好、1以下なら問題の可能性あり

 

5月6日は「コロコロの日」

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もしこちらから来られた方は、まずは前編を最初に読んでください。)

参照画:5月6日は「コロコロの日」
ニトムズ

さあ、後編です。
5月6日、はもう過ぎてしまいましたが、「5(コ)6(ロ)5(コ)6(ロ)」で、「コロコロの日」だったとのこと。
そしてぼくら食品衛生の世界で、「コロコロ」といったら家庭での清掃用具のアレじゃなくって、毛髪対策のための「粘着ローラー」です。

と、そんな今回の主役であるにも関わらず、前編で全く出番のなかった粘着ローラー。
後編ではがっつりと前面に出てもらうとしましょうか。

食品工場の「粘着ローラー」とは

さあ、ここまで話して、ようやく「コロコロ」、つまりは粘着ローラーが出てくるわけですよ。
もうね、出番遅くねーかと。

でも、ここまでの話が、実は重要なのです。
それを踏まえることなく、やれ粘着ローラーによるローラー掛けは重要な毛髪対策の一つです、と言われても伝わらないですよね。

さて、そんな主役のご登場。
その食品工場の「コロコロ」、つまり「粘着ローラー」とはどういうものでしょうか。

参照画:粘着ローラー
ミドリ安全

食品関係の方々にとってはお馴染みかとは思いますが、まずはこのようなものです。
これを使って、体に付着した毛髪を取り除く。
それがいわゆる「ローラー掛け」というものです。

一般的な食品工場では、工場に入る前にこの「ローラー掛け」を行います。
これをしない食品工場は、まずありません。

前回お話したように、毛髪対策の三原則というものがあります。
それが、「持ち込まない」「落とさない」「取り除く」、です。

毛髪混入対策の三原則
  • 持ち込まない:入場管理(ローラ掛け、エアシャワー)など
  • 落とさない:正しい着衣着帽、アピアランスチェック(入場時の着衣確認)、定期巡回チェックなど
  • 取り除く:作業中の定期ローラー掛け、清掃による落下毛髪の除去

これらのうち、この「ローラー掛け」というのは、最初の「持ち込まない」ための対策です。
つまり、衣類に付着している毛髪を入場前の段階で除去しておくことで、場内に入って落下させることを防ぐわけです。

そもそも食品工場に入る前には、多くの手順が必要です。
そしてこの「ローラー掛け」というのは、その多くの手順の一つ、というわけです。

挿画:持ち込まない

食品工場に入る、という難しさ

ところで。
一般的な食品工場にとって、工場内への入場管理は非常に重要です。
食品製造などに関わらない方々だと知ら愛かもしれませんが、一般的な方々が考えているほど食品工場への入場というのは簡単なものではありません。

ぼくらや慣れている作業者の方々にとっては日常の当たり前になってしまっているので、もはやそれほどでもなくなってしまっています。
ですが、初めて工場に入場する、という方は、皆が皆、こんな面倒くさい手順を経てじゃないと入場できないのか!とさぞかし驚くことでしょう。

どのくらいに大変かといえば、結論から言って、一般の人や飲食店の人が思う数倍くらい、食品工場に入るのは大変です。
というのも、一般的な食品工場に入場するためには、次のような手順が必要になります。

食品工場への入場手順例
  1. 場内への「持ち込み制限品」を外す
  2. インナーキャップをかぶる
  3. その上から白頭巾をかぶる
  4. マスクを付ける
  5. 無塵衣を着る
  6. 白靴に履き替える
  7. 入場記録を記入、健康チェックを行う
  8. 鏡で着衣着帽をチェックする(アピアランスチェック)
  9. ローラー掛けをする
  10. 手洗いをする
  11. 手指乾燥させる
  12. アルコールで手指殺菌する
  13. エアシャワーを浴びる
  14. 靴底マットで靴底の汚れを取る
  15. 手袋を着用する

これですよ?
こーんなめっちゃ長い手順を全部経て、そこでようやく入場が許されるのです。

なので、工場に入る、というだけで普通5分くらいは普通にかかります。
ドア開けて手洗ってハイ入場、という飲食店などとは別物だと思って下さい。

ちなみにこれらは若干の細かい違いこそあれ、どこの食品工場も、そしてどの従業員も皆、それをやっています。
それこそ、パートのおばちゃんから、外国人労働者にいたるまで、例外なく皆がこれらをしっかり守るように教育されるのが、普通の食品工場なのです。

当然ながら、社長だけ、工場長だけ、それをしなくていい、なんてことはありません。皆が平等にそれを行うのが食品工場です。
というか、むしろそうやって行うのが当たり前になっていて、完全に身に沁みついている食品工場の人たちは、自分がそれほどに高度なことを行って工場に入場しているか、自覚すらないほどになっています。

そう、呼吸するかのごとくに、皆、これができる。
これこそが「教育訓練」、つまりは「ルールの身体化」の力なのです。

挿画:食品工場

粘着ローラーQ&A

ではそんな「ローラー掛け」について、いくつかの質問に答えていくとしましょう。

挿画:ポイント

どんな粘着ローラーがいいの?

食品工場で使われる粘着ローラーは、一般家庭での清掃用として用いられるようないわゆる「コロコロ」とは違っていて、先にも例を出したこのようなものが多いかと思います。

 

参照画:粘着ローラー
ミドリ安全

これは掃除を目的としているのではなく、人間の身体に付着した毛髪を除去することに特化するために開発されているものです。

「これじゃなくちゃ駄目」というものではないですが、少なくとも家庭用の「コロコロ」ではない専門の粘着ローラーを使用したほうが、効果的だといえば効果的です。
それは、柄の長さだったり角度だったり向きだったりと、様々な面で「人間の身体に付着した毛髪の除去」がしやすいように商品として開発、工夫されているものが多いからです。

とはいえ、そこまで高級なものを使う必要はありませんし、高額だから効果が高い、というものでもありません。
重要なのは、どれを選ぶかではなく、いかに適切に使うかであり、またその使う「人」がその目的を知っているか、です。
その意味で、あくまで粘着ローラーは道具でしかありません。

何を選ぶか、を悩むくらいなら、いかに従事者にローラー掛けの目的と、その正しい使い方を教え伝えるか、を意識したほうが数十倍は効果が高いことでしょう。

ネット上で、普通に「食品工場」「粘着ローラー」などで検索して出てくるもので十分です。

ただし、一応ですが、ぼくの「粘着ローラーこだわりポイント」を伝えておきます。
必ずしもこれでなくてもいいですが、「ここはこういうのが出来たらいいよね」ってなくらいのニュアンスで捉えておいてください。

高薙的、粘着ローラーのセレクトポイント
  • 樹脂製ではないもの(ステンレス製)
  • 縦型ではないもの
  • 紙製テープのもの
  • 角度がついているもの
  • テープ幅は小さ過ぎず、大き過ぎず
  • 柄は長過ぎず、短過ぎず

まず、柄が樹脂製ではないこと。
ここだけは、少しばかりぼくはこだわりますね。

というのも、多くの人が使うことが前提だからです。
樹脂はステンレス製に対し、破損した場合に異物要因となるほか、樹脂部に傷が入ることで様々な微生物の手指への二次汚染につながる危険が気になります。
とくに製造場内でも使う(定期巡回時に使うなど)場合は、シンプルなステンレス製を選ぶほうがいいかなとは、ぼくなら思います。

テープ幅や柄の長さは、一長一短です。

幅が大きければ面積が大きいメリットのぶんだけ、小回りが効きづらく細かいところをかけづらいというデメリットがある。
幅が小さければ丁寧なローラー掛けが期待できるメリットのぶんだけ、面積が小さくて粘着力が落ちやすいというデメリットがある。

また柄が長いものは背中を掛けるのには便利な反面、これまた小回りが効きづらい。
柄が短いとそれを補える反面、背中を掛けるのが困難になる。

これらを考慮したうえで、どういう使い方をするかで選択は変わってくるものですが、まあほどほどがいいかな、といった感じです。

でも角度はついていたほうがいいかもしれませんね。
ローラー掛けのしやすさもそうなんですが、これ割と盲点ですが、保管のときに粘着部が壁面についちゃうものがぼくは嫌いです。
だってその壁面の汚れを一旦は衣類に付着させることになるからです。

あ、あと水洗いで繰り返し使えるような類は、ぼくならおすすめはしません。
理由は(メーカーによりけりかもしれませんが)粘着力が弱いのと、交差汚染の危険があるからです。


アズワン

ローラー掛けはどうかければいいの?

原則、頭から始めて足までと上から下まで、全身をコロコロとかけていきます。
この、「上から下に向かう」、というのがポイントです。
毛髪は当然ながら、上から下に落ちるからです。

ローラー掛けのマニュアルはどこにでもありますので、それに基づいて行えば基本オッケーです。

ですがとくに重要な箇所として、毛髪の落下が多い肩部だとは言っておきます。

それと一応、忘れがちですが実は重要なポイントというのがあります。
それが、まずは背中。とくに自分では届きづらい肩甲骨付近ですね。
それから、「三首」
つまり、首元手首足首です。
これらは実は着衣の構造上、落下毛髪の出口になりかねない箇所です。

ローラー掛けでおろそかになりがちな重要箇所
  • 背中(上部)
  • 三首:首元、手首、足首
挿画:ローラー掛け

ローラー掛けはどの位の時間がいいの?

何回かければいいの?などと並んでよく出る質問です。

基本、その工場工場での着衣や環境条件があるので一概には言えません。
ですが、おおむね1分程度もあれば全身のローラー掛けはできるでしょう。

ただし。
この手の質問については、ぼくは必ずこう返します。
時間をかければそのぶん毛髪は除去できるが、その時間だけかければいいという「手段の目的化」になりやすい、と。

そもそもとしてこの手の質問は、この「ルールという手段」に目を向けているからこそ出てくる類のものであって、その「目的」と従事者との「共有」を置き去りにしているケースが多いものです。

前に「うちは2分、ローラー掛けにかけている」などとドヤ顔をされたときがあるのですが、そのときぼくの心は大概、冷ややかな目で「だからどうした」と、それを眺めています。

「手段よりも目的」
「分数よりも精度」
これを忘れないでください。

挿画:ポイント

粘着ローラーは何個用意すればいいの?

各現場の従業員数によっても変わってきます。

入場時というのは大概決まっていますから、集中することが多いものです。
朝の出勤のタイミング、昼休憩を終えたタイミング。
こうしたときは入場前室に従業員さんが集中するものです。
これらをある程度補える数は欲しいところです。

粘着ローラーは粘着力が命です。
ですから粘着力を保つ必要があります。

よく多くの工場で、粘着ローラーの使いまわしがされることが多いです。
1、2、3とフックを作り、そこに粘着ローラーを引っ掛ける。
1で使った人は2のフックに引っ掛け、2で使ったら今度は3に引っ掛ける。
3で使った人がテープを剥いで、また1に戻す、というものです。
こういうルールで運用している工場では、3での粘着力低下が生じていないかをチェックする必要があります。

とくにローラー掛けの分数を多く取ったり、テープ幅の小さなローラーなどは粘着低下が生じやすくなります。
くれぐれもご注意を。

定期巡回でのローラー掛けはいつ何回やればいいの?

工場によっては、ある一定の時間を定めて、交代制で毎日、係のものが全作業従事者に対しローラー掛けをして巡回している、なんてところもあります。
そうしたところから時折受ける質問です。

別に「これ」という決まりや答えはありません。
ですが、それに対するポイントとして、「時間が経つと着衣は乱れやすい」ということを伝えます。
やはり人間ですし、作業をしているのですから、着衣の乱れはどうしたって生じます。

これは各工場によって全く違うかとは思いますが、一例として、ぼくが毛髪対策を請け負って調べたあるケースでは、3~4時間くらいで着衣の乱れがある一定程度生じ始めました。
そこでこの工場では午前に1回、昼の休憩を挟んで、夕方に1回を巡回にあてる、という結論にはなったのですが、これがどのくらい他にあてはまるかはわかりません。

挿画:食品工場

まとめ:「ローラー掛け指数」とは

今回は5月6日「コロコロの日」ということで、前編、後編と二部にわたって「毛髪の異物混入」と「粘着ローラー」についてのお話をさせて頂きました。
そしてこちら後編では、主に「粘着ローラー」での「ローラー掛け」についてのお話でした。

最後に、「ローラー掛け指数」のお話をしておきましょう。
「ローラー掛け指数」とはなにか。
これはぼくが勝手に呼んでいるだけのものなので、そんなものが世にあるわけではありません。
ですが、ぼくが毛髪対策のコンサルティングを行う際にやっていることの一つです。

というのも、ある1日の工場の入場時にローラー掛けした粘着ローラーのテープを、回収するのです。
そして、この全テープへの付着毛髪数をカウントします。

そしてそれを回収したテープ数で割ることで、1テープあたりの付着毛髪本数が算出できるでしょう。
これを「ローラー掛け指数」とするのです。

「ローラー掛け指数」とは

「ローラー掛け指数」=全回収テープへの付着毛髪数÷回収したテープ数

さて、「ローラー掛け指数」が算出できましたね。
ではこれが、「1」を超えているか、それとも「1」未満なのか。
実はこれで、あなたの工場での「ローラー掛け度」が、まあおおよそですが、見えてきます。

挿画:評価
「ローラー掛け度」評価
  • 1より上:良好(ローラー掛けがしっかりされている)
  • 1未満:問題(ローラー掛けがしっかりされていない可能性あり)

でもこれ、完璧ではありません。
というのも、着衣着帽の乱れなどがある場合、当然ながら1を上回ることがあるからです。
なので、これに加えて着衣着帽の正しさ確認もすることが必要なのですが、まあ概ねの評価の1要素としては使えるかと思います。

どうぞ、参考までに。ではまた。

 

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