★公開日: 2022年5月7日
★最終更新日: 2022年5月8日
本日、5月6日は「コロコロの日」であることを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今日は「コロコロ」、つまりは「粘着ローラー」のお話をするとしましょう。
…と、ここで食品製造に関わりのない一般の方々は、もしかしたら「え、食品衛生でどうしてそんなものの話をするの?」と思うかもしれませんね。
ですが食品工場の方々はそんなことは思わないでしょうし、よく知っていてお馴染みですよね。
そう、多いに関係がありますよ。だってあの「粘着ローラー(コロコロ)」は毛髪混入防止のための重要なアイテムだからです。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
今日のお話のポイント |
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5月6日は「コロコロの日」
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
皆さん、本日5月6日は何の日だからご存知ですか?
実は5月6日は、「コロコロの日」、だというのです。
この「コロコロの日」を制定したのは、「コロコロ」などの日用家庭用品をを製造販売している㈱ニトムズ。
「コ(5)」「ロ(6)」の語呂合わせで5月6日に決めた、とのこと。
あの「コロコロ」は、実は元々「粘着カーペットクリーナー」というのが正式名であったということ。
なんでも商品在庫を整理していた女性社員が粘着テープで服についたゴミを取っている様子が、その商品開発のヒントとなったという話です。
さて、なんで食品衛生、異物混入対策の専門家であるぼくが、ここにきて「コロコロの日」などという生活便利サイトみたいなことをお話しているか、もしかしたらこれを読まれている方には「?」となっている方もいるかもしれませんね。
ですが、冒頭にも書いたとおり、食品工場にかかわるお仕事をされている方々には、十分それがおわかりかと思います。
そう、
ぼくが言っている「粘着ローラー」は、生活便利サイトの「粘着ローラー」とは根本的に用途、目的の違うものだからです。
生活便利サイトの「粘着ローラー」は、あれは家の中の清掃用具です。
あとは服のゴミ取りなどです。
ですがぼくが言っている「粘着ローラー」は、食品への毛髪の異物混入防止アイテムのことなのです。
というわけで今回は毛髪の異物混入と、その防止対策のための「粘着ローラー」、つまりは「ローラー掛け」についてお話していくことにしましょう。
あ、ここで最初に言っておきますが、ぼくはこれまで幾度もの食品工場の毛髪調査を、実際に現場で行い、そしてそれに対する毛髪対策のコンサルティングをしてきました。
そんな経験者が、専門家が、これから話すというのを一応断っておきます。
(いや、でも本当に多いんですよ、この業界にはまるで未経験者が毛髪混入を語るケースというのは)
大丈夫、今回は、これを読んだ最後には「成る程!そうか!」と唸らせる自信のある記事です。

異物混入要因で一番多いのは何?
ところで皆さん。
異物混入要因で一番多いのって何だと思いますか?
例えば、異物混入として挙げられるものに、ざざっとこんなものがあるとしましょう。
このなかで一番多いのは、どれだと思いますか?
混入異物の代表例 |
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さあ、どうでしょうか。
今回の話題が毛髪なんだから、そりゃあ毛髪でしょ?
ていうか、もう最初に「今日のお話のポイント」にそう書いてネタばらししとるやん。
そう思いますか?
でも、ゴキブリとか昆虫の混入って、やっぱり多そうだよね。
どうでしょうか。
いやいや、樹脂じゃないかな。手袋片とか多いっていうよね。
お、鋭いですねえ。いいですねえ。
これね。
まともに厳密に回答すると、わかりません、という答えになる。
というのも、現状のところ正式な統計って存在しないんですよ。

実は潜在的に多い毛髪混入
驚きましたか?
結構、意外ですよね。
何故か。
いくつか理由があります。
まず最初の理由として、異物混入情報が必ずしもすべて行政に報告されるわけではない。
だから公式な統計が存在しないんですね。まずこれが最大の理由です。
それと理由その2として、何故なら異物混入が必ずしもメーカー側に原因があるとは限らない。購入者、消費者由来の異物混入というのは、実は山ほどあります。
こうしたものでは当然ながら回収対象にならないし、メーカー側も絶対には口にしませんがよーく分かっているので「はいはい」と処理するので、統計対象には滅多に加わりません。
また理由その3として、市場に出る異物混入以前に、製造工程内で不良品として検出、発見されることもかなり多いからです。
これを、品質管理では「内部不良」と呼びます。
対して、市場流出してしまった不良品のことを、「外部不良」といいます。
これはQCのイロハの一つです。
製造工程上での異物混入の不良区分 |
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そしてこの市場流出してしまった「外部不良」をいかに減らすか。つまり「内部不良」で済ませるかは、品質管理の重要なポイントです。
ですがこれも当然ながら統計には見えません。見えないですが、しかしこうしたものは再発防止のため、外部の検査機関に分析依頼することもままあります。
いずれにせよ、この「内部不良」として検出・廃棄された不良品だって、異物混入からすれば立派な異物混入です。
いや、そりゃ確かにこの「外部不良」として市場流出した異物混入に対する、幾つかの統計データというのは世に存在するんです。
だからそこで出されているものを答えれば、正解の一つとはいえるのでしょう。
でも、それにはそれなりに偏りが生じます。
例えば、一番有名でアクセスしやすいのが、東京都の福祉保健局です。
ここの発表だと、例えば2020年の東京都内での異物要因のうち、一番多かったのが虫で、計年間535件中160件と、およそ全体の約3割を占めていて、次が毛髪で年間57件と約1割、となっている。
でもこれは統計元が東京都で、要するに飲食店がほぼ大半を占めるような状況下でのデータなわけです。
だからゴキブリだけで年間54件も発生していて、これはチャバネゴキブリの発生があちらこちらで見られる東京ならではの現象だということです。
少なくとも製造業種では若干状況が変わってくるでしょう。(それでも都内の工場というのは、地方工場に比べてチャバネゴキブリの生息率は非常に高いですし、そもそもからして東京都内に大規模な食品工場なんて少ないものですが)
では他のデータはないのかといわれれば、ないわけではないけれど、でもかなり限定的です。
理由はといえば、理由その1として先に触れたように、その異物混入の報告義務が健康被害や社会的な影響に直結するなど、リコール、つまりは製品回収につながらない限りは行政に報告する必要がないからです。
そしてそうした報告のされない異物混入が、実は大半だったりするのです。
この話を今回もまたこれ以上広げるつもりはないですが、何故かといえば食品衛生法でそう決まっているからであり、これは別に「けしからん」案件でも(少なくとも現状では)何でもありません。
とはいえ、食品衛生法改正後、昨年からはリコール情報の報告が制度化したので、以前に比べれば公式の統計が取りやすくなったかとは思いますが、でもそれだってリコール対象のみというごく氷山の一角です。
で、その他にも国民生活センターの統計だったり、あとは各検査機関での統計などは存在するのですが、しかしそれイコール全体の異物混入の正確な実情の反映かといえば、必ずしもそういうものでもない。
各種業界団体のクレーム統計というのものあるのですが、そこにはその製品特有の問題というものが、どうしたって現れがちです。
それにそもそも、全ての食品の業界団体がクレーム統計しているわけではないですし、むしろ少ないくらいです。
これが実は、異物混入統計というものの、現状です。
ただし、ぼくらのようなこの世界に長年生きている身には、ぼくじゃなくたって多くの専門家やプロが揃って、「いやまあそりゃそうだよね」って頷く事実が、一つあります。
それは、なにか。
なんやかんやで製造工程由来の異物混入といえば、毛髪混入が一番多いことは間違いない、という確信です。
異物混入には、その異物が混入する「経路」というのがあります。
どのタイミングでそれが入ったのか、というものです。
例えば、こんなタイミングが考えられます。
ある商品への異物混入経路 |
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で、これらのうち、食品工場での「製造工程由来」においては、毛髪の異物混入が実は一番多い。
統計としてはないけれど、これは確かじゃないでしょうか。
いや、多様な食品業界においては、業種によって各々の違いは、確かに生じるものです。
例えば洋菓子や和菓子などの業界ではどこでも多いというであろう毛髪混入が、しかし製造工程や特性の違いから、飲料にはほとんどない、とかね。
とはいえ全体で見て、またいろんな統計を見れきたプロであればプロであるほど、「一番多い異物混入がなにか」と問われてそのトップ3に毛髪が出てこないことは、普通はありません。
そうここできっぱりと断言できるくらいに、毛髪混入というのは多いものです。

毛髪混入対策とは
さあ、このように製造工程上においては毛髪の異物混入が多い、というところまではわかりました。
ではこの毛髪の異物混入対策というものには、どんなものがあるのでしょうか。
工場での毛髪の異物混入原因というのは、大きく次の3つです。
毛髪混入の直接的原因 |
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そもそも資材に混入していた、消費者が食べるときに混入させた(案外あります)などは工場での過程ではないのでちょっと置いておくとして、理論的に考えられる毛髪混入経路はこの3つです。
逆に言えばこの3つを防げばいいのですが、しかしコトはそんな簡単な話でもないから、毛髪混入というのが一番多いわけです。
まあ、だからよく毛髪対策の講習会などでは、講師がこのような話を「高確率で」します。
はーい、いいですかー。
毛髪対策の基本は次の3つでーす。
それは、「持ち込まない」、「落とさない」、「取り除く」、です。
…ってね。
毛髪混入対策の三原則 |
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これらは先に挙げた原因を防ごう、というものです。
だから、
工場内に、落下する毛髪を「持ち込まない」。
そのために、今回のお話のメインであるローラ掛けを行い、エアシャワーを経て、落下毛髪を除去してから、入場する。
工場内では、脱落する毛髪を「落とさない」。
そのために、入場時に着衣着帽が正しくなされているか指差し確認を行ったり(アピアランスチェック)、またそれが乱れていないかを作業中、何時間かに一回など互いにクロスチェックしたり、あるいは係が定期巡回チェックしたりする。
そして工場内に、落ちてしまった毛髪は「取り除く」。
そのために、定期巡回チェックの際に再度係がローラー掛けを行ったり、あるいは床面に落下している毛髪が舞い上がるなどして混入しないように、除去清掃する。
以上、これが、毛髪対策の一番最初に教えられる基本です。
まあ、そりゃ正しいです。
絶対的にその通りなんです。
ケチのつけようのない、そんな教科書対応です。
でも、大人は知っています。
教科書なんて、教科書であることを。

毛髪対策で一番重要なこと
はい、ここから非常に重要な話をします。
だからこそ、毛髪対策において重要なこと。
それは、毛髪対策というものは、ルールの身体化、つまりは「教育訓練」と、そのルールがあるのは「何故か」を伝えること、つまりは「目的の共有化」が一番大切だということです。
毛髪対策のポイント |
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「目的の共有」がないとどうなるか。
ルールという「手段」が「目的化」する。
つまり、例えばローラー掛けで言うのであれば、ローラー掛けをすることが目的化する。
するとどうなるか。
対策の精度が落ちます。
つまり毛髪の混入リスクが急激に跳ね上がります。
ルールが形骸化する、とはまさにこのことです。そしてそういう工場は、実は全国山ほどあります。
そして実を言うと、これこそが他の異物混入対策と毛髪混入対策との、最大の違いです。
だからこそ、これを知っていないと効果を出せないのです。
何故なのか。
例えば、昆虫の異物混入対策ならば、ある程度は、プロへの委託が可能です。
例えば、金属の異物混入対策ならば、金属探知機だったり、設備担当の点検でどうにかなるかもしれません。
他の異物混入対策には、品管さんの働きでなんとかなることだって多いでしょう。
しかし、こと毛髪の異物混入対策というのは、すべての従業員の一人一人にまかせるしか他にないからです。
各従業員さんにお願いし、教育訓練し、従業員にルールにしたがってもらい、それを全員にやってもらってこそ成立するものであり、逆に言うなら一人でもそこから逸脱すれば問題へとつながってしまいかねないのがこの毛髪混入対策の一番むずかしいところなのです。
話を戻しましょう。
どうやら、製造工程上では、毛髪の異物混入が一番多いらしい。
では、どうして毛髪の異物混入が一番多いのか。
それは、このように作業者一人一人の「人」に由来する問題だからです。
つまりはこの「人に由来する問題をどう解決させるのか」というところこそが、毛髪対策の最大のポイントなんです。
そしてだからこそ、ただ単に教育訓練でルールを身体化させればいいわけではなく、そのルールを行うことの「目的」を理解してもらい、一人一人がそのルールを守るための本来の「目的」を共有することで、ルールという「手段」の「目的化」を防ぐのです。
つまりはいかにうまいこと「人」を動かせるか、が毛髪対策の鍵なのです。
そして毛髪対策のように全員の「人」をうまいこと動かすためには、「ルール」の強制力だけじゃ駄目だ、ってことです。
だから、単に頭ごなしに「いいからルールなんだからやれ」というトップダウン型は、こと毛髪対策にはリスキーです。
何故ならば、その結果、「やれ」という強制力が「やればいい」と変換され、「手段の目的化」に生じかねないからです。
そして一人、また一人と「目的の共有」から脱落し、やがて全体に「手段の目的化」が波及していく。
これをいかに防ぐかが、毛髪管理のポイントなのです。
実はここ、めっちゃ重要ですよ。
だって、ぼくら専門家が毛髪対策のコンサルタントを行うときに、何に一番力を注ぐか。
実は、それがこのポイントにあります。
ていうか毎回これを実は、メチャクチャ意識しています。
にも関わらず、ルールの遵守状況だけにしか気のいかない工場長さんや管理者さん、品管さがいかに多いことか。
で、そういう方に限って、口にする言葉があります。
「うちの従事者は、やれと言われたことしかやらない」
です。
でもぼくに言わせれば、そりゃそうでしょう、となる。
だって「いいからルールなんだからやれ」で、その「目的の共有」をしないから、そうなるんです。
ああ、耳が痛い。
もしかしたらそう思った、これを読んでらっしゃる工場での従業員さんの教育にあたるような方々。
その当初の意識はもちろん素晴らしいのですが、そこ、効果が出てません。
なので、これらのことを、よーく覚えておいてください。

まとめ
おっと、ついつい熱くなって、長くなってしまいました。
しかもここまで書いておいて、主役の粘着ローラー、出てこないし!(笑)
後半ではもちろんですが、しっかりと主役に出てもらいますのでご安心?を。
とにかく、毛髪対策というのはいかに「人」の問題をどうするか、につながります。
でもこれって「管理」の本質だったりするんです。
つまり毛髪対策というのは、ちょっと上級者的ではありますが、マネジメントシステム、つまりは「管理の仕組み」をいかに構築するか、なんですね。
なのでこのことは、実はいかにHACCPシステムなどを生の現場に効果的に落とし込むか、ということにも通じるものです。
つまり、いくらあれだこれだとご大層に小難しいことを並べようが、実際の「人」をどう動かすかが出来なかったら、全く意味がない。
その点で、抽象性としての「仕組み(マネジメントシステム)」をどう具体性である「人=現場」に落とし込むか。
その象徴的なゲームの一つが、この毛髪対策でもあるんです。
…ってあれ、今回夢中になってあれこれ書いちゃったけれど、これって有料級の情報ですよ!?
だって、これらってぼく、普段は有料の講義で話していることですからね!
さて、今回は5月6日「コロコロの日」ということで、前編、後編と二部にわたって「毛髪の異物混入」と「粘着ローラー」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、毛髪の異物混入というものを見ていきました。
次回の後編では、その主役である粘着ローラーのお話をしていきたいと思います。ではまた。