★公開日: 2022年5月5日
★最終更新日: 2022年5月5日

最新ニュースから気になる話題を、プロ目線でコメントする。
そんな今回のニュースは、大阪で起きた黄色ブドウ球菌の集団食中毒についてお話していきましょう。

本日の時事食品ニュース

大阪で黄色ブドウ球菌の集団食中毒発生

「食品業界ニュースピックアップ」。
食品衛生関連のニュースに対し、専門家としての解説を加えていく、こちら。
本日のお題は、大阪で発生した集団食中毒についてお話をしていきましょう。

まず、そのニュースがこちらです。

【税務大学校の食中毒断定…大阪・枚方市保健所】
(2022年04月29日)
 大阪府枚方市の税務大学校大阪研修所で、研修中の多数の職員が腹痛などの症状を訴えて救急搬送された問題で、市保健所は27日、食堂で出された夕食と患者の便から黄色ブドウ球菌が検出されたと発表した。

保健所は集団食中毒と断定し、給食業務を委託されていた業者の営業所「コンパスグループ21372」(大阪府枚方市)を28日から3日間の営業停止処分とした。
保健所によると、患者は18~22歳の男女52人。22日の夕食で提供された「チキンの赤ワイン煮」「味噌(みそ)野菜炒(いた)め」から黄色ブドウ球菌が検出されたという。…(以上引用)
(読売新聞)

参照画:大阪税務大学
朝日新聞

これについては、前回のウィークリーニュースでも触れたニュースです。

ぼくが追っている限りなのですが、恐らくこれ、2022年にはいって最初の黄色ブドウ球菌の食中毒であるはずです。
毎年、ちょいちょい黄色ブドウ球菌の食中毒というのは発生していたりもするのですが、今年はなかった。
それがここにきて、集団での発生。

そういうわけで、折角の機会。
ここではもう少し、この黄色ブドウ球菌食中毒について深掘りしていきたいと思います。

挿画:ポイント

予測出来なかった黄色ブドウ球菌食中毒

さて。
実のところ、ウチでは先週のウィークリーニュースのときに、この食中毒が発生したばかりの最初の一報段階でこれについて触れているんですね。

で、自戒もこめての話なんですが、正直言うとこの段階でぼくは、黄色ブドウ球菌の予想が出来ていなかった。
いやはや、お恥ずかしい…。

というのも、この手の数十人規模の集団食中毒というと、まず挙がるのがウェルシュ菌の食中毒です。
しかもこれ、潜伏期間がさほど長くなかった。

こうした菌による食中毒(細菌性食中毒)には、大まかにわけて2つの種類があります。
それが「感染型」「毒素型」の食中毒です。

細菌性食中毒の区分
  • 感染型:食品内で増殖した菌を摂取して食中毒となる
    (カンピロバクター、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、病原大腸菌、ウェルシュ菌など)
  • 毒素型:食品内で菌が増殖する際に毒素を産生し、その毒素を摂取して食中毒となる
    (黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌など)

これらのうち「毒素型」というのは、細菌が作った毒素を人間が食べてしまうことで食中毒を起こす、というタイプのことです。
これは食品内で増殖した菌を取り込むことで食中毒となる、例えばカンピロバクターや病原大腸菌のような「感染型」とはタイプの違う食中毒です。

※「感染型」のうち、細菌が腸内などの体内で増えるときに毒素を作り、食中毒を起こすもの(病原大腸菌、ウェルシュ菌など)を「生体内毒素型」と呼んで別に区分することもあります。

で、これらのうち「毒素型」のほうが「感染型」よりも潜伏期間が短い、というのが比較的なのですが割と特徴だったりします。

今回の事例も、潜伏期間はそんな長くはなかった。
ということはこりゃ、毒素型の食中毒なんだろうな、とはすぐに目星がついた。
まあ生体内毒素型のウェルシュ菌はそうでもなかったりもするんですが、でも数十人規模の集団食中毒だと入ってきて最初に疑うのがウェルシュ菌というもの。
そこで最初その疑いを抱いたわけです。

が、ニュースをよく読めば、軽症の下痢でおおよそが片付くウェルシュ菌に対し、ここでは重症者が複数出ている。
しかも嘔吐の症状という。
ああ、こりゃ違うな、と。
ここまでは予測がついたわけです。

しかも最初の第一報の段階では、「チキンの赤ワイン煮」がメニューに出されていた。
まあ、あとから「味噌野菜炒め」も加わったんですが。
となると、いずれも高温調理を要するもので、例えばカンピロバクターや病原性大腸菌が外れる。

とはいえ、ですよ。
こういう手の話で時折あるのが、「メニューに報じられていないものが原因物質」のパターンです。
添えていた生野菜が汚染されていた、とかね。
それは加熱殺菌もせずに洗浄するだけで添えるので、二次汚染などでこれらが食中毒菌に汚染されてしまう。
そういうことが時折、いや割となケースで、あったりする。
これかもな、とは正直、思いました。

いやだって、言い訳するわけではないのですが、黄色ブドウ球菌による、このくらいの規模の集団食中毒というのは、そこそこレベルで珍しい。
患者数50人超えるのって、数年に1回あるかどうかじゃないかな。

それに黄色ブドウ球菌食中毒自体、近年はかなり減っています。
ましてやこのコロナ下で、そうそう起きるわけでもない。

だって黄色ブドウ球菌の食中毒が起きたというのは、要するにこれ、手袋していないまま、素手で調理した(あるいはその扱いが雑だった)から起こったんですよ。
菌が検出されたものとして「野菜の味噌炒め」とありますが、この規模に拡大しやすいのは、むしろチキンの煮物のほうでしょう。
いずれにしたって、鶏肉や野菜を絆創膏ついたままの手で触れたから起きたわけです。
このコロナ下で、ですよ?
こんな最中に、あるかね、大量調理施設で黄色ブドウ球菌による集団食中毒って、とつい思ってしまった。
ハイ、深々と反省します…。

とまあ、そんなわけで本当に恥ずかしながら予想を外してしまったので、改めて復習の意も含めて、今回、黄色ブドウ球菌食中毒についてもう一度、触れていきたいと思います。


Wikipedia

「黄色ブドウ球菌」とは

というわけで、改めての「黄色ブドウ球菌」とは、なのですが。
実は前にこの「黄色ブドウ球菌」については、詳しくウチでも扱っています。

しかも、この記事がかなり実は面白い。
いや、実に手前味噌な話なんですけど、でも今回改めて読んでみて、ぼく自身「へえ!」「さすがはぼくは専門家の記事だ!(予測外してんだけど笑)」と思い直してしまったくらいに、面白い。

なので詳しくはこちらを読んでみてください。
基礎的なお話は全部ここにまとめられています。
しかもそれのみならず、かなり勉強になりますよ。いや、本当に手前味噌なんですけど、だって本当なんですもの。

さて、基礎的なお話は上の記事におおかた譲るとして。
「黄色ブドウ球菌」というのは、人間の皮膚や粘膜、鼻や口内などに普通にいる、いわゆる「常在菌」なのですが、こいつが厄介なことに多くの毒素を作り出す。
かの舞の海は、その技の多彩さゆえに「技のデパート」なんて呼ばれましたが、この黄色ブドウ球菌はさながら、「毒素のデパート」。
そのくらい多彩な毒素生成菌だったりします。

とはいえ、ですよ。
おにぎりや調理パンなどで見られることの多い黄色ブドウ球菌による食中毒が、これらの完全なる加熱調理で発生しているというのは、そこまで事例として多くはない。

まあ、とは言うても上の記事で紹介した昨年秋の食中毒では、オーブンに入れて高熱でぐつぐつと加熱するグラタンで発生している。
しかもこれ、一人死んでますからね。
(記事にもあるように、黄色ブドウ球菌食中毒での死者というのはかなり珍しいのですが)
黄色ブドウ球菌の食中毒というのは、このように加熱調理からも起こりうる、そして重症化、場合によっては死者すら出る、ということはちょっと頭の片隅においておいてもいいかもしれないですね。

挿画:手の常在菌

最新の黄色ブドウ球菌食中毒事情はどうなっているのか

では最新の黄色ブドウ球菌食中毒はどうなっているのでしょうか。

実は上の記事でもそれに触れている、面白いデータがあるんですが、これに当時の段階で加えられなかった昨年統計のデータをあわせて、見てみるとしましょう。

おっとその前に基礎的な解説を。
いつもながら一般的に「食中毒が多い」などという場合、次の二つのデータをともにかけあわせることでそれを評価します。

食中毒の「多さ」の評価軸(食中毒の状況別分類)
  • 事件数:食中毒が発生した件数
  • 患者数:食中毒になった患者の数

「事件数」とは、食中毒が発生した件数のこと。
患者数」とは、食中毒になった患者の数のこと。
これら双方から、「食中毒の多さ」を判断します。
だから厚生労働省の食中毒の統計データには、その双方が集計されているのです。

では、それを踏まえて、実際にその双方から近年の食中毒統計を見ていくとします。
これはぼく自身が、厚生労働省の統計報告から独自に作ったグラフとなります。

まずは発生した事件数から。

作成画:黄色ブドウ球菌食中毒の年間発生状況①事件数
黄色ブドウ球菌食中毒の年間発生状況①事件数

とまあ、このように黄色ブドウ球菌の発生件数というのは近年減少傾向にあります。
ましてやコロナ下で食中毒全体自体が減少しているここ数年はなおのことといった状況です。
特に去年は過去統計内で最も発生件数が低い。なにせ20件を割った年はありませんからね。
だからこそぼくも今回、黄色ブドウ球菌のことを見逃してしまった。(完全なる言い訳)

では、次は患者数行くとしましょうか。

作成画:黄色ブドウ球菌食中毒の年間発生状況②患者数
黄色ブドウ球菌食中毒の年間発生状況②患者数

はい、黄色ブドウ球菌の患者数のグラフはいつもなんですけど、2000年のえっぐい突き抜けが気になりますよね。
これ、昨日も触れた例の雪印乳業の食中毒によるものです。

そう、この突出こそが、かつて20年前に全国14,780人もの患者を生んだ、戦後日本最大の集団食中毒事件と呼ばれる、かの悪名高き雪印集団食中毒事件に他ならない。
これについては、また別途記事を書くとしましょう。
ぼくら食品衛生に関わる者にとっては、非常に得ることや考えさせられることの多い事件です。

まあ、それはおくとしても。
ちょっとこれだと突出が凄すぎてわかりづらい。
そこでこの2001年以降のところだけ抽出してみます。

作成画:黄色ブドウ球菌食中毒の年間発生状況③患者数(2001年~)
黄色ブドウ球菌食中毒の年間発生状況③患者数(2001年~)

ほら、どうでしょうか。
先の発生件数に対し、実は案外と患者数はそれほどまでも減っていないことが気になります。
しかも時折、ぽんと上昇すらしている。

つまり、近年、その発生自体は堅調に減っているのにも関わらず、一つ一つの患者数がそこそこレベルに多い。
それが黄色ブドウ球菌食中毒の近年の特徴なのです。

挿画

まとめ

今回は大阪で先日発生した黄色ブドウ球菌の集団食中毒についてお話しました。

さて、上でも触れているように、黄色ブドウ球菌の集団食中毒として思い出すのは、雪印乳業での牛乳で起こった事件です。
ですが去年、富山で発生した学校給食の牛乳による1800人超の集団食中毒も同時に、ふと頭をよぎります。

この食中毒事件では、最終的に原因物質は病原大腸菌だと特定され、加熱殺菌不足だという結論に至りました。
でもそれまで当初、配管洗浄の不足によって発生した黄色ブドウ球菌食中毒ではないか(あるいはサルモネラ属菌)とかなり疑われていたのです。
つまり、雪印同様の問題が発生したのではないか、というのが最初の疑いだった。

この件もまた近くに詳しく扱うとしましょう。

いずれにせよ今回のように、黄色ブドウ球菌の食中毒はそれほど多くはないものの、時折集団化し、場合によっては重症者をも出すので油断ならない。
そんな食中毒菌だったりするわけです。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

 

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