★公開日: 2022年5月1日
★最終更新日: 2022年5月7日
よく工場や飲食店の方から、「虫が発生した」と言われます。
でもちょっと待って下さい。そもそも虫が「発生」するって一体どういうことでしょう。
虫が「生息している」ことと、何が違うのでしょうか。
これを知ると、あなたの工場や厨房の防虫管理が必ずワンランク高まります。
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。
今日のお話のポイント |
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Contents
「虫が発生した」というのは本当か
今日から5月。
防虫対策のシーズンも、いよいよここらへんから本格的に始まります。
ライトトラップなどでの虫の捕獲数もこのあたりから本格的に上昇傾向を迎える工場や厨房がほとんどでしょう。
ぼくらの仕事、とくに防虫対策に関する問い合わせや相談は、このGW開けくらいから本格的に増え始め、忙しくなってきたりするものです。
さて。
こうした仕事を長らく続けていると、高い頻度でお客さんから「虫が発生した」と言われることがあります。
よくよく話を聞いてみると、工場や厨房で虫を見かけた、という意味のことを伝えてきます。
以前、大手PCO会社に勤めていたとき、新人の部下が出してくる書類報告にも、こうしたことがありました。
やれ、「倉庫でタマバエが発生している」
あるいは、やれ「包装室でシバンムシが発生している」など。
思わず頭を抱えてしまいました。
当然ながらお客さんについて、ぼくはそれを正すことはしません。
しかしながら部下は全く別です。新人だろうが、お金を頂いている以上、プロの一人です。
彼に正しい知識をつけさせ、一人前に育て上げる責任が上司のぼくにはありました。
速攻呼び出し、「なんだこれは?」と問いただします。
すると、倉庫でタマバエが多数見られたことだと答えます。
あるいは、包装室にシバンムシの捕獲があったことだと答えます。
ため息をついて、指導とやり直しを命じます。
実はこういうことは、結構あります。
一般の方は、たやすく「発生」を使いたがります。
食品衛生の基礎を学んだはずの食品メーカーの品管さんですら、「虫が発生した」と言ってきます。
まあ彼らは品質管理のプロではありますが、虫については素人なので仕方ないかもしれません。
また心配もあるのでしょう。
「これ1匹だけじゃないのではないか。
だって、1匹見たら30匹いると思えってよく言うじゃないか」
きっとこのように考えているのかもしれません。
ですが、余りにも「発生」とたやすく言い過ぎです。
それはやもすると昆虫の「内部発生」ということがどういうことか、全くわかっていないという証左につながりかねません。

「発生」とはどういう現象か
ぼくがそうなので断言出来ますが、優秀な防虫対策の専門家は、そうそうむやむやたらに「発生」なんて言いません。
少なくとも、虫が1頭そこにいたからと言って、それを「発生」とは簡単に言いません。
では「発生」とはどういう意味なのでしょうか。
ちょっとネットでググってみました。
① 新しい物や事が生ずること。また、生じさせること。 「事件が-する」 「酸素が-する」
② 細胞の増殖・分化・形態形成などにより、ある生物系(組織・器官・個体など)が単純な状態から複雑な状態へ発展すること。
主に受精卵から出発する個体発生をさす。
この②を読んでみてください。
「主に受精卵から出発する個体発生をさす」
とあります。
つまり、卵から生物が生まれる、卵から生物がかえることを「発生」だと書いてあります。
防虫管理、防虫対策においても同様です。
あくまで「卵から孵化する現象」を「発生」というのです。
ということはつまるところ、「卵から生まれる現象」があったかどうか判らないときは、それを「発生」と呼びません。
なぜならそれは「発生」ではないからです。
そんな、どうでもよくない?
たかが呼び方だろ?
同じようなもんじゃね?
そう思いますか?
もしそう思うなら、すみません、申し訳ありませんがあなたは防虫対策について何もわかっていないのと同じです。
というかその「わかってなさ」の証こそが、それなのです。
でも、大丈夫。これからゆっくり詳しく、その意味と訳をお話していきますから。
そして、それらを読めば「ああ、成る程、確かに!」と納得出来るはずです。
なぜなら、ぼくらプロ中のプロがそうしない理由が、そこには明確にあるからです。
そして実はこれは、防虫管理の基礎的な考え方に他なりません。

「生息」と「発生」を区別する
そもそもぼくらは、そこで見つけた虫について「卵から生まれる現象」があったかどうかが判らないときは、それを「発生」と呼びません。
では、それは一体、何なのか。
これは、「生息」です。
生きた虫が、そこで見つかった。
工場の中で、厨房で、生きているゴキブリでもハエでもクモでもシバンムシでもなんかの幼虫でもかまいません、それが見つかった場合。
これは「生息」の発見です。
この「生きている」というのがポイントです。
「生息」とは生きて、そこに生存している、あるいはいた場合にそれを指していう言葉です。
死骸を見つけてきてそれを「生息」とは、「原則的には」言いません。
なぜならその死骸は、生きてそこで死んだ、とは限らないからです。
死んだまま持ち込まれた、そういうこともあるからです。

「生息」への「何故?」から始まる防虫対策
虫がいた。
生きてる虫が、そこに見つかった。
それは「生息」です。
そして、そこから「何故?」が生まれます。
つまり、何故この虫はここに「生息」しているのか?
これが始まります。
そしてこここそが「防虫対策」のスタート地点です。
どうしてこの虫が「生息」しているのか。
その理由は2つしかありません。
それは「外部侵入」か「内部発生」のいずれかです。
つまり工場や厨房の中で「生息」していた虫は、外から入ってきた「外部侵入要因昆虫」か、それが産んだ卵から孵化し、育った場内生まれ場内育ちの「内部発生要因昆虫」。これらのいずれかどっちかです。
工場や厨房で生息している虫はどっち? |
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ということは、です。
なぜ「生息」が発見された虫を「発生」と呼ばないかというと、その虫は「発生」したものではなく「侵入」したものである可能性があるからです。

まず、「生息」が見つかった。
では、この虫はどこから来たのか。
「外」から来た「外部侵入要因昆虫」なのか、あるいは中で「発生」、つまり生まれ育った「内部発生昆虫」なのか。
これがまず防虫対策のスタートであり、基礎中の基礎、極意中の極意にほかなりません。

「侵入」と「発生」では「対策」が違う
何故こんなにその分け方に、こだわるのでしょうか。
それは、それらによって対策が全く変わってくるからです。
違う対策を行ったって効果があるわけがありません。
「外部侵入要因昆虫」には外の対策を、「内部発生要因昆虫」には内の対策をする。
これをしないと効果がありません。
どうしてでしょうか。
問題には必ず、どうしてそれが起こったか、その「要因」があるものです。
そして、対策とはその「要因」に対して行ってこそ、初めて効果がある。
「要因」が違っていては、「対策」の効果は限定的です。
例えば。
毎日毎日、コッテリラーメンばかり食べているせいで太っている人が、いくら運動をしても余りダイエット効果がないですよね。
それはどうしてですか?
原因は「ラーメンの食べ過ぎ」にあるからですよね。
この食べ過ぎという「要因」について「対策」を施していないからではないですか?
ものごとには、「評価」・「問題」・「要因」・「対策」という順番があります。
ぼくらの仕事、衛生管理や防虫管理も、突き詰めればここに至ります。
いいのか悪いのかを「評価」し、では何がどう悪いかその「問題」を提示し、それは何故起こるのか「要因」を明らかにし、その要因に対しての「対策」を示す。
これこそが「防虫対策」の本質です。だって「虫」を「防」ぐ「対策」なのだから。
そしてこれを仕組みとしてPDCAサイクルに組み込むことこそが「防虫管理」です。

いいですか?
「要因」を明らかにし、その要因に対しての「対策」を、示すのです。
違う「要因」ではなく、問題を起こしている正しい要因への「対策」を、示すのです。
毎日コッテリラーメンを食べているから太るという問題が生じているなら、その「要因」に対する「対策」を示すのです。
じゃないと「対策」が効果を果たさないのです。
防虫対策だって同じなんです。
「虫」の生息を「防ぐ」ための「対策」ですから、当然「要因」に対して行うべきなのです。
そしてその「要因」を、「外」と「内」に分けるのです。
例えば。
生きたゴキブリを1匹見つけた。
たやすく「発生」だと決めつける。
つまり、このゴキブリの「生息」は「内部発生要因」だと、早合点する。
そこで一生懸命清掃する。
しかし、あくまでこれは「内部発生要因」への対策です。
でもこれが配管の隙間などから這い上がってきたという「外部侵入要因」だったらどうでしょうか。
その間にも、ゴキブリはもっと外から侵入してくることでしょう。
だって重要な対策を怠っているからです。
太っている人がやせるために、毎日コッテリラーメンを食べ続けながら筋トレを始めるようなものなのです。
対策がズレる、とはこういうことです。
このように、虫の区分をしっかりここでしておかないと、「要因」を取り間違え、「対策」の効果が果たせなくなるのです。

「発生」という現象が出来る虫は限られている
うん、まあそれは判る、と。
でも、それでもやっぱり結局は「言い方」の話じゃね?
「発生」でも「生息」でもそんな変わらなくね?
と、そう思ってしまう方。
やっぱりそれは「防虫対策」がわかっていません。
何故か。
そのわけは、工場内や厨房内という環境下で「発生」出来る虫は限られているからです。
「外部侵入」というのは、外部環境に生息するどんな虫でも、可能な現象です。
ですが、その虫の全てが侵入し、生きながらえて卵を産みそれから幼虫が生まれ、育ち、といった「内部発生」が行われるわけではありません。
数万種あると言われる虫の、その全てが場合によっては「外部侵入」することがある。
でも、そのうち「内部発生」できる虫は、ごくわずかなのです。
その「ごくわずか」以外の虫は「内部発生」が出来ません。
これは一体どうしてでしょうか。
虫が内部発生する、ということは、それに必要な要素が揃わなければ起こりません。
これは前回に書いたことですね。
その要素とは、「水」・「温度」・「餌」・「すみか」の4つです。
虫が「内部発生」に必要な要素 |
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そして、虫はそれぞれ種類によって、これらに関わる必要条件が微妙に異なります。
例えば汚水だったり、腐敗物だったり、温度だったり、カビだったり、穀粉だったり。
そういう、発生するための「条件」が揃って、そこである限られた虫が「発生」する。
これが「内部発生」という現象です。
つまり、「発生」にはある限られた条件があって、それを満たすことで限られた虫が「発生」するのです。
だからその環境を見れば、この条件が揃っているからこの虫が「発生」する、といったことが判るし、逆に言えばそれ以外は「発生」しない、「発生」出来ない、と判断出来ることが出来る。
これは防虫対策において必要なスキルと知識です。
だから、簡単に「発生」だと言うのは、その「発生条件」と限定された「内部発生できる虫(内部発生可能昆虫)」の関連性を全くわかっていないことの証だというわけなのです。
「発生」を知るとは |
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「発生」を知る、ということ
さて、ここでもう一度、冒頭で例を出した新人の話を挙げてみましょう。
彼は、
「倉庫でタマバエが発生している」、
そして
「包装室でシバンムシが発生している」
と言いました。
では何故「発生」と言っている彼は、上司であるぼくに、こいつは何もわかってないと判断されたのでしょうか。
1つ目。
「倉庫でタマバエが発生している」
これは「内部発生できる虫(内部発生可能昆虫)」を知らない証拠です。
そもそもタマバエ類という昆虫は、一般的な工場や厨房内において内部発生を基本的にしません。
つまりタマバエ類は、「内部発生できる虫(内部発生可能昆虫)」ではありません。
ですから、このタマバエ類という昆虫に対してたやすく「発生」と言っている時点で、彼はプロ失格です。
更に言うなら、タマバエ類の生息の条件は「植物」です。
そもそも植栽などの緑地帯に山ほど生息しているタマバエが、外部に近い倉庫で捕獲され、確認されたらそれはよほどの例外環境でもない限りは「外部侵入」であるはずです。
ですから「発生」と言っている時点で、すでに彼は何もわかっていないことがわかります。
2つ目。
「包装室でシバンムシが発生している」
これは「発生条件」がわかっていない証拠です。
小麦粉などの粉溜まりで発生するシバンムシ類という昆虫は、確かに「発生の出来る、限られた虫」ではあります。
その意味では、「発生」と言っても、まあ、有り得る話。
ですがこのシバンムシ類の「発生条件」は、米粉や小麦粉などの穀粉の「粉だまり」です。
よほどのことが無い限り、包装室で穀粉の粉溜まりが出来ることはありませんし、あったらその工場は末期症状です。
少なくとも一般的にはありえないので、それはシバンムシ類の「発生源」を見つけられていないことを意味します。
要するにこれらは「問題」に対する「要因」を考察、指摘する際のスキルや知識に欠けている、その現れだということです。

虫の「生息条件」とは
さあ、ここまでの説明でやっと、「発生」とたやすく言うことが何もわかっていないかがご理解出来たのではないでしょうか。
ただし。
ここまで来てちょっとアレなのですが、実はこの話、因果関係が全く逆です。
というのは、「発生条件があるから、内部発生する虫が限られる」というよりは、正確には「虫には各々生息条件があり、工場内や厨房内にその条件が揃うと内部発生する」だからです。
昆虫というのは、生物の中でもメチャクチャ種類が多いものです。
日本国内ですら、数万種います。
そして興味深いのは、それらのいずれもが、違う生態だということです。
そして昆虫は自然環境の中で生きます。
その自然環境にメチャクチャ影響を受けます。
だから、種類ごとに違う自然環境に適応出来るようになっています。
生態が皆、それぞれ違う。
それが虫の大きな特徴です。
水域で生きる虫もいれば、土壌で生きる虫もいる。
植物のある緑地で生きる虫もいれば、樹木や落ち葉の中で生きる虫もいる。
海辺で生きる虫もいれば、田畑、ドブ、アスファルト、人の生きる環境などで生きる昆虫もいる。
そして、それらの環境で生きている各々の昆虫を食べる昆虫だって、いる…。
このように、全ての虫は「生きる環境」、つまりは「生息条件」が違います。
そしてこうした「生息条件」が工場や店舗の近所や敷地内といった外部環境などにあれば、その虫が侵入する危険性があります。

そして。
こうした「生息条件」が、もし工場や厨房の中にある場合に限り。
その場合だけ、虫は生きながらえ、卵を産み、子が育ち、そして「内部発生」をするのです。
逆に言えば、その「生息条件」が揃わなければ、虫は「発生」が出来ません。
例えば、ドライな環境では河川に生きる昆虫は「発生」出来ませんし、製造環境、厨房に植物を多量に置かなければ植物由来の昆虫は「発生」出来ません。
もし外部侵入しても、そのうちその個体が死んでいくだけです。
だから、そういう意味で「内部発生出来る昆虫は限られている」のです。

内部発生する昆虫の「発生条件」とは
少しばかり複雑になってきました。
少し整理しましょう。
山ほど種のある虫には、自然環境に由来、依存して生きているため、それぞれ種別の個々の環境的な「生息条件」というものがある。
そして、この「生息条件」が工場内や厨房内に揃うのかか、揃わないのか。
この条件が「内部発生」をするかしないか、つまりは「発生」を促す条件となる。
これが「発生条件」です。
「生息条件」と「発生条件」 |
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そしてこの「発生条件」を構成する4要素というのは、「水」・「温度」・「餌」・「すみか」です。
「発生条件」の4要素 |
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しかしこれらは虫ごとに、微妙に違っている。
だからある虫の「生息条件」が工場内に揃えば、その虫は「発生条件」を満たすため、内部発生する。
逆に「生息条件」が工場内になければ、その虫は「発生条件」を満たせず、しばらくうろつくけれどそのうち寿命で死んでいく。
(でもその「しばらくうろつく」のが異物混入リスクになるので、早く殺す必要がある、というわけです)
ここまで理解出来たでしょうか。
では、内部発生ができる限られた虫は、どのようなものでしょうか。
またその「発生条件」とは何でしょうか。

これはあくまで一例であり、これだけではありませんが、まあこの程度覚えておけばいいでしょう。
え、多いって?
いやいや、数万種ある虫のこれはごくわずかです。
それにこれらを全部覚える必要はありません。
ただし、「発生条件」という考え方だけは覚えておく必要があります。
なぜなら、これらがあると虫は「発生」するのだ、という理解に繋がるからです。
逆に言えば、このような発生の環境的条件、「発生条件」がないと、虫は内部発生が出来ません。
例えば、排水溝などではコバエ類が内部発生します。これらの「発生条件」は汚水です。
それがなければ、コバエ類は内部発生が出来ません。
前回に出したチャタテムシ類などの「食菌性昆虫」はカビが発生要因、つまりカビが「発生条件」です。
だからカビを除去するとこれらは発生しなくなります。
チャバネゴキブリの「発生条件」は餌と温度です。
だから、どちらかをなくすことで「内部発生」を抑えることが出来ます。
その他、小麦粉などの穀粉が「発生条件」という虫もいます。先にあげたシバンムシ類がそうです。
これだって、粉溜まりなしでは条件が揃わず、内部発生が出来ません。
さあ、もうわかりますね、
だから清掃というのは、その発生要因を揃わなくさせるために重要なのです。

まとめ
かなり長くなってしまいました。
今回は、「発生」という現象について、深く掘り下げてみました。
これらは防虫対策の基礎中の基礎になります。
ぜひ、よく読んでご理解を深めるようにしてください。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。