★公開日: 2022年4月28日
★最終更新日: 2022年4月30日

そろそろゴールデンウィークも間近。
食品工場も、あるいは場合によっては飲食店などもこの時期は稼働をやめて休みを取る、なんてところもあるのではないでしょうか。
ではそんなGW前に、今何をしなくてはいけないか。
そんなこの4月末、GWの長期休暇を前にした「今すべき防虫対策」について、具体的にお教えしていくとしましょう。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画:GW

 

GW前の今こそこの「防虫対策」をしよう

(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)

このところ関東地方では安定しない空模様。
毎日雨が降ったり、曇って晴れ間が見えづらかったり、場合によっては強風が吹き荒れたり…。
意外と安定しない、という春の空を体現するかの日々が続いていますね。

そんな4月下旬ですが、とはいえあともう少しで連休。
いよいよ今週末からゴールデンウィークの始まりです。

となるとここで一旦、食品工場の稼働を止めようだとか、飲食店でもうちは休みにするぞ、とかそういうところもあるかと思います。
ですが、食品工場や飲食店の皆さん。

これを何も対応しないまま、放置してしまうとどうなるか。
人の見えないところでこそ、虫の問題というのは進行するものなのです。
何故なら、問題が進行してもそこにいないから気づかないし、処置しない。
しかも問題はすでに休暇前からひっそりと水面下で進んでいて、見えないときにそれが拡散、顕在化する、つまり休みが終わって出てきたら問題が悪化している、いうのがこの手のあるあるパターンなのです。

しかしこれは逆に言うなら、この時期は工場や店舗の稼働を止める、またとないチャンスなのです。
つまり、「今しかできないことがある」ということです。

ましてや、この4月下旬というのは、ぼくらにとって防虫対策における本格シーズンのスタート時期。
これはどういうことか。
虫の問題というのは、全てではありませんが、その多くが5~6月から次第に問題が増え始めます。
そして多くは7月の初夏や梅雨時期、あるいは秋にピークを迎える。
ということは、この始まりである4月下旬の時期にこそ、問題の原因を叩いて押さえておけさえすれば、少なくともこの1年は虫の問題への苦労はしなくていい。
そういう時期なのです。

さあ、そんな時期に何をしておけばいいでしょうか。
今、GWという長期休暇を前にして、これをしておきましょう。

まずは最初にすべきことをざざっとお伝えしてから、詳しく各々説明していきますね。
はい、すべきこちらが5つの防虫対策です。

GWの大型連休前に、絶対食品工場や飲食店でやっておくべき5つの防虫対策
  1. カビの除去清掃
  2. 虫の発生源の除去清掃
  3. 隙間箇所や破損部、クラックの補修
  4. 場内生息昆虫の駆除
  5. ライトトラップのメンテナンス(ランプ交換、トラップの交換設置)

それでは、以下、順に説明していくとしましょうか。

挿画:解説

カビの除去清掃

最初に知っておきたいカビのこと

今この4月下旬時に最初にやっておかなくてはいけないこと。
それは「カビの除去清掃」です。
これは一体なぜでしょうか。

まず、食品工場や飲食店で問題になるカビというのは、おおむね種類が決まっています。
一応挙げておきますが、でもこれら自体は「へえ、そういうものか」と思っていただければ、それでいいです。
皆さんが各々覚えなくても大丈夫です。

食品工場で問題になりやすいカビ
  • アスペルギルス属(コウジカビ)
  • ペニシリウム属(アオカビ)
  • クラウドスポリウム属(クロカビ)

これらのうちで最も皆さんの工場で多いもの、それがいわゆる「クロカビ」というものです。
正式名称「クラドスポリウム属」
家でも工場でも、どこでもよく日常的に空中に浮遊しているカビであり、湿度の高い環境を好み、食品関係のカビ発生事故でもダントツに多いのがこいつです。

参照画:クラドスポリウム
Wikipedia

そして、ここからが重要なんですが。
一般的に多くのカビの主要因としては次の4つがそれにあたります。

カビの生息要因
  • 酸素
  • 水分(湿度)
  • 栄養源
  • 適切な温度
挿画:カビの生息要因

そして。
これらが揃ってくるのが、だんだん暖かくなってくる5月からなのです。

どうして4月下旬からカビ対策をするのか

んじゃ5月からやればいんじゃないの?
そうじゃないんです。

カビというのは、空気の流れが滞留すると湿度が高まり、いきなり繁殖しやすくなるのです。
例えば誰も住んでいない家のカビ臭さ、あれを想像してください。
ということは、工場の稼働が長期で止まったり、飲食店の経営が止まったりすると、カビというのは急に広がりはじめるものです。

一昨年の丁度今頃。
世間では新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出され、外出自粛が促された、あのステイホームの時期のこと。
その結果、ぼくのお客さんで、いっときコロナで1ヶ月工場の稼働がしなかった洋菓子工場がありました。
1ヶ月後、そのお客さんが最初に工場を再稼働させて、一番悩んだのは、カビでした。

洋菓子、焼き菓子を作るのには小麦粉が必要だ。
その使用する小麦粉が微量ながら、空中に舞う。
それは壁面などに付着する。
しかしいつもであれば清掃したり、空気も流れたりでカビの発生まで至らない。
カビというのは発育に時間を要する生物なので、その前に対応していたのですね。
しかし長期休暇によって、それがなされなかった。
その結果どうなったか。
部屋の壁面に、びっしりカビが発生していた。

 

参照画:アスペルギルス
東京都福祉保険局

カビから出る虫は沢山いる

さて。
ここでしているのは、防虫対策のお話です。
それがどうしてさっきからずっとカビの話をしているのでしょうか。

それは、カビが発生するということは、イコール、そのカビを食べることで繁殖する虫も増えるということだからです。
それどころか、こういう「カビを食べる虫」はカビが目に見えて増える頃には、すでに内部発生が進行していたりするものです。

そう、そろそろわかってきましたね。
どうしてこの時期にカビを早急になくさないといけないか。
それは、「カビを食べる虫(食菌性昆虫)」の繁殖時がこの4月下旬からもう始まっているから、なのです。
そしてこういう虫は、いったんカビ広がってしまうと駆除がメチャクチャ難しくなります。
なぜかというと、これらの虫はカビの胞子を食べて生きているので、集中してある場所に局所的に生息しているというよりも、あちらこちらに拡散し、目や殺虫剤の届かない場所にも散らばって生きているものが多いからです。
だからあれこれカビの除去清掃をしたところで、そう簡単に減ってもくれなくなってしまうのです。

そしてカビを食べて生きている虫(食菌性昆虫)は、一般的に知られているよりずっと多いものです。
最も代表的で、とくに工場内や店舗内で内部発生する例を下にあげますが、これだけに終わりません。

カビを食べる虫(食菌性昆虫)
  • チャタテムシ
  • ヒメマキムシ
  • ハネカクシ
  • トビムシ
  • ケシキスイ
  • ホソヒラタムシ
  • ダニ

これらの昆虫の発生を防ぐためにも、今このタイミングで、カビの除去清掃をしておきましょう。

参照画:チャタテムシ(千葉県より)
参照画:チャタテムシ(千葉県より)

どのようなところを清掃すればいいのか

ではどのような場所に対し、カビ除去のための清掃を行えばいいのでしょうか。

まずはさしあたって、次のような箇所への清掃が必要です。

カビの発生しやすい箇所
  • 冷蔵庫、冷凍庫の周り
  • 空調周辺(吹き出し口や冷風のぶつかる天井部、壁面など)
  • 冷却器やフリーザー、ブラストチラーの下床面
  • 手洗い、シンクの下床面、側面、裏側など
  • 使用水パイプの周りなど
  • 排水溝内部や周辺部、グレーチングの裏側など

カビの発生ポイントは「温度差」と「水」の有無です。
とくに冷却、冷凍がある場合、その周辺に結露が生じる場合、高確率でカビの発生が進行します。
そうした目でいったん、ご自身の工場や厨房を見てみるといいでしょう。

なお清掃においては、アルコールなどを使用するようにしてください。
意外とカビというものはそうそうに完全除去できないものです。

虫の発生源の除去清掃

カビの除去。
確かにこれは、今このタイミングでやっておくべきことでしょう。
何故なら「コスパが高い」からです。
つまり、今やれば今後のリスクを大きく回避できるからです。

ですが、昆虫の「内部発生」における発生要因というのはこれだけではありません。
だからしばらく人がいなくなるこのタイミングで、その虫の発生要因を除去してあげる必要があるのです。

挿画:内部発生ではない

内部発生ということ

では、どんなところで虫は「内部発生」をするのか。
ちょっとここで基本に改めて立ち返るとしましょう。

おっと、これ以降、詳しく知りたい方は以前書いたこちらの記事を読んでください。
もう前にこれを読んだよ、という方はすこしばかりすっとばしても結構です。

さて。
少しばかりの復習です。
そもそも虫が発生している(内部発生)、というのは実は特殊な状況なのです。
よく、なんでもかんでも場内に生息いた1頭の虫を差して「虫が発生している」と言われるときがありますが、それは単に生息しているだけであって、「発生(内部発生)」かどうかはその時点では微妙なことが多々あります。

そして、そもそも虫が内部発生をするためには、この3つの段階の条件をクリアしないといけません。

昆虫が「内部発生」するためには
  1. 外部侵入条件を満たす
  2. 場内環境が生息条件を満たす
  3. 場内環境が繁殖条件を満たす
挿画:内部発生の三条件

つまり、ぼくらはこれらのなかでも2と3の条件、「生息・繁殖環境条件」について、考える必要があります。
…と、ここまでが前の記事でした。
もっと詳しく知りたい人は、上の2つの記事を読んでみてください。
我ながら、ネット上のどこにも書いていない有料級の良記事です(笑)。

どこで虫は「内部発生」するのか

これらのことを踏まえた上で、ここではその「生息・繁殖環境条件」を除去することを考えてみましょう。

虫が「内部発生」にほしいもの
  • 温度
  • すみか

そう、虫が内部発生する条件、それがこの4つ、「水」「温度」「餌」「すみか」、なのです。

どうでしょう、こう考えてみると、シンプルでわかりやすくなりますね。
とはいえ、このうち、「温度」というのはなかなか人の手でコントロールするのが難しいでしょう。
でも「水」と「餌」と「すみか」はなんとかなりそうじゃないですか?

そう、具体的に内部発生を防ぐためには、このような箇所の「水」と「餌」と「すみか」をうばってあげればいいのです。

作成画:昆虫の内部発生の条件
昆虫の内部発生の条件

どのようなところを清掃すればいいのか

ではどのような場所に対し、虫の発生予防のための清掃を行えばいいのでしょうか。
カビ。
そう、先のお話のカビもまた、「カビを食べて生きる虫(食菌性昆虫)」の「餌」だったのです。
だからこそ、その餌を清掃によって奪ってしまえばいい、というお話だったわけです。

では他にどんなものが餌になるだろうか。
それはこうしたものです。

虫の「内部発生」予防のための清掃箇所(カビを除く)
  • 穀粉の粉溜まり
  • 汚水の滞留
  • 食品残渣、資材片や製品片の散乱箇所
  • 廃棄物、廃棄液
  • 土埃の堆積
  • 放置している開封資材
  • 廃棄包材(ダンボール)
  • 腐った木材

あなたの工場や厨房に、このようなところはありませんか。
その場合、ちょっと目をはなすこの長期休暇の時期のあいだに、虫の発生要因となる危険がありますよ。
その前にこれらを清掃、洗浄し、除去しておくことが重要です。

挿画:分析結果

まとめ

今回は、前編、後編と二部にわたって、GW前にすべき5つの防虫対策についてお話しています。
その5つの防虫対策がこれらになります。

GWの大型連休前に、絶対食品工場や飲食店でやっておくべき5つの防虫対策
  1. カビの除去清掃
  2. 虫の発生源の除去清掃
  3. 隙間箇所や破損部、クラックの補修
  4. 場内生息昆虫の駆除
  5. ライトトラップのメンテナンス(ランプ交換、トラップの交換設置)

そしてこちら前編では、それらのうち1の「カビの除去清掃」と2の「虫の発生源の除去清掃」を行いました。

これらはいずれも、虫の内部発生防止対策、つまり虫の内部発生の条件の1つである「餌」を工場内や厨房内から奪う、という考え方です。
なぜなら昆虫の内部発生の要因は「水」「温度」「餌」「すみか」、の4つだからです。
だからこれらを揃わないよう、その一つである「餌」をなくしてしまえばいい、というわけです。

虫が「内部発生」にほしいもの
  • 温度
  • すみか

さあ、後編では清掃以外に何をすべきか、残る3~5について話していくことにしましょう。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画

 

業務案内

 

  • 防虫対策のお悩み
  • 微生物対策、5S/サニテーション(清掃洗浄)
  • 検査、異物混入対策
  • 各種コンサルタント業務のご依頼
  • 食品衛生、HACCPやマネジメントシステムのご相談
  • 講習会、公演、執筆などのご依頼
  • その他、当サイトへのご意見、ご指摘など

 

ご相談・調査・見積無料。
以下よりお問い合わせ下さい。