★公開日: 2022年4月20日
★最終更新日: 2022年4月20日

プロに聞く、衛生管理Q&A。
今回はこの時期に突如として大量発生する、あの小さな「赤い虫」、タカラダニについてお答えしましょう。

そう。あの、コンクリートの上などで生息している赤い小さな虫は何なのでしょうか。
しかもあの虫には普通の殺虫剤が効かないって本当なのでしょうか。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画:タカラダニ
Wikipedia

 

Q「あの赤い虫は何ですか?どうやって退治すればいいですか」

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もしこちらから来られた方は、まずは「前編」を最初に読んでください。)

プロに聞いてみよう、「衛生管理Q&A」。
今回は、この質問に答えています。
(衛生管理、防虫管理のご質問は、お問い合わせメールにて承ります)

質問

「この連休時期になると、決まって晴れた日の日中、赤い小さな虫が大量に工場のコンクリート上で発生します。
この赤い虫は何ですか?どうやって退治すればいいのでしょうか」

参照画:タカラダニ
京都府

というわけで前回ではこの質問のうちの「この赤い虫はなにか」についてお答えしました。
これは「タカラダニ」だ、としてその生態や特徴などについてお話をさせていただきました。

タカラダニとは
  • 正式名は、「カベアナタカラダニ」
  • 体長1~3mm弱、体色は鮮赤色、円形で多くの毛によって体が覆われている
  • 活動期は4月下旬~6月。5月上旬のゴールデンウイーク前後が活性のピーク
  • 日当たりのいいコンクリート上や壁面、アスファルト上、そのほか屋外にて生息
  • 花粉やコケ、微小な昆虫を捕食する
  • 人間への健康被害はほとんどない
  • ただし食品工場や店舗では、異物混入防止上で対策が必要

さあ、ここではその前回を踏まえて、さらに「どうやって退治すればいいのか」について、解答を進めたく思います。

挿画:指差し

ええっ!タカラダニは殺虫剤が効かない!?

さて、前回からのタカラダニのお話なのですが、実はここからが本題だったりします。
というのもこのようなタカラダニですが、近年非常に興味深く、また衝撃的な研究結果が実は出されているんですね。

それは、タカラダニには一般的な殺虫剤が効かない(効きづらい)、というものです。

いや、トコジラミのように「タカラダニに殺虫剤が全く効かない」とは、さすがに少々言い過ぎです。
でも、少なくとも一般の家庭に普通にあるようなスプレー式の殺虫剤などでは、完全な駆除が難しい、というのは確かな事実です。

というのもですね、一般的に市販されている殺虫剤。
皆さんが、ごく一般的に「殺虫剤」と呼んで使用しているもの。
その大半、ほとんどは、「ピレスロイド系薬剤」というものです。
で、この「ピレスロイド系薬剤」が、タカラダニには効果が薄い、ということが最新の研究結果で判明しているのです。

この実験資料をご覧ください。
ちなみに一番上が「タカラダニ」です。

作成画:各種殺虫剤のダニに対する致死効果
各種殺虫剤のダニに対する致死効果

一番上の「カベアナタカラダニ」を見てください。
このように、タカラダニには、確かに有機リン系薬剤やカーバメート系薬剤の効果はあるものの、一般的な殺虫剤である「ピレスロイド系薬剤」の効果は「×」、つまり「1,000mg/㎡も薬剤を散布したのに完全駆除できなかった」とあります。

そう、確かにイエダニなどのダニ類には、ピレスロイド系薬剤は効果があります。
しかし、タカラダニをはじめ、コナダニ、ツメダニなど、割と多くのダニ類には、ピレスロイド系薬剤は効果が希薄なのです。
そしてこのことは、経験値や伝聞として、ぼくらPCO業界に関わるものや一流のプロの防虫業者ならある程度知っていることだったりもします。

またこれにもう一つ加えて考えるべきポイントは、PCO関係の駆除屋ならだれもが知っている、「屋外に殺虫剤を散布することの効果の限界」です。
閉鎖的な空間内に生息する虫を駆除するのはまだしも、このように外部の自然環境下に生息している虫の駆除っていうのは、実は結構難しいものなのです。
どういうことか。

タカラダニは、晴れた日中に活発に活動します。
さて一般的なピレスロイド系薬剤はその安全性上、分解が早く、残効性はあまり期待できません。
(薬剤個々の差はありますが)
当然、タカラダニが活動するような太陽光下では分解が激しく進みます。
さらに雨風にもさらされれば効果は薄まります。
そもそも殺虫剤は虫にある程度触れなければ効果を発揮しません。
全てのタカラダニにそれを行うことには限界があります。
これらのことも、一応念頭に入れておいてください。

さあ、いずれにせよ。
この最もポピュラーな殺虫剤の一種である「ピレスロイド系薬剤」が効かない、ということは、タカラダニがわらわらといたからといって一般の方が普通の殺虫スプレーなどで駆除するのは非常に困難で非効率だということになります。

ネットでタカラダニの駆除方法を検索すると、何の知識もない素人がちょろっと回って集めたうわべだけのネット情報ばかりで作り上げたサイトにすぐたどり着きます。
で、そこにある「タカラダニはスプレー剤で駆除しましょう」という情報を目にすることでしょう。
へえ、と思い、ホームセンターでスプレー剤を買ってきて、かけてみる。
そしてこれは、効果が非常に低くて非効率的なわけです。

挿画:誤

普通の殺虫剤=ピレスロイド系殺虫剤、って?

ここであまり専門的にならないレベルで、少しだけ殺虫剤のお話をしておきます。

殺虫剤には幾つか種類がありますが、その中でもこの「ピレスロイド系」薬剤は、非常に扱いやすいため、昔から、それこそ100年くらい昔からよく使われてきました。
勿論ながら、今でも現役バリバリ主役で使われ続けています。

つまり、ホームセンターに売られているもの、ネット販売されているもの、一般家庭で使われているもの、工場や店舗で使われているもの、などなどぼくら特殊な防虫業者以外の人たちが使っているものが、この「ピレスロイド系薬剤」です。

ピレスロイド系薬剤の特徴
  • 即効性が高い
  • 忌避効果が高い(フラッシングアウト効果が期待できる)
  • 昆虫への効き目が高い一方で、人畜への安全性が高い(選択毒性が高い)
  • ただし魚毒性は高い
  • 残効性が低く、分解性が早い
  • 安価で入手しやすい
  • 抵抗性が養われやすい
挿画:ピレスロイド

ま、特徴としてはこんなところかな。
このうち「魚毒性が高い」というのは、専門的な話を避けてわかりやすくいうと、魚に対する毒性が高い、というものです。
しかし魚類ではないぼくらや犬や猫のような哺乳類、つまりは人畜への安全性はかなり高い、という特徴があります。
(なのでお魚を飼ったり育てているような環境では、殺虫剤をしっかりと選ぶ必要があるんです)

さて、ちょっとだけ踏み込んだお話をしましょう。
この「ピレスロイド系」薬剤とは本来、安全性が極めて高いとされる除虫菊(シロバナムシヨケギク)由来の殺虫剤です。
ここまで一般の方々は覚えなくてもいいのですが、例えば「フェノトリン」や「エトフェンプロックス」などが代表どころ。
昆虫への効果が非常に高い一方で、魚以外の他の動物には安全性が非常に高く、吸収してもすぐに分解されてしまう。「選択毒性が高い」などと専門的には言います。
「人畜への安全性が高い」とはそういうことです。

また即効性が早い分だけ、空気中での分解も早く、すぐ消えてしまう。
つまり「環境に優しい」、ということにもなります。

さらに忌避効果も高い。
この殺虫剤を使うと虫が嫌がってこなくなる、ということですね。
蚊取り線香はそれを利用した忌避剤です。

しかしこのピレスロイド系薬剤が、しかしタカラダニには効果がないという。

挿画:蚊取り線香

どんな殺虫剤なら効果があるのか

さあ、ピレスロイド系の殺虫剤が効かない、となると一体どんな薬剤なら効果があるのでしょうか。

まず有力な候補は、「有機リン系薬剤」です。
有機リン系薬剤とは、「リン(P)」を含んだ殺虫剤で、一般的にピレスロイド系薬剤に比べると殺虫力が強いものが多いです。

手に入りやすいものだと、有名どころでは住友化学の「スミチオン乳剤」などでしょうか。
これらを規定に従って希釈し、散布して使用します。

参照画:住友化学「スミチオン乳剤」
住友化学「スミチオン乳剤」

またデータ表のとおり、カーバメート系薬剤の効果も期待できます。
ですからフマキラーから出されている「まちぶせスプレー」も効果があるでしょう。

参照画:フマキラー「まちぶせスプレー」
フマキラー「まちぶせスプレー」

この薬剤、前から何度も書いている通り、かなり優れた薬剤です。
ですが、ちと薬剤が強いことだけご注意ください。
使用の際は、マスクと手袋をくれぐれも忘れないように。

専門家が教える、本当に効果のあるタカラダニ対策

それでは、防虫対策の専門家が「本当に効果のあるタカラダニ対策」を教えましょう。

挿画:驚き

有機リン系やカーバメート系の薬剤で駆除する

まず一番手っ取り早いのは、ピレスロイド系ではない薬剤を散布することでしょう。
例えば、園芸用の農薬散布用ボンベや、場合によっては大きめの霧吹きを用いたり、局所的であれば、バケツでもいいかもしれません。
そこに、スミチオンを規定に従って希釈し、散布すればいいのです。

またカーバメート系の薬剤である、上の「まちぶせスプレー」でも駆除は可能です。

高圧洗浄で洗い流す

生息している箇所を高圧洗浄で洗い流す。
こうすることで、虫体もろとも洗い流してしまうことは有効かと思われます。

またタカラダニは花粉やコケや微小な虫をエサとしているため、これらを洗浄で除去することで生息源を取り除き、生息しづらい環境にすることが出来ます。

ただし、生活の知恵系のサイトで見られるようなことは、結構な度合いでデタラメなことが多いです。
ましてや、洗剤をその時混ぜれば窒息死で効果絶大、とか、おいおいと言いたくなる話。

ゴキブリなどでも時折聞きますが、そもそも洗剤を混ぜて虫を窒息死させる、というのであれば、数匹単位ならまだしも多量に生息している虫を死滅させるためにはかなりな発泡量が必要でしょう。
こういうことを言う人は、それを自分で試したことがあるのかな。せいぜい、洗剤をぴゅっと虫にかけて、あー死んだーってレベルでしょ?

ぼくは元々プロの駆除屋だったので、発泡による駆除施工を何度も経験していますが、そんな簡単じゃないし専用の機械もテクニックも必要なものです。
家庭の台所洗剤バケツにちょろっと入れてバーっと撒いて、はい死滅ーっ、なんて話じゃないですからねこれは。

しかも、「タカラダニは水に弱いので、水をかけられると死んでしまいます」とか、普通の頭があればそんなことありえないことくらいわかるでしょ?
雨で死ぬくらいなら、最初からこんな出てねーよ!(笑)

おっと、話を戻すとして。
タカラダニの駆除をプロに依頼すると、動力噴霧器でスミチオンなどの有機リン系薬剤を多量散布してくれます。
これは、洗浄と薬剤駆除を一緒に兼ねた作業、というわけで「一応は」理にかなっているわけです。

もっともそれはただ「スミチオンが安上がりで多量散布に向いている」というだけの話であって、「ピレスロイド系はタカラダニへの効果が薄い」という学術データを知らないプロは多いものですけどね。
だって実際に今、ネットで「タカラダニ ピレスロイド」でググってみればその実態がすぐわかりますよ。そこまで勉強していない業者が多いんです。

挿画:高圧洗浄

防水材を塗布する

これも時折目にする対策です。
ウレタンなどの防水材で、生息箇所を防水塗装する。
これは効果があるのでしょうか。

はっきり言います。滅茶苦茶、あります。
ソースは、プロの防虫屋であるぼくの自宅です。

そう、学術資料だけではなく、身をもって、プロのぼくがそれを経験、実証しているのです。

というのものですね、ぼくのうちのベランダのコンクリートには、毎年タカラダニがこの時期出ていたのですが、ある時(別にタカラダニ対策ではなく)ちょっとした理由から全面的に防水塗装を施することになりました。
すると、あれだけ出ていては毎年駆除していたタカラダニが、プロの身で驚くほどにピタっと収まったではないですか。

考えられる理由はいくつかあります。

防水塗装がタカラダニの生息を防止する理由
  • コンクリートに比べて、エサであるコケや花粉が付着しずらい、雨風で除去されやすい
  • コンクリートに比べて、クラックが生じずらく生息場所になりにくい
  • コンクリートに比べて、表面が平滑で移動しづらい
  • コンクリートに比べて、雨水を吸収しない(雨が降ると水を全く吸収せず流してしまうため、歩行性昆虫が生息しずらい)
  • コンクリートに比べて、湿度を維持しない

実は、「なぜ防水材を塗布するとタカラダニの生息が減るのか」を書かれた文献はありません。
ですが、プロの経験値として、また生活するなかで見ていて、おそらくこんなところが理由ではないかと推測します。

防水材自体を忌避している、なんてことを言っているところも目にしましたが、いやいや、そんなことはないでしょ。だって殺虫剤じゃないんですよ?どういう原理ですかそれ。
単にタカラダニが滅茶苦茶に生息しづらい環境になるだけです。

挿画:ベランダ

まとめ

以上、タカラダニにピレスロイド系薬剤の効果が薄い、という話と、その対策についてでした。

とにかくネット上でのタカラダニ対策情報は、防虫対策の知識や経験がない人がさらにネット上の情報を互いに寄せ合って作ったようなものばかりで、結構な割合でデータもなく信ぴょう性がないものばかりです。
生活便利系、清掃系、アフィリ系…。
この人たち、虫のことなんて全く知らないただの素人さんですからね。
先の「水をかけると死ぬ」がいい例です。

あ、でもそこにあった「クモを多量に放つ」という対策は軽く斜め上を突き抜けていて、ちょっとだけ好感が持てましたけどね。(笑)
いいなあ、「クモを多量に放つ」、かあー…。
食品工場か飲食店舗のどなたか、どうか、お試しと効果のご報告を。
多分翌月、あなたの工場内や店内でクモが内部発生することうけあいですよ。(笑)

というわけで、これからがタカラダニのシーズンです。
この記事をもとに、どうぞ効果のある対策に役立てるようにしてください。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画:

 

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