★公開日: 2022年4月19日
★最終更新日: 2022年4月20日
プロに聞く、衛生管理Q&A。
今回はこの時期に突如として大量発生する、あの小さな「赤い虫」、タカラダニについてお答えしましょう。
そう。あの、コンクリートの上などで生息している赤い小さな虫は何なのでしょうか。
しかもあの虫には普通の殺虫剤が効かないって本当なのでしょうか。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。
(アイキャッチ:Wikipediaより)

Contents
Q「あの赤い虫は何ですか?どうやって退治すればいいですか」
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
プロに聞いてみよう、「衛生管理Q&A」。
今回は、この質問に答えます。
(衛生管理、防虫管理のご質問は、お問い合わせメールにて承ります)
質問 |
「この連休時期になると、決まって晴れた日の日中、赤い小さな虫が大量に工場のコンクリート上で発生します。 |

4月も中盤を過ぎて、そろそろゴールデンウィークが見え始めている今日このごろ。
お出かけや旅行、イベントなどなど、なにかと予定を考えられている方も多いことでしょう。
しかし毎年、このころになるとある問題が生じる、という方もいるのではないですか?
この記事の下書きを書いているのは4月19日なのですが、始まりは、ちょうど今頃。
桜も散って青々としてくる4月中旬頃からでしょう。
そしてピークは、この5月の連休やその後あたりかな。
そして、これが梅雨がそろそろ始まるぞという6月くらいまでの2ヶ月くらい。
やたらと小さな赤い虫がコンクリートやアスファルトなどでわらわらと生息しているのを見かける、というかたも多いのではないでしょうか。
あの虫は一体なんでしょうか。
そして。
皆さん、知っていますか?
あの虫は、実は普通の殺虫剤が効かない、ということを。
少なくとも一般的に皆さんが使用しているような殺虫剤では効果が薄くて、駆除しきれない、ということを。
そこで今回はその正しい駆除方法も、あわせてお話していきましょう。
タカラダニとは
さてそんなあの「小さな赤い虫たち」ですが、ではそれは一体何なのか。まずはその正体をお教えするとしましょう。
あれは、タカラダニ、というダニの一種です。
より正確には、「カベアナタカラダニ」という名前です。
体長およそ1~3mm弱、よく見ると多くの毛で体が覆われています。
このタカラダニは、ここ関東地方ですとおよそ今ごろ、4月下旬~5月上旬のゴールデンウイーク前後をピークに活動します。
地域や気温、天候、その他様々な条件などによって毎年その活動期が異なったりするのですが、それでも6月に入って梅雨を目前としたあたりには、まるでどこかに消えてしまったかのように、ばったりと見られなくなってしまいます。
皆さんもこの時期、自身の工場や店舗の外周コンクリートや外壁、あるいは公園や階段、もしくは自宅のベランダや駐車場などでわらわらとこのタカラダニが動いているのを見たことがあるでしょ?
ですが実は、例えば工場や店舗での防虫管理、モニタリングを行うと、割と早い時期から捕獲がみられたりします。
実際に首都圏工場などでは、なんと今年2月の捕獲調査で、複数の工場にてタカラダニの捕獲がありました。
尤も捕獲数は1~2匹程度なのですが、それでもこの時期から実は少しずつ活動している、というわけです。
(今年は記録的な暖冬だった、という要因もあるのでしょうが)
ところが。
実をいうとこのタカラダニというのは、いまだ謎に包まれた、よくわからない虫だったりします。
というのもタカラダニについての研究は、まだあまり進んでおらず、よって未解明、不明なことが多いからです。
ですからほんの少し前までは、このタカラダニは一体何を食べているのか、なぜこの時期に多量に出てくるのか、どうやれば駆除できるのか、そうしたことが一切不明でした。
それがやっと、近年。
少しずつ研究者たちによって明かされ、少しずつですが、世に情報が出始めてきています。
ですから今回はそれらを紹介しながら、工場や店舗での防虫対策においてこのタカラダニ対策をどう行えばいいかについて考えていくことにしましょう。

タカラダニの生態
それでは、ようやく明かされ始めてきたタカラダニの生態について、お話していきましょう。
尤も細かい生態解説は他にまかせ、ここではより実践的、具体的な工場や店舗などでの防虫対策の話に比重を置きたく思います。
まずこのタカラダニの幼虫は、セミやバッタ、アブラムシなど自分より大きな昆虫に寄生し、体液を吸っているようです。
それがやがて地上に落ちて、成虫になります。
では、タカラダニは何を食べているのか。
これすら少し前まではわからなかったのですが、近年の研究で、どうやら花粉や微小な有機物を食べて生きているらしい、ということが知られるようになってきました。
なぜタカラダニはコンクリートの表面であのように、わらわらと生息しているのでしょうか。
それは、コンクリートのような多孔質の材質には、その餌となる花粉が非常に付着しやすく残っているからだ、といった理由のようです。
そこでコンクリートの間の隙間やクラックなどに潜んで卵を産みつけ増殖し、晴れた日にわらわらと出てきて活動するのです。
それと、面白いのは、発見されるのはいずれも雌ばかりなのだ、ということです。
というのも、タカラダニは雌だけで生殖(単為生殖)している、ということのようです。
一般的に昆虫が多量に忙しく活動するのは生殖行為であることが多いのですが(例えばユスリカの蚊柱のようにね)、タカラダニがあのようにコンクリート上でわらわらと忙しそうにせわしなく動いているのは、実は生殖行為ではない、ということです。
うーん、つくづく変な虫だなあ、タカラダニ。

タカラダニによる人への影響は?
タカラダニは花粉やコケ、微小な昆虫を食べて生きているダニです。
ですから人間を刺したりかんだりすることは、現状ではまずない、といわれています。
(といってもこれもまだ未解明のようですが)
ですから、タカラダニによる健康被害はほぼない、と言っていいでしょう。
タカラダニは、いわゆる不快害虫です。
つまり、健康上影響は直接的にはないけれど、一杯いるから気持ちが悪い、という「気持ち」の問題で嫌われています。
普通、ダニ類は微小なので、たとえ多量に生息していても見えないことが多いものです。
ていうか、見えません。
例えば、実際に食品工場や店舗に昆虫生息調査用のトラップを仕掛けると、湿度が高くカビが進行しているようなところでは、小さなトラップに1か月で数百、やもすれば千単位にまでダニ類が捕獲されることが珍しくありません。
ですが、そうした工場で、目視によってダニが一杯いた!となることは、ほーーーーーっとんど!ないでしょう。
だって、そんな数百捕獲されたトラップだって、ぼくらプロですら捕獲ナシと普通にスルーするくらいに微小で見えないのです。
実体顕微鏡で見て、やっとわかる。
あれ、数百いるやん、となる。
それがダニ類です。
ところが、タカラダニは目立つ。
真っ赤なので、滅茶苦茶、目立つ。
だからこうやって、気持ち悪い!という話になる。
こんなに一杯いて、体に大丈夫なの?ダニって確か、人を刺すよね?などという話を顔をしかめながら持ち出してくる。
そうした相談は、ぼくらのところにこの時期、よく投げかけられます。
そして答えます。
大丈夫です、刺しません、と。

異物混入要因としては、要注意なタカラダニ
しかし。
これがこと工場や店舗での防虫対策、となったら話は別です。
というか、こっちこそが実は重要です。
工場から離れた公園などでタカラダニが一杯いたって、このように問題はまずありません。
ですが、工場の防虫管理上、捕獲がなされている、というときは少なからず考え直したほうがいいでしょう。
まず、タカラダニは目立ちます。
異物混入したら、赤いのでなんだこれはと、確実に目立ちます。
しかもつぶれるとまるで血のように見えるため、結構混入時のインパクトが大きいものです。
この時期特有で、時折見られる昆虫の異物混入の一例が、このタカラダニの混入事故だったりします。
それと。
タカラダニは飛べません。
飛べませんから、地面にいるものがジャンプしてライン上の製品に飛んで混入することはありません。
ですが、タカラダニはコンクリートの外壁に生息しています。
外壁には結構亀裂などの隙間があったりしますし、排煙窓などにも実はダニ程度ならもぐりこんで室内に侵入できる程度の隙間は生じているものです。
ですから、こうした隙間から潜り込んで、工場の製造室内や店舗内にタカラダニが侵入している、なんてことはそんな難しい話でも珍しい話でもありません。
実例を1つ出しましょう。
とある首都圏の洋菓子工場の包装工程で先月、ライトトラップの捕獲結果に、タカラダニが1匹確認されたのです。
いやいや、だって先月って3月でしょ?
あんたさっき、2月から捕獲も見られたって言うてましたやん?
いや、違います。そうじゃないのです。そこじゃないのです。
いいですか、もう一度よく話を読んでみてください。
ライトトラップですよ?
天井から吊られて設置されているんですよ?タカラダニは飛べないんですよ?
なのにどうしてこれは捕獲されているのでしょうか。
これは、天井パネルと壁面の合わせのコーナーにほんの小さな隙間があり、そこからタカラダニが侵入し、落下し、トラップに付着した、としか考えられません。
(こうしたライトトラップへの歩行性昆虫の捕獲例は、案外と実はあるものです)
そしてここは包装工程。
少し離れた箇所には包装ラインが走っていました。
つまり、外壁コンクリートに生息しているタカラダニが、その隙間から侵入して室内に落下し、混入する確率はないわけではないのです。
ちなみにこちらの洋菓子工場ですが、防虫管理レベルも衛生意識も非常に高いお客様です。
とくに搬出入室などの外部隣接エリアからの飛翔性昆虫の外部侵入リスクに対するバリア性(防御力)は非常に強固な工場でした。
ですから、この包装工程に飛翔性昆虫が侵入することは、これまで珍しくすらもあったくらいです。
にも拘わらず、こうしたちょっとした隙間から、タカラダニが侵入、落下し、混入リスクをもたらすこともある。
これは様々な点からも、考えさせられる実例かと思います。

前編:まとめ
そろそろ長くなってきましたね。
今回は、前編、後編と二部にわたってちょうど今頃からあちこちで見られ始めるタカラダニについてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、そのタカラダニの特徴についてお話させていただきました。
まとめると、このようになります。
タカラダニとは |
|
さあ、そんなタカラダニですが、実はこいつら、「殺虫剤が効かない」のです。
ええ!?
と思う方も多いことでしょう。
だって、あちこちのネットで「殺虫剤で駆除してください」って書いてあるじゃん!と訝しがることでしょう。
さあ、それではその真相を、後編で詳しくお話していこうかと思います。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
