★公開日: 2022年4月6日
★最終更新日: 2022年4月6日
春になると毎年決まって全国でぽつぽつと見られ始める、「有毒植物」による食中毒。
これは一体どのようなものなのでしょうか。
春爛漫、春うららな今この時期にこそ、食品衛生の専門家が詳しくお伝えしましょう。
なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

どんな有毒植物で食中毒が出ているのか
(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし以下の「前編」をお読みでなければそちらを最初に読んでいただくと理解がより深まります)
というわけで、後編です。
ハイええですかー、ここで少し整理しますよー。
前編では、食中毒の原因物質の一つに「自然毒」というものがあって、そこにはフグ毒や貝毒などの「動物性自然毒」と、キノコや今回扱っている有毒植物による「植物性自然毒」というものがある。ということを学びましたね。

あ、この「食中毒の分類」、結構重要ですよ。
覚えなくてもいいですが、今回のような有毒植物の話題などもこのように食品衛生の世界には出てきますので、基礎知識として「細菌以外の食中毒って色々とあるんだなー」って念頭に入れておくといいかと思います。
で、その一番下の「自然毒」とは何かといえば、この2つに分類されます。
これも、厚生労働省の統計などを読んでいく上では必要な知識になりますので、一応だけでも踏まえておきましょう。
自然毒の種類 |
|
そして。
これらのうち、有毒植物による食中毒というのは春からの発生が毎年みられていて、そして、場合によっては死にいたることもある。
少なくとも過去10年においてその死者数は、O157などの腸管出血性大腸菌による食中毒と並んで最多である、とお話しました。

またこれら有害植物による食中毒というのは、地方在住の高齢者が多く、山菜と間違えたりなどして食べてしまうケースが多い、ともお話しました。
…とまあ、以上が前回までのおさらいです。
では、どのような有毒植物によって食中毒が起こされているのでしょうか。
それをこちらの後編では見ていくとしましょう。

発生件数が多い有毒植物、スイセン
というわけで、ここからが後編の本題です。
どんな有毒植物による食中毒が多いのか、その有毒植物の具体例を見ていくとしましょう。
さて。いつもお話するように、そして前回でも触れたように、食中毒統計には2つの見方があります。
それは、食中毒の「発生件数」と「患者数」です。
食中毒が発生したそのものの件数自体としての「件数」と、それによってどれだけの人が健康被害を受けたのかという、「患者数」。
食中毒が多い、少ない、などという話をするとき、それら双方からの視点が必要であり、いずれのデータを欠かせても説得力を失います。
おっと。
ちなみに以下からのグラフは、ぼくが昨年、厚生労働省が統計した2011年から2020年までの過去10年間のデータに基づいてぼくが自作したものです。
お仕事用とはいえ作るのにそれなりに手間がかかってますんで、自身のブログなどで勝手に貼り付けないで、せめてリンクだけは貼ってくださいね。
あと、このあいだ新たに発表された昨年分は残念ながらここに加算してはいないのですが、そこはご勘弁ください。
というわけで、有毒植物による食中毒。
まずは発生件数から見ていきましょう。

見てください。
一目瞭然とはこれいかに。
いかがでしょう、これを見ると「スイセン」による食中毒の発生件数が圧倒的に抜きん出ているのがわかります。
二位から2倍以上の発生件数となっています。
「あれ、二位ってジャガイモなの?」と思った方。鋭いですね、次でより詳しくお話します。
ちなみに、このデータには含まれてはいませんが、実は昨2021年においても昨年4月だけで立て続けに3件も連日で、以下のように発生していたのです。
しかも全部、東北地方。
東北、どんだけスイセン間違えて食べとんねん。
以下、軽く紹介リンクだけしておきます。


しかしまー、年間総じてそれほど多くもないのに、昨年の4月だけで3件って!
このように、有毒植物の中で最も事件数自体が多いのがスイセンによる食中毒です。
「ところでスイセンってどんな植物だっけ。」
そういう方も、もしかしたらいるかもしれないですね。
ご存知ですか、スイセンって。
俺たち7人で穴を掘る。
うん、それ仙水な。

はい、冗談はこのへんに。
「仙水」ではなくてその逆、和名「水仙(スイセン)」です。
植物の「スイセン」はまだ冬寒い早春に、春の訪れを告げるように早くから花を咲かせる、野生で群生していることの多い球根植物です。
花言葉は、「神秘」。なんとも神秘的な食中毒要因植物です。っていやいや。

はいはい、
ちょっと上の画像。
この葉に注目してください。
冒頭のニュースでも、葉を「ニラ」に間違えたと言っていました。
地方にもよるでしょうが、スイセンの花は早くて1月から4月くらいまで、このように咲いています。でも東北って寒いじゃないですか。
で、その花がない時期に、つまりは丁度今頃からですが、ニラやノビルなどと間違えて誤食を起こすケースが多いというわけです。
はい、以下画像。
これが芽吹いたスイセンの葉です。
このように野生のスイセンが、畑の近くに生えていたら見間違うのかもしれません。

ちなみにこのスイセンの球根をタマネギと間違えて食べてしまい食中毒が発生する、というケースも時折あるそうです。
それはさすがにどうなんだ、とも思いますが。
ただしこうした有毒植物による食中毒は家族単位で発生することが多いため、広域に渡って発生するようなことは比較的少なく、よって患者数はそこまで高まらないようです。
とはいえ、集団化することも稀にあったりします。
例えば、2016年、兵庫県のNPO施設で昼食を食べた通所者10人が食中毒に。
原因は、施設内のプランターに生えていたスイセンを中華丼の具に使ったということでした。

ちなみに、このスイセン以外にも件数として多いのが、「バイケイソウ」というものです。
そう、前回の冒頭で紹介した、今年最初の有害植物による食中毒もそれでしたね。

ここでは「ウルイ」と間違って誤食した、と言っていましたね。
前回も掲載した「バイケイソウ」と「ウルイ」がこちら。
「福島民友新聞」によると、右がバイケイソウで左がウルイ、だそうです。
これも全く区別がぼくにはつきません。
なおこのケースはどうやら時々見られるものであり、昨年もやはり同様の食中毒が群馬県前橋市で発生しています。

患者数が多い有毒植物:ジャガイモ
さて、発生件数の最も多いスイセンに対し、一方で患者数が最も多い有毒植物。これ、何だと思います?
実は、「ジャガイモ」なんです。
そう、あのカレーや肉じゃがやポテトチップでお馴染みの、いわゆる「ジャガイモ」、ですよ!?
しかも上でも触れましたけど、発生件数もスイセンに次いで2位です。

そんなわけないジャガー。
はい、そう思いますよね。
ですが、事実なんですよ。見てください。

ほら。
このように、ジャガイモによる食中毒の患者数は、先の事件数でトップだったスイセンを大きく超えているのです。
これはどうしてでしょうか。
そもそもジャガイモによる食中毒は、毎年数件、全国的に発生しています。
とはいえ、プロである農家さんが栽培していたり、普通に販売されているジャガイモで食中毒になることは普通ありません。
ではどんな食中毒が多いのかといえば、小学校などの学校菜園で栽培されたものが原因となる事例が多いのです。
なんでも国立医薬品食品衛生研究所の調査によれば、ジャガイモによる食中毒の9割は学校菜園がその原因であると発表しているのです。
子どもたちの作ったジャガイモで食中毒というのも、ちょっと悲しい話ですが。
ジャガイモの食中毒患者数が増えてしまうのは、このように大人数に広がりやすいからでしょう。
では、どうして学校菜園のジャガイモによる食中毒が多いのでしょうか。
それは一般的には次のようなことが理由だとされています。
学校菜園でジャガイモによる食中毒が多発する理由 |
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ジャガイモによる食中毒は、ジャガイモに含まれる「ソラニン」という物質によることが主原因です。
これは、ジャガイモが生育段階で日光を浴びることで含有量が増えることになります。
プロの農家ならそんなことはさせないのでしょうが、やはり学校菜園などとなると違ってしまうのでしょう。
ちなみに、ジャガイモによる食中毒が多いのは6~7月と言われています。
ここらへんになったら、もう少し詳しくジャガイモの食中毒について話そうかな。

死亡者が多い有毒植物:イヌサフラン
さて。
先に何度か触れたように、実は有毒植物による食中毒では時々死亡者が出ます。
そのなかでも最も死亡者が高いのが、「イヌサフラン」によるものです。
こちらの統計からも、ここ10年で合計10人が亡くなっているのがわかるでしょう。

前回にも触れた、昨年における食中毒での死者二人。
その一人もまた、このイヌサフランによる食中毒でした。
これ以外にも例えば2018年、北海道でイヌサフランをギョウジャニンニクと間違えた男性が、それをジンギスカンにして食べてしまい食中毒に。
ジンギスカンというのがいかにも北海道らしい話ですが、結果、死亡に至っています。

それ以外にも高齢者がイヌサフランを食べて死亡するという話は、その年によっても違いますが、大体1~2件くらいはあがってくるものです。
上の事例ではギョウジャニンニクと間違えていましたが、他にもギボウシ、タマネギなどと間違える場合もあるようです。
これがイヌサフランの花なのですが、ちょっと下の画ではわかりませんね。

そこで、先程の「産経新聞」の画を拝借。
上がギョウシャニンニクの芽、下がイヌサンフランの芽です。
この段階だと、なるほど、確かに似ています。ていうか区別がつかなくても仕方ない感ありますね。
それと、もう一つ。
このイヌサフラン以外にも、「トリカブト」を食べて死亡する事例も時折あります。
トリカブトは「ニリンソウ」と似ているため、これと間違えることが時折あるようです。
ちなみにこれがトリカブト。
食べてはいけません。花は紫色をしています。

そしてこっちがリニンソウ。
成程、確かに似ている。
花がないと素人目にはぱっと区別出来ないかもしれません。
ちなみにぼくは山などで単体で見つけたら、全くわからないでしょう。まあ、見つけたとして絶対に取って食べようとはしませんが。

まとめ
今回は時期的にも増加している有害植物の食中毒について、まとめてみました。
再度になりますが、ぼくの専門はあくまで食品衛生ですので、正直、植物のことについてはド素人です。
とはいえ、死亡者まで出ている有害植物の食中毒は、決して無視出来る存在ではありません。
そのため今回は食品衛生上で重要なテーマである食中毒という視点からの話をさせていただきました。
つまり、食品衛生に関わる身であるなら、一応の知識としてこのくらいまでは知っておいたほうがよろしいかな、というのが今回の記事の目的です。
参考になれば幸いです。
なお、各自治体や厚生労働省のホームページでは、市民への呼びかけのため、有害植物情報をしばしば挙げていたりします。
興味があれば、そちらを見て知見を広げてみるのもよいでしょう。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
