★公開日: 2022年4月4日
★最終更新日: 2022年4月6日
春になると毎年決まって全国でぽつぽつと見られ始める、「有毒植物」による食中毒。
これは一体どのようなものなのでしょうか。
春爛漫、春うららな今この時期にこそ、食品衛生の専門家が詳しくお伝えしましょう。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

毎年春に発生する有毒植物食中毒
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
春爛漫。
そんな春の訪れを、きっと皆さんも満喫されていることでしょう。
何せこれを書いているのは、4月3日。
今ぼくのいる事務所の窓を見下ろせば、咲き誇る桜並木がこれぞとばかりに桜吹雪を吹かせています。
あー!めっちゃ今、お花見行きたい!(笑)
さて。
毎年そんな頃になると決して多くはないながらも、決まって発生する食中毒があったりします。
それが、有毒植物による食中毒です。
早速ながら今年もこんな報告が、先日報じられていました。

【ウルイと誤食…バイケイソウで食中毒 芽出し期の識別難しく】
(2022年03月30日)
いわき市保健所は29日、有毒のバイケイソウを食べたことが原因とみられる食中毒が発生したと発表した。同市の女性(77)が28日に野草を食べ、嘔吐(おうと)などの症状を訴えた。女性は市内の医療機関に入院し、回復傾向にあるという。…(以上引用)
(福島民友新聞)
ウルイ?
バイケイソウ………?
ごめんなさい、ぼくはあくまで食品衛生の専門家です。
ですからその大敵である昆虫や微生物にはかなり詳しいのですが、植物はとんと疎いので、知りませんでした。
「ウルイ」というのはこの福島などの東北地方で昔から春の山菜として食べられてきた植物で、「オオバギボウシ」との別称でも知られている、とのこと。
この「ウルイ」と有毒植物のひとつである「バイケイソウ」は、なんでも芽出し期にはその見た目が酷似しており、極めて識別が難しいのだとか。
ちなみにこの「福島民友新聞」さんのところに、この「ウルイ」と有毒の「バイケイソウ」の芽出し期の写真が掲載されていましたので、拝借してみます。
右がバイケイソウで左がウルイ、だそうです。
なんでも福島市によると、「ウルイは葉脈が枝分かれしているのに対し、バイケイソウは葉脈が平行線になっている」ということですが、いかがでしょうか。
植物のド素人であるぼくからすれば、へー……って感じです。
いや、そりゃこうやって並べれば少しばかり違うかなとも思うんですが、んじゃそこらへんで芽が出ているのを見て、さっき知ったばかりの「ウルイ」や「バイケイソウ」をどっちがどっちだと識別は出来ません。
尤も、だからこそ食べようともしませんが。
とこのように、山菜採りや野草摘みのシーズンを迎え、特に新芽や若葉など植物の見分けがつきにくいこの時期、4~5月はこうした有毒植物による食中毒が毎年、ぽろぽろと見られるようになります。
さらに、もう一つ例を出しておきましょうか。
先週ですが、こんなツイートが先日SNSやニュースサイトで話題になっていました。
ジャガイモでチップス作ろうと思って剥いてたらまるでキウイのような色してた 母親は食べれるというけどなんか危険な香りがしていちおネットで調べたら「食べるな」って書いてあった 「最悪死ぬ」って書いてあった pic.twitter.com/cYWBuurkZ0
— SAYA.super7 (@htn_saya) March 12, 2022
これはSAYA.super7(@htn_saya)さんがTwitterにあげたものです。
SAYA.super7(@htn_saya)さんもおっしゃっていますが、マジで、食べてヘタをすると、えらい目に合います。
そう、ジャガイモも場合によっては有毒植物となるのです。
そこで今回は、こうした有毒植物による食中毒について、お話していくことにしましょう。
ちなみに。
先にも伝えた通りぼくはあくまで食品衛生の専門家であって、お医者さんでもなければ植物や野菜に詳しいわけでは全くありません。
なので、それらに関する詳しい知識は専門家の方々に譲ります。
細かく正確な知識はそうした方々を参考にしてください。
ここでは、あくまで食中毒というぼくの専門である食品衛生に関わることにのみ、触れていくことにします。

死亡者も出る有毒植物による食中毒
ところで、皆さん。年間の食中毒患者数って一体どのくらいいると思いますか?
実は正式に報告され、公表されているだけで年間大体1万人~2万人といったところです。
ちなみに先日好評され、前回やウィークリーニュースで紹介したばかりの、昨年2021年の厚生労働省統計では、1万1千人強、正確には11,080人でした。
そしてこれまでもお話してきた通り、これらの原因物質のトップというのは、ノロウイルス、ウェルシュ菌、カンピロバクター、病原大腸菌などです。
あれ?アニサキスじゃないの?
前回の記事を読まれた方はそう思うかもしれませんね。
ですがここで問うているのは、「食中毒患者数」です。
アニサキス食中毒というのは、確かに食中毒発生件数自体は抜きん出て多いのですが、その魚を食べるのは多くたって数人ですから、患者数というのは発生数とほとんど変わらない。つまり、そんなに拡大しないのが特徴なんです。
しかし一方で、それに比べたらノロウイルスなどの食中毒は集団化になりやすい。
その結果、「患者数」を換算したら、それらのほうが上回ることになります。
昨日、前回記事を書きながら実は一緒に作成していた、2021年の食中毒患者数データ。
せっかくですからここで紹介させてください。

ほら、
このようにアニサキスというのは「患者数」としては比較的ですが、少ないほうなんですね。
さて。
そのアニサキスの2つほど右隣の項目に、「自然毒」というのがありますね。
次の項で少しばかり解説しますが、この「自然毒」に含まれているものが、今回のお話の主役である「有毒植物」による食中毒なのです。
このように、有毒植物による食中毒というのは基本、それほどに多いものではありません。
どころかかなり少なく、下から数えたほうが寧ろ早いくらいのレベルな食中毒原因物質です。
にも関わらず、毎年この頃、春を迎えて暖かくなるころになると発生する。
そして、何よりも。
食中毒で死にまで至る人は非常に少ないのですが、この自然毒による食中毒は高い致死率を誇っているのが何よりも怖いところです。
事実、厚生労働省の統計を見ても、死亡例の原因物質は「自然毒」が高い割合を占めています。
例えば、先のとおり昨年の食中毒患者1万1000人強において、死者はたったの2人でした。
そしてその二人の死因はといえば、1人はサルモネラ菌による食中毒、そしてもう1人は有毒植物による食中毒でした。

こちらの通りですね。
右側の値がそうです。
これは昨2021年5月、北海道は小樽市で道路脇に生えていたというイヌサフラン(下画)をギョウシャニンニクと間違えて食べたことで発生した食中毒でした。
って道路脇の草、よく食べる気になるなあ…。
2021年5月26日、小樽市保健所管内在住の男性1名が、自宅付近に生えていた植物を「ギョウジャニンニク」として採取し、5~6本ほどを炒め物、酢の物にして喫食した。
喫食6時間後におう吐、下痢の症状を呈した。翌日も継続したため、5月28日に医療機関を受診し、入院治療を行ったが、おう吐、下痢、脱水、急性腎不全、白血球減少等の病状進行により、6月10日に死亡した。
小樽市保健所は、患者の症状がイヌサフランによる食中毒症状と一致すること、医師からイヌサフランの誤食として食中毒患者等発生届があったこと、回収した調理前残品からイヌサフランの有毒成分であるコルヒチンが検出されたことから、イヌサフランをギョウジャニンニクと誤食した食中毒と断定した。

「動物性自然毒」と「植物性自然毒」
おっと、ここで少しばかり、「自然毒」について簡単に解説しておきましょう。
食中毒には、実は様々な発生原因があります。
細菌やウイルスなどの微生物によって生じることもあれば、前回の記事のアニサキスのように、寄生虫によって発生することもあります。
それらの原因物質によって食中毒を分類した場合、およそこのようになります。

さて、今回のお話は有毒植物、つまりは「自然毒による食中毒」です。
「自然毒」とは、自然界に生息している動物あるいは植物などが保有している有毒成分のことです。
これには、植物や動物がもともと保有している場合、あるいは食物連鎖をとおしてその動物の体内に取り込まれる場合の2つがあるのですが、いずれにせよこれらの自然毒を含んだ動植物を食べることで健康被害が生じることになります。
これを、自然毒による食中毒といいます。
そしてこれら自然毒による食中毒は、大きく「植物性自然毒」と「動物性自然毒」に分けられます。
植物性自然毒は先にもあげたイヌサフランやバイケイソウ、ジャガイモのほか、トリカブト、さらには毒キノコなども含まれます。
一方で、動物性自然毒として最も知られるのはフグ毒ですが、その他貝毒なども含まれます。
自然毒の種類 |
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「あれ、キノコって植物だっけ?」
そう思われた方、そう、鋭いですね。
キノコは生物学的には真菌です。
でも便宜上、食中毒統計の世界では「植物性自然毒」として扱われているのです。
これを踏まえたうえで、幾つかデータを見ていくとしましょう。
先の通り、食中毒の年間患者数というのは、大体1万人~2万人といったところです。
しかしそのうち死者は年間数人程度。
ちなみに過去10年、つまり2012年から昨2021年の十年間の死者の推移はこのような人数となっています。

これを死因、つまりは食中毒の原因物質別で見てみるとどうなるか。
こうなります。

過去10年(2012年~2021年)の食中毒死者の原因物質 |
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1位は同数で、O157などの「腸管出血性大腸菌」と、この「植物性自然毒」でした。
しかし双方は、それぞれ大きな特徴の違いがあります。
というのも、「腸管出血性大腸菌」は1件で10人などの死者を出すのです。だから過去10年で死者が出たのは3回のみ。
しかし一方で、植物性自然毒の食中毒はほぼ毎年、コンスタントに死者を出している。
ちなみに動物性自然毒による食中毒の死者は、圧倒的にフグ毒によるところが大きいです。

植物性自然毒の食中毒はいつ多いのか
さて、この植物性自然毒の食中毒というのは、いつ多いのでしょうか。
2021年の食中毒データのうち、植物性自然毒食中毒だけを月度別に比べてみるとしましょう。

このように、昨2021年の植物性自然毒の食中毒は、春から初夏にかけてと、秋にかけての年2回の発生件数の山が出来ていたのがわかるでしょう。
そしてこの傾向は、多少の差こそあれ、ほぼ毎年このような状況となっています。
昨年は10月の値がかなり低めだったのですが、実はここが一番ズバ抜けている年も少なくありません。
(2020年、2019年もそうでした)
なぜこのような傾向になるのか。
まず第一に、秋はキノコによる食中毒が増えるからです。
このデータは「植物性自然毒」による食中毒発生件数の統計ですから、そのぶんだけ秋には発生件数が底上げされる、というわけです。
と同時に、冒頭の通り、春からは有毒植物による食中毒が発生しやすくなります。
これは先にも書いてきたことですね。
特にこの有毒植物による食中毒というのは地方在住の高齢者が多く、山菜と間違えたりなどして食べてしまい、死亡するという事案が多くみられるのが特徴です。
これは厚生労働省がリーフレットとして出しているものからのグラフなのですが、2015年から2019年までの「有毒植物」による食中毒の年代別患者数値を見てみると、やはり60代以上が最も高くなっています。
そして「死者数」に至っては、この通り。
このように、有毒植物の食中毒は重症化した場合、死ぬことも十分ありえるので十分に注意が必要だったりします。

まとめ
そろそろ長くなってきましたね。
今回は、前編、後編と二部にわたって時期的にも増加している有害植物の食中毒についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、その有害植物が含まれる植物性自然毒による食中毒の解説を、最新データを用いながら見ていきました。
次回の後編では、より具体的に有害植物にはどのようなものがあるのかについて、追っていきたいと思います。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
