★公開日: 2022年4月2日
★最終更新日: 2022年4月2日
「アニサキス」による食中毒が増加している、なんて時々言われています。
でもそれは本当なのでしょうか。
またどのように増えているのでしょうか。
今回はそんなアニサキスについてのお話です。
そして。
皆さん、アニサキス食中毒ってどの季節が多いか、何月が一番多いか、ご存知ですか?
今回の記事を読めば、その答えも最新データにもとづいて理解できるかと思います。
改めまして、皆様こんにちは。
高薙食品衛生コンサルティング事務所です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

Contents
連発で報じられたアニサキス食中毒
さて振り返ること、先々週のウィークリーニュースのチェック。
ここで連発してのアニサキス食中毒報告について取り上げさせていただきました。
しかし実はこの後もぽろぽろとアニサキス食中毒は全国で続いています。
全部を挙げたらキリがありませんが、例えばこの記事をあげた当日、栃木県でシメサバを食べてアニサキス症になったり、岩手県でもカジカの刺し身でアニサキス症になったほか、東京都世田谷区の飲食店でも発生したり。
で、この下書きを書いている3月29日、埼玉県の寿司屋さんでまたもや発生…。
と、このようにあちこちで発生しているのが、このアニサキスによる食中毒だったりするのです。
【男性が食中毒…刺し身の盛り合わせ食べ 腹痛や吐き気、アニサキスを検出 飲食店を行政処分に】
(2022年3月29日)
さいたま市は26日、同市浦和区仲町の飲食店「すし二乃宮」で、食中毒が発生したとして、同日中の1日間、冷凍品を除く生食用の魚介類の調理、提供を停止とする行政処分をした。
市食品・医薬品安全課によると、同店で23日に刺し身の盛り合わせなどを食べた30代男性に腹痛や吐き気などの症状が見られ、調査の結果、男性の体から魚介類の寄生虫「アニサキス」が見つかった。潜伏期間や喫食状況などから、同店での食事が原因による食中毒と判断した。…(以上引用)
(埼玉新聞)
この通り、例をあげるには困らない状況がこのところ続いていたわけなのですが、さらに。
これらをあらわすかのように、先日、厚生労働省の年間食中毒統計結果にて、食中毒の原因物質最多が、つまり食中毒件数のトップランカーを不動でアニサキスが独走していることが発表、報道されていました。
このことは、前回のウィークリーニュースでもお話しましたね。
【昨年の食中毒発生件数 アニサキスが4年連続最多】
(2022年03月24日)
病因物質別では、アニサキスが344件で最多となり、全体の半数(48.0%)を占めた。
次いでカンピロバクターが154件(21.5%)、ノロウイルス72件(10.0%)と続き、この3物質で全体の8割近くを占めた。
アニサキスによる食中毒は前年比42件減少したものの、2018年にカンピロバクターを抜いて以降、4年連続で最多となった。直近7年間の推移は15年127件、16年124件、17年230件、18年468件、19年328件、20年386件、21年344件と高止まり傾向となっている。…(以上引用)
(ニッポン消費者新聞)

もう少し詳しく、追って補足説明していきましょう。
まず「食品衛生法」では、食中毒患者を診断した医師は、その24時間以内に行政(保健所)に報告し、届け出を出さなければいけないことになっています。
第58条 食品、添加物、器具若しくは容器包装に起因して中毒した患者若しくはその疑いのある者(以下「食中毒患者等」という。)を診断し、又はその死体を検案した医師は、直ちに最寄の保健所長にその旨を届け出なければならない。
そして、それら全国からの届け出を厚生労働省がとりまとめます。
そして毎年年度末、つまり丁度今頃…からちょっと前くらいに毎年、厚生労働省はそれらに基づいて、昨年度の年間食中毒統計の年度集計を行い、データ化して発表するのです。
それによって発表されるデータは、ぼくら食品衛生屋の貴重な資料となっていくわけです。
【厚労省、食中毒件数が最少を更新 コロナ影響より色濃く】
21年(1~12月)の食中毒事件数717件、患者数1万1080人、さらに患者数2人以上の事件数340件がいずれも直近20年間で最少だったことが厚生労働省のとりまとめで分かった。
事件数が最少だった前年をさらに下回った。
1件当たりの患者数が500人以上の大規模事例は2件にとどまり、患者数は合計4441人で全体の4割を占めた。
同省が17日開いた食中毒部会で、委員からは「良好な傾向が続いている」との声が聞かれた。…(以上引用)
(日本食糧新聞)
そして、このデータに基づく解析、考察として、先のようなアニサキスにての報告があがっている、というわけです。
当然ながら、このデータ自体は誰にでも見ることの出来るもので、ちゃんとこのように厚生労働省のホームページに公式に掲載されており、いつ誰でもアクセスし、ダウンロードするようになっています。
ご興味あれば是非。

最新のアニサキス食中毒データはどうなっているのか
それでは、その最新データを分析することで、一体どんなことが見えてくるのでしょうか。
現在のアニサキス食中毒事情は、どのようになっているのでしょうか。
実は、このアニサキス食中毒についての記事は、昨年も書いたことがあります。
そのときにも当時の最新統計データ、つまりは2020年までのものに基づいて様々な考察を行わせていただきました。
よって今回は、上の記事に沿いつつ、現状の最新データ、つまりは新たに発表された昨年度データを加えながら、改めての現状解析を行っていこうではありませんか。

コロナ禍でも減少しないアニサキス食中毒
それでは2021年最新統計に触れていきましょう。
なお以下グラフデータは、全てぼくが厚生労働省発表統計にもとづいて自作したものとなります。
まず、先にあったようにアニサキス食中毒は、食中毒原因物質で4年間トップであるという。
それを示すデータがこちらです、どん。

事件数の多い食中毒要因 |
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まずは年間の食中毒件数から。
あ、このうち「寄生虫(アニサキス他)」のなかにはクドアも含まれているのですが、クドア自体の件数は4件と少なめです。
しかしそれを踏まえたとしたって、このようにアニサキス食中毒はずば抜けた結果となっている。
なにせ数年前までのトップランカーの双璧だったカンピロバクターやノロウイルスを軽く超えて、アニサキスがその数倍以上にもなっているのがわかるでしょう。
先のニュースにもあるように、アニサキスが全体の半数(48.0%)を占めている、というのも一目瞭然で伝わりますよね。
これらの背景には、コロナ禍による手洗いやアルコール消毒の習慣化や安全意識の上昇などによって多くの食中毒が抑えられ、減少しているのに対して、アニサキス食中毒は大して減少がみられていない、という実状が見えてきます。
そもそも手洗いなどでアニサキス食中毒は防止することができないわけですから、推して知るべし、といったところでしょうか。
しかしこれを見ると、コロナ禍のなか、ノロウイルスが如何に抑えられているがわかりますね。
だって数年前までノロウイルス食中毒って年間500件くらいあったんですよ?
それが昨年はわずか72件ですからね。
おっと、この年間統計分析については、また別記事で後日取り扱いますので、お楽しみに。

近年高止まりしているアニサキス食中毒
続いてこれらの原因物質のうち、主だった一部代表原因だけを拾って年度推移グラフにしてみました。
それがこちらです。

いかがでしょうか。
こうやって見てみると、ターニングポイントが2018年で、それ以降下降していくカンピロバクターやノロウイルスに対し、如何にアニサキスが高止まりしているかが伝わるでしょう。
しかも先のとおり、2020年からのコロナ禍のなか、ガクンと激減したそれらに対し、やもすれば増加すらしている。
で、昨年2021年はといえば、2020年に比べて若干の減少はみられたとはいえ、それほどまででもない。ま、年間40件くらいは減ったかもね、って感じで大差ナシです。
ちなみに、アニサキスが食中毒の原因物質と公式に認められたのが2013年から。
というのも2012年12月28日の食品衛生法施行規則の一部改正によって、アニサキスが食中毒の原因物質の種別に加えられたのです。
アニサキスのグラフ数値が2013年からとなっているのは、そのためです。
以後、世に認知が広がるに従い、食中毒原因として報告されるようになり、急増していったのです。

アニサキスは本当に秋に多いのか?
さて、時折目や耳にする、「アニサキス食中毒は秋に多い」説。
これって本当なのでしょうか。
だって、冒頭にも触れたように、先月はアニサキス食中毒がかなり報告されていたのです。
ていうことは、秋じゃなくて実は春じゃないだろうか。
言われれば春だって魚、食べること多いものな…と、そう考えはしませんか?
そこで2021年統計も発表されたことだし、2013年からのアニサキス食中毒件数の月度別比較をしてみました。
こちらです。

この通り、一番多いのが10月。
ホラやっぱり秋じゃん、ってなりかけるのですが、でも9月や11月はさほどでもないのです。
そして、次が3月。
つまり春なのです。
「そんな大して差ないじゃん」
このグラフからだと、そう思うかもしれませんね。
そこで、ターニングポイントとなった2018年以降、つまりアニサキス食中毒が急増したと言われ、これまでのトップランカーだったカンピロバクターやノロウイルスを超えて最多食中毒原因物質となった2018年以降からの、つまりはここ近年のみを抽出してみると、もっと見えてきます。

いかがでしょうか。
秋が多いというよりは10月が多い、ということ。
それから、春、具体的には3月から5月にかけても多い時期であることがより鮮明に見えてくるでしょう。
そう、先々週のウィークリーニュースの通り、やっぱり3月は一年のなかでもアニサキス食中毒の多い時期だったのです。

まとめ
今回は厚生労働省より新たに公開された2021年の食中毒統計データを加えて、その食中毒原因物質で最多となったアニサキス食中毒について、その実態はどうなっているかを実際にデータを見ながら分析していきました。
なおこの2021年統計結果に関しては、別途また後日に詳しく見ていきたいと思いますので、そちらもお楽しみに。
最後に。
以前の記事でも触れたことですが、一般的にアニサキスの予防のためには「加熱」か「凍結」しか決め手となる予防手法がありません。
厚生労働省は特に次のような対策をするよう告知しています。
アニサキス食中毒予防 |
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以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
