★公開日: 2022年2月24日
★最終更新日: 2022年2月24日
最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は「食品製造現場の災害」ということで、三幸製菓の工場の火災事故について、三部作の最後としてのお話をしていくとしましょう。
なおこの記事は、前々回、前回、そして今回と、特別に三部構成でお話させて頂いています。
(こちら③はその三部のうちの三回目、後編となります)
本日の時事食品ニュース |
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改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。
「三幸製菓」で工場火災発生
(こちらは三部構成の「後編」になりますので、もしここから来られた方は、まずは下の「前編」と「中編」を先に読んでください。)
「食品業界ニュースピックアップ」。
様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていく、こちら。
本日のお題は、前回同様、先日発生した三幸製菓の工場での火災について、取り上げてみようかと思います。
それと。
前々回、前回とともにこれらはあくまでまだ調査中の事故であり、詳しい原因などもよく判ってはいないため、現時点(2022年2月21日段階)で把握できる範囲でのお話ということにさせて頂いています。
…ってのを3回目にして、一応ですが、繰り返させていただきますね。
あと前2回の冒頭に触れた話も繰り返しはしませんが、こちらも同様なので、あしからず。

【「三幸製菓」工場火災 せんべいの焼き釜周辺から出火か】
(2022年02月17日 19時44分)
今月11日の夜、村上市にある、「三幸製菓」の荒川工場で南側の建物が全焼し清掃作業を担当していたアルバイト従業員で60代と70代の女性4人が死亡したほか焼け跡から2人が遺体で見つかりました。
(略)
会社によりますと、火災があった建物ではせんべいやあられを作っていて、内部は、生地をこねる工程や焼き上げる工程などの区画に分かれています。
警察は、火災現場で実況見分を続けていますが、これまでの調べで、せんべいを焼くために使う焼き釜の周辺から火が出て、燃え広がったとみられることが捜査関係者への取材で新たに分かりました。…(以上引用)
(NHK)
本後編について
はい、そんなこんなで、ようやく三回目となる「三幸製菓」の火災についてのお話です。
これ、本当は専門外だということもあって1回で終わらせる予定でした。
ですが、なんだかどんどんと筆(キーボード)が進んでしまい、区切りに区切ったらなんだかんだで、今回で3回目。
ちょっと長引きすぎましたかねー。まだまだ他にも早く書きたいネタストックもまだ一杯あるというのに。
というわけで、今回は「三幸製菓」火災に対する、三部作の後編です。
最初の前編では、まずは米菓市場と「三幸製菓」の歩みについて、お話しました。
続く前回の中編では、今回の火災について、食品衛生の専門家としての解説を行いました。
で。さあ、最後の後編、どうしよう。
実は、あんまり考えていません。
というのも、元々ここまで引っ張るつもりすらなく、長くなったので区切っただけなのですから。
せめてあるのは、応援のために購入した「三幸製菓」のお菓子くらいか。
あ、でもこれは最初にも言いましたが、めっちゃ美味しいです。「三幸製菓」のかりんとう、最高!
おっと、そうはいえど、最後の後編では業界への影響や、今後への考察など、そんなところを踏まえながら進めていくようにしましょう。
ではでは。

今回の火災による業界への影響
さて、色々とお話をしてきましたが。
ここでちょっと食品業界、なかんずくに目を向けなおしてみるとしましょう。
これまで書いてきたように、米菓市場二番手の最大手「三幸製菓」による、工場の火災事故。
当然ながらも米菓市場への影響は避けられないことでしょう。
なにせ現状の時点(2022年2月19日)で「三幸製菓」3工場を約3ヶ月停止する、と発表しています。

【三幸製菓、全工場を3カ月停止 - 6人死亡火災「安全対策を検討」】
(2022年2月17日 17:26)
三幸製菓(新潟市北区)は16日、新潟県村上市の荒川工場で6人が亡くなった火災を受け、全3工場の生産を約3カ月間停止すると発表した。同社は外部専門家を入れて、事故原因の分析と安全対策などを検討していくとしている。…(以上引用)
(新潟日報)
なんと全3工場、長期稼働停止!
マジっすか…。
「荒川工場」だけじゃないんすね…。
しかも全3工場の稼働を3ヶ月停止する、ということはそこからまた再稼働に向けての準備なりと考えると、しばらくは製造停止の長期化がやむなくされるところだと思います。
ましてやなかでもこの「荒川工場」は主力商品「雪の宿」を筆頭に、「丸大豆せんべい」他多くのあられ、おかき商品を製造していた、「三幸製菓」の基幹工場。
このレベルの大手の基幹工場のメイン棟の一つが全焼、ということを考えただけでも、その後のダメージは計り知りません。
とそれはちょっと後に置いておくとしても。
先にも書いたように、米菓市場はこのところ好調の風向き。
スーパー、コンビニともに流通側は、棚をカラにしておくわけにはいかないでしょうから、他の米菓メーカーに大慌てでラインナップ増加の調整を打診しているところなのでしょう。
なにせいくら常温保存品だとはいえ、そう長らく製造もしないでストック出来るものではありません。
しかし米菓メーカーだって、明日から製造種を増やしてくれ、と言われても製造計画というものもあれば原料や人手だって必要です。
ましてや製造を増やすように無理をして、そんな矢先に製造上の事故はおろか、異物混入を含めた問題を起こすのもごめんだ、そう考えていることでしょう。
【三幸製菓の工場火災 米菓業界、供給に影響広がる】
(2022年02月16日)
三幸製菓の荒川工場(新潟県村上市)で11日に起きた火災を受け、米菓業界の供給に影響が広がっている。
同社は米菓売上げ業界2位で、トップシェアを持つあられ・おかきを生産する工場棟が全焼したことにより、流通から同業メーカーへ代替商品の依頼が増加。
業界内では増産体制で対応する動きもあるが「受注が集中すればパンクする可能性もある」(メーカー)といった戸惑いの声も聞こえる。前例がないことだけに、今後の安定供給に懸念も出ている。…(以下略)
(日本食糧新聞)
ましてや、本場新潟の大手二番手が火事を起こした。
ウチは大丈夫なのか、と当然ながら、近隣の同じ新潟の米菓メーカーは勿論ながら、今や製菓業界全体がそのような動きに、実はなっています。
とくにトップから大手までは、各社こぞって工場に対し防災対策の見直しを最優先におこなうよう、やっきになって命じているのが現実です。
なにせ前回にも触れたように、
「ウチは違って安全対策は完璧です、何の問題も全くもってありません」、
「全ての消防の指摘対応をこなしていて、全記録、抜かりも漏れも一切合切ありません」、
「昼はおろか、夜間の避難訓練や対策だって、常に万全です。勿論ですが、全社員、全パート、全バイトに、避難経路はソラで言えるように教育しています」、
「今この瞬間にも、工場全域において整理整頓は徹底されているし、本社の視察の時だけ取り繕うような風潮は欠片すらもありません」、
なーんて報道が言うような工場は、現実的には存在しないわけです。
各社の慌てての対応も、申し訳ありませんが、目に浮かぶようです。

「三幸製菓」の品薄(?)人気商品を食べてみる
さあ、以上が「三幸製菓」の今回の火災についてのお話でした。
今後これらの調査結果、原因についての詳細などが出るかもしれませんが、そうした諸々の問題とはまた全く別の話として、これまで米菓メーカーとして優れたせんべいやおかき、あられ、かりんとうなどを造り続けてきたことへの敬意を、ぼくはイチ消費者としても、また食品製造にかかわる専門家の一人としても、それは変わることはありません。
ということで、「三幸製菓」への応援も含めて、ここで実際に「三幸製菓」のかりんとうやおかきを買ってきて、食べてみようかと思います。
というのも、すでに「三幸製菓」では全3工場の稼働が停止しています。つまり、商品が作られていません。
しかも上のように、今後調査や対応による工場稼働停止の長期化から生産が止まってしまうため、間違いなく「三幸製菓」の商品は見られなくなっていくことでしょう。
となると今の流通分で、今後しばらくは「三幸製菓」の商品を手にすることが出来なくなるのではないか。
そう思って先日、早速近所のスーパーに寄ってみました。
米菓コーナーを見渡すと…。
おお、見つけた!
噂の大人気かりんとう、「ミックスかりんとう」です。

裏面の表示をチェック。
「製造者」は、勿論「三幸製菓」。
そして「製造所」は、先にも触れた三幸製菓の3工場のうち、かりんとう製造の主力工場、「新発田工場」とあります。
へえ、美味しそうだな。
さらに別の棚に、これを発見。
「餅づくり」なるおかき。これも「三幸製菓」のもののようだ。

同じく、裏を見る。
ああ、これ火事が発生してしまった「荒川工場」で作られたもののようですね。
「製造所」に、「荒川工場」の表記がある。
にしても表示も丁寧でわかりやすく、伝えるべき情報は勿論のこと、こういうところまでしっかりと作り込んでいる。
消費者に寄り添った、優れた表示だと思いますよ。好感が持てますね。
ではこれも、お買い上げ。
早速、持ち帰って、家族と一緒に開封していきましょう。

まずは「ミックスかりんとう」から。
包装、モダンで、かわええ。いい意味で「かりんとう」らしい「古き伝統」感がなく、いかにも手に取りやすいデザイン。
そして、表側には「三幸製菓は売上NO.1」とあります。
え、かりんとう市場だと「東京カリント」に次いでの売上2番手じゃないの?
そう思うと、すっごく小さな印字で、「かりんとう小分け市場」と書いてある。
「小分け市場」、そんな市場があるというのか!?
「東京カリント」はその「かりんとう小分け市場」に含まれないというのか?
よく知りませんが、まあ、別に美味しければいいです。

そのとおりに、なかに小袋が4つ。それぞれ12個くらい入っているのかな。
種類は「黒糖」、「ミルク」、「アーモンド」の三種。
ではいただきます…。

あ、美味しいぞ!
へえ、面白い。「かりんとう」と呼ばれてイメージするようなしっとりした重みが全くなく、サクサクとした、まるでスナック菓子のようにドライな軽やかだ。
昔ながら、というよりは今風に食べやすくアレンジされている。
しかも、それでいてかりんとうの美味しさを失っていない。
なるほど、こりゃあかりんとう界の革命児として人気が出るのもうなづける。
「黒糖」。
あれ、これ三種のうちで不思議と一番、食べ飽きない。黒糖のコクと香りがありながらも、昔のかりんとう独特の重さが全くない。
でいて、旨味もある。
「ミルク」。
甘いなー。ちょっとぼくにとっては、甘さが強めかな。
でもウチの娘はこれがお気に入りのご様子。ミルキーでコクがあって香りもいい。
「アーモンド」。
あ、ぼくはこれが一番好きかも。
アーモンドの香ばしさもマッチしているし、何より軽くて一番食べやすい。
あえて「好み」だけで順位をつけるなら、ぼくと嫁さんはアーモンド、黒糖、ミルクの順。
ウチの娘は、どれも順不同だけど、ミルクが気に入った様子。
うん、でも、これは美味いなあ。
そりゃあ人気も出るわ、だって本当に美味しいもの。
なんと言ってもぼくと嫁さんと娘の三人で、あっという間に4袋、もっともっとと開封して、たいらげちゃった。
かりんとうってこんな美味しかったっけ?っていう印象。
色々と諸事情はあるだろうけれど、はやくこのかりんとうを製造している「新発田工場」だけでも早期稼働してもらいたい。
これがなくなってしまうのはやはり勿体ないし、日本の食の痛手じゃないだろうか。

さて、もうひとつの「餅づくり」も開封してみますか。
こちらのおかきには4種類が各々小袋に包装されて入っている様子。
うん、これはなんだろう。まあ、想像通りのおかき、かな。
いや、美味しくないってのではなくて、安定してて裏切ることのない食べたいと思ったままのおかき、といった感じだ。
でも小袋入りで、程よい小粒な大きさで、飽きがこないで、しかもシケることがない。
こういうのはまじまじと食べるというか、晩酌ビール飲みのおともにするのに、結構ありがたいぞ。
だって何個かつまんだら、ジップで閉めてまた明日の晩酌に開ければいい。
そういう晩酌向けのつまみとしたら、優秀じゃないだろうか。

まとめ、と最後に
以上、前編・中編、そして長くなってしまっての今回の後編というわけで、三回に渡って「三幸製菓」の火災についてのお話をさせて頂きました。
最後になりますが、正直言って、業界内での今後に対する三幸製菓のこの先のあまり明るい話を、少なくとも現段階においては耳にすることはありません。
(まあ、まだ火災発生から数日しか経っていない現状の2022年2月23日現在において、ですからこの先は判りませんよ?)
というのも某大手製菓メーカーのかたと先日仕事上で色々お話したのですが、ぼくも含めて、次の点をどう考えているのか、という議論になりました。
1つ目。
まずは何よりもメイン基幹工場の製造棟1棟まるまるを焼失して、これまでと同レベルの製造事業が果たして成り立つのか。
また、そのゼロスタートにまで戻すための投資余力、企業としての余力が、果たしてあるのか。
まず、メイン商品の製造ラインをまるまる1棟焼けて失う、というのは、製造メーカーにとって致命傷的損失以外の何者でもありません。
そもそも多くの製造機器というのは、調整含めてほぼほぼがオーダーメイドの結晶です。
しかも日本の製造業における基幹工場の製造棟といったら、よくも悪くもかなり職人的な、つまりは属人的とすら言うべきその企業の技術蓄積とノウハウの塊ですから、どこかのゼネコンに頼んでハイこれまでの再現よろしく、というようなものでは、全くありません。
ですから、それを火災でまるまる失ってのドマイナススタートで、現状のクオリティにまでどう立ち戻れるのか。それは外野からは、全くもっての未知数です。
2つ目。
しかも、先の通りに、これから3ヶ月は製造復帰までかかる、という。
つまり、それまで生産はないから、企業利益が全く生まれないことになる。
勿論それを踏まえての決断であることは重々わかるのですが、製造メーカーが3ヶ月工場を止める、というのは相当な覚悟を示しての英断です。
しかもメインの基幹工場のみならず、例えば、たった数年前に恐らく数十億もの投資を行ったのであろう、「新発田工場」。
事故を起こしていないここすらも、3ヶ月の製造を停止して災害防止に対応する、というのです。
それは確かに立派ではあるかもしれませんが、しかし率直な話、いくらどんなに最新の工場だって、稼働しなければそれはもうただの超巨大な負債の塊にしかなりません。
しかも3ヶ月、製品を作らない、ということは、卸先に商品を出さないということです。
当然ですが、スーパーや流通はハイ判りましたと棚を空にすることはありません。よってその代わりとなる商品を作れるメーカーを探しますし、その取引先が決まったとしたときに、さあ数ヶ月たっぷり降ろしてくれたし、三幸製菓も戻ってきたから、もうおたくのこれは明日からいらないよ、とも言えません。
つまり、三幸製菓において数ヶ月先の取引がかなり減少することは、現実としてもう確定している。
3つ目。
当然ですがこれから数ヶ月の間に、各工場で様々な防災対策が組まれることでしょう。
ですがそれは言い方を変えれば、かなり大規模な設備投資にはなるだろうけれど、それは利益としてのリターンを(少なくとも短期的には)直ちに生むような類のものではない。
それは確かにこのような事故を起こしての、必要な対策だとはいえ、それが企業経営上にどう負担となるのかは、これまた外野からは全くもってわからない。
…と、これらを軽く考えただけでも、3ヶ月後に無事「ハイ復帰しました、またよろしくー」というわけにはいかない茨の道であることが容易にわかることでしょう。
ぼくはまったくもってそちらの専門知識は持ち合わせてもいませんが、普通なら現状にいたれるまで最低ですら数年、いや、それで果たして復興出来るかどうか、というのが実状ではないか、というのが先の業者さんと話した結論でした。
ただし。
ぼくらは貴重にも、これらから幾つかの大切なことを知ることが出来ます。
ひとつは、それだけこの「三幸製菓」がこの事故に対して、いかに真剣に真摯に、覚悟をもって対応しているか、という真実。
そこはやっぱり、今回起こした問題は問題として、そしてまた責任と対応はそれとして行っている優良企業として、しっかり認めてあげるべきじゃないかと思います。
そして、それからもうひとつは、このようなリスクマネジメントを怠ってしまった企業が、製造メーカーが、背負わなければいけない、あまりにリアルな責任の重さ、です。
寧ろぼくがこの三回目にして言いたいのは、こちらです。
実際、このような重い歴史の数々を、ぼくもこの仕事を通して、幾度となくこれまで目前で見てきました。
例えば、2000年代、この業界に入った矢先にいきなり見せられた、雪印の失墜。
あるいは当時、リアルに仕事として重々しく関わらせていただいた、不二家さんの危機。
そして、様々な細かい食品事故の数々…。
食品衛生にせよ、安全対策にせよ、製造業の現場というのは常にそのようなリスクに向かいながら行っている、ということをぼくらそこにかかわる身としては、やはり忘れてはいけないでしょう。
そしてそれを含めて最後にもう一度、ぼくが今回一番伝えたいことを、以下、前回の話から引用します。
「リスクマネジメント」というのは、そもそもからして、そこにあるリスクをリスクと認識することから始まります。
そして、だからこそ逆を言うなら、多くの事故が起こる場合というのは、そこにあるリスクがリスクとして捉えられなくなり、マネジメント=管理から外れてしまうからこそ、発生するのです。
なぜならば、それがもたらすリスクが軽視され、やがてどうして危険なのかも理解・共有されなくなる結果、リスクマネジメントの仕組みが機能しなくなり、そのリスクが高まっていることを認識できなくなるからです。
そして、食品衛生においても、安全対策においても、すべからく全ての事故というのは、その「リスクの認識」がなくなるときにこそ、起こるものです。
これ、今回の重要な学びとして、是非とも覚えておいてください。
…って、あれ?
専門外だと思って始めた今回の三回に渡ってのお話だけど、最終的にはこれら、色々と神回になってないっすか!?
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
