★公開日: 2022年2月23日
★最終更新日: 2022年2月23日

最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、ちょっと専門とは違うのですが「食品製造現場の災害」ということで、三幸製菓の工場の火災事故についてお話していくとしましょう。

なおこの記事は、前回、そして今回、そして次回と、特別に三部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその三部のうちの二回目、中編となります)

本日の時事食品ニュース

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

参照画:三幸製菓荒川工場
毎日新聞

 

「三幸製菓」の工場火災について考える

(こちらは三部構成の「中編」になりますので、もしここから来られた方は、まずは下の「前編」を最初に読んでください。)

「食品業界ニュースピックアップ」。
様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていく、こちら。
本日のお題は、前回同様、先日発生した三幸製菓の工場での火災について、取り上げてみようかと思います。

それと前回からの重ね重ねなのですが、あくまでこの件はまだ調査中の事故であり、詳しい原因などもよく判ってはいないため、現時点(2022年2月21日段階)で把握できる範囲でのお話ということにさせて頂いています。

【「三幸製菓」工場火災 せんべいの焼き釜周辺から出火か】
(2022年02月17日 19時44分)
今月11日の夜、村上市にある、「三幸製菓」の荒川工場で南側の建物が全焼し清掃作業を担当していたアルバイト従業員で60代と70代の女性4人が死亡したほか焼け跡から2人が遺体で見つかりました。
(略)
会社によりますと、火災があった建物ではせんべいやあられを作っていて、内部は、生地をこねる工程や焼き上げる工程などの区画に分かれています。
警察は、火災現場で実況見分を続けていますが、これまでの調べで、せんべいを焼くために使う焼き釜の周辺から火が出て、燃え広がったとみられることが捜査関係者への取材で新たに分かりました。…(以上引用)
(NHK)

参照画:三幸製菓荒川工場
毎日新聞

ということで、ここからが中編の本題、なんですが。
今回の話を始める前に、ここであと、もうひとつだけ断っておきます。

というのは、ぼくは、別にここで「三幸製菓」けしからん論陣を張りたいわけでは、全く、欠片すらもない、ということです。
なので、そういう俗情を満たしたいのであれば、どうぞ今すぐにでもウチではなく他に行って、よそでそれを満たしてきてください。

というのもぼくは仕事柄、というかその内実をよく知っているがゆえにたメーカーサイドに寄り添うことが多い立場ですらあります。
ですから、ここで強く断っておきますが、そんなぼくから見てこの「三幸製菓」という製菓メーカーは、この事故において確かに至らないことも幾つかあったかもしれませんが、普通に見て、至極良心的な菓子製造メーカーである、というのが基本的スタンスです。

なのではっきり最初に言っておきますが、ぼくは「三幸製菓」を絶対的に応援する立場です。
いや本当に、こんな悲しいことでこんな美味しいかりんとうや米菓を製造している優良企業が消えてしまうのは、日本の食のマイナスでしかありません。
それに、そもそもからしてぼくはこの手の互いに「けしからん」合戦での首の締め合いが大嫌いなので、ぼくは断固今なおこの「三幸製菓」を(問題は問題として別に捉えるとしても)支持します。
そこをどうぞ、取り違えないようにしてください。ってまあ、今回の記事を最初から最後までずっと読んでくださっていれば、その気持も伝わるとも思うのですが。

というわけなんですが。
尤もまだ警察、消防の調査結果も出ていない現在、現場取材もしてなければ火災や労働災害の専門家でも全くないぼくがこの事故の原因だったり複数もの犠牲者について言える有益な情報は正直、何ひとつありません。
ですが、あくまでこれ以降、食品製造の現場に携わってきた身で、色々と捉え直していくとしましょう。

挿画:考える

悲劇が起きた包装工程

さて、それでは今回のこの火災について追ってみるとしましょう。
報道によれば、今回火災が発生したのは、前回にご紹介した3工場のうちの「荒川工場」です。

「三幸製菓」の製造工場
  • 新崎工場(敷地13,140㎡)
  • 荒川工場(敷地77,829㎡)
  • 新発田工場(敷地60,986㎡)

前回の通り「荒川工場」はこの「三幸製菓」の製造のメインとなる基幹工場であり、このように敷地面積も一番広い。
なんでも本場新潟の米菓業界内でも随一とすら言われる大規模な工場なんだとか。
「三幸製菓」の製造している米菓はバラエティに富んで多岐にわたるのですが、それらの製造の主たる製品をこの工場でまかなってきた。この「荒川工場」はそういう、基幹工場です。

で、その「荒川工場」で、7つある棟のうちで火事を起こしたのは、南に位置する「F棟」であるという。
製品倉庫、資材倉庫、事務棟や研究開発施設(製造とかねることも多いでしょうが)などを含めて残り数棟のうち、これはあられやおかきを製造していたメインの製造棟だ、となんとなく想像が付きます。

で、そう考えながらふとネットを回っていると、「新潟日報」さんのところに、火事となった製造棟の見取り図が掲載されていました。

参照画:三幸製菓荒川工場
新潟日報

成程。
この図から、ある程度の現場の工程への想像が付いてきますね。

「米菓」の製造を考えた場合、工程としては一般的に、このような流れになる。
まずはもち米を蒸して「製餅」し、それを適切な大きさに「切断」し、それを「乾燥」させてから、焼き上げて「焼成」し、それを調味料に漬けて「味付け」して仕上げ、「包装・梱包」する。
その流れが、この見取り図からも見てとれるでしょう。
つまり図で言うと、下からぐるっと左回りにラインが進み、製品が作られていく。

もう少し具体的に説明しましょう。
この工場ではまず右下の「生地エリア」に、資材であるもち米が搬入されます。
ここでもち米が蒸されて、「製餅」されます。
それを次のエリアで「切断」し、今度は「乾燥」エリアに運ばれ、「焼きエリア」の焼成工程に移される。
そうして加熱加工されたものがコンベアで流れて味付けエリアに向かい、タレなどで味付けされ、そこで完成したものが「包装エリア」にむかっていき、包装がなされ、そして製品倉庫に流れていく。

とまあ、概ねのこの工場のモノの流れはつかめました。
で、死亡が確定された女性4人は、包装エリアにいたという。

さて、これだけの規模の工場です。
一般的に包装ラインというのは、ここには加熱された製品がダイレクトで暴露したまま流れてくるところだから、HACCP上での清潔作業区域となります。
つまり、微生物汚染がないよう、他のエリアとはゾーニングが違う、というわけです。
当然ながら、汚染された生地製造エリアとは図の上下で隣接しているように見えてその実、ガッツリと区分けされていることでしょう。

「製餅エリア」「乾燥エリア」「焼きエリア」…と続いて、この焼成工程によって微生物は加熱殺菌されることになります。(いわゆるHACCPでの重要管理点がここになります)
となると清潔な状況をあとは保たなくてはいけなくなります。

ましてや、これらのせんべいやおかきは、長期常温保存。
つまりカビの問題が何より懸念されるものです。
だからこの包装エリアは、焼成エリアなどと完全にパーテイトされ、菌数の低い清潔な状況を維持しなくてはならない。
つまり女性数名が亡くなったこの包装室というのは開放空間では全くなく、しっかりとした間仕切りがなされた、かなり閉ざされた空間だった、ということがそこから読めるでしょう。

当然このレベルの工場です。
他工場とはいえ、FSSC22000認証を取得している企業ですからね、最低限このくらいはガッチリとやっていることでしょう。
例えばこの火災の際、製造切り替えの休稼時間に数名単位で、包装ラインの機材を清掃していたという。
全く言われませんが、これだって結構ちゃんとしています。
そりゃ合間の時間に清掃するのは当たり前だ、自分でやらないとそう思うかもしれませんね。
でも実際には、なかなかそれだって、そうしっかりとはなかなか出来ないものです。

しかし反面、そうした明確なエリア区分はそれを厳密に行えば行うほどに、隣接エリアの影響を排除することになるのだから、ことこうした災害が発生した場合、場内のエリアの状況が伝わりづらい、ということにもなりかねない。
一般的に、包装エリアというものは場内の区画上、そうなりがちなものです。
で、その結果に逃げ遅れ、避難経路を見失ってしまったのではないかと思います。

挿画:消防車

今回の火災事故の問題点を考える

さて、今回の火災において、報道などを見る限り、いくつか問われていることがあります。
まず最初の一つ目は、火災で工場内が停電になった、その際に誘導灯が点灯しなかったのでは、という問題です。
ですがこれは本来であれば、電気系統や蓄電構造などからも、そんなことはまずもって考えられないことです。だって停電で消えたら全く役に立たないですからね。そんなことも判らずにコストをかけて導入するほどバカな企業はありません。
でもそれが報道の通りに「もし」「本当」なのだったら、それは企業側の大きな責任問題となるでしょう。
…ていやあ、ありえるのかなー、そんなこと。普通は、ないです。

とはいえ火災事故を起こしてしまったので言い訳はできないでしょうが、例えば、避難誘導灯などの不備を消防から指摘されたけれど、対応報告が記録されていないじゃないか、という点。
これもですね、各報道が鬼の首を取ったかのようにドヤっていますが、それじゃあ全てが全て漏れなく対応記録されていますか、消防からの指摘対応は完全に完璧ですか、と問われて胸に手を当ててドキっとする工場が世のほとんどだと思いますよ。

まあ、こういうのは「だからメディアというものは」って話になりがちなんですけど、さらに報道を覗くと、ときに
「作業員ら複数の関係者への取材で、日常的に工場の床に機具などが散乱し、火災当日もスムーズな避難を妨げていた」
なんてのを見たりしましたが、どうなんですかねこれは。

まずこの話自体が「荒川工場」の一体どこのエリアに対してどう話しているのか、その実状はわかりません。
ですが、こと数人が亡くなった包装工程や、あるいは生地製造などの室内について言うのであれば、機械のメンテナンス時などは別として、製造稼働時間にそんな「日常的に工場の床に機具などが散乱」なんて、普通、一般的にはまずありえないですよ。少なくとも、このレベルの食品工場においては常識的に。

当然、工場というのは製造施設ですから、様々な機械や資材、仕掛品、製品、容器、包材などなどが並んでいるものです。
ですからそれがいついかなるときにも確実に「スムーズな避難を妨げていない状況を維持している」なんてのは余りに非現実的な話としかいえません。

それと、食品衛生の専門家としてお話しますが、では一部報道が言うように「整理整頓が徹底されていなかった。本社の視察の時だけ取り繕うような風潮があり、安全対策を軽視していた面があ」ったのだろうか。
作業員の告発みたいで、いかにもここには「けしからん」臭が立っていますよね。
では、これを聞いて耳が痛くならない、それが完璧になされている工場って、世にどれだけ存在していると思いますか?
まあ、日本全国、大手から中小まで、そんな工場なんてほとんどない、というのが実状です。

そもそも「整理・整頓の徹底」とは一体、工場のどういう状況のことを言っているのでしょうか。
これ、そんな簡単じゃないんですよ。
ぼくらはそれを指導する立場なので、それがいかに上っ面ではそれっぽく伝えられるものの、実際に工場という現場に落とし込むことが難しいか、それが根付くことが言うほどに簡単でも単純でもないか、というのをイヤというほどに身を持って知っています。
そうした専門的な指導や訓練もなしに、「整理整頓が徹底される」なんてことは、普通、なかなかありません。

では試しに、質問です。
工場においての「整理」とはどんなことかを説明した上で、そしてそのために具体的には、どうすればいいかを示してみてください。
では、「整頓」は?
では、「徹底」は?

で。
こう尋ねると、例えば「整理・整頓とは」なんてものをネットでググるわけです。
すると、そこにはいくらだって、答えに「一見」あたりそうなことが並んで出てきます。
そう、真っ先に、いわゆる「5S」というものがそこにさぞやあがってくることでしょう。

5Sとは:整理・整頓・清掃・清潔・躾
  • 整理:「いるもの」「いらないもの」を区別し、「いらないもの」を処分すること
  • 整頓:「いるもの」の保管場所を定め、正しい箇所に保管すること
  • 清掃:現場を問題発生のリスクを軽減・回避できる衛生レベルまできれいにすること
  • 清潔:整理・整頓・清掃が維持されている状況にすること
  • 躾(習慣):これらがルール化され、また日常的に習慣づけられていること

例えば、こんなふうにね。

でも、こんなことをズラズラっと並べて答えて知っているからといって「それがどうした」というのが「整理・整頓」なのです。工場での5S管理というものなのです。
畢竟、「5S」は、つまりは「整理・整頓」というのは、徹底しろと上が命じて出来るようなものでは、全くありません。
ここでは深くは触れませんが、なぜならそれは「仕組み」に根付かないから、です。

ちなみにこの「整理・整頓」については、別途また「5S管理」に関しての記事を書くことにします。

挿画:仕組みを考える

リスクをリスクと認識する難しさ

おっと、ここで誤解なきように。
ぼくは別に火災を起こした工場に問題が全くなかったと言っているわけではありません。
ではなく、現実的にありえない話で「けしからん」を煽る意味は全くない、ということです。

寧ろぼくからすれば一番の問題は、「危険な状況が日常の光景」になっていた点、に尽きるかと思います。

とくに、何度かボヤを起こしているにも関わらず、火災報知器が鳴っても作業が普通に続けられていた、という。
つまり、危険を知らせているにも関わらず、それをスルーすることが恒常化していた。工場だけに。

…いや、ごめんなさい。
冗談じゃなくて、ここは食品衛生上でも通じる話なので、やはりポイントとして今回よく押さえておきたいところです。

というのも、異物混入というぼくが専門に扱うジャンルなども同様なのですが、こうした事故というのは、得てしてある異常な状況が続くことでそれが危険ととらえられなくなることによって発生するものです。

ちょっとウチの専門に引き寄せて考えてみましょう。

例えば、製造室のドアが開放状況のままになっている。
例えば、製造ラインの操作盤上にものが置かれている。
例えば、昆虫の発生が続いている
例えば、着衣着帽の乱れが横行している。
例えば、ローラーがけや手洗いなどの入場ルールにゆるみが生じている。
例えば、清掃不良が忙しさで当然化され、指摘されても「知ってるよ」で終わっている。
例えば、場内への持ち込み制限品が、普通に製造エリアで使われている…。

こういうことは、実際こうやって考えてみると「そりゃよくないよね」と誰もが至極当たり前に思うことでしょう。
しかし慣れというのは、怖いもの。
「当たり前」の光景化というのは割とたやすく陥るものです。

結果、それが日常的に行われ、「異常」と思われなくなる。光景化する。
つまりはリスクをリスクと認識できなくなる
このときに、異物混入事故しかり、事故というものはしばしば発生するものです。

このように食品衛生であろうが安全対策であろうが、リスクマネジメントというものは、そもそもからして、そこにあるリスクをリスクとして捉えることで始まるものです。
そして、だからこそ逆を言うなら、多くの事故が起こる場合というのは、そこにあるリスクがリスクとして捉えられなくなり、マネジメント=管理から外れてしまうからこそ、発生するのです。
何故かといえば、それがもたらすリスクが軽視され、やがてどうして危険なのかも理解・共有されなくなる結果、リスクマネジメントの仕組みが機能しなくなり、そのリスクが高まっていることを認識できなくなるからです。
おそらくこの点においては、食品衛生も、また安全対策というのも同様なのではないでしょうか。

挿画:リスク

まとめ

というわけで、今回は前編・中編・後編と三部にわたって「三幸製菓」で発生した火災事故についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら中編では、食品工場を熟知しているものから見た今回の火災についての考察と、食品衛生の専門家としてリスクマネジメントの観点からの問題点について触れさせていただきました。

次回の後編では、業界への影響、そしてこの「三幸製菓」の人気商品について実際に食べた感想などもお伝えしたく思います。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画:ビジネスイメージ

 

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