★公開日: 2022年2月13日
★最終更新日: 2022年2月13日
「除菌」、「殺菌」、「滅菌」、「消毒」。
割と一緒くたに混合して使われることも多いこれらですが、ではどのように違うのでしょうか。
今回は、これらの違いや特徴について、食品衛生の専門家の立場から詳しく解説していきたいと思います。
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

「ばい菌ゼロ」ってどういうこと?
つい先日の2月10日、次のような記事を書きました。
というのも、2月10日は「ばい菌ゼロの日」だというのです。
ですが、ちょっと待った。
そもそも「ばい菌」って何でしょうか。
これに対し、しっかりと答えているところって、意外と少なかったりします。
そこで上のような記事を書いたわけなのです、が!
しかし、そこでもう一つの疑問がわくわけですよ。
その「ばい菌」が「ゼロ」ってどういうことよ、と。
いや、果たしてそもそも出来るのかその「ばい菌ゼロ」って、と。
そりゃ雰囲気だけで「ばい菌ゼロ」って言うのは簡単だし、耳障りよく聞こえるけれど、でも微生物の生存を完全にそこからなくす、というのはそんな単純でも簡単でもなかったりするのです。
だって、「ばい菌ゼロ」だー!と手洗いするにはいっこうに構わないのですが、しかし、では本当に人間の手指に微生物の生存を「ゼロ」状態(滅菌)にするぞといったら、その手の細胞自体を殺すことになります。
これはちょっとありえない話だ、ということになるでしょう。
で、本来であればそうした解説を「ばい菌ゼロの日」企画として二部構成にし、後編でやろうと思っていたんですが。
ちょーっと時間がかかりそうだったので、別枠扱いにして新たに記事にしたのが、今回のこのテーマです。
ではその微生物が生存しない「ゼロ」状況にするには、どうすればいいのか。
「除菌」「殺菌」「滅菌」「消毒」とは、それぞれ一体どういうことなのか、
それらは何が違うのか、について追っていってみたいと思います。
なお、これらの用語はしばしば、ぼくの専門とする食品衛生のみならず、医学や微生物学、食品工学などの分野にも多々横断しながら多種多様に用いられてもいるのが実状です。
なので、ここでは「原則、食品衛生の観点から」を主として解釈することにしています。あしからず。

「除菌」とは
さあて、一見どれもそんなに大きくは変わらなそうに思えてしまう、「除菌」「殺菌」「滅菌」「消毒」。
これらがどう違うのかを一つ一つ探っていくとしましょう。
しかもそうすることで、微生物への求められる対する対応が見えてくるから、なかなかに面白い!
ではトップバッター、「除菌」からいきましょうか。

「除菌」。
その名からは、「菌を除く」という、ある箇所に対してのみ微生物を排除するような、そんな局所的な対処がイメージしませんかね。
実際、「除菌」(Removal of microorganism)とは、ある空間、ある任意のポイントに生息する微生物の生息数を何らかの物理的手段によって減らすことで、微生物による汚染をへらすこと、だとされています。
「Removal of microorganism」とあてられていることから、微生物の「系外排除」、要は「どっかに除きどけること」が目的であり、そこにおいて微生物の死滅や生存の有無を問わないのが特徴です。
しかもこの「減らす」度合いや数量、つまりどのくらいの菌数を減らすか、についての規定は存在しません。
だから意地悪に言うなら、少しでもその空間の微生物量が減れば「除菌」とも言えるし、先の通りに「ばい菌がゼロ」にならなくても減数すれば「除菌」と言うことも出来るでしょう。
あるいは別に何か薬剤を使わずとも、さっと何かで拭き取る作業でも、「除菌」というのはできそうなイメージがありますよね。
例えば、その空気中には微生物は浮遊していて、しばらく後にはそれが落下してくるであろうという、どこにでもある室内空間。
まあ、ぼくやあなたが今、そこにいる空間が恐らくはそれに近いでしょう。
で、そんな空間のパソコンテーブルにぼくは今座っているわけなんですけど、この机の上にアルコールを散布し、さっと拭き上げたら、「除菌」。
そりゃ確かに拭き上げた瞬間には微生物数は一時的に減少するでしょうが、しばらくすれば空気中の浮遊菌がフワフワ落ちてくる。あなたが今そこにいる空間の、そのテーブルだって同じです。
また手洗いやうがいなどもそうですね。
そこにある微生物を除去する、という意味ではこれもまた「除菌」といえるでしょう。
このように「除菌」というのはかなり曖昧で幅広い表現であり、よって厳密性を求められるような学術的な世界ではあまり使われることはありません。
しかし食品衛生からすると、実はこの「除菌」に関しては、食品衛生法の省令での法的規定があるんです。
【食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について】
第一 改正の要旨
近年のミネラルウォーターに係る製造技術の進歩、消費者のし好の多様化並びに諸外国における生産及び流通の実態等を勘案し、清涼飲料水のうちミネラルウォーター類(水のみを原料とする清涼飲料水をいう。以下同じ。)の殺菌方法等の改正及び殺菌又は除菌(ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を除去することをいう。以下同じ。)を要しないミネラルウォーター類の製造基準等を設定するなど、清涼飲料水の成分規格、製造基準及び表示に係る規定を一部改めたこと
つまり食品衛生においての「除菌」とは、食品内に存在・発育する「微生物」をフィルターや水などで物理的に除去することだとしており、つまりはカビ(真菌)や細菌、ウイルスまでを含むことが書かれています。
また洗剤、石鹸などの業界団体「洗剤・石けん公正取引協議会」は、おそらくはJIS規格を参考にしているのでしょう、「黄色ブドウ球菌、大腸菌の2菌種において、それぞれ除菌効果のない対照試料に対し、生菌数を1/100以下に減少させる能力があること(除菌活性値2以上)」を「除菌」に対する自主基準として定め、独自表示を認めているようです。

「殺菌」とは
さて、次は「殺菌」です。
「除菌」の「除く」よりもちょっと語彙が強いですね、なにせ「殺す」ですから。
「殺菌」(Pasteurization)というのは、その文字通りに、微生物を「殺す」ことです。
「除く」と違って「殺す」ためには、微生物を死滅できていなければいけない。その科学的根拠が必要になります。
しかし一方で、その「殺す」対象や数量についての規定は存在しません。
そのため、ある微生物には効果があるけれど他の微生物には効果がない。そういう薬剤でも、微生物のほんの一部を殺しただけでも「殺菌」といえることになります。
例えば、とても頑丈で強い芽胞形成菌などは殺せないけれど、そうではない細菌になら効果がある。そういう場合でも「殺菌」と呼ぶことが出来ます。
実際、「殺菌」の対象には芽胞形成菌は含まれていないのが実状です。
この「殺菌」と「消毒」は、いずれも薬機法で表記が定められているものです。
そこでは、「殺菌」と称することができるのはその対象である「医薬品」と「医薬部外品」のみ。
なのでそれに含まれない洗剤、漂白剤などの「雑貨品」には「殺菌」あるいは「消毒」と表現することができません。
しばしば市販の薬剤やスプレーなどに「除菌」などと書かれているのは、その効果はさておき、このように法律上の商品の扱いとして「殺菌」と表現できないからです。

「滅菌」とは
続いての「滅菌」(Sterlization)は、その「殺菌」よりも語彙が強まりますね。なにせ「滅する」わけですから。
実際、「滅菌」というのは、そのとおりに細菌やウイルスを「滅する」こと。つまり、ある任意の空間内に生存する微生物を死滅させることです。
その点において、微生物管理上で最も厳しい対応ですし、普通に考えられるよりも大掛かりで強力な措置が必要になります。
そしてそのための滅菌法として、次のようなものを挙げています。
日本薬局方で定めている滅菌法 |
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あれ、と思います。
煮沸滅菌法などでは全ての微生物が死滅はしないだろ、と。
でもそう定めているのだから、仕方ない。
いずれせにしたって、微生物数を完全にゼロにすることは現実的ではありません。
そこで日本薬局方ではこの「滅菌」に対し「被滅菌物の中の全ての微生物を殺滅又は除去することをいう」としたうえで、「無菌性保証レベル」として国際的にも用いられている微生物生存確率100万分の1以下を採用しています。
今回これまで取り上げた「除菌」「殺菌」「滅菌」などのなかで、唯一、この「滅菌」だけが、このように微生物生存数が数値で表されていますね。
このように「ばい菌ゼロの日」をもしその言葉通りに受け止めるのであれば(そして一般的な微生物を「ばい菌」とするのであれば)、「ゼロ」、つまりこの「滅菌」によって「微生物の生存をさせない状況」にすることになり、とても現実的な話ではなくなってしまいます。

「消毒」とは
ラストは、「毒」を「消す」として、「消毒」。
ここには色々な意味が含まれそうですね。
「消毒」(Disinfection)とは病原体を死滅、除去させることで、感染症などの有害性を生じさせない程度にするなどして、毒性を無力化させること、だとされています。
つまり「消毒」の目的はあくまで、人体や対象の体(家畜などもね)に対する「無毒化」であって、微生物の存在の有無というのは手段でしかない。
例えば「消毒殺菌」という場合、「殺菌」という手段によって、無毒化つまり「消毒」の目的を果たす、という状況が説明されることになります。
ですが、別に「消毒」は必ずしも、イコール「殺菌」、を意味しない、ということになります。
ちなみに「消毒」も「殺菌」同様、薬機法上での用語とされており、「医薬品」「医薬部外品」としての認可があればそこに表現することが許されています。

それ以外の微生物制御の用語
これら以外にも割と使われがちな微生物制御用語というのも存在します。
食品衛生の界隈では「サニタイズ」(Sanitize)なんてのもそうかもしれませんね。
これは食品衛生、公衆衛生、環境衛生などで使用される用語であり、清掃・洗浄、さらには防カビの意をも含めて「微生物汚染を求められる許容範囲まで低下させる」といった意味のものです。
あと、食品衛生ではあまり使われませんが、ぼくらの日常生活のなかで最近よく使われるようになったのが、「抗菌」というものです。
この「抗菌」というのもかなり広く使われる曖昧なものでもあるのですが、一応、経済産業省によって「当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」とされています。
この場合、細菌、と対象が定められているので、カビ(真菌類)はそこに含まれません。
またこの「抗菌」に関しては日本工業規格(JIS Z 2801)において、黄色ブドウ球菌と大腸菌に対し、定められた試験法のもとで「増殖割合1/100以下(抗菌活性値2以上)」という規定があります。

まとめ
今回は「除菌」、「殺菌」、「滅菌」、「消毒」について、食品衛生の立場から解説させていただきました。
一般的なイメージから、それとなく使われているこれらですが、実際はこのような違いがあるのです。
ちょっと簡単に、ポイントをまとめてみましょう。
「除菌」、「殺菌」、「滅菌」、「消毒」の違い |
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以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
