★公開日: 2022年2月10日
★最終更新日: 2022年2月13日
本日、2月10日は「ばい菌ゼロの日」であることを皆さん、ご存知でしたか?
さてここで、質問。「ばい菌」とは一体、何でしょうか?
それは新型コロナウイルスは、カビは、大腸菌は、乳酸菌は、含まれるのでしょうか。
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

2月10日は「ばい菌ゼロの日」
皆さん、本日2月10日は何の日だからご存知ですか?
実は2月10日は、「ばい菌ゼロの日」、だというのです。
実はこの「ばい菌ゼロの日」というのは、2020年11月に制定されました。
ということは、今日の2022年2月10日で、2回目の「ばい菌ゼロの日」となります。

この「ばい菌ゼロの日」を制定したのは、名古屋の清掃業者「A-one」。
2月10日というのは、2→1→0、と減っていく様子になぞらえた、とのことです。
さて、ここで改めて冒頭の問題です。
皆さん、「ばい菌」とは一体、何でしょうか。
それは新型コロナウイルスは、カビは、大腸菌は、乳酸菌は、含まれるのでしょうか。
これらを、今回は考えていくとしましょう。
「ばい菌」って何? |
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「ばい菌」とは
さて。
「ばい菌」とは一体なんでしょう。
まずは辞書で、この「ばい菌」を調べてみましょうか。
「ばい‐きん【×黴菌】 の解説」
人体に有害な細菌などの微生物の俗称。転じて、汚いものや厄介もののたとえ。
(goo辞書)
「ばい菌」とは「人体に有害な細菌などの微生物の俗称」である、とこのように上のWeb辞書にはありました。
うーん…。
なんだろ、わかるような、わからないような、そんな割とざっくりした説明ですね。
とりあえず、「俗称」であるというのだから、学術用語などの類ではない、一般的な名称なので、そこらへんの細かな分類も曖昧なのだ、というのがわかります。
実際、この「ばい菌」というのは、俗称ですから、生物学的な名称などでは当然ながらありません。
ですから、ある特定の微生物を指して、生物学上でこれこれは「ばい菌」だ、というように分類されているわけではないです。
「ばい菌」に似た名称で、「雑菌」というのがありますね。
こちらの「雑菌」は、「ばい菌」よりも専門性が、ほんの少しだけですが、高まります。
んじゃ、こっちの「雑菌」も調べてみましょう。
雑菌(ざっきん、Germ)とは、日常生活や生物学研究、産業としての発酵(醸造/発酵食品生産の場)などの場において、人間の意図に反して増殖した微生物(特に有害な細菌や菌類)の総称である。
これらは通常、環境に普遍的に存在する微生物に由来するため、これらの環境微生物のことを指す一般的な名称として用いられる場合もあり、この場合はウイルス(ビールス、ヴァイラス)や細菌、菌類全般を意味する黴菌(ばいきん)とほぼ同義に用いられる。
(Wikipedia)
おお、流石はぼくらのWikipedia。
詳しくわかりやすく、しかもサラっと「ばい菌」の説明もソツなくこなしてるぞ!
Wikipediaによれば、「雑菌」とは、「人間が意図しないで増殖してしまう微生物」だという。
つまり、意図して繁殖させるようなもの、例えば「発酵」だったり、あるいはあえてその微生物を培養している場合などではないのに、勝手に増殖してしまうという、かなり人間目線の、かなり人間都合の、かなり人間サイダー目線から見た、「予想外」の微生物だという。
しかもWikipediaさんの鋭いところは、この次。
「ばい菌」とは、「通常、環境に普遍的に存在する」「環境微生物」と、言っている。
整理するなら、「ばい菌」てのは「普通に環境にいる微生物」なのだ、という。
これは鋭いですねー。
これ、面白いので、後でまた触れるとしましょうか。

「微生物」とは
さて、「ばい菌」とは何かをお話する前に、「微生物」というものについて簡単に解説しておきましょう。
皆さん、「微生物」とはなんでしょうか。
結論から言うなら、「微生物」というのは、端的に言うなら、微小な生物の総称です。
人間の目で見てもあまり見えないような、そんな非常に小さな生物をひっくるめて、「微生物(microorganism)」と呼んでいます。
ですから、「ばい菌」よりは遥かに科学的専門性の高い名称にはなりますが、しかしそれでもこれもまたある特定の生物を生物分類学的に指しているわけではありません。
とはいえ、一般的に「微生物」といったらある程度の生物的分類を含むことになります。
例えば、大腸菌や乳酸菌などの「細菌類」。
例えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やノロウイルスなどの「ウイルス」。
例えば、カビや酵母などの、「真菌類」。
これらは、みな「微生物」として扱われます。
さらには、「キノコ」もまた微生物、しかもカビと同じ「真菌」の仲間だったりします。
なぜなら、ぼくらが普通にキノコだと認識して普通にいつも食べていたりするものは、実はあれは「子実体」というものであって、本来のキノコ自体は非常に小さく細い糸状の「菌糸」によって生きているからです。
ちょっと乱暴に言ってしまうと、キノコとカビの違いなんて、「子実体」(キノコとして食べたりするものね)を作るかどうか、くらいのものだったりもするのです。
微生物の分類 |
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「黴菌」とは
なるほど、「ばい菌」とは辞書のとおりに「人体に有害な細菌などの微生物の俗称」だとする。
で、上の項でその「微生物」というのは、「細菌」や「ウイルス」や「カビ」まで含まれることもわかりました。
さて。
何度かもう出てきていますが、「ばい菌」を漢字で書くと「黴菌」となります。
難しいな!
微生物の「微」に似てますけど、「黒」みたいなのが入ってますね。部首の「黑(くろ)」です。
実はこの「黴」は、音読みは「ばい菌」の「バイ」ですが、訓読みだと「かび」となります。

【黴】
[音]バイ(慣) [訓]かび かびる
1.かび。「黴菌」
2.性病の一。梅毒。「黴毒/駆黴・検黴」
3.黒ずむ。暗くかすか。「黴雨」
(goo辞書)
微生物の「微」に「黒ずむ」の意の「黑(くろ)」を入れて、「黴(かび)」。
それが「ばい菌」の「黴」であり、元々はカビを意味するものだった。
さて、「菌」というのは、今とは少し違って実は元来は「キノコ」を示すものだった、と言われています。
あるいは、カビや酵母などの「真菌類」を指していた。
ということは、元々「ばい菌」とは「黴菌」、つまり「カビ」のことを意味していた、と解釈することも出来るでしょう。
尤も、時代が変わればその言葉の意味というのは変わっていくものですが。

「ばい菌」とは「病原体」なの?
さあ、何となく「ばい菌」というものが見えてきましたね。
ここで、もう少し違う側面からの目線を入れてみるとしましょうか。
「病原体」と呼ばれるものがあります。
これは何か。
人間に病気、つまりは「感染症」を起こさせる微生物のことです。
前に「感染症」の話で、これ解説しましたよね。
詳しくはこちらをどうぞ。
勿論、これは生物分類学上での分類ではありません。
あくまで主体は、ぼくら人間。人間から見て、「いい」か「悪いか」、です。
言ってみれば、生物科学的ではなく、病理学的な立場からの、分類。
それに基づくのであれば、微生物というのは人間に対して別段何も健康上の被害をもたらさないものと、病気をもたらすものに分けられます。
つまりは、「病原菌」と「非病原菌」です。
で。
ここまで踏み込むと病理学の世界になるので、食品衛生の領域であるぼくの専門ではありませんから、さらっと触るだけにします。
(微生物はその両方を渡るので、こういうことがまま起こります)
「感染症」の原因となる微生物を「病原体」と言います。
で、その延長に「病原菌」という名称がどうもあるようです。「あるよう」というのは、ぼくが専門じゃないのでよく分からない、という意味です。
で、この「病原菌」とは、どうやら「病原性微生物」という意味なようで、そこには細菌類ならぬウイルスも、そこに含まれるようです。
…ごめんなさい。
ここまでくると本当に医療の世界の話なので、ぼくら食品衛生の専門家が踏み込むのはもう、ここらへんまでにしておきましょう。

「一般生菌数」とは
ということで、ぼくの専門分野である食品衛生の世界に戻るとしましょう。
さて、先程ですが、Wikipediaで面白いことを言ってましたね。
というのも「雑菌」なるものを調べるうえで出てきたこれ。もっかい、引用してみましょか。
雑菌(ざっきん、Germ)とは、日常生活や生物学研究、産業としての発酵(醸造/発酵食品生産の場)などの場において、人間の意図に反して増殖した微生物(特に有害な細菌や菌類)の総称である。
これらは通常、環境に普遍的に存在する微生物に由来するため、これらの環境微生物のことを指す一般的な名称として用いられる場合もあり、この場合はウイルス(ビールス、ヴァイラス)や細菌、菌類全般を意味する黴菌(ばいきん)とほぼ同義に用いられる。
(Wikipedia)
面白いところに、赤線太字を引っ張ってみました。
先にも書きましたが、これを意訳すると「ばい菌」てのは「そこらに普通に環境のなかに存在する微生物」なのだ、となる。
つまり、「普通にそこらにいる微生物」こそ「いわゆる、ばい菌」なのだ、と。
で、この「いわゆる、ばい菌」でどのくらい汚染されているのか、を示すものが、食品衛生の世界にもあったりします。
つまり、それを調べることでなんとなくの指標ですが、「いわゆる、ばい菌」の汚染レベルを評価出来る、という結構捗る存在です。
で、それが「一般生菌数」(viable bacteria count)というものです。
この「一般生菌数」というのは、食材や製品自体、あるいはそれを作っている施設の拭き取り検査や落下菌検査など、食品微生物検査の世界でよく使われている指標です。
しかもこの「一般生菌数」はかなり実用的なので、食品衛生法においても、様々な食品に関する「規格基準」として、一般生菌数の制限が定められていたりもします。
例えば、「ローストビーフ」というのは、食品衛生法上「特定加熱食肉製品」と定められているのですが、その条件としてこの一般生菌数が1万以下とされています。
なのでこれ以上のものを商品として市場に出すと、法令違反となります。
つまりこの「一般生菌数」というのは、食品やそれを作る環境が微生物=「ばい菌」にどのくらい汚染されているのかを数値として検出する、言ってみれば食品製造上での微生物に対する一番代表的な衛生指標、なのです。
さて、ではこの「一般生菌数」としてカウントされるものとは一体何なのか。
それは、教科書的に言うなら「ある一定条件下で発育する中温性好気性生菌」のことだ、となります。
はい。当然ですけど、何を言ってるかわからないですよねー。
でこれを「すげー意訳」するならば、こうなります、
とどのつまり「一般生菌数」とは「普通に人間が生きて、普通に食品を作る環境で、普通に増えるばい菌の数」だ、と。
微生物というのはすごいもので、どんな劣悪な環境でも生きて、増えたりするクソしぶといものが結構あります。
極寒、高熱、無酸素、高酸度、それがどうした。
ですが、ぼくら人間が普通に生きるのってそういう環境じゃない。
ちゃんと「空気」があって、ちゃんと「温度」があって、で菌からすれば、そこにはちゃんと「栄養」がある。
だからこそ、増えるんだ。
そういう「普通に人間が生きる環境で、普通に食品作ったら、普通に生きていそうな、ばい菌の数」を、「一般生菌数」として、衛生指標にしているのです。
「一般生菌数」の対象条件 |
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そう、食品を作ったり調理したりする環境条件とかなり似てますよね。
なので、そこで増える可能性のある菌の多さを「一般生菌数」として、「いわゆる、ばい菌」の汚染が少ない、多いを評価する。
それがこの「一般生菌数」というものです。
ということは、次のようなものは「一般生菌数」には含まれなくなります。
「一般生菌数」の対象外条件 |
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さて。
そろそろ、あれ、と違和感を思うかも知れませんね。
「ばい菌」とか言うけれど、それって人間にとって有害な菌だけじゃないんじゃないか。
例えば、発酵などに使われる乳酸菌。
こういうのも、フワフワとそこらへんに漂ってますから、落下菌検査などを行えば、そこに検出されることでしょう。
でもそれって「ばい菌」なのか?
確かに乳酸菌(ラクトバチルス属など)は、腐敗や変敗の原因となるものです。それはついこの間記事にしたのでおわかりでしょう。
というと先の考えからすれば「雑菌」に近そうだ。
でもそれって「ばい菌」と言えるのか?
ここらへんは、かなり微妙なところになってきますよね。

まとめ
さあ、そんなわけで。やっとこさの「まとめ」でーす。
「ばい菌」とは何か。
ここまで至るなかで、色々と見えてきましたね。
とりあえず「ばい菌」というのは俗称だから、かなりアバウトだし曖昧だし適当だし感覚的だしで、どうやら「これらが科学的にそこに含まれます」という生物分類学的存在ではないようだ。
で、そのことを踏まえて、だからこそ世には古来、色々な「多分これが、ばい菌」論があるらしい。
ではどんなものがあるのか。
「ばい菌」って何なん? |
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どうでしょう。
ここらへんが、有力なものとなってはこないでしょうか。
でもこれ、かなり幅広い捉え方というか、「どうとでも取ろうとすれば取れる」ですよね。
まあ、だからこそのユルユルな俗称なわけです。
そうなると、冒頭の問題もそれら各々の解釈次第、となってきますね。
これは「ばい菌」? |
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と、こんなところでしょうか。
で、さて。
実は今回、この「ばい菌ゼロの日」話から、んじゃあ「ばい菌」ってのはある程度わかったとして、その「ゼロ」ってどういうことだよ、と踏み込もうと思ってたんですね。
「ばい菌ゼロ」って、おめー、記念日に制定するほど簡単な話でも全くねーぞ、と鼻息荒くしていたわけです。
つまり、今回はここからさらに「殺菌」だの「消毒」だのとはどういうことか、と進めたかったのですね。
でももう今回からもわかるように、それをやったらまた数回使ってしまいかねない。
なので、残念ながら、一旦ここで終えることにします。
近くこれら、「ばい菌ゼロの日」の「ゼロ」とは何か、つまりは「滅菌」や「殺菌」ってなんだ、ってお話をやりたいと考えてます。
これもこれで、踏み込むとかなり奥深いのですよ!
是非とも、お楽しみに。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
