★公開日: 2022年2月9日
★最終更新日: 2022年2月10日
食品衛生のプロが、気になったメディアのニュースを紹介・解説したり、あるいは日々の衛生管理業務で起こったお話などを、さらっと簡単に触れていきます。
毎週水曜日は、出来るだけ一週間くらいに起こった食品衛生界隈のニュースをさらっとまとめてピックアップしたいと思います。
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。
それでは、今週のニュースチェックです。

Contents
恵方巻きに鶏生肉が
【恵方巻きに生肉 「チキン南蛮巻き」など25本、福岡市で販売】
(2022年2月3日 20時04分)
福岡市は3日、同市東区のディスカウントストア「ダイレックス香椎店」で販売された恵方巻きの具材に、未加熱のチキン南蛮が含まれていたと発表した。
そのまま食べると食中毒になる可能性があるとして、注意を呼びかけている。
(朝日新聞デジタル)
2月3日の節分のため、チキン南蛮を用いようとした恵方巻の中に、鶏生肉が混ざっていた、というこちら。
鶏の生肉にはカンピロバクターやサルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌などの食中毒菌の汚染リスクがあるため、食中毒になりかねません。
とくに市場流通の鶏生肉におけるカンピロバクター(下画)はかなり高い保菌率だとも言われていますし、またカンピロバクターによる食中毒は数百個などの少量の菌数でも発症します。
大豆ミートが「肉の日(2/9)」デビュー宣言
【「大豆ミートも肉の日デビュー宣言」2030年までに代替肉の購入経験者100%目指す/マルコメ・大塚食品・ネクストミーツ】
(2022年2月7日)
大豆ミートでつくられた畜肉不使用の「ゼロミート」を展開する大塚食品、日本発の代替肉を展開するネクストミーツ、「大豆のお肉」シリーズを展開するマルコメによる3社が「大豆ミートも肉の日デビュー記念イベント」を都内で開催。2月9日に制定されている「肉の日」に向け、大豆ミートの魅力を存分に伝え、第4の肉として盛り上げていくことを目的に、SNSアプリ「SnapDish(スナップディッシュ)」を運営するヴァズ主催のもと行われた。
(食品産業新聞社)
「節分」(2月3日)つながりというか、「肉の日」(2月9日)つながりというか、まあそういうわけでもないのですが。
大豆ミートや代替肉を商品展開している「大塚食品」、「ネクストミーツ」、味噌メーカーとして知られる「マルコメ」らの三社が、2月9日の「肉の日」に向けて、大豆ミートの肉デビュー宣言イベントを行った、というのがこちらのニュース。
「大豆ミート」産業は、昨今のSDGsのみならず、日本の食糧問題なども含めてここ今後数年の食品業界の大きな成長産業になる、というかなってもらわないと困るフードテック分野です。
このことは年始にもお話しましたね。
そのため日本全国の多くの食品メーカーが、各社ともに製品開発に目下、力を入れている最中。
この2022年は、「大豆ミート」の年になるだろう、業界を見るものではそういう声が高まっています。
ではそれはどうしてでしょうか。次の項から、より詳しく迫ってみましょう。

昨今の味噌業界を眺めてみる
さて、本日の記事のポイントは、ズバリ、「味噌」です。
そう、先のニュースにて、ここでちょっと個人的に興味深く思ったのは、その三社の一つとして「マルコメ」が加わっているということなのです。
「マルコメ」といえば、日本の味噌メーカーのシェア率トップ企業。
それがこの大豆ミート市場戦線の最前線に既に加わっている、ということになります。
実はコロナ禍もあって、味噌の出荷量はここ数年、年々の前年割れが続いています。
にもかかわらず、昨今の食品値上げにともなって、味噌業界もまた値上げの必要性に迫られています。
大手では、「マルコメ」に続くシェア率2位の「ハナマルキ」が4月から値上げに踏み切る、と先日発表したばかり。
【みそ業界も値上げに突入か、中小は静観し動向を注視、内食回帰・巣ごもり需要継続の見通し、小売り需要さらに高まる】
(2022年2月3日)
みそ業界もやむをえず製品の値上げに踏み切るメーカーが増えてきそうだ。
大手みそメーカーのハナマルキが2008年3月以来の値上げに踏み切る。製品により約5~13%の出荷価格を4月1日から改定すると発表した。
(食品産業新聞社)
マルコメなどのように、大豆由来の発酵食品メーカーが、各々の発酵市場から新たな大豆ミートへの市場の可能性を見出し、開発にいそしみ新規参入してくる。
既に今とは、そういう時代になっているのかもしれませんね。
さてそんな一方で、これら「マルコメ」や「ハナマルキ」に差をかなり開けられてのシェア率3位ながらも堅調に業績を伸ばしているのが、「ひかり味噌」です。
この「ひかり味噌」は、このたびスパウトパウチの味噌香辛調味料、「つける味噌」の発売を新たに発表するなど、このところ売上を伸ばしています。
【ちょい足しに便利 万能調味料「つける味噌」 ひかり味噌】
(2022年2月9日)
ひかり味噌は3月16日、スパウトパウチの便利な万能香辛調味料「味噌屋のマスターブレンド つける味噌 梅」「同 麻辣」を新発売する。みそと料理の新しい出会いを届ける。
(食品新聞)
そしてそれを表すかのように、この2月には総工事費23億円もの新工場を、地元長野に新設。
これによって市場シェアの現状15%からの飛躍を狙う、とのこと。
【ひかり味噌 新設備を操業開始 環境配慮の設計で増産体制】
(2022年2月2日)
ひかり味噌は2月から、同社飯島グリーン工場(長野県上伊那郡飯島町)に隣接した新設備の操業を開始する。昨今のみそ需要拡大に伴い、新設備では年間約2万tの生産を行う。
(食品新聞)

味噌JAS制定と「大豆の時代」
ところで。
このようにどうして味噌業界にぼくが着目しているのか。
実は、味噌に対する日本農林規格、いわゆるJAS法が来月には公示されるからなのです。(麹だけに!)
これは有料記事なので詳しいところまで引用するわけにはいきませんが、すでに農林水産省は味噌JAS法案の骨子を定めており、味噌の海外への進出に向かっているところです。
【農水省、みそJAS制定へ 法改正で初の酒類も】
(2022.02.09)
農林水産省は7日、味噌の日本農林規格(JAS)案を固めた。事務手続きを経て年度内の3月末までに公示する。また有機酒類のJAS制定へ向け、JAS法を国税庁との共管とする法改正も行う。ともに政府が掲げる輸出拡大戦略の一環。「みそJAS」制定によって日本産味噌のブランド価値を高め、海外類似品との差別化を図る。また海外でワインを中心に有機酒類市場が拡大する中、省庁の垣根を越え、農水省は初めて酒類を法的に扱うことになる。
(日本食糧新聞)
味噌というのは醤油に比べて、未だ日本の各地で多くの中小規模の企業の多様な種類の商品が市場に出回っています。
上のトップシェア率三社、「マルコメ」「ハナマルキ」「ひかり味噌」がいずれも長野県の企業であり、つまりは信州味噌をベースにしており、またそこまで大規模な大企業ではないこともそれを示しているでしょう。
このように一重に味噌といっても多種多様です。
また加熱殺菌をしないものが多いので、つまりは乳酸菌(昨日話したばかりです!)や酵母などが残存したままのものが多いため、規格基準での微生物基準を定めづらい。
そう言われてきたのですが、ここにきていよいよ固めるようになった。
そういう流れのようです。
「てゆーかそもそもJAS企画って何?」というかた。
ウチでは勿論、そんなかたにもわかりやすく説明した記事を書いています。
さすが、わかりやすさでは定評の高薙先生!(自画自賛)
詳しくはこちらでどうぞ。
ちなみに今回の話題である「大豆ミート」もまた、JAS規格の制定に向かっているのも記憶に新しいところ。
これは昨年末の話題ですね。ちょうど忙殺されててここの更新が停滞していた時期で(汗)ついつい挙げそこねてしまいましたが。
【「大豆ミート食品類」JAS規格制定へ、「大豆ミート食品」は大豆たん白質10%以上/農林規格調査会】
(2021年12月15日)
農水省は12月14日、日本農林規格調査会を開き、大豆ミート食品類の日本農林規格(JAS)制定などについて議論した。同調査会に対して、金子原二郎農水大臣が規格制定を諮問したもので、調査会は大豆ミート食品類を「大豆ミート食品」と「調製大豆ミート食品」の2種に規定する規格案を示した。
(日本食糧新聞)
これらからもわかるように、ぶっちゃけ歩みの遅かった味噌業界も、このように革新の波が押し寄せているのです。
どうでしょうか、ぼくが今回取り上げたかった理由も、こうやって見てみるとおわかりかと思います。
そして皆さん、食品業界のトレンドとしてよく覚えておくといいでしょう。ズバリ、この2022年は「大豆」がポイントです。
つまり、言ってしまえば「大豆の時代の到来」です。
(あれこれ年始にいい損ねたかな?)
…いや、ちょっと違うな。
言い直します。
今年というよりも、この2022年から「大豆」の重要性が、世界市場ではどんどんと日を追うごとにこれから高まっていく。
そういう時代に突入する、いやもう片足ずっぷし突っ込んで突入しているのはもはや間違いありません。
だって、腰が重くて重くて重くて重くて、やれ海外に先んじてとか構造的に出来ない、世界をキョロキョロして「ああこれがグローバルスタンダードなんだ」と理解してからようやく動き出す(上へのご相談が成り立つ)、じゃないと動くことも出来ないという本当にどうしようもないグズなこの日本のお上ですら、こうやって対応を着実に始めているんです。
というかむしろ、この日本のグズ行政が動き始めているんだから、もう世界じゃとっくに動いている。そう思っていいでしょうね。
だって、みんなお肉食べたいですよね?
世界中、肉食べないでいられますか?
で、人口増えるんですよね。
で、SDGsだってこんだけ叫んでいるんですよね?
そりゃ当然の帰結で、そうなりませんか?
なので、これは予言だの予測だの予想だのといった類ではなく、すでに今進んでいる現在進行形の「事実」です。
の割にあまり言われていませんがね。

貝印、食品包材開封時の異物混入防止用ナイフを開発
さて、こちらは変わって。
ちょっとこれ、ニッチだけど面白い目のつけどころです。
カミソリなどの刃物を用いた調理用品や化粧道具、衛生用品を販売する「貝印」が、食品工場での包材開封のためのフックナイフを発売する、ということです。
【貝印、食品包材開封時の異物混入を防ぐ「フックナイフ」】
(2022年2月7日 14:21)
貝印は、食品工場での包材切断に向けた「異物混入対策フックナイフ」を、2月に発売する。貝印からの出荷は1カートン(200本入)単位、価格はオープン。
(Impress Watch)
確かに食品への異物混入のうち、ビニール片やポリ片などの「合成樹脂」が占める割合はかなり高いものであり、そしてその幾割かは食品包材のカットで生じた要因であることは間違いありません。
そしてしかし、それらはこれまで製造現場での人為的なカット方法の工夫や注意くらいしか対応がありませんでした。
ですから、こうした新商品というのは、意外とありがたいものでもあったりするものです。
こちらの商品、おそらくは刃の手前につけたカバーのようなフックを包材に引っ掛け、そして原料袋を一気にカットする。そうすることで、カット時の切り損じなどによる包材片の発生を防ぐ、といったもの。
従来にも原料袋などの食品包材カット用のナイフというのはありましたが、このフックのようなものが付いているものはあまりぼく自身、見たことがありません。
それがこのナイフ最大の特徴なのでしょうか。
とはいえ、こうした異物混入防止対策ナイフというのは、すでに市場でもいくつか出ています。
これがどう性能差として差別化するものなのかは、現状ではぼくは使ってないので全くわかりません。
その性能差、異物としての破片をいかに生じさせないかが、この商品の鍵でしょう。
カラー展開の色別でアレルゲン材料や未加熱調理原料などの交差汚染防止、などという用途の狙いもいいのですが、それはあくまでオマケ。
尤もそんなことはメーカーだって十分過ぎるほどに判っているでしょうから、こうやって新商品として出すからにはそれ相応の性能なんじゃないかな。
正直、地味なツールではありますが、でもこういうアイディアものこそ、かゆいところに手を届かせる日本の中小企業の商品力。
あくまでその性能次第ですが、それこそ中小規模から大手までの食品工場はおろか、ビニール片混入で悩む給食施設や飲食店に至るまで、様々な現場に向いた意外と使えるものかなとも思います。
うん、いいんじゃないかな!
今日はこの辺で。
ではまた来週。
