★公開日: 2022年2月7日
★最終更新日: 2022年2月7日

先日、2月3日は「節分の日」であるとともに、実は「乳酸菌の日」だったことを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今回は乳酸菌と食品衛生についてお話していきましょう。

なおこの記事は、前々回、そして前回、さらに今回と、①~③の三部構成でお話させて頂いています。
(こちら③はその後編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画:ヨーグルト

 

2月3日は「乳酸菌の日」

(こちらは①~③の三部構成の最終編にあたる「後編」になりますので、もしこの「後編」から来られた方は、まずは①の「前編」、そして②の「中編」から読んでください。)

皆さん、先日2月3日は「節分」の日であったとともに、実は「乳酸菌の日」であった、ということです。
というわけで、今回は特別に三部にわたっての、「乳酸菌」のお話です。

そして今回は三部構成のラスト、ということで、前回に触れた乳酸菌による「変敗」について、より深く追っていこうかと思います。

挿画:2月3日は「乳酸菌の日」

食品工場内に乳酸菌が多い季節は?

さて、三回目となる後編ですが、その冒頭から、ちょっと皆さんに早速の問題です。
食品工場…といっても様々あるでしょうが、多くの食品工場の場内において、その空気中に乳酸菌が一番多い季節は、一体いつだと思いますか?

春でしょうか。
やっぱり、夏でしょうか。
それとも、秋でしょうか。
いやいや、冬でしょうか。

挿画:考える

おっと、もう少し解説、アンド正確に質問するとしましょう。

非常に微小な生き物である、乳酸菌などをはじめとした微生物は、空気中のホコリ(塵埃)に付着したり、あるいはそのままで気流などによって、ふわふわと浮遊しています。
いわゆる、空中浮遊菌、です。

そしてこうしたものが食品工場の中で、例えば乳酸菌なら、食品に落下したり、あるいは従事者や器具などによって食品に付着し汚染することによって、乳酸菌による変敗が起こるのです。

さて、そんな空気中の細菌数をはかる測定方法は、いくつか存在します。
その中でもポピュラーで手っ取り早い方法として「落下細菌試験法」というものがあります。
例えば作業台などに寒天培地をある一定時間置いておき、そこに空気中をふわふわと漂ってやがて落ちてくる細菌が一体どのくらいの数いるのか、を検査する検査のことです。

で、この「落下菌検査」を乳酸菌について行った、としましょう。
時期は、春・夏・秋・冬、の年4回。
もちろん、様々な要因によって、例えば季節要因に関係なく、工場の稼働状況だったり清掃状況だったり、はたまた資材や製品の出入り、扱う製品種から製造ラインの組み換え、繁忙期における従事者数の増減などなど、その結果はそれらの影響によって結果が変わることは往々にしてあるでしょう。
ですが、その大体の傾向として全体を見た場合、その春夏秋冬の1年4シーズンで一体、いつが一番多いと思いますか?

食品が腐りやすい、問題になりやすい、細菌性食中毒の問題が出やすい、それは勿論、夏だろう。
だから答えは、「夏」に決まってる。
そう考えるかたは、結構多いのではないでしょうか。

しかし。
実はどうやらこれ、そうとは必ずしも限らない、というのです。
確かに工場の業種や製造環境、条件などによっても、かなり大きな違いが出るかとは思うのですが、しかし。
「秋」が一番多かったというデータが、実際にあったりもするのです。

つまり、食品の腐敗変敗だったり、細菌性食中毒のリスクが高まる夏には、しかし実は工場内の空気中の乳酸菌数は、実はそこまでも多くない。
そしてその一方で、腐敗変敗リスク、細菌性食中毒のリスクが低下傾向に向かう「秋」にかけてが、実は乳酸菌の空中浮遊菌数が比較的、多かったのだという。

これ、結構意外な結果だと思いませんか!?

挿画:驚く

どのような工場に乳酸菌が多いのか

世には様々な研究をされているかたがいます。
この世界も同様で、多くの食品工場の落下菌検査を行った、という研究データが出ていたりするものです。
そこでは一体どんな食品工場の落下菌検査結果が悪かったのか、どのような食品工場で細菌(乳酸菌を含む一般生菌)が多く検出されたのか、ということが書かれています。

空中内細菌数の多かった食品工場の業種例
  • 水産練り物工場
  • 製麺工場
  • 洋菓子工場
  • 和菓子工場
  • 製パン工場
  • 乾物工場

一応、強調しておきますが、こうした落下菌検査は、先の通り様々な要因によって結果が大きく左右されます。
ですから、必ずしもこうした業種が危険だの何だのと、直ちに結論づけるものではありません。

ではどうして、比較的とはいえこのような製造業種の工場が多いのでしょうか。
それは次のようなことが理由であると考えられるのではないでしょうか。

空中浮遊菌の多い食品工場の特性
  • 水を多用する(多湿)
  • 加熱工程がある(適温)
  • 細菌の栄養分が多い(多糖)
  • 従事者の手作業が多い(二次汚染)
  • モノやヒトの出入りや動線が多い(汚染要因が多い)

なるほど。
これを考えてみると、先の製造業種のみならず、そもそもとして食品工場という環境が備えている特質というのは、乳酸菌のみならず多くの微生物が生きるために適していて、そして製品である食品を汚染しやすいものであることがわかるのではないでしょうか。

挿画:原因は?

乳酸菌による食品変敗

では実際に、乳酸菌による食品変敗にはどのようなものがあるのでしょうか。

前回の終わりにかけて、食品変敗にかかわる乳酸菌の代表というのを5種ほど挙げました。
もう一度、改めて再掲します。

食品の腐敗変敗を起こす乳酸菌
  • ラクトバシラス属(Lactobacillus
  • エンテロコッカス属 (Enterococcus)
  • ラクトコッカス属(Lactococcus
  • ロイコノストック属(Leuconostoc
  • ペディオコッカス属(Pediococcus

これらはどのような変敗現象を起こすのでしょうか。
ここで少しばかり紹介しておくとしましょう。

まずは、代表的なのが「ラクトバシラス属(Lactobacillus)」による「膨張」でしょう。
生めんなどの麺類、漬物、スープやたれなどでよく生じる問題で、同時にエタノール臭を伴って発することも多いです。
そしてそういう場合、概ね問題になるのは、「Lactobacillus fructivorans(ラクトバシラス・フラクチボランス)」です。
しかもこの菌は、次亜塩素酸ナトリウムに強い、というやっかいな特徴持ちだったりもするのです。

一方、和菓子や洋菓子なども、乳酸菌変敗の多い定番の食品です。
この場合、「エンテロコッカス属 (Enterococcus)」がその原因になるケースが多く、なかでも生クリームの異臭で知られています。
その他では、ショートケーキ、カステラ、まんじゅう、肉類などでも変敗を起こす場合がままみられます。

またこの「エンテロコッカス属 (Enterococcus)」は、製造従事者の手指を介して場内に持ち込まれることが多いようです。
しかも殺菌剤にも強く、しばしば消毒液のなかで増殖し、それらが工場内に使い回されることによって拡散し、汚染要因になるという、これまた厄介な菌でもあります。

2年くらい前ですかね、食肉一次加工のお客さんから、乳酸菌による変敗の相談を受けたことがあります。
お話をうかがい、現場調査や菌検査を行ってみると、「ロイコノストック属(Leuconostoc)」による低温帯での冷蔵保存下での変敗であることがわかりました。
とくに真空包装した食肉を冷蔵保存していると、この菌による変敗が生じることが多いようです。

それからもうひとつ、「ペディオコッカス属(Pediococcus)」による変敗もあります。
これは和菓子や洋菓子などを「酸敗」させることで知られています。つまりは乳酸菌による酸化、です。
これらのほかにも、味噌や醤油、あるいはビールその他でのアルコール飲料類においても知られます。

参照画:「もやしもん」より、「Lactobacillus fructivorans(ラクトバシラス・フラクチボランス)」
「もやしもん」より「Lactobacillus fructivorans(ラクトバシラス・フラクチボランス)」

乳酸菌の変敗の環境原因

このように、乳酸菌は食品工場における製品の食品変敗要因のなかでも屈指に多い細菌種です。
それは確かに上の通り、食品工場の環境自体が微生物が生きやすいものであり、また食品の汚染がなされやすい、というのも大きな理由でしょう。

これらの結果、冒頭の話にも関わりますが、空中浮遊菌をいかに減らすかというのが、その食品に対する保存性の大きなカギとなっているのは言うまでもありません。

では、そうした工場内での空中浮遊菌は、一体どこに元々あったのでしょうか。
それは、その多くが、床や壁面、あるいは排水溝などの滞留水です。
ですから、これらを洗浄殺菌、清掃することは非常に有効だと考えられてます。

そこで多くの食品工場では、次亜塩素酸ナトリウムなどの薬剤による殺菌が行われるわけですが、しかし。
乳酸菌というのは、次亜塩素酸ナトリウムへの耐性が強い菌だといわれているのです。

では、それらの結果どうなるか。
もしその洗浄殺菌の際、次亜塩素酸ナトリウムの適切な使用がなされないと、元々それらの耐性の強い乳酸菌は失活しきれず、汚染要因として残ってしまうのです。

とくに水を多用する工場では、そうして残存した乳酸菌が、製造後や清掃後、使用水や滞留水が水蒸気となって室内を充満し、汚染することになります。

挿画:分析

まとめ

今回は、前編、中編、後編と、なんと①~③の三部にわたって「乳酸菌」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら後編では、乳酸菌の主に「食品変敗」について、前回の中編を踏まえてさらに突っ込んだお話をいたしました。

どうでしょうか。
なかなか興味深いお話があったかと思います。
なかでも次のこと、「どうして食品工場という環境は、その特質上、乳酸菌による食品変敗が起こりやすいのか」というこれらはちょっと覚えておいてもいいでしょう。
なぜなら、このことは乳酸菌のみならず、カビや他の微生物にも通ずることだからです。

空中浮遊菌の多い食品工場の特性
  • 水を多用する(多湿)
  • 加熱工程がある(適温)
  • 細菌の栄養分が多い(多糖)
  • 従事者の手作業が多い(二次汚染)
  • モノやヒトの出入りや動線が多い(汚染要因が多い)

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画:働く女性

 

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