★公開日: 2022年2月4日
★最終更新日: 2022年2月7日

昨日、2月3日は「節分の日」であるとともに、実は「乳酸菌の日」だったことを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今回は乳酸菌と食品衛生についてお話していきましょう。

なおこの記事は、前回、そして今回、さらに次回と、①~③の三部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその中編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画:ヨーグルト

 

2月3日は「乳酸菌の日」

(こちらは①~③の三部構成の真ん中にあたる「中編」になりますので、もしこちらや次の「後編」から来られた方は、まずは①の「前編」から最初に読んでください。)

皆さん、昨日2月3日は「節分」の日であるとともに、「乳酸菌の日」であった、ということです。
というわけで、今回は特別に三部にわたっての、「乳酸菌」のお話です。

挿画:2月3日は「乳酸菌の日」

さて、「乳酸菌」と聞くと、ここ最近では健康志向のこともあってか、腸活!善玉菌!発酵食品!なーんて感じで捉えられるかたも、結構多いのではないでしょうか。
そんなぼくも毎日、毎朝、オイコス食べてますからね。(笑)

しかしそんな「乳酸菌」は、前回でお話したようなよい面、いわゆる善玉菌的な面、人間の活動に利する有用面、つまりは「乳酸発酵」という「発酵」の面だけを持っているわけではありません。
むしろ、ぼくら食品衛生の世界では「乳酸菌」といったら出番は大概、悪役です。負の存在です。マイナスの立場です。人間の活動に利を反する側として登場することが、ほぼほぼです。

そう、食品衛生の現場では、乳酸菌といったら、「腐敗菌」としての性質のほうがクローズアップされがちです。
というのも、食品工場や厨房には乳酸菌が他の場所よりも一杯いて、それらは発酵には全然働かず、食品や食材や製品を腐らせることしかしないのが一般的だからです。

前回もお話しましたが、微生物側からすれば、「発酵」も「腐敗」も変わりはありません。
単に自分が生きるために、食品から栄養を取って、それを「うんち」のように排出することで食品を変質させているだけです。
それが乳酸菌は「乳酸」を作るのだけど、それが人間にとって有用な美味しさや保存性に向かえば「発酵」だし、意図せずにそれがなされて品質の悪化に向かえば「腐敗」。
ただそれだけです。
でもその「それだけ」が、実はかなり深かったりするのです。
なぜならそれは人間の意図から、離れることだからです。

では、前回の乳酸菌による「発酵」から、今度は「腐敗」の面に向けて、お話を進めていくとしましょう。

挿画:解説

日本酒と乳酸菌

さて、唐突ですが皆さん、お酒は好きですか?
好きな人、飲める人、嫌いな人、飲めない人、どっちでもない人、どうでもいい人、どうにでもならない人。
いっぱい、いると思います。

ぼくは、実はとっても大好きです。
ビールも、ウイスキーも、ワインも、焼酎も、大概のお酒はなんでも飲むほうなのですが、しかし。
なかでも、こだわりは地酒、つまりは日本酒派だったりします。

「日本酒は、日本が世界にほこる、微生物による発酵文化の結晶なり!」

とまあ、食品衛生、微生物に関わる立場としてもそりゃーあるんですけど、ぶっちゃけ、個人的には一番美味しくて一番合っているので、一番好きってだけです。
そんなお酒の話は前にもしましたっけね。

さて、そんな日本酒ですが、この日本酒(清酒)を作る上で、乳酸菌が大きな問題になることがある、っていうのをご存知でしょうか。
そう、いわゆる「火落ち」(腐造)ってやつです。

参照画:「もやしもん」より

漫画「もやしもん」でも、初期のほうで出てきましたね。
この「火落ち」というものが。

参照画:「もやしもん」より

そもそも日本酒(清酒)を作るには乳酸菌は欠かせません。
ですがそんな乳酸菌の仲間にも、そんな製造中に混じることでお酒をダメにしてしまう乳酸菌もいるのです。いわゆる、「火落ち」というものです。
この乳酸菌というものこそ、清酒造りにおいて重要で欠かせないとともに、最大の大敵にもなるのです。

では、そもそもお酒を作るにおいて、乳酸菌はどのように関わっているのでしょうか。
少しばかりそこから解説していきます。

ちなみに、お酒の作り方は以前のこちら↓で詳しく書いた通りですので、それを参考にしていただくとして。

まず、日本酒(清酒)を作る微生物は、次の3つの存在が必要です。
そう、「麹」と「酵母」。そして、今回の主役である「乳酸菌」ですね。

清酒の発酵に関わる微生物
  • 麹菌(アスペルギルス・オリゼー)
  • 酵母(サッカロミセス・セレビシエ)
  • 乳酸菌(ラクトバチルス・サケ)
挿画:清酒の発酵に関わる微生物

これらのうち「麹」と「酵母」については以前に書いた通りなのですが、では乳酸菌は日本酒においてどのように関わるのか。
前の記事ではそこを少しばかりはしょっていましたので、今回はこの乳酸菌の大事な働きに触れていくとしましょう。

作成画:清酒の製造工程

まず「麹」が、お酒の原料である蒸し米から糖を作ります。これが「糖化」です。
そしてその糖を「酵母」が食べることで、発酵によってアルコールが作られることになります。
これが俗に言う「アルコール発酵」というものです。乱暴に一言で言うなら、日本酒、お酒の作り方はこれが基本です。

しかし同時にここに、「乳酸菌」という名脇役が加わります。
ちなみにこの上のフローには書いてありませんが、酵母が加わるときに、乳酸菌も一緒に加わっている、と思ってください。

さて、この名脇役は何をするのか。
この乳酸はお酒の酸味の風味を作るとともに、アルコールとともに多くの雑菌を殺してくれる、そんな掃除屋、殺戮屋、ジェノサイダーとして活躍してくれるのです。

というのも乳酸菌は、麹が作った糖を酵母と一緒に食べることで「乳酸」を作ります。
するとお酒のもとは乳酸によって酸性を帯びることになります。
こうすることで、多くの雑菌は生きられなくなり、死滅していくのです。

こうして乳酸菌は乳酸を生成しながら雑菌の繁殖を抑えるのですが、やがて自分が作る乳酸と、日本酒の高いアルコールによって耐えられなくなって、その役目をまっとうし、死んでしまいます。
(酵母のほうが、それらへの耐性が乳酸菌より高いのです)
そんな、最後には役目を終えて消されてしまう、哀れな運命の殺し屋。
それが、乳酸菌なのです。

挿画:殺し屋

「火落ち」って?

さあ、そんな悲しきさだめの殺し屋、乳酸菌。
ですが、ごくまれに、なのですが。
乳酸菌にも色々いて、なかにはアルコールに強い、酸性にも強いという類の乳酸菌もいる。
そんなお酒につよい(アルコールと酸性に強い耐性のある)乳酸菌が混ざってしまうと、どうなるか。

今度はその乳酸菌が作る乳酸(火落ち酸、メロパン酸といいます)が増えすぎてしまい、異臭や強い酸味を放って異色を帯びた、場合によっては「お酢」のようなものになってしまうなど、とても飲めたものではない価値のないお酒になってしまうのです。
これが「火落ち」(腐造)、という現象です。

まだきっちりとした微生物制御の技術もないまま木樽で清酒をつくっていた昔は、この「火落ち」は今よりずっと多く頻出する現象であり、しかもいったんそれが出てしまうともうその酒蔵では数年間は、場合によっては二度とお酒が作れなくなる(火落ちが続く)。
そのため、火落ちで倒産する酒蔵も少なくなかったのだとか。
そんな酒蔵泣かせの現象が、この「火落ち」だったのです。

ちなみに、火落ちを起こす乳酸菌とはどんなものか。
それは、ラクトバシラス属の一部(例えば、Lactobacillus fructivoransなど)がよく知らえています。
(これね↓)

参照画:「もやしもん」より

こいつらは変わり者の乳酸菌で、アルコール度数20%くらいの、とても普通の細菌では耐えられない環境下でも喜んで活動を活発に行う、イヤーな変態大酒飲み菌でもあるんです。
ですが、こうした「火落ち菌」はアルコールには強いものの、熱にはてんで弱い。
そのため、清酒の製造段階では加熱(65℃~70℃)をすることで、それらを殺す過程、つまりは「火入れ」が行われることになります。
(近年は濾過などで火落ちを防ぐ技術が確立しているので、生酒も飲めるようになったのですね)

ところで。
ここらへんまでは、もしかしたら皆さんもご存知な話だったかもしれません。
漫画「もやしもん」でも出てきますからね。

ですが、これがワインや他のお酒でもあるときがある、って知ってます?
例えば、ビールなどでもこの「火落ち」同様の現象が生じるときがあるようなのです。

へー!って思いません?
だって、ビールですよ?
アルコール度数は低めですが、炭酸ガスによる嫌気性。そしてホップによる抗菌性。
そんな環境でも「火落ち」のような現象を起こす乳酸菌がいるのだから、面白いものです。(おっと失礼)

またワインの場合は、乳酸菌による酸敗がよく問題化します。
これには「ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)」がしばしば関わっており、またそれによって別の乳酸菌が増殖することで粘質化などの現象が進み、変敗してしまうことがあるのです。

挿画:ビール

乳酸菌と「腐敗変敗」

この「火落ち」のみならず、乳酸菌というのは「発酵」という人間に有用な一面の反対で、不利益になる働きをみせることも多々あります。
それが、「腐敗変敗」です。

ちなみに。
「腐敗」とは、そのとおり、腐ってしまうこと。
つまり、乳酸菌をはじめとする多くの微生物の活動によって食品が分解・変質され、可食性を失う(食品が食べられなくなる)こと、有害性をもってしまうこと。とくに、主にタンパク質に対して行われること(putrefaction)の意を示します。
一方で、同様に微生物による食品が分解・変質されることで風味を失うこと、主に脂肪や炭水化物に対してのことを、「変敗」(deterioration)と呼びます。

ですが普通それらは同時進行的で区別も出来ないので、一重に「腐敗変敗」(spoilage)、あるいは「腐敗」とだけで括っています。
またこの食品衛生の世界においては、微生物の活動が食品の品質を変質させてしまい、製品として適さなくしてしまう現象のことを、「変敗」としばしば呼んで、取り上げることが多いです。

「腐敗変敗」とは
  • 腐敗:微生物の活動によって食品が分解・変質し、可食性を失うこと、有毒性をもつこと。
    (主に、タンパク質/putrefaction)
  • 変敗:微生物の活動によって食品が分解・変質し、風味を損ね、可食に適さなくなること。製品の品質を損ねること。
    (主に、脂肪や炭水化物/deterioration)
  • ただし双方の区別が難しいため「腐敗変敗」(spoilage)あるいは「腐敗」と括る

そして、この「腐敗」や「変敗」に関わる代表例が、この乳酸菌なのです。

挿画:腐敗変敗

しかも乳酸菌というのは、土壌、植物、動物、人間など自然界にごく普通にそこらへんで自然に広く分布しています。
それに、そもそも乳酸菌というのは、これまで説明した通りに種類が多様なものを「乳酸を生成する」という一面だけで括っているので、その性質も様々です。

だから先の「火落菌」のような変態酒飲み乳酸菌もいれば、なかには低温、例えば0℃近い寒さや、あるいは45℃以上の高温、さらにはpH4.0レベルの酸性の環境など、他の細菌から見れば過酷な状況でも増殖を可能とするしぶといものもあったりします。
だから普通に、食品を製造保管する過程において、今度は逆にこの乳酸菌がマイナスの働きをすることも少なくはありません。
なにせ、「乳酸菌」といっても300属以上いるのです。

とはいえ、腐敗変敗に関わる乳酸菌の代表というのも決まっています。
名前まで覚えなくてもいいですが、まあ、次の5つが代表だと捉えていただいていいでしょう。そういうのがあるんだと思って、頭の片隅に入れておきましょう。
(次回の後編で、各々登場し、その特徴を解説する予定です)

食品の腐敗変敗を起こす乳酸菌
  • ラクトバシラス属(Lactobacillus
  • エンテロコッカス属 (Enterococcus)
  • ラクトコッカス属(Lactococcus
  • ロイコノストック属(Leuconostoc
  • ペディオコッカス属(Pediococcus

では、このような乳酸菌たちによって食品が変敗してしまうと、どのような現象が起こるのでしょうか。

それは次のような現象です。

乳酸菌による変敗現象
  • エタノール臭
  • 容器包材の膨張
  • 変色・着色
  • 異臭
  • 酸敗
  • 粘質化

先のこれら5種の乳酸菌が、いったい上のどのような変敗現象を起こすのか、については次回にまた少し触れていきたいとおもいます。
まずは、乳酸菌による変敗には、こうしたものがあるのだ、ということを今は簡単に目を透しておいてください。

挿画:乳酸菌

まとめ

…………ふう。
本当は前回と、今回の二部構成にしようと思っていたのですが、だんだんとノってしまい、終わりきれませんでした。

まだ食品工場での乳酸菌の実情だったり、法令の規定の話にまで至っていません。
にもかかわらず、いい長さになってしまいました。

というわけで、一旦ここで区切ります。

さて、今回は、前編、中編、後編と、なんと①~③の三部にわたって「乳酸菌」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら中編では、乳酸菌の主に「腐敗」「変敗」という負の面についてお話いたしました。

乳酸菌によって食品に起こされる現象は、腐敗以外にも次のような「変敗」がみられます。

乳酸菌による食品変敗現象
  • エタノール臭
  • 容器包材の膨張
  • 変色・着色
  • 異臭
  • 酸敗
  • 粘質化

さあ、次回ではこれらを踏まえて、実際に乳酸菌がどんな食品で、どんな変敗現象を起こすのか。
もう少し詳しく追っていくとしましょう。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画

 

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