★公開日: 2022年2月3日
★最終更新日: 2022年2月7日
本日、2月3日は「節分の日」であるとともに、実は「乳酸菌の日」だったことを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今回は乳酸菌と食品衛生についてお話していきましょう。
皆さん、「乳酸菌」というと「飲むヨーグルト」や健康のことばかり考えませんか?
勿論乳酸菌は、発酵食品にも大きく関わる重要な細菌でもあるのですが、しかし実は食品衛生においても乳酸菌というのは、様々な関わりをしているのです。
なおこの記事は、今回、そして次回、そして次々回と、①~③の三部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその最初の前編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

2月3日は「乳酸菌の日」
(こちらは①~③の三部構成の最初にあたる「前編」になりますので、もし「中編」「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
皆さん、本日2月3日は何の日だからご存知ですか?

まあ、一般的に言うのであれば、「節分の日」、ですよね。
「節分」というのは立春の前日、つまりは冬の終わりとなる日であり、暦の上では春を迎える間近ということ。
この冬と春という大きな季節の変わり目となる節分には、古来、鬼こと邪気が入りやすいと考えられていました。
そこで節分には、鬼を払う行事が生まれた、というわけです。
どうして食品衛生の専門家が全く関係ないそんなことを知っているのかというと、別にさっきググったわけでもなく(笑)、実はこないだ、節分用の豆を買って帰ったら、ウチの娘ちゃんに「どうして節分には豆をまくの?」とシンプルな質問をされてしまいまして。
で、そのとき、
「えーと、鬼というのは病気のメタファーであって…冬が、春が、暦の上で豆が……ぐぐぐ。」
とそこで詰まってしまい、悔しくなって数日前に調べたばかりだからなのです。
…まぁ、結局はググってるんですけど…。
おっと、余談はここらへんにして。
実は本日2月3日というのは、その「節分の日」であるのとともに、実は「乳酸菌の日」でもあるようなのです。
これはどうやら「乳酸」、つまりは「に(2)ゅうさん(3)」と読む語呂合わせから、飲料・調味料・保存食品の製造販売を行う、あの「カゴメ株式会社」が制定した、ということ。
なんでもいわく、「乳酸菌を活用した商品をアピールする日で、体に良い乳酸菌を活用した商品で元気になってもらうことが目的」という、いかにも自社の乳酸菌商品を売りたい気持ちがメーカーからひしひしと伝わる設定目的なのだそうです。

どうして「トマトのカゴメ」が「乳酸菌の日」を?
いや、ちょっと待って、と。
いや、だって「乳酸菌の日」だよね、と。
それを制定したのが、「カゴメ」なの?と。
だって「カゴメ」って、トマトジュースやトマトケチャップなんかの、あの「カゴメ」でしょ?
大手乳業会社、ヤクルトとかカルピスとかヨーグルトの明治とかじゃなくって、「トマトのカゴメ」が、トマトの日じゃなくて「乳酸菌の日」を制定したの?
ふと、そういう疑問がどうしたって出ますよね。
いや、ぼくがそう思っただけなのかもしれませんが、でも、どうしてあの「カゴメ」なの?
ま別に「記念日」みたいなのは登録制なので早いもの勝ちみたいなところもあるのでしょうが、それはそうと、食品業界ウォッチャーとしてもちょっと気になるところではある。
実際、「カゴメ」の会社沿革を見てみると、その歴史はかなり古くて明治にまでさかのぼるのですが、最初からやっていることは今でいう「トマトソース」「トマトケチャップ」のもとになる開発です。
そう、それならわかる。だってあの「カゴメ」だもの。明治からトマトやってた。まあ、分かる話だ。
そしてその後、昭和を迎えて、「トマトジュース」を開発。
そうそう、カゴメといったらトマトジュースですからね。
これもわかる話だ。だってあのトマトジュースの「カゴメ」だもの。
さて、そんなカゴメが大きく業務拡大するのは2000年を迎えてから。
別で話しますが、2002年。当時、最大規模と呼ばれた集団食中毒事件と、トドメで起こった偽装牛肉問題によって、経営が完全に傾いた、かの「雪印乳業」。
そこから「カゴメ」は、その子会社である乳製品事業会社「雪印ラビオ」(旧・雪印ローリー)を買い取って、カゴメ傘下の「カゴメラビオ」とするのです。
ここで、カゴメは乳酸菌飲料事業に参入することになります。
というわけで、実はカゴメは乳酸菌事業としては、言うまでもなく後発中の後発。
つまりは元々乳業最大手であった雪印の製品開発力を自らに取り込んで、後発の乳業メーカーとしてスタートを改めてきった。
そこで新たな自社製品に入力したく、どうも記念日制定による、新規ビジネスの販促拡大を狙ったのでしょう
(間違っていたらすみません)
歴史の古い乳の発酵食品
おっと、そろそろいい加減に本題に入りましょう。
近年、「乳酸菌」ってよく聞きますよね。
いわく、健康のために、腸活のために、発酵食品を、「乳酸菌」を取ったほうがいい、などなど。
で、そうやってよく「乳酸菌」を取るための発酵食品の代表として挙げられるのが、決まってヨーグルトだったりするじゃないですか。
つまりは健康のために、腸のために、ヨーグルトを、「乳酸菌」を取れ、と。
おっと、その是非はウチの専門外なので、今回は置いておきましょう。
なるほど、それらの結果「乳酸菌」=ヨーグルト、みたいな図式が、まあ一応として、あるとしましょう。
では、ここでのっけから一つ、問題です。
日本での、「ヨーグルト」の始まりはいつくらいだと思われますか?

答えー。
実は、かなり古くて、仏教伝来とともに大陸から来たとも言われているんです。
しかも、すでに奈良時代には「酪(らく)」と呼ばれたヨーグルトのはじまりのようなもの(当時はお粥のようなものだったとも言われています)が、貴族階級に利用されたり、寺院などでのお供えに使われていたといわれており、平安時代の漢和辞典「和名類聚抄」にはその名が残されている、ということです。
つまりこの時代から、日本でも牛乳を乳酸発酵させてヨーグルトにする、という技術の原点があった、というわけです。
ちなみに、世界に目を向けるともっともっと古く、ヨーロッパ、アジア、中東など様々なところで、すでに7000年前には天然の乳酸菌によるヨーグルトの始まりがあった、とも言われているのです。

「乳酸菌」とは
さて、そんな乳酸発酵をうながすのが、乳酸菌であるわけですが。
では乳酸菌とは一体どんな細菌なのでしょうか。
実を言えば、「乳酸菌」というのは、生物学に正しく定められたものではありません。
自然界に広くたくさんいる細菌に対して、「こういう種のタイプの菌」ってのを大きく括った、わりと乱暴な呼称だったりします。
というのも、「乳酸菌」というのは、広く「乳酸」を生み出す菌のことだからです。
この「乳酸菌」も含め、細菌というのは、食品の栄養(糖分)を摂取し、分解して、違うものを作り出すのが特徴です。
それが人間にとって美味しいものだったら「発酵」と呼ばれますし、食べられなくなるものであれば「腐敗」です。でもそれを決めるのは人間の勝手でしかありません。
さて、乳酸菌は生きるために、ブドウ糖や乳糖などの糖類を食べることで、「乳酸」を生み出します。
これを「乳酸発酵」と呼びます。
ちなみにですが、この乳酸発酵によって、糖に対して50%以上の「乳酸」を生成する細菌が、広く「乳酸菌」と呼ばれます。
ですから、「乳酸菌」と一言で言ってもすごい多くの種類の細菌がそこに含まれます。(現在287属に分類)
とりあえず、「乳酸菌」と呼ばれるには、上のことも踏まえて、次のような条件を満たす必要があります。
が…まあ。
別に細かいところまでも覚えなくてもいいので、こういう共通項があるものだと思って、目だけとおしてみておいてください。
判らなければスルーしても、全くかまいません。
乳酸菌の特徴 |
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一応、補足。
この「ホモ型」と「ヘテロ型」というのは、乳酸菌による乳酸発酵の違いです。
乳酸菌の特徴 |
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ただし、それは各々の乳酸菌によって違いがあるというよりは、どちらかといえばそこに置かれた環境によって「ヘテロ型発酵」をしたり、場合によっては「ホモ型発酵」をしたりすることがありますので、ご注意を。
そして。
更に言うのであれば、一応ですが、次に代表的な乳酸菌を挙げておきます。
勿論、これもスルーしてもいいです。
あくまで、参考までに。
主な乳酸菌 |
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「一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会 発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会」より
乳酸菌の得意技、「乳酸発酵」
そしてここからが、食品衛生の分野にして、発酵食品好きの方々の興味の話です。
さて。
これらの通り、食材に乳酸菌を意図的に加えることで、糖から乳酸を作らせることで人間に有用な製造に利用することを「乳酸発酵」と言います。
この「乳酸発酵」によって、乳酸菌はヨーグルトなどの発酵乳製品や、キムチや漬物などの発酵植物製など、様々な発酵食品を作ることが出来るようになります。
そしてその乳酸菌による「乳酸発酵」によって生成される乳酸は、「酸」ですから当然、食品は「酸性」に向かい、つまりは「酸っぱく」なります。
するとどうなるか。
酸に弱い多くの腐敗菌や食中毒菌などの雑菌は、その環境で生きていけなくなるのです。
しかも乳酸菌のなかには、抗菌物質を作り出すことでより他の細菌が生きられない環境を自ら作るものもいるくらいです。
つまり結果的に、食品内の不要、危険な細菌の増殖を、乳酸菌が抑えてくれる、というわけです。
これらのことから、乳酸菌によって乳酸発酵した食品は、もともとの状態に比べてはるかに保存性が高くなります。
例えば生乳に比べたら、ヨーグルトやチーズなどのように乳酸発酵させた食品のほうが保存性がよいですよね。
このように、乳酸菌のもつ乳酸発酵などよって、食品の長期保存を可能にする、ということ。
これこそが乳酸菌が、発酵食品において重宝される理由です。
こうした特徴を持つ乳酸菌は、しばしば様々な発酵食品において、その発酵段階で雑菌を抑えるスターターとしても利用される、便利な細菌でもあるのです。
例えば、チーズを作る際、発酵が遅れてしまうと原料の乳や作業由来の汚染で混入した黄色ブドウ球菌が毒素(エンテロトキシン)を生成する危険があります。
そこでスターターとして乳酸菌を接種すると、その遅れが生じづらくなるうえに、黄色ブドウ球菌がすぐに死滅してしまうことになることがわかっていたりします。
このように、発酵において非常に役に立ってくれるのが、乳酸菌だというわけです。

まとめ
今回は、2月3日「乳酸菌の日」ということで、前編、中編、後編と、なんと①~③の三部にわたって「乳酸菌」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、ぼくら人間にとって発酵食品を作ってくれる「乳酸菌」とはどういうものであるか、またその「乳酸発酵」とはどういうものであるかを解説させていただきました。
乳酸菌の特徴 |
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さて。
今回の前編では、どちらかというと「乳酸菌」のよい面、いわゆる善玉菌的な面、人間の活動に利する有用面、つまりは「乳酸発酵」という「発酵」についてのお話がメインでした。
ですが、乳酸菌というのはそういう面だけではありません。
むしろ、ぼくら食品衛生では、乳酸菌はマイナスの面、人間の活動に利を反する面、つまりは「腐敗」としての性質のほうがクローズアップされがちだったりします。
というのも、食品工場や厨房には乳酸菌が他の場所よりも一杯いて、それらは発酵には全然働かず、食品や食材や製品を腐らせたり食べられなくすることしかしないのが一般的だからです。
さあ、次回ではこれらを踏まえて、しかしその人間に有用な「乳酸発酵」を行う乳酸菌の、そうではない人間の利益を害する「腐敗菌」としての反対の一面について、より深く迫っていくとしましょう。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
