★公開日: 2022年2月1日
★最終更新日: 2022年2月2日

最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、このところ急増しているノロウイルス食中毒についてです。

ちょっとローカルなネタではあるのですが、またもや各地ノロウイルスの集団食中毒が発生した、と思いきや。
これが新型コロナウイルスの宿泊療養施設にも広がった…?といった報道があがっています。
そしていい機会ですので、ここで「感染症」と「食中毒」は何が違うのか、どういう関係なのかについてもお話していくとしましょう。

本日の時事食品ニュース

【コロナ宿泊療養中の16人が食中毒 療養施設で出された弁当食べて】
2022年1月27日 木曜 午後7:36
新型コロナウイルスの宿泊療養施設の弁当を食べて、16人が食中毒の症状を訴えている。
大分県によると、大分市内にある新型コロナの宿泊療養施設として利用されている2つのホテルで、提供された弁当を食べた16人が、吐き気や下痢といった、食中毒の症状を訴えたという。弁当は、大分市の弁当店「松喜屋」のもの。
大分市保健所によると、1月20日から21日にかけて、この弁当店の弁当を食べた212人が、下痢や発熱などの症状を訴えた。
患者から、ノロウイルスが検出されたという。

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

参照画:大分でノロウイルス食中毒発生
FNNプライムオンライン

まだ続くノロウイルスの集団食中毒

簡単なニュースチェックや、日々の衛生管理の現場で起こった話をサラっとしていく、「今日の衛生管理屋の独り言」。
本日は、ノロウイルス食中毒についての、ニュースに触れておきたく思います。

さて。
先日、年が明けてから急激にノロウイルスの食中毒が増えだした、というお話をいたしました。

この記事をあげたのが、2022年1月23日のこと。
その時点で、すでにこの記事の通り、回転寿司チェーン店で知られる「すし銚子丸」で、41人のノロウイルスによる集団食中毒の発生が報じられました。

さらにはこの記事をあげる前日、ギリ間に合うタイミングで(?)、1月22日。
長野県塩尻市で、仕出し弁当によって、103人のノロウイルス集団食中毒が発生。
これは記事にも引用した通りです。

【ノロウイルスの食中毒103人 塩尻市の弁当店で】
塩尻市内の仕出し弁当店が提供した弁当を食べた103人が、下痢やおう吐の症状を訴え、県はノロウイルスによる食中毒と断定しました。

とまあ、そんなわけで全国各地でノロウイルス食中毒が急増しているなか。
この記事をあげた二日後、1月25日には大分県大分市で、飲食店の弁当を食べた202人(1月28日現在)がノロウイルス食中毒の症状を訴える、という報道があがりました。

【飲食店の弁当で集団食中毒 ノロウイルスを検出 大分市】
01月25日 19時24分
大分市の飲食店の弁当を食べた200人余りが発熱や下痢などを訴え、一部の人の便からノロウイルスが検出されました。
市では集団食中毒と断定し、25日から店を営業停止にしました。

しかもこの問題は、まだ完全には収束しきれていない。
というのも、まだ同じ店の弁当を食べたことで食中毒の症状を訴えている人がまだいるようなのです。

一方、ほかにも、同時期に同じ店の弁当を食べて体調不良を訴えている人が複数いるため、市が調査を続けています。

参照画:大分でノロウイルス食中毒発生
FNNプライムオンライン

コロナ療養所にも被害が拡大?

と、ここまではまあ普通の、というとアレですけど、時折見かけるノロウイルス集団食中毒例なんですけど。
ここにきて新たな展開が。

これを書いているのは、2022年の1月28日なのですが、なんでも本日。
今回のこの大分県大分市でノロウイルス集団食中毒の発生原因となってしまったお弁当屋「松喜屋」のお弁当が、地元の新型コロナウイルス感染者の宿泊療養施設である2つのホテルに提供していたことが、県の調査で判明したのです。

【食中毒発生の弁当、宿泊療養者に提供 16人に吐き気や下痢】
2022/01/28(金) 03:00.
ノロウイルスによる食中毒が発生した大分市玉沢の弁当店「松喜屋」の弁当が、新型コロナウイルス感染者の宿泊療養施設に提供されていたことが27日、県への取材で分かった。

そして、その宿泊療養者の中から16人の、体調不良者が発生したと報道されました。

【コロナ宿泊療養中の16人が食中毒 療養施設で出された弁当食べて】
2022年1月27日 木曜 午後7:36
新型コロナウイルスの宿泊療養施設の弁当を食べて、16人が食中毒の症状を訴えている。
大分県によると、大分市内にある新型コロナの宿泊療養施設として利用されている2つのホテルで、提供された弁当を食べた16人が、吐き気や下痢といった、食中毒の症状を訴えたという。弁当は、大分市の弁当店「松喜屋」のもの。
大分市保健所によると、1月20日から21日にかけて、この弁当店の弁当を食べた212人が、下痢や発熱などの症状を訴えた。
患者から、ノロウイルスが検出されたという。

一般的に、この16人がノロウイルス食中毒となった、とするには彼らの便を取って、検便検査を行う必要があります。
そしてその便からノロウイルスが検出されれば、この段階で「松喜屋」のお弁当によるノロウイルスだと判断されます。

このタイミングだと、おそらくはまだこの食中毒を訴えた16人の検便検査をはじめとした調査結果は、出ていないのではないかな。
そうはっきりと報道で関連性を書けていないのは、そういう意味なのではないでしょうか。

参照画:大分でノロウイルス食中毒発生
FNNプライムオンライン

「食中毒」も「感染症」の一種?

さて。
別にこれらの記事で、ぼくはただの野次馬気分による「うわー、コロナウイルス療養所に今度はノロウイルスかよ、泣きっ面にハチだな!」などという俗情を刺激したいわけでも、「そんなものを療養所に出すなんてけしからん」などと意味不明の上から溜飲を下げたいわけでも、全くありません。

ではなくて、食品衛生に携わるものとして少し引いた目でこのサンプルを見てみましょう、と言いたいわけです。
すると、ここからノロウイルス、コロナウイルスと双方病原微生物の「感染症」としての違い、というものが見えてくることでしょう。

どういうことか。
さあ、今回は実はここからが本題です。

前の際にも説明しましたが、ノロウイルスは、その感染経路から大雑把に区別して「感染症」としての性質が強い面と、「食中毒」としての性質が強い面の2つに区分されます。

いや、いい機会なのでちゃんと正確に伝えていきましょう。
ノロウイルスも新型コロナウイルスも、ともにウイルスであり、よってそれらによる疾患は、同じ病原微生物(ウイルス)による「感染症」です。
ですが、その「感染経路」によって、双方には大きな違いがあります。
その違いが、今回は面白いように(といっては失礼ですが)現れています。

さらに詳しく解説しておきます。
尤もここらへんの話を進めていくと、ぼくらの食品衛生や食品微生物学の範疇というよりも、どちらかといえば感染症などの医学、正確には病理学の話に向かっていきます。
するとぼくとは専門性が若干異なりますので、あしからず。

さて。
ぼくらの食品衛生に大きく関わる「細菌性食中毒」というものも、広い意味でつまりは「感染症」の一つです。
というのも、そもそも「感染症」というのは、病原微生物を人間が体に取り込み(「感染」)、それによってある健康上に好ましくない症状が生じて発病した状況のことを言うからです。

その意味においては、食中毒の原因であるノロウイルスなどの病原微生物を食品などと一緒に取り込んで感染してしまうことも、つまりは食中毒も、やはり「感染症」の一つだ、というわけです。
そして勿論、ノロウイルスなどのウイルス性食中毒のみならず、カンピロバクターバクターやサルモネラ、O157などの腸管出血性大腸菌などといった細菌性の食中毒も、同様に広くは「感染症」となります。

ちなみに細菌のオミクロン株のように、症状がでなくても感染しているような無症状の場合もあります。こういうことを「不顕性感染」と呼びます。
つまり「感染」したのに、発症しないまま終わってしまう状況です。

これに対し、発症し病気になってしまう状況のことを「顕性感染」といいます。

挿画:感染症

「食中毒」とは?

もう少し、基礎から詳しくお話するとしましょう。

まず最初の最初から。
そもそも「食中毒」とは、なにか。
食品衛生法の第21条の二に、その法的根拠が書かれています。

第二十一条の二 国及び都道府県等は、食品、添加物、器具又は容器包装に起因する中毒患者又はその疑いのある者(以下「食中毒患者等」という。)の広域にわたる発生又はその拡大を防止し、及び広域にわたり流通する食品、添加物、器具又は容器包装に関してこの法律又はこの法律に基づく命令若しくは処分に係る違反を防止するため、その行う食品衛生に関する監視又は指導(以下「監視指導」という。)が総合的かつ迅速に実施されるよう、相互に連携を図りながら協力しなければならない。

ここに、「食品、添加物、器具又は容器包装に起因する中毒患者又はその疑いのある者」のことを「食中毒患者等」としています。
つまり、「食中毒」とは食品(または添加物、器具、容器包装)に起因する中毒症のことです。

もう少ししっかり定義するならば、「有害、有毒な化学物質等毒素を含む飲食物を人が口から摂取した結果として起こる下痢や嘔吐や発熱などの疾病の総称」である、といえるでしょう。

そしてその要因は、細菌やウィルスなどをはじめとして、その他にもキノコ毒やフグ毒などの自然毒によるもの、さらにはヒスタミンなどの化学性のもの、アニサキスなどの寄生虫によるものなど、実は様々あるのです。

作成画:食中毒の原因別分類
食中毒の原因別分類

さて、その中でも今回問題となるのは、病原微生物による食中毒、つまり「細菌性食中毒」と「ウイルス性食中毒」などです。

さあ、ここで「微生物」という存在が出てきます。
別に詳しくやるのでここでは簡単にしか触れませんが、微生物というのは要するに「すごく小さな生物」をくくっての呼称です。
なので、必ずしも生物学上での分類ではありません。

そしてこの微生物には、ざっくり次のようなものが例として含まれます。

微生物の分類
  • 藻類
  • 真菌(酵母、カビなど)
  • 原生動物
  • 細菌
  • ウイルス、など

こうした微生物の中には、食品などと一緒に人間の体内に入ると感染症を発生させる「感染型」の細菌やウイルス、あるいは食品の中に人間を害する毒素を作ってしまう「毒素型」が、少数ながららに存在します。
これらを食べることで発生するのが「食中毒」です。

細菌性食中毒とは「経口感染」の「感染症」だ

なるほど、病原微生物による食中毒、いわゆる細菌性食中毒・ウイルス性食中毒なども、広くは「感染症」の一つなのだ。
これはわかりましたね。
ではそれと、昨今大流行中の新型コロナウイルスとの感染症はどう違うのか。

ズバリ、それは「感染経路」です。
このような感染症を発症させる原因、つまりは病因のことを病理学では「病原体」と言います。
つまり食中毒菌なども、「病原体」の一種でもあります。

そして、その病原体が人間の体内に侵入する方法は様々ありますが、しかし大きく分ければ数種の経路に分類できます。
これらを「感染経路」というのですが、そういう呼称も、もはや昨今のコロナ禍ではもう耳馴染みが進んでいますよね。

なかでも「飛沫感染」なんてのは、もう誰もが知るようになった「感染経路」です。
感染者がせきやくしゃみをしたり、会話などで病原体が飛沫として飛び、それを健康な人が吸い込んで感染する、というおなじみの「感染経路」です。

それ以外にも、汚染された食品を人が食べることで感染を起こすという「感染経路」もあります。
これが、「経口感染」というものです。

つまり、いわゆる細菌性食中毒・ウイルス性食中毒というのは、「経口感染」、つまりは食品を介して口から入るという感染経路による「感染症」のことなのです。
(一部、接触感染などもあり)

感染症の感性経路
  • 空気感染(結核菌、水痘、麻しんウイルスなど)
  • 飛沫感染(インフルエンザウイルス、コロナウイルスなど)
  • 接触感染(ノロウイルス、コロナウイルス、腸管出血性大腸菌など)
  • 経口感染(カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌、ノロウイルスなど)
    「食中毒」が含まれる

以下、簡単に説明しておきます。
といっても最近の新型コロナウイルス以来、よく耳や目にすることなので、なんとなく理解できるかな、と思います。

「空気感染」とは、感染者の咳やくしゃみから出た飛沫が乾燥し、それが空気の流れによって拡散し、感染力を持ったまま付近の人が吸い込むことで感染します。
また「飛沫感染」とは、上でも触れたとおり、その咳やくしゃみを飛沫(水しぶき)で受けて吸い込むことで感染します。
一方で「接触感染」とは、感染者に触れたり、食品以外のもの(ドアノブなど)に触れることで感染することです。

そしてこれらは複数にわたる感染経路を備えていることも、重要です。
それは最近の新型コロナウイルスを思えば理解も進むことでしょう。

そして「経口感染」とは、病原微生物を含む食品や水を摂取することで感染症に感染することです。
ここに多くの細菌性食中毒が含まれます。
(よって上の表にあるような。例えばフグ毒などの自然毒や化学物質などによるような、微生物以外の原因による食中毒はここに含まれません。)

例えば。
二枚貝、カキなど「食品」からダイレクトに、あるいはノロウイルスに汚染された水を摂食して感染した場合。
さらにはおそらくは今回の件のように、ノロウイルス感染者が食品を汚染してしまって、それを摂食して感染した場合。
つまり、感染源が食品であり、それを摂食しての「経口感染」である場合。
これらは感染症においても、食品由来の「食中毒」としてのノロウイルスです。

一方で、嘔吐物や便所、乾燥に強いノロウイルスが浮遊しているのを吸い込んでしまって、感染した。
つまり、感染源が環境であり、「飛沫感染」という環境由来の感染症としてのノロウイルスとなります。

挿画:感染経路

「感染症」対策で隔離していながら「感染症」を発症

さあ、こうやって見ていくと、今回の状況にもう一つのまなざしが見えてくるのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの感染者は、ホテルでの隔離者は、宿泊療養することで、新型コロナウイルスの感染症防止、つまりは「飛沫感染」「摂食感染」、場合によっては「空気感染」することを予防していたわけです。

しかしここにもう一つのファクターが、新たな感染経路が加わります。
それは「経口感染」です。
つまり病原微生物性の食中毒という、予想外の感染症への感染経路がそこにはあった、ということです。

新型コロナウイルスもノロウイルスも、同じ感染症をもたらす病原微生物であり、(エンベロープウイルスか否かはさておき)生物学的にも同じウイルスではあります。
ですが、同じウイルスでも、感染経路がこのように大きく違っている。
だから、このようにたとえホテルなどの宿泊施設に隔離することで「飛沫感染」、「摂食感染」、「空気感染」を防止することで感染症の感染経路を抑制しようとしたとしても、「食品」という思わぬ見過ごしてしまいがちな感染症の経路が、じつはそこには残っている。

そしてこれが食中毒という「経口感染」型の感染症が持っている固有の、感染経路である、というところにこそ、ぼくらは目を向けるべきでしょう。

挿画:感染経路

まとめ

今回はノロウイルスと新型コロナウイルスの感染症のニュースから、双方の感染経路の特性を比べる、というお話でした。

今回のお話から、公衆衛生、食品衛生にたずさわる者としては、まずはこのポイントだけは押さえておくべきでしょう。

感染症の感性経路
  • 空気感染(結核菌、水痘、麻しんウイルスなど)
  • 飛沫感染(インフルエンザウイルス、コロナウイルスなど)
  • 接触感染(ノロウイルス、コロナウイルス、腸管出血性大腸菌など)
  • 経口感染(カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌、ノロウイルスなど)
    「食中毒」が含まれる

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画

 

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