★公開日: 2022年1月26日
★最終更新日: 2022年1月26日
1月24日から1月30日は、「全国学校給食週間」です。
そこで今回はその「全国学校給食週間」にふさわしく、現在の学校給食と食品衛生について、その基本的なお話や最新のニュースなどを紹介しながら見ていくとしましょう。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

Contents
1月24日~30日は「全国学校給食週間」
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
皆さん、冒頭でもお伝えしたように、1月24日から1月30日というのは「全国学校給食週間」である、ということです。
学校給食は、食とはいえあくまで学校教育の一環ですから、文部科学省の管轄です。
で、その文科省にも、このようにその「全国学校給食週間」の告知がなされています。
我が国における学校給食は、明治22年に始まって以来、各地に広がっていきましたが、戦争の影響などによって中断されました。
戦後、食糧難による児童の栄養状態の悪化を背景に学校給食の再開を求める国民の声が高まるようになり、昭和21年6月に米国のLARA(Licensed Agencies for Relief in Asia:アジア救済公認団体)から、給食用物資の寄贈を受けて、昭和22年1月から学校給食が再開(「学校給食実施の普及奨励について」昭和21年12月11日文部、厚生、農林三省次官通達)されました。
同年12月24日に、東京都内の小学校でLARAからの給食用物資の贈呈式が行われ、それ以来、この日を学校給食感謝の日と定めました。
昭和25年度から、学校給食による教育効果を促進する観点から、冬季休業と重ならない1月24日から1月30日までの1週間を「学校給食週間」としました。
子供たちの食生活を取り巻く環境が大きく変化し、偏った栄養摂取、肥満傾向など、健康状態について懸念される点が多く見られる今日、学校給食は子供たちが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けるために重要な役割を果たしています。
学校給食週間においては、このような学校給食の意義や役割について、児童生徒や教職員、保護者や地域住民の理解を深め関心を高めるため、全国で様々な行事が行われます。
ええと。
要するに戦後の昭和22年、12月24日、クリスマス・イブですが、この日がいわゆる現代的な学校給食の始まりの記念日であり、「学校給食感謝の日」ではあるんだけど、それだとクリスマス重なるし年末年始入っちゃうしだから、何もない翌月1月24日から30日にこじつけてずらした、ていう話のようです、はい。
で、これを書いている本日は、2022年の1月26日。
ということは、もう一昨日からすでにその「全国学校給食週間」に入ってしまっているわけですが、しかし折角の機会です。
今回、そして次回と二回にわたっての二部構成で、「学校給食と食品衛生」について、お話していこうではありませんか。
そんなわけで、今回は前編ということで、まずは学校給食と食品衛生の最も基本的な関わりについてお話していこうかと思っています。

学校給食の食品衛生の要、「学校給食衛生管理基準」
さて、先の通り、この前編では学校給食の衛生管理について、基本的なことをお話していこうかと思っています。
皆さん、よく報道などで給食の異物混入などが報じられるのを目や耳にすることがあるでしょう。
ここでも後に扱おうと思っているのですが、そもそもこうした問題に対して、学校給食では何を基準にして衛生管理としての対応や評価を行っているかご存知でしょうか。
これ、あまり知られていないんですけど、「学校給食衛生管理基準」というものがあるのです。

上にも触れた通り、学校給食は、食とはいえあくまで学校教育の一環ですから、文部科学省の管轄です。
ですからこの「学校給食衛生管理基準」も、文部科学省によって定められています。
そしてその根拠となっているのが、学校給食の基本的な法律である、「学校給食法」に書かれたこの条文です。
(学校給食衛生管理基準)
第九条 文部科学大臣は、学校給食の実施に必要な施設及び設備の整備及び管理、調理の過程における衛生管理その他の学校給食の適切な衛生管理を図る上で必要な事項について維持されることが望ましい基準(以下この条において「学校給食衛生管理基準」という。)を定めるものとする。
2 学校給食を実施する義務教育諸学校の設置者は、学校給食衛生管理基準に照らして適切な衛生管理に努めるものとする。
3 義務教育諸学校の校長又は共同調理場の長は、学校給食衛生管理基準に照らし、衛生管理上適正を欠く事項があると認めた場合には、遅滞なく、その改善のために必要な措置を講じ、又は当該措置を講ずることができないときは、当該義務教育諸学校若しくは共同調理場の設置者に対し、その旨を申し出るものとする。
このように、「学校給食法」の第9条に、「学校給食衛生管理基準」を定め、そしてその基準に照らして衛生管理を行いなさい、と書かれています。
そしてこの「学校給食衛生管理基準」には、まずの真っ先に、各地の教育委員会は学校給食に対して、自らの責任で、HACCPの考え方に基づいた衛生管理を行うこと、そして問題があれば改善措置を行え、と書かれています。
そして、様々な細かな従うべき基準などがずらずらと書かれたうえで。
もし給食による食中毒が発生した場合、教育委員会や学校医、保健所などの連絡報告、迅速な原因究明と原因除去・予防を行え、とも書かれています。
そして各自治体は、この「学校給食衛生管理基準」に従って細かな自治体単位のマニュアルをそれぞれ作っている、といった状況です。
ですから、市町村、あるいは都道府県単位でそのマニュアルに細かな違いはありますが、その大元となっているのはあくまでこの「学校給食衛生管理基準」である、ということです。

「学校給食衛生管理基準」はどうして出来たのか
さて、この「学校給食衛生管理基準」はどのようにして成立されてきたのでしょうか。
実はここにこそ、昭和~平成、そして現在へと続く学校給食の食品衛生の強くて大きな流れを見ることが出来るでしょう。
まず、そもそもの「学校給食法」の始まりは、1959年。
世は昭和の高度成長期、ここで大きく広がった学校給食に対する基本的な法制度が作られることになります。
その後、時代は昭和から平成へと流れ、学校給食も米飯給食やメニューの広がりがなされ、またときに幾つかの問題などをも起こしていくのですが。
1996年、7月。
日本の学校給食史最大の暗歴史、日本の食を揺るがすあまりにも痛ましい大きな事件が発生します。
それが「腸管出血性大腸菌O157」による集団食中毒、
いわゆる、「堺市学童集団食中毒事件」です。
大阪府堺市の学校給食によって起こった、この「腸管出血性大腸菌O157」による集団食中毒は、最終的には児童を含むなんと9,523名が被害を受け、その結果3人の児童が死亡。
さらに後遺症(溶血性尿毒症症候群)をも引き起こし、それによっても死者が発生。
「O157」というその高き悪名とともに、世界においても大規模で重特性の高い食中毒事件として、知られるようになります。
そして当然ながらこの一大集団食中毒は、学校給食をはじめとする大量調理の衛生管理を見直す、大きなきっかけとなりました。
ここが学校給食における衛生管理のターニングポイントになった、といってもいいでしょう。
その流れはやがて、「食品衛生法」の改正へと大きな流れとして向かっていくのですが、その前に。
これらの事件を受けて、翌1997年、まず厚生労働省は「大量調理施設衛生管理マニュアル」を作成、施行します。
公共衛生、食品衛生といったら、そこはやっぱり厚生労働省。
当然ながら、ここはもうその一大専門家の総本山、です。
その彼らが集団給食(学校給食以外のね)などの大量調理施設に対して、HACCPの考え方に基づいた管理内容をマニュアルとして示したのが、この「大量調理施設衛生管理マニュアル」です。
まあ、ぼくらの世界ではよく知られる存在ですよね。
さあ、そしてここからが、世界にほこる悪しき一大縦割り国家、日本。
食品衛生は厚労省なのに、学校給食は文科省管轄。
当然、文部科学省も動かないわけにはいきません。
もっとも、彼らは食品衛生のプロでも専門家でも何でもありません。
なので素人たちが、その専門家である厚生労働省作「大量調理施設衛生管理マニュアル」を横目にチラチラ見ながら、なんとか作ったのがこの「学校給食衛生管理基準」である、というわけです。
さて、その違いを少しだけ見ておきましょう。
まず厚労省作「大量調理施設衛生管理マニュアル」は、その名から判る通り、マニュアルです。
1回300食以上または1日750食以上。
これらを作る施設向けに設けられた、食中毒防止を主に目的とした割と具体的な内容の書かれている衛生マニュアルです。
一方で、「学校給食衛生管理基準」は、より学校給食に沿ったかたちで作られています。
とはいえ、「大量調理施設衛生管理マニュアル」も「学校給食衛生管理基準」も、中身は似ています。
だって「大量調理施設衛生管理マニュアル」をベースに作ったのだから、そりゃそうなるに決まってます。
例えば作業場を、「汚染作業区域」、「非汚染作業区域」に分けなさい、「調理場内の温度は25℃以下、湿度は80℃以下」ということからはじめ、やれ床から60㎝の高さで作業・保管しなさいだの、ドライシステムを導入しなさいなど、あれもこれもで細かいところも結構共通している…というか「大量調理施設衛生管理マニュアル」に沿って(真似て?)います。
しかし一方で、例えば「検食の責任者を決めて、児童の食べる30分前までに行いなさい」だとか、「調理した食品は2時間以内に給食できるようにしなさい」「そのための配送車を用意しなさい」といった、いかにも給食ならではの内容も記載されているのが特徴でしょうか。
例えば、これを根拠にして、各地で「2時間以内」の箇所に給食センターを作ったり、デリバリーの業者が地区ごとに入札したりするわけです。

学校給食法の改正と、「学校給食衛生管理基準」改正へ
かくして施行された「学校給食衛生管理基準」ですが、そこからも現代に至るまで紆余曲折がみられます。
まずは、1990年代末から2000年代初頭にかけての、学校給食によるノロウイルス集団食中毒の連続発生です。
しかもこれらの原因の多くが、調理を行う給食従事者の手指からの二次汚染を占めていたのです。
さらには、学校給食ではありませんが、牛乳による大規模な集団食中毒(雪印の黄色ブドウ球菌による食中毒)が発生したりなど、日本全体に「食の安全安心」が問われる時代へと、。突入していったのです。
これらを受けて、「食品衛生法」の大きな改正がなされました。
当然ここでも文科省も、学校給食になんかしないといけません。(笑)
そこで2002年から「食中毒防止のための学校給食調理環境改善事例集」を、毎年発行。
その他、いくつかの手引やマニュアルなどを都度発行しては、学校給食の食中毒防止につとめていきます。
そして、2008年、学校給食の基本法である「学校給食法」を、時代の変化にあわせて大幅に改正されることになります。
さらにはそれにともなって、翌2009年。
その改正学校給食法に基づいて、「学校給食衛生管理基準」もここに改正されることになります。

改正「学校給食衛生管理基準」の変更ポイント
では、それ以前の「学校給食衛生管理基準」に対し、2009年~現行の改正された「学校給食衛生管理基準」はどのようなところが違っているのでしょうか。
大きくまとめて言えば、様々な給食のスタイルに合わせていること、調理者および調理場の衛生管理の強化、ノロウイルス汚染防止への具体的対応、そして広域化・集団化していった食中毒などの食品事故に対しての連絡報告体制強化、などです。
全部あげているとキリがないので、幾つか例をあげておきます。
まあ、先にも挙げたような内容も当然含まれているのですが。
2009年改正「学校給食衛生管理基準」の概要(変更点) |
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まとめ
今回は、「全国学校給食週間」であるということで、前編、後編と二部にわたって「学校給食と食品衛生」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、学校給食の基本的な衛生管理の根幹となる「学校給食衛生管理基準」についての解説を行ってまいりました。
次回の後編では、学校給食における最新のニュースなどを扱って見ていきたいと思います。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
