★公開日: 2022年1月21日
★最終更新日: 2022年1月22日
いよいよこの2022年も本格的にスタートしました。
ということで、まずは毎年恒例の年初企画。
この2022年という時代は、この食品業界における「食と安全」においてどのように位置付けられ、意味付けられているのか。
2022年の食品業界の「食の安全」はどうなるのか。
1年の始まりのうちに、いつもよりも大きな視点で、これらをまずは見ていくとしましょう。
なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
この2022年も、ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお伝えしていく所存です。

Contents
2022年の食品業界と「食の安全」を俯瞰する:後編
(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし以下の「前編」をお読みでなければそちらを最初に読んでいただくと理解がより深まります)
さあ、そんなわけで前回の新年のご挨拶に続いては、ガチ新年1発目企画。
「2022年の食品衛生はどうなるのか」。
これについて、前回にひき続き、今回もお話していきたいと思っています。
2022年の食品業界と「食の安全」はどうなるのか? |
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前回は、食品業界における2022年度法規制面の最大トピック、「原料原産地表示制度」の完全制度化についてお話させていただきました。
基礎に触れつつ極力わかりやすく解説させていただいたつもりではあるのですが、何せ、あれほどに込み入って複雑でわかりづらい食品表示ですから、これらについてはまだまだ解説すべきことが山程あります。
まあ、追って少しずつ手掛けていくとしましょう。
さて、今回は、もう少しマクロの目線で食品業界というものを捉えてみたいと思います。
つまり、2022年というのは食品業界においてどのような位置にあるのか。どのような方向に向かっているのか。どのような時代性にあるのか。
そしてそれを受けながら、ぼくらはどのように「食の安全」というものを築いていかなくてはいけないのか。
そこらへんについて、考えていきたいと思っています。
前回は少しばかりボリューミーでしたが、今回はもう少しサクサクと進めたらいいかな、って思ってます。(笑)

コロナ禍とSDGsで進むフードテック
さて、次からは食品市場全般に向けたお話をしていきましょう。
まずは、食品における技術革新、「フードテック」の動きと現状、そしてそれらに対して日本というこの国がどう置かれているかについて、お話していくとしましょうか。
コロナ禍~アフターコロナで開いたフードテックの扉
今から2年ほど前、2020年は、ここ日本における「フードテック元年」だった、と言われています。
そしてその元年に続いてそれが大きく進んだのが、昨2021年でした。
遅れながらもそのフードテックがぐんと進んだ要因は、なにか。
そう、コロナウイルスによる社会の変革。そして世界をめぐるSDGsの動き、です。
まず、「フードテック」について、ごく簡単に解説しておきましょう。
言うまでもなく「フードテック」とは、「フード(食品)」の「テック(テクノロジー)」。
つまり、最新の科学技術、テクノロジーによって食品業界にイノベーションを起こす、というものです。
実はこのフードテックというのは、2010年代には既に欧米で着々と進んでいた動きであったと言われています。
例えば、ITの聖地シリコンバレーでは既にこの頃から食品産業市場に多くのベンチャー企業が参入してきたという話。
彼らが狙うのは、その食品産業市場のポテンシャリティです。
何せ世界のフードテック市場というのは、2025年までに700兆円規模に達するとも言われるほど。
一方、ここ日本ではどうかというと、実はこれまでなかなかフードテックの熱が高まることは、やっぱり案の定、ありませんでした。
少なくとも官民一体での動きというのは、その2020年になってようやく、といった状況です。
この遅れに遅れている状況に対し、すでにiPhoneが世界を席巻しているなかでガラケーに夢中になっていた日本のあの頃のダメさ、前回にも触れた「ダメだこりゃジャパン」の様相を重ねる専門家すらいるほどです。
しかしそんな遅れを取っていた日本でも、10年代終わりには欧米に先駆けを取られながらも、やっとやっと遅まきにして動きが顕著化してきました。
まずは2020年4月、農林水産省が「フードテック研究会」を設立。
その後、行政と企業を交えての何度もの話し合いが行われ、「フードテック官民協議会」が発足。
そしてその動きは昨年の2021年の1年をもって、さらに加速してきている…といった状況です。
そしてこれらのフードテックの一連の動きにコロナ禍が大きく関わったことは、言うまでもありません。
事実、新型コロナウイルスによるパンデミック、それによるロックダウン(や緊急事態宣言など)で、大きく社会の価値観や生活様式、常識のありようなどが変わりました。
とくに外食産業の打撃、それにともなうフードデリバリー、テイクアウト戦略などを含めた業態転換については、もはや皆もよく知ることでしょう。
こうした変革はフードテックを大きく進める最大要因として、今も勿論ながら働いている。
このことは割と世間においてもそれなりに可視化されていることでしょうから、皆さんもご存知のことでしょう。
最新デジタル技術を用いたウーバーイーツだとか、あるいは飲食店舗の無人化、ロボット化などがそれらの象徴としてよくあげられるものです。
まずはこの「フードテック」というのが、今後の食品業界を読んでいく大きなキーとなるのは、よもや間違いないことでしょう。
当然ながら、それらの波が、食品衛生や品質管理などにも関わっていくことは言うまでもありません。

実はもう待ったなしのSDGsと食糧事情
しかし一方で、そこまで世に知られていない「フードテック」推進のもう一要因について、今回はお話しておきます。
それが、「SDGs」という要素です。
これね、実はかなり日本の食品業界においても結構重要な問題になってくることだったりするんです。
言うまでもなく、この「SDGs」とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称のことです。
で、「そういう話」の細かいところは正直、他におまかせいたします。
ぼくはそっちの専門家では全くありませんから、ぶっちゃけ、よく知らないところも多々ありますんで。
なので、「お前が言うSDGsは間違っている」というのであれば、それでも結構です。逆に勉強不足ゆえ、色々とお教えいただければ、幸いです。
ですが、ここではこと日本国内のイチ食品業界ウォッチャー、それも食品衛生の専門家、という目線でお話していきたいと思います。
そんなわけでここで年始くらいは、世界に少しばかり目を広げて見てみましょう。
あ、小難しい話や込み入った話はするつもりありません。ご安心を。
サクサクと進めましょう。
さて、世界に目を向ければ、急増する世界的人口、という問題が見えてきます。
ここらへんはぼくの専門を離れるのであまり詳しくは言及しませんが、2021年の段階で世界人口は約78億人と言われています。
で、これが約30年後には、97億人近くになると言われています。
ということは30年そこそこで、世界人口の20%が増加する、ということになります。
いや、もう少し前で見ても、2030年、つまり今年2022年から8年後には約85億人。つまり今から約7億人が増えることになる。
いいですか、8年後には、もう7億人が増えるわけです。
そして、この問題は8年もかかることはありません。そんな遠い未来の話でもない、やもすれば数年後の話だということです。
さて、これだけの人口の食生活をまかなうには、現状の食糧では全くもって足りません。
とくに真っ先に不足すると言われるのが、タンパク質です。
いわゆる世界的な「プロテイン・クライシス」というやつです。
なかでも動物室タンパク質の不足は、避けられません。
肉類、なかでも牛肉は不足が目に見えています。
というか、実はもう影でひっそりと始まっています。(事実、すでに中国をはじめとする大量購入が始まり、高騰化が進む一方なのが実情です)
そもそも、畜産というのは環境負荷が非常に大きい。
例えば、畜産のために必要な、大量の餌や水の問題。そして有名なところでは、牛のげっぷで生じるメタンガスの問題なども言われています。
反芻動物である牛や羊は、咀嚼による微生物の発酵効果で多くの「げっぷ」を大気中に放出してしまう。これがなんと大きな地球温暖化の影響源となるだろう、というよく知られたこの話。
ここらへん、興味がある人は調べてみてください。
一方で、水産資源はそれ以上に相当な逼迫状況です。
世界中の海において乱獲が進められた結果、水産資源が急激に減少しており、これによって日本の水産量も著しく低下しています。
欧米先進国での健康志向の食のニーズによって水産、魚への注目度が高まったこと。加えて中国はじめとした新興国の経済成長によって生活水準が上昇。それらの結果、世界中で水産資源を求めるようになったからです。
とくに元々世界一の漁業大国であった日本の場合、深刻です。
10年前まで世界首位だったこの国の魚獲量は今やピーク時の1/3とも呼ばれ、世界10位にまで落ちている、とのこと。
一方で、日本の経済成長は正直、今後決して明るいものではありません。というか正直、お先真っ暗です。
何せ一人あたりのGDP、最低賃金、多くの経済指標において成長がまったくみえていない。あまつさえ数年前には韓国などの隣国にすら抜かれ、そしてその差は開く一方。
そんなOECDで稀に見る低成長国、貧しくなる一方のゼロ経済成長国、それがこの日本の実情です。
こうした日本の競争力の著しい低下のなかにおいては、やもすれば日本の食糧高騰が起こりかねない。
結果、資源の買い負けが生じていくことになります。
つまりこの「プロテイン・クライシス」というのは、遠く想像を超えた未来の話でも、アフリカなど遠い他人の国、どこかの後進国の話でもなくて、この日本の数年後の食糧価格の急騰問題、さらには不足問題に直結しかねない、というわけです。
それに、こうした新技術は商品化し、ぼくらの手に届くまでまでには、最低で数年かかります。
企業が投資して研究開発し、実験を行い、商品化し、それが市場に広まり、手に入りやすい価格帯にこなれていく。
そうなるまで、早くて数年が必要なのです。
ということは、この2022年が今後の日本の食の大きなカギを握っている、ということです。
というか、この2022年でなんとかする以外に、もう後手後手になってしまう、というわけです。
これらのなかでも今注目を集めているのが、いわゆる代替えタンパク質、つまりは「代替肉」といわれるプラントベースフード、「大豆ミート」です。
尤もこの分野は欧米先進国や諸外国に大きく水を開けられてしまっているのですが、実はなんと。
日本にも、世界に大きく先駆けること半世紀、なんと1950年代から「大豆ミート」の研究を続け、商品化していた企業があるというのです。
それが植物性油脂の大手食品メーカーである、「不二製油」という会社です。
す、すげえぜ「不二製油」さん…!
…ってあれ、ぼくこの会社聞き覚えあるぞ!?
えーと、えーと……………

ここだ!
ぼく、年末に記事にしたわ!
ぼく、外から工場見学したわ!
ここでは呑気にがんもどきだとか言っていたけど、そうじゃなかったのか。いや多分それも作っているんだろうけれど、今は大豆ミートで大注目の会社なんだという。
…そ、それは大変に失礼しました。
おっと、話を戻しますね。
で、逆に言うなら、こうした「食の技術」は世界に向けたビジネスにもなり得る、ということです。
そして先の通り、たしかに日本はいわゆる「フードテック」では欧米にかなり出遅れています。
ですが、食品技術自体はかなり高いものを持っている。ずっと「ダメだこりゃジャパン」の話をしてきてますけど、でもその一方で先の不二製油さんだったりなど、まだ意外と捨てたものではありません。
「日本の食品は美味しい」「日本の製造技術は高い」
これはまだまだ欧米諸外国に対しても、まだ大きなリードとなっているでしょう。
(まあエネルギー政策しかり、そうやっていつも最初は一歩先にあるものの、国内の官民政治でワキャワキャやっているうちに国際競争力を失ってしまうのがこの国のダメだこりゃなところなんですけど)
例えば、年始にも触れた冷凍食品技術。これは世界にも輸出可能な分野ともなるでしょう。
また世界的な乱獲によって激減が進むマグロに対し、史上初の卵の孵化からの完全養殖を果たして世界じゅうを驚かせた「近代マグロ」なども、日本の高い研究技術をほこるものといえます。
さすがは水産大国の我が国、こうした高度な養殖技術は、世界に対してまだ一歩も二歩も優位なところに、まだある。
これら食の産業革新こそが、今後の日本に残された産業の道だと思いませんか?
加えてこうした技術を影支えするのが、高い日本の食品衛生のノウハウです。
これらはぼくらの出番でもあるわけですが、それらに対しての検査技術、食の衛生管理技術だって当然ながら必要になります。
つまりはそうした方向に、ぼくらも目を向けていく必要がある、ということです。

食品製造のDX化によるスマート工場の広がり
おっと、思いの外に「フードテック」の話が長くなってしまいました。
最後にもう一点だけ。こちらこそ、さっくりと簡単にのみ触れていきたいと思います。
さて。これら「フードテック」といった食品における最新技術のイノベーションに関わりながら、その一方で最新テクノロジーを企業活動へと向ける向きも大きく進んでいます。
それが、食の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」というものです。

今更説明もいらないかもしれませんが、「デジタルトランスフォーメーション(以下DX)」というのは、乱暴に言うならIT技術をはじめとした最新デジタル・テクノロジーによるビジネス変革のことです。
一般的に今、この「DX」はなにかといえば、2018年に経済産業省が作った「DX推進ガイドライン」(正式名は、「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン)において定義したものをほぼほぼ意味します。
それは、こういうものです。
経済産業省によるDXの定義 |
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 |
そして、「スマート工場」(スマートファクトリー)というのは、こうした製造工場においてDX化を進めた工場のことです。
当然ながら、こうした「スマート工場」は、食品工場においても今や広がりを進めています。
この「スマート工場」の話を詳しく始めてしまうと、さらに数回のテーマが必要になってきてしまいます。
ですので、今回はポイントだけを話します。
食品工場における「スマート工場」化というのは、生産効率の向上だけを意味しません。
食品衛生、品質管理におけるレベルアップも、見込めるものだということです。
例えばこれまで人力に頼っていた検品工程のAI化などは、まさにスマート工場化の出番でしょう。
またHACCP管理を進めるにあたって、こうしたスマート化、デジタル化というのも相性がいい。
なかでもIoTを利用したトレーサビリティ・サービスは、日に日にその質を高めています。それは目覚ましいものがあります。
百聞は一見に過ぎず、例を出したほうがわかりやすいでしょう。
サントリーが昨年、長野県に新工場を設立しました。ここでは日立製作所の開発したIoTソリューションを駆使し、工場全体の生産設備から各種データを集積し、活用するというまさにスマート工場、スマートファクトリーです。
ここでは工場全体の生産管理のみならず、工場全体の統合的なデータ管理が可能となっています。
なかでも注目なのは、トレサビリティーの徹底です。
この工場では、商品の一つ一つにIDをもうけ、それをIoTが管理することで各製品の製造・検査の履歴情報と品質情報を紐付けて管理し、万が一その商品の問い合わせなどが来た場合、情報照会が行えるようになっています。
しかも同時に、生産設備の細やかなエラーもIoTによって影響範囲を特定され、その要因分析と対応などが直ちに行える体制となっている、ということ。
多くの食品事故というのは、様々なエラー、製造時のトラブルなどで発生するものです。
これらを見逃すことなくデータ集積し、また特定範囲まで定められる、というのは品質管理において非常に有効なことでしょう。
こうした「スマート工場」は、勿論ながらサントリーだけではなく様々な企業から出始めています。
また大手のみならず、今では食品企業に多い中小メーカーの工場にも導入が進みつつあります。
まさに2022年は、さらにそうした食品製造のDX化の進む年になるのではないでしょうか。

まとめ
今回は、前編、後編と二部にわたって2022年の食品業界と「食の安全」について、以下三点の観点からのお話をさせて頂きました。
2022年の食品業界と「食の安全」はどうなるのか? |
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そしてこちら後編では、前回を継いでもっとマクロの目線から、「フードテック」、「産業のDX化」、「スマート工場化」といった最新テクノロジーによる食の技術革新の動向について、新型コロナウイルスやSDGsなどといった影響源に合わせながらお話いたしました。
こちらは2022年が、というよりもここ数年の大きな動きですので、これが今後さらに進むことは間違いないのではないかと思います。
では今後また1年、こうした食品業界の動きがどうなっていくのか、改めてここでもウォッチしていきたいと思います。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
