★公開日: 2022年1月17日
★最終更新日: 2022年1月20日
少し遅れてしまいましたが、ようやくこの2022年もスタート。
ということで、まずは毎年恒例の年初企画。
この2022年という時代は、この食品業界における「食と安全」においてどのように位置付けられ、意味付けられているのか。
2022年の食品業界の「食の安全」はどうなるのか。
1年の始まりのうちに、いつもよりも大きな視点で、これらをまずは見ていくとしましょう。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
この2022年も、ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお伝えしていく所存です。

Contents
2022年の食品業界と「食の安全」を俯瞰する
(こちらは二部構成の前編になりますので、もし後編から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
さあ、そんなわけで前回の新年のご挨拶に続いては、ガチ新年1発目企画。
「2022年の食品衛生はどうなるのか」。
これについて、以下、お話していきたいと思っています。
というわけで。
まずこのお話をするにあたり、ぼくなりに重要なキーとなりそうなポイントを3つほどピックアップし、まとめてみました。
それがこちらです。
2022年の食品業界と「食の安全」はどうなるのか? |
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ではこれらについて、これから1つずつ、詳しく深堀りしていくことにしましょう。

4月からの「原料原産地表示制度」完全施行化
まずは最初、食品をめぐる法制度の面から見ていくとしましょう。
この2022年において、最も大きな食品衛生、品質管理における制度面をめぐるトピックといえば、やはりこれでしょう。
そう、全加工食品に対する「原料原産地表示制度」です。
食品業界、とくにメーカーさんにおられる方々ならば、もう多くの方々がとっくにご存知、対応済みかと思われます。
そしてそれらを受けるかたちで「原料原産地表示制度」の完全施行が、いよいよこの2022年4月から始まる、というわけです。
とはいえ。
食品業界所属ではない一般の方々においては、「原料原産地表示制度?何それ?」という方も多いのではないでしょうか。
というか、寧ろ細かいところまで実はよく知らない、という方々が大半じゃないかと思いますので、そうした今回の「原料原産地表示制度」をご存知のない方、さわりしか知らないという方向けに、解説していくとしましょう。
何せ余りにこみいって複雑過ぎてよくわかりづらいのが、この食品表示の世界です。
なので、今回は少しばかり整理しながら、「食品表示」、なかんずくこの「原料原産地表示制度」についてお話していくことにします。
そんなわけで、食品業界内の方でも「そうだったのか!」と知るためにも、是非ともご一読をお勧めいたします。

「食品表示法」とは
そもそもこの「原料原産地表示制度」というのは、2015年4月から施工された「食品表示法」によって、かつては一部加工食品にのみ対象とされていたものです。
というのも、この2015年前には幾つかの食品表示の誤表示問題や、少し遡れば00年代の大手メーカーによる牛肉偽装問題などといった表示にまつわる問題が連発していたのです。
そこで問題視されたのは、日本特有の悪しき伝統、縦割り行政。
それまでは厚生労働省管轄のぼくらお馴染み「食品衛生法」をはじめ、農林水産省管轄の「JAS法」、その他「健康増進法」など幾つかの法規制が複雑に絡んでいて、何をどう表示していいのか、そのためにどの法制度に従えばいいのか、よくわからないような状況だった。
その交通整理を行い、食品表示にかかわる法律をシンプルにわかりやすく一元化することを目的として、消費者庁のもとに一本化され制定されのが、その2015年「食品表示法」でした。
これらについてはすべて解説しているとそれだけで話が終わってしまいますので、ここでは割愛します。
様々なところで解説が書かれているでしょうから、そちらをご参照ください。
しかし。
実をいうとここで制定された「食品表示法」、そしてその基準となっている「食品表示基準」というものが、本来目的としていた「わかりやすくする」が果たされているのかは当時から大きな疑問でした。
というのも各省庁の管轄法律を「一元化」することを重視するあまりに、幾つかの法の「寄せ集め」になってしまい、結果、「わかりやすさ」が犠牲になってしまった。
なんとも日本の縦割り行政らしい「ダメだこりゃジャパン」の現れですが、こういう国ですからそういうものとして、その結果、矛盾や複雑さ、幾つかの問題が露呈した。
で、そのなかの問題のひとつが、「原料原産地表示」の表示義務対象が一部の加工食品のみでしかなかった、ということです。

ややこしさMAXの「加工食品」
さて、ここで気になるのがその「加工食品」というものです。
上の通り、これまでは「一部の加工食品」に対し、「原料原産地表示」の表示義務があった、という。
でも、ちょっと待って。そもそも「加工食品」って何なん?
ていうか「加工」って何なん?
そう疑問が湧くところですよね?
普通に考えてもおわかりの通り、スーパーやコンビニ、レストランなど普通に売られている「食品」というのは、その多くが何らかの製造、調理、加工が行われたものばかりですよね。
実際、なんらかの方法で製造、加工される食品はみな、「加工食品」という扱いになります。そしてそれ以外の生で食べられるものが、「生鮮食品」です。
ということは、かなり多くの食品、というかおよそ大半が「加工食品」なのではないだろうか。
まあ、おそらくはそういうふうに考えるじゃないですか。
ところが、コトはそんな単純じゃないのが、この「食品表示基準」がクソミソにややこしいところなのです。
なるほど、明らかに加熱されていたり、どう見たって調理加工されているものだったら、わかるかもしれません。
ですが、一般的には「生鮮食品」だと思われているものも、「加工食品」扱いだったりすることだって結構多いんです。
事実、「食品表示法」においては、「加工食品」とは「製造または加工された食品」であり、「生鮮食品」とは「加工食品および添加物以外の食品」と、なんだか既にこの時点で、わかるんだかわかんないんだか、といった微妙な定義区分です。
つまり、世の食品には「添加物」と、生で食べられる「生鮮食品」と、そして「加工食品」というのがある。
そして、「加工食品」というのは、なにがしかの「製造」や「加工」という過程が加わったものだ。
まずは、この理解が必要です。
ちなみにその「加工」には「加熱・加塩・調味・乾燥」その他の工程が含まれます。
「切断・水洗・冷凍」などは含まれません。含まれませんが、それだけではちょっとまだよくわかりません。
例えば、カットキャベツは「生鮮食品」ですが、カットフルーツミックスは複数種類混ぜ合わざれているから「加工食品」となります。
ええー?
カットキャベツは「生鮮食品」だけど、カットフルーツミックスは「加工食品」なのー!?
こんなこと、一般の人がわかるわけないですよね?
一方で、例えば、幾つかのマグロブツ刺の盛り合わせ、キハダマグロとメバチマグロを盛り合わせたものは「生鮮食品」ですが、イカやサーモンやハマチなどの刺し身盛り合わせになると、これも複数種類混ぜ合わざれているから「加工食品」になります。
当然ながらスーパーには、同じ棚に並んで、夕方からはセール対象に一緒くたにされます。
こんなこと、一般の人がわかるわけないですよね?
これは、「同種混合」と「異種混合」の違いによるために生じている区分なんですが、この時点ですでに、ややこしさムンムンですよね。
それに加えて、例えば一見刺し身や生食、つまりは同種の「生鮮食品」に見えるとしても、イカソーメンなどの商品にはよく油脂や添加物が加わってますので、それらは「加工食品」になります。
んじゃ、数種のベビーリーフを合わせて袋詰した「ミックスベビーリーフ」はどうでしょう。
うん、これは「異種混合」だな。
そう思うじゃないですか、でもこれ、「各々のベビーリーフの原型が判別可能」なので、「生鮮食品」なんです。
なにそれ、なにその誰得な独自理論。
でもそういうものなんです、それが「食品表示」の謎なのです、「ダメだこりゃジャパン」のもたらした帰結なんです。
ですが、んじゃこの「ミックスベビーリーフ」を細かく切り刻んだものがあるとしますね。
これはどうなるかというと、今度は「加工食品」になってしまいます。
理由は、「各々のベビーリーフの原型が判別不可能だから」、以上。
ちなみにどこくらい細かくか、の基準は存在しません。
あはははははーー。
ってわかるかーーーーー!!!!!!!!!!!!

とね。
このように、なんとも逆にややこしくなってしまったのが、この「食品表示法」だったのです。
そして、このようなことが一事が万事でまかり通っているのが、今の「食品表示」の現状です。
ですからもっと話すと更にややこしいことがてんこ盛りなのですが、いい加減キリがなく脱線していってしまうのでここらへんにしておきましょう。
ふう、何せ加工食品の解説だけで、これですからね…。
では、本題に戻ります。
そして。
そうした加工食品に対し、先の2015年「食品表示法」においては、添加物以外の原材料については「原材料」として明記し、添加物と区分けして表示することが決められていました。
加えて、一部加工食品にはその原材料のうち最も重量割合が高いものに対しての「原料原産地表示」が定められていました。
この、一番重量割合が高いもののみ、というのもポイントの一つなのですが、まあそういうものだと思っておいてください。
しかし、これにあたった「加工食品」は当初、22の食品群と4品目の計26種類のみ。
これは店舗で普通に陳列され売られている加工食品のごく11%程度に過ぎませんでした。
しかも多様化している今の食品においては、その対象に含まれるのかどうかすらよくわからない微妙なもの、まぎらわしいものがいっぱいあった。
勿論メーカーも「しめしめ」と思っているわけではなく、自主的に産地表示を行っているところも少なくはなかったのですが、それを含めても全加工食品としてはわずか16%程度に過ぎない、と言われていたのです。
しかもご存知の通り、このぼくら日本の消費者というのは、原料原産地に対する関心は殊更に高い。
これではそのニーズを満たしてはいないのではないか。
そうした声が当然ながら、高まっていきます。
そこで2017年、9月1日、輸入品を除く全ての加工食品に対しても、上のような「原料原産地表示」を制度化するように定められたのです。

「原料原産地表示」完全制度化と現状について
かくして、2017年、全ての加工食品に対する「原料原産地表示」の完全制度化がなされることになります。
とはいえすべての加工食品に対しそれらを行うには、準備期間も必要だろう。
そうして設けられた、制度対応のための準備期間、つまりは「経過措置期間」が2022年3月31日までなのです。
ということは。
その「経過措置期間」である今年、2022年3月31日を超えてしまえば、つまりは翌日4月1日以降に製造・販売がなされる食品については、先のような原料原産地を必ず表示する必要があり、それをしなければ違法になってしまいます。
すると、産地偽装などにならんで、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」が課される対象となりかねない。
そこで、多くの食品メーカーさん、販売店さんはこの制度への対応を求められている、というわけです。
…とまあ、以上。一般的な、ここまでの流れとその簡単な解説です。
実を言うと、これらに加えて、この現状の「原料原産地表示」については未だにいくつかの問題をはらんでいます。
たとえば、「大括り表示」などの「可能性表示」の曖昧さの問題点や、あるいは「製造地表示の場合、原材料産地表示が不要なので原産国がわからない」など、幾つかの重要な議論点が含まれてもいるのですが、ちょっとそれは今回とは別の話とするとします。また別に後日扱いましょう。
勿論ですが、これらについては、食品業界の実際の現場においては、すでに釈迦に説法な、当然&常識のお話。
細かいところはさておいたって、現実にはすでに多くの企業は「とっくに対応済み、こんなギリギリで何を今更」という話でしょう。
そもそも、もし一般的な食品メーカーで現段階で「まだ何もしてません」なんて応えたら取引先から呆れられるレベルでしょうし、組織内なら品質管理は何をやってるんだという話に間違いなくなる話。
何せ包材の新規発注やらライン調整やら何やらで、1ヶ月なんてあっという間ですからね。
ただし、先の通りに食品業界内ではない一般的な方々には、そういうことは実はほとんど知られていないことだったりもするでしょう。
よって2022年からは、そうした「原料原産地表示」の制度が実際に法規制として施工される動きとなっており、行政もまたそれに向けての対応を着々と現状で進めている、ということは業界外の方々も知っておいていいでしょう。

まとめ
2022年、食品業界と「食の安全」を語る。
今年は前編・後編に分けて、テーマ別にお話していきたいと思います。
2022年の食品業界と「食の安全」はどうなるのか? |
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まず最初の今回は、2022年の4月1日から完全施工化となる「原料原材料表示制度」について、お話いたしました。
ただでさえ込み入っていてよく理解の難しい食品表示ですが、これからもウチでも日々話題や情報を出していきますので、どうぞお付き合いください。
いわずもがな、食品衛生においても、これらは非常に重要なファクターであったりしますので。
さて次回は、フードテック、なかんずく新型コロナウイルスの与えた影響と、その後や現在進行形のそれらについてお話したいと思います。
これらは今回とはまた違った意味で、食品業界がどこに目指して向かっているのか、というもう少し違った大きなマクロの目線の話になるかと思います。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
