「ぶらり、衛生管理屋」。
さすらいの(?)衛生管理屋が、日本全国、東西南北津々浦々、あちこちにぶらりと出かけては、食品衛生のプロとしての鋭い眼差しをご披露。
た、ただの散歩や観光やドライブじゃないんだからね!

そんな初回の「ぶらり」は、残念ながら包装不良で先日製品回収対象となってしまった「モンテール」さんの「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」を求めて、茨城県は坂東市の工場直売所にまで行ってまいりました。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

参照画:モンテール「たっぷりーむ」
モンテール「たっぷりーむ:チョコクリーム」

 

モンテールの「たっぷりーむ」が自主回収の対象に

さて、先日いつものようにリコール情報をチェックしていると、モンテールさんのクリームたっぷりな新作サンドクリーム「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」が回収対象として報じられていました。

21年11月12日に販売した「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」において、製品背面のシール不良のため、異物の混入やカビ発生の可能性が考えられるため、回収する。
これまで健康被害の報告はない。

まず最初に断っておきます。
前回までの2回にわたってのカビ発生クレームを読んでいただければよくわかることでしょうが(下記リンク参照)、包装のシール不良というのはそれほどに珍しいことではありません。

しかも今回のケースは、包装工程上でのヒートシールの不良が確認されたため、場合によってはカビの発生に繋がりかねないし、封が空いてしまうことで異物混入というのも、もしかしたら生じるリスクは可能性として考えられる。
なので、「まだそうしたカビ発生や異物混入が起こったわけではないが、そうしたリスクを鑑みて自主的に回収するよ」というだけの話です。

ですからこれをもって、やれカビが生えただの異物混入しただの、ましてや衛生管理がズサンダー!ケシカランー!という次元の話とは全く違います。
そこは予め強調しておきましょう。

挿画:解説

新商品は包装不良が起こりやすい?

さて。
実はこのモンテールさんのこの「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」というのは、今月11月1日から販売がスタートされた新商品です。

「モンテール」さんといえば、スーパーなどでも販売されている比較的お値段のやさしい美味しいスイーツを作っている洋菓子メーカーさんです。
そこで出した新商品が、この「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」でした。

外観はこのように、一見どらやきのような感じなのですが、中にはたっぷりのミルククリームと、その下にバニラシードの入ったカスタードクリームが詰まっており、それを柔らかな生地で包む…という、もうぼく自身こうやって書いているだけで「これ絶対美味いやつや!」とニンマリ想像しか出来ない、ステキ商品となっています。

なめらかなクリームをたっぷり楽しめるサンドケーキです。
なめらかでミルキーな味わいのミルククリームと、バニラシード入りカスタードクリームの2層仕立て。ふんわりしっとり生地でサンドしました。

参照画:モンテール「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」
モンテール:「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」

うっわ!
めちゃくちゃ美味しそうだな…。

さて。
このような新商品というのは、実はこのような包装不良によるカビ発生クレームが比較的起こりやすい、とも言われています。
何故か。
これはもう前回の後編のお話に、大きく関わる話です。

前回のカビにまつわる記事の前編で書いた通り、カビ防止のための食品包装のポイントとはズバリ、「如何に製品の包装内に酸素を入れないか」です。
より具体的には、「如何に包装内に酸素のない状況を維持出来るか」ということになります。
何故なら、カビは酸素なしでは活動が出来ないが、しかし死滅するわけではなく、酸素が加わればまた再び活動し始めてしまうからです。
(詳しくはそちらの記事を読んでみてください)

前編(上記リンク先)のまとめ
  • カビの発生要因には、酸素、水分、栄養素、温度が必要である(ただし、これらがなくともすぐに死滅するわけではない)
  • 「酸素」がないとカビは発生ができないが、しかし死滅するわけではなく、再び酸素が加わるとまた発生し始める
  • カビは乾燥状況に非常に強く、そう簡単に死滅しない
  • そのため食品の包装には、「如何に酸素を通さない状況を維持するか」が重要になる

しかし、これが理論として言うのは簡単だけど、現実にそれを何万品も製造していく上においては、現実としてなかなか難しいことだったりするのです。

これがどのくらい大変なのかは、その後編(↓)でじっくりと書いたことですね。

上にも書いたとおり、例えば包装資材に何らかの理由から小さな穴、いわゆる「ピンホール」が発生し、酸素が入ってしまう、なんてことも時として生じることもある。
あるいは、今回のようなシール不良が生じることだってあるだろう。
その他、いくつかのケースだって考えられるでしょう。

包装内食品のカビ発生クレーム要因例
  • 包装後の梱包・物流・販売などの段階で「ピンホール」が生じた
  • シール不良が生じた
  • 包材や脱酸素剤の選定をあやまった
  • 包装手法の不具合が生じた
  • 脱酸素剤に不具合が生じた
挿画:クレーム

「ピロー包装」とは

さて、今回の「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」は、いわゆる「ピロー包装」がなされていました。
ピロー包装とは、一体なんでしょうか。

食品の包装には様々な方法があります。
で、その中でも代表的なもの、一番メジャーな包装手法がこの「ピロー包装」です。

「ピロー包装」は、側面の合わせ(サイドシール)がなく、さながら「枕(Pillow)」のような形態であることがその語源です。
これはどのように作るのか。
まずは包装フィルムを合わせて筒状にし(センターシール)、その筒の中に食品を充填包装したら上下両端を熱溶着(エンドシール)し、裁断して作ります。
センターシールの背貼りが手を合わせている状態に見立て、「合掌袋」とも時に言われます。

作成画:ピロー包装例

百聞は一見にしかず、ぱっと見ればすぐにわかるでしょう。
見てください、ぼくのうちの冷蔵庫に実際に保管してあった、冷凍食品。
これこれ。
こういう包装手法です。

赤い箇所を見てください。
上下、背の真ん中で3箇所が熱溶着(ヒートシール)されているのがわかりますね。
これが「ピロー包装」です。

作成画:「ピロー包装」例
赤線の箇所をヒートシール(熱圧着)している

このように、「真ん中」(センターシール)、そして「頭」「お尻」(エンドシール)を、機械によって熱溶着(ヒートシール)する「工」字型の包装のこと(これは横になってるのでH字型ですが)を、「ピロー包装」といいます。
呼び名を知っているかどうかはさておき、こういう包装ってよく見るでしょ?

参照画:ピロー包装機の仕組み
参照画:ピロー包装機の仕組み

(株)サンコー商事

その工程をシンプルに説明すると、まあこんな感じです。
そしてそれを行う機械を、「ピロー包装機」といいます。

ピロー包装機というのは、大きく巻かれた包装フィルムをセットさせ、先でも簡単に説明したようにその包材をくるっと丸めて合わせ目をヒートシール(熱溶着)させて筒を作り、コンベアによってその筒内に自動的に製品をくぐらせ、入ったことを確認したら次にバツンと上下をヒートシールして封じ込めます(エンドシール)
最後はそれらを裁断すれば、あっという間に製品は密封されることになります。

そうすることで、製品の中の気密性は保持されるため、これ以上の酸素は入ってこなくなります。

挿画:×酸素

どうして新商品は包装不良が起こりやすいのか

さて、何度か書いている通り、今回のこのモンテールさんの新商品、「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」ではシール不良が報告されている。
つまりそれは、このようにピロー包装を行う際に熱圧着(ヒートシール)がうまくいかなかった、というケースです。
もう一度ニュースを確認してみましょう。

21年11月12日に販売した「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」において、製品背面のシール不良のため、異物の混入やカビ発生の可能性が考えられるため、回収する。
これまで健康被害の報告はない。

そう、こちらの報告にも「製品背面のシール不良のため、異物の混入やカビ発生の可能性が考えられる」とあります。
つまり包装不良で、「異物混入」と「カビ発生」のリスクがある、と言っているわけです。
ですが、その可能性は、そりゃ考えられはするでしょうが、可能性があるだけで、その可能性もそれほどに高いのかといえばそんなわけでも実はありません。

というのも恐らくですが、この商品は賞味期限もそれほど長くはないでしょうから、カビが発生するまでに食べられるか廃棄されるか、です。
なのでカビの発生まで至ることは、実はそうないかと思います。
意外とカビというのは発育が遅いものです。

また異物混入にしたって、包装不良程度の小さな包装不良の隙間から混入するものなんてそれほどはありません。
「シール不良」というと、なんだろう、イメージとしてこの背面のピローのヒートシール部分が、まるで皆でポテチをつまむのに開くようにこう、ガバーっ、ばっくりと、全面が開いてしまっている。そんなイメージが、もしかしたらあるかもしれません。
ですが、さすがにそんなヘマは、一流企業はしません。
何度ものテストの上で製造するのですし、そもそもそんな包材やそんな包装機だったら直ちにメーカーに突き返されてます。
ちょーっとしたほんの小さな隙間が出来る、その程度だと想像したほうがいいでしょう。

さて。
先にも書きましたが、新商品というのは比較的こうした包装不良が起こりやすいとも言われています。
それはどうしてでしょうか。

前回にも書きましたが、包装不良というのは、製品の特質やサイズや包装の手法、包材や脱酸素剤の選定、その他室温などなど様々な要因によって生じるものです。
だから包材が異なれば、そのつどにそれに合ったヒートシールの温度や圧の調整などが必要になる。
冬と夏、寒い日と暑い日、湿度の高い雨や晴れている日ですらも、その差は微妙にある、と言われています。
そんなわけで、シール不良だとクレームが生じても、その原因は正直わからない、そういうことは多々あるものです。

とはいえ、そこはやはり工場という製造のプロフェッショナル。
ずっと長らく製造している製品ならば、製造メーカーも様々な特質を熟知しています。
ですがこれが新商品だったらどうでしょうか。

新商品というのは、何せ初めて製造するものです。
ですからメーカー側も、その製品の特性、カビ発生のしやすさなどを完全に把握しきれていないことが多いのです。
実際に物流、販売ルートにのせてこそわかる実状というのは非常に多い。

またその製品の多くが、イチから包装資材を選定し直したりもしていますから、それら同士の相性もわからない。
どころか、その包材をどの温度でどのようにヒートシールすれば問題が生じないか、それを掴みきれていないなんてこともあるでしょう。

また場合によってはテスト時はうまくいったのだけど、いざ生産に乗せて、多量にどどどーっと製造してみたら思い通りにいかなかった。そんなこともあったりする。

かくして、包装上での問題が生じてしまう。こういうケースは意外と多いようです。

挿画:驚くイメージ

まとめ

今回は、「ぶらり、衛生管理屋」。
前編、後編と二部にわたって、モンテールさんで包装不良による回収対象となった新商品「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」を実際に買いにいって食べてみる、というお話をさせて頂いています。

そしてこちら前編では、その基礎となる包装不良のお話をさせていただきました。
ふう…
なんだか事前の解説だけで前編を書き終えてしまいました。

さあ、では次回の後編では、いよいよその「たっぷりーむ・ミルク&カスタード」を実際に買いにいってみたいと思います。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画