ケーススタディ・ザ食品衛生。
今回のケーススタディは、前回からの引き続いてのテーマ、「密封包装されているはずの未開封のパンに、カビが生えてしまったのは何故?」の後編です。
そんなことはあるのでしょうか。また、もしあるとすれば、このようなことはどうして起こるのでしょうか。
その要因に、今日は迫ってみようと思います。

で。
えーとですねえ…、
前編もそうなんですが、今回ちょっとやたらとリキが入ってしまい、結構なボリュームとギュウギュウの内容になってしまいました…。
なので、かなり充実した内容となっているかと思います。
どうぞ、じっくりと読んでいただければと思います。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画:パン

 

未開封製品にカビ発生…という前に

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし以下の「前編」をお読みでなければそちらを最初に読んでいただくと理解がより深まります)

ケーススタディ・ザ食品衛生。
今回取り扱っているテーマは、こちら。

「未開封のパンにカビが発生した。その原因は?」
です。

挿画:テーマ

まず、
今回の前提的なお話については、前編でもう十分にお話させていただきましたね。

そして、カビに対する基礎的なお話も、すでにこれまでしています。
なので、ここからはその続きについてお話していきたいと思います。

前回から飛んできた方も、ちょっとこのポイントだけは是非とも押さえておいてください。

前回のまとめ
  • カビの発生要因には、酸素、水分、栄養素、温度が必要である(ただし、これらがなくともすぐに死滅するわけではない)
  • 「酸素」がないとカビは発生ができないが、しかし死滅するわけではなく、再び酸素が加わるとまた発生し始める
  • カビは乾燥状況に非常に強く、そう簡単に死滅しない
  • そのため食品の包装には、「如何に酸素を通さない状況を維持するか」が重要になる

では最低限、これらのことを基本として踏まえた上で、これより先に進んでいくとしましょう。

挿画:ケーススタディ

食品はどのように包装されるのか

さて、前回のお話のポイントにもあった通り、カビ防止のための食品包装のポイントとは、もうこれに尽きるのです。

そう、
「如何に酸素を入れないか」
です。

より具体的には、「如何に包装内に酸素のない状況を維持出来るか」が求められます。
何故なら、前回の通り、カビは酸素なしでは活動が出来ないが、しかし死滅するわけではなく、酸素が加わればまた再び活動し始めてしまうからです。

ではここからは、このような対応がなされる包装の代表例を幾つかご紹介しましょう。

挿画:酸素が重要

真空包装

カビ対策としての食品の包装方法には幾つかの種類があります。
いずれにしても重要なのは、先の通り、「如何に酸素を包装内に満たさないか」「それを維持するか」です。

一番判りやすいのは、「真空包装」でしょう。
ソーセージやレトルト食品、漬物その他でよく見られる手法です。
包装資材内に食品を充填して、空気を抜いた真空条件下で密封しシールしてしまう。

メリットはガスの注入や脱酸素材を入れることなく、真空パッカーで密封してしまうだけなので、比較的作業がシンプルなこと。
デメリットは形状や食感が破壊されやすいので、つぶれてしまいそうな菓子類やパンなどには向いていません。

挿画:真空包装の例
↑うちの冷蔵庫にあった真空包装(笑)

ガス充填包装

その他、包装資材内に窒素を満たしてしまうことでカビの活動を抑制する方法もあります。
ポテトチップスのようなスナック菓子。あれを思い出してください。
なお、ポテトチップスなどの油であげるスナックの場合、酸化防止という品質維持の目的もそこに大きく含まれます。
それと、あのパツパツなガス充填は、衝撃防止、それによる製品の粉砕予防の目的もあるのでしょうね。

このように「ガス充填包装」のメリットは、カビ対策としても効果が高く、また形状の維持が出来ること。
他方デメリットは、充填機が必要など、手間とコストと時間がかかること。また、一部パンなど、ものによっては食感が損なわれてしまいかねないことでしょう。

挿画:ガス充填包装の例

脱酸素剤封入包装

一番手っ取り早く、手軽な方法。
それが、食品の包装内に「脱酸素剤」を一緒に入れてしまうことです。
一番ポピュラーな方法です。

これは酸素を取り込んで吸収してくれる薬剤で、開発商品の名から「エージレス」と言われることがあります。
(ただし「エージレス」とは本来、三菱ガス化学が製造・販売する脱酸素剤の登録商標です)

ですから包装資材内に多少の酸素がもし残っていても、大丈夫。
この「脱酸素剤」が吸収し、カビの活動を抑えてくれるのです。

しかしあくまでそれは、製品が完全密閉されていることが条件。
少しでもほんの小さなキズ穴(ピンホール)が空いていると、そこから空気がどんどん流入し、カビの活動が始まってしまいます。

メリットは、コストが一番安く、効果がそこそこ高く、手軽で、自動投入の仕組みを組み込めば一番スピーディに作業が出来る、製品の食感や形状の維持が出来る、など多々に及びます。
ですから多くの食品でこの方法が起用されがちです。

挿画:エージレス(脱酸素剤)
三菱ガス化学(株)

このようなカビ対策のための包装を行う理由

そもそも、どうしてこのような包装を行うのでしょうか。
それは、製品を全くカビに汚染させないまま包装する、ということがなかなか現実的に難しいからです。

例えば、焼成したばかりのパンは160℃を越える高熱で加工されているため、カビが表面などで生きていることはありません。
しかし、パンはこの後ゆっくりと冷却し、粗熱を取ります。
急激に冷却すると食感が失われてしまうからです。
そうしてパンは製品によってはスライス工程などを経て、包装されることになります。

そう、この放熱~包装の工程間に、場内に浮遊しているカビの胞子がパンに付着します。
そりゃあHEPA管理の無菌充填のようなクリーンブース内でパンが冷却されるなら話は別でしょうが、まあ一般的にありえない話。
(ちなみにクリーンブース内にだってカビの胞子は人の出入りによるドアの開閉や作業衣への付着などを経て、容易に入り込みます。)
つまり、全くカビの胞子の存在しない空間を作り出すことは、そんな思っているほど簡単では、現実ではないのです。

何せ、カビの胞子というのはフヨフヨと空気中を漂い舞い上がっています。
そう、ホコリに付着して、です。
そもそも土壌に生存しているカビは、ホコリに付着し、場内に入り込み、そして資材や人間の動線、作業工程などを介して製造室内に入ります。
ということは、カビの胞子を存在させなくするためには、ホコリそのものを場内からなくす、ということになります。
これってどれだけ難しいかわかります?

確かに加熱工程によってカビは死滅するでしょう。
ですが、加熱を終えたパンは、包装工程に向かいます。
そこで汚染されてしまえば、結局は同じことになるのです。

結果、パンにカビがどうしたって付着する。
このことはパンだけに限った話ではありません。
いくら加熱後すぐに急速冷凍にかけるといっても、一端空気に触れる以上、カビによる汚染は免れません。
つまり、空気の中で製造がなされる以上、カビを完全遮断することは不可能です。

だからそれは仕方ないものとするなら、包装によってその活動を食い止めればいい。
このように考えられて作られたのが、脱酸素剤などをはじめとしたこれらの包装技術です。

これは、微生物管理上で言うところの、「増やさない」対策です。
カビを「付けない」のが難しく、また焼成後で「やっつける」ことが出来ないのであれば、食品で「増やさない」ようにすればいいのです。

参照画:微生物対策の三大要素
微生物対策の三原則

厚生労働省

パンにカビが発生した原因は?

さて、これらを踏まえて「何故未開封のパンにカビが発生したのか」。
その原因を考えてみましょう。
幾つかの原因が考えられると思います。

さて。
このパンの包装内には「脱酸素剤」が入っていました。
まあ、先の通りに極めてポピュラーな包装手法ですね。
それを考えれば、次のような原因が可能性として考えられるでしょう。

包装後の工程や物流上でピンホールが生じた

まず疑うべきは、「ピンホールの発生」ですね。
包装後の製品の取扱い、箱詰めから物流、店頭などで様々な原因から衝撃を受けて、「スレ」による破損、つまり「ピンホール」が生じてしまった、というケースです。
恐らく、このようなクレームのほぼ大半がこの原因かと思います。

酸素バリア性が高く、また耐久性が高いと言われている包材でも、ある特定の衝撃や突起物との摩擦に弱い、なんてことはよくある話です。

どんな包装資材だって、全ての状況を想定して作られるわけでは当たり前ですが、ありません。
その包装資材が、その製品の自重や包装・梱包・物流・販売状況、様々な条件によってある特定の摩擦や衝撃が生じることで、予想外の劣化をうながされる。そんなことは普通にありえることでしょう。
それじゃ、うーんと耐久性の高い包装資材にすればいいじゃないか、と思うかもしれませんが、開封しづらければしづらいでまたクレーム、あるいは製品の売上に影響をきたします。

また例えば、段ボールなどとの接触でそれが生じることもあったりします。
特に樹脂製や紙製のトレイに乗って一緒に包装される菓子などでは、そのトレイの端がすれてピンホールが生じる、というようなケースもしばしば耳にします。
トレイ自体は軟らかい資材なのでしょうが、しかしその端は何度も摩擦しているうちに包装資材にピンホールを生じさせてしまった、というような話です。

ランダムで単発的にこのような問題が生じる場合は、このケースが多いです。
実際ほーんの小さなピンホールでも酸素は流入しますから、カビの発生は可能になります。
そのため、目視確認などではピンホールが見あたらず、「返品された製品の包装をよく見たのだが、どこにも穴は見あたらないように見える」というような話もまま聞きます。

この場合、ピンホールが生じた要因を調べ、手荒で不適切な作業の有無や包装資材の見直しなどを対策として薦めていきます。
しかも近年では脱酸素材の中には、無酸素状態とそうでないときの色が変わるものもあります。
こうしたものを用いることでも、包装内の状況がわかるようになるでしょう。
その他、段ボールとの摩擦で生じる場合には、緩衝材を用いるなども有効かもしれません。

挿画:FIND

シール工程の不具合

ピンホールと並んで想定されるのが、「シール不良」です。
熱圧着において、わずかな接着不良が発生し、そのため酸素が流入したというケースです。

シール不良と簡単に言いますが、そもそもこれを防ぐことは、一般の方々が想像しているよりも難しい調整が必要です。
というのもこの手の包装は加熱による圧着で行われることが一般的なのですが(ヒートシール)、その熱圧着の際にちょっとした熱の温度差によってムラが生じることがあります。
結果、何かの手違いで高熱に至らなかったり、あるいは高熱になりすぎてもろくなってしまう、なんてこともあります。

何せ、いくら現代技術とはいえども、製品というのは生モノ。
その調整は、各製品の包材ごとに微妙に変わりますし、もっと言うなら季節変動要因や室温や湿度によっても変わると言われます。
テスト段階では良かったものが、ドドドドーっと多量生産すると微妙にズレてきたりすることもあるといいますし、それらは包材ごとの相性によってもまた変わってくる。
これらの調整は、もはや職人芸に近いレベルだともすると言われるほどです。

ですからそうした製造品を何万品も製造して、にも関わらず異常品を全くのゼロにする、というのは言うほどたやすいことではないでしょう。

なお、これらの包装不良を防ぐため、「レッドチェック」や「水没チェック」を行っているケースもあります。
赤い溶剤を内部に注入したり、水に入れるなどして、漏れを確認するのです。

挿画:×酸素

包材選定や包装手法の不具合

包装手法そのものに不具合や手違いがあった、思い通りにいかなかった、というケースです。

包材そのものの選定だけではなく、製品との相性というのも実はあります。
例えば、カビが発生しやすい製品なのに、透過性の高い包材を用いてしまった、なんてこともあります。
こうなると、ちょっとしたピンホールやスレなどの不具合で、カビが発生することになります。
(当たり前の話ですが、全ての包装不良品がカビを発生させるわけではありません。そしてカビが発生しなければ、問題として浮上しません)

とくに新商品として新たに企画したり、あるいは既存商品でも包装資材を切り替えたりする際に、考えられる原因です。
当然、それに適した包材や手法に改善していく必要があります。

脱酸素剤側に問題がある

脱酸素剤自体の不具合や、選定ミスなんてのも、考えられるでしょう。

そもそも一口に「脱酸素剤」といってもスペックは様々です。
その製品との相性なんかもあるので、あらゆる脱酸素剤が全ての製品にマッチするわけでは、全くありません。
ですからその製品や包材によって、選ぶべき適した脱酸素剤があります。
そしてそれを選定していなければ、当然ながら期待する効果は得られません。

また、ごく時折、脱酸素材自体に問題があった、あるいは保管方法を誤った、などといったケースも見られたりします。

包装内食品のカビ発生クレーム要因例
  • 包装後の梱包・物流・販売などの段階で「ピンホール」が生じた
  • シール不良が生じた
  • 包材や脱酸素剤の選定をあやまった
  • 包装手法の不具合が生じた
  • 脱酸素剤に不具合が生じた
挿画

製造現場のカビ対策

このような包装工程上の問題に加え、考えなければいけないのは、製造現場におけるカビ対策です。
当たり前の話ですが、包装工程上の要因もさることながら、カビの多い環境であれば当然カビの問題が生じてもおかしくありません。
とくに粉体を大量に使うパン工場においては、工場内に多量のカビ・酵母がいるものです。
ですからそうしたエリアでの粉体管理や清掃対策ももちろん重要となります。

更には、焼成後エリアとのゾーニング、清浄度区分が大切です。
例えば加熱調理室が排気のため陰圧になっており、隣接エリアから気流と一緒にカビの胞子も流入している、などといったことがある場合も。
当然ながら扉の開閉管理や作業の動線管理だって、重要な問題となるでしょう。
もちろん、焼成後エリアの壁面、天井、床面や設備などの清掃、殺カビ対策は欠かせません。

また、空調施設に問題が隠れていることもあります。
というのも、空調施設というのは、周辺の空気を吸引し吐き出して拡散させているからです。
この場合、空調施設のフィルター、さらには内部清掃などが必要になります。

ちなみにこのことはスポットクーラーも同様です。
それと時折、スポットクーラーで冷却をしている工場なども見かけます。
その場合、吹き出し口にカビが見られる、なんてことは論外なのですが、あの蛇腹の口は意外とカビやすいものです。

また結露などによりカビが浮遊しており、それが包装前の製品や包材、その他に付着し、結果カビが混入するということもありえるでしょう。

なお、パンではありませんが、「洋生菓子の衛生規範」では、作業場(清潔作業区域)における落下真菌数は10個以下にすることが望ましいと、指針を挙げていました。
ですが、これは2021年の6月に、食品衛生法の改正とともに、すでに廃止されています。

作成画:洋菓子の衛生規範:落下菌基準
洋生菓子の衛生規範:落下菌基準

まとめ、と補足

以上、未開封のパンにカビが生じていた場合の原因と対策について、お話してきました。

そして。
最後に、ぼくら食品衛生の専門家と、世間一般的な思い込みのズレについても、少しだけ触れておきましょう。
とはいえこれを言い出すとまたえらくボリュームが必要になってしまうので、ここではそれほど踏み込まずに簡単に話しておきます。

まず「そもそも」の話として、「製品にカビが発生した」=直ちに食品衛生法違反、というわけでは全くありません。
ここ、一般の方々がカビという性質を知らないがゆえに、大きく取り違えていることじゃないかな。

だから、例えば。
ある製品がカビの発生クレームを受けて、その製造ロットを自主回収すると、報じた。
言っておきますがこれ、別に「けしからん」案件でも何でも、全くないですからね。

こうした自主回収というのはメーカーが「万が一を期して」と自主的、自発的に行うことであって、そうしなくてはいけない法的根拠は全く存在しません。
つまりこの場合は、あくまで「一企業として自主的に行う」というだけで、これは食品衛生法違反によって行政からの回収義務を命じられておこなうケースとは、全っ然!違います。
大体、食品メーカーが食品衛生法の違法によって回収を行うという場合は、健康被害を生じさせる危険性のある食品を多量に市場に出してしまった場合のみなのです。
そして、カビ発生クレームの1件程度でそんなことは、まずありません。
なので法的に問題はないけれど、メーカーとして大きな問題に発展させたくないので、可能性の考えられる製造分は自主回収しておこう、と単にそういう話です。

大体、これまでの話からも判るかもしれませんが、包装不良なんてのは、ある確立で避けられないことですらあります。
また製品によっては包装不良が生じてもカビ発生にまで至らないこともよくあります。
その場合、カビが発生しているか否かというのは、言ってみれば結果論です。

どういうことか。
先にも触れた通り、そもそも製造現場から完全にカビの胞子を除去するのは不可能です。
であれば、多かれ少なかれ、製品にはカビの胞子が付着していてもおかしくない。
なので、こうやって包装技術によってカビの発生を抑えているわけです。

さて、カビの問題というのはどうして起こるのでしょうか。
それは、「カビという存在が目に見えるから」です。
つまり、カビの胞子が製品に付着していても目に見えなければ、それは問題にはならないのです。
でもそれが発育し、目に見えるようになることで問題になる。
それが「カビの発生」という問題の現象の真実なのです。

…うーん、
まだまだ全然、話足りないぞ!?(笑)

大体、このカビの問題というのは、もっともっと話すべき論点が一杯ある、食品衛生における非常に興味深いテーマの一つです。
なのでこれをはじめとして今後ももっと題材として扱っていきますので、どうぞ楽しみにしていてください。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画