ケーススタディ・ザ食品衛生。
今回のケーススタディは、「密封包装されているはずの未開封のパンに、カビが生えてしまったのは何故?」です。
って、ええー!?
そんなことはあるのでしょうか。また、もしあるとすれば、このようなことはどうして起こるのでしょうか。
その要因に、今日は迫ってみようと思います。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画:パン

 

未開封製品にカビ発生?

ケーススタディ・ザ食品衛生。
「工場の現場で起こりやすいこと」、「実際に起こったこと」を例題事例とし、現場に即した対処方法を、ここではお教えしてきます。

というわけで、今回のテーマは、こちら。

「未開封のパンにカビが発生した。その原因は?」
です。

挿画:テーマ

ええー、そんなことってあるの?
よっぽど劣悪な製造環境で製造されたからじゃないの?
そんな工場の製品なんて、よっぽど危ないんじゃないの?

一般の人はもしかしたら、そう思うかもしれませんね。
でも実はこういうこと、結構あったりするものです。

例えば実際に、(別にこれを見てこの記事を書いたわけではありませんが)先月10月には、無印良品の「糖質10g以下のパン」で、カビ発生が確認され、自主回収を報じています。

2021/09/10~2021/10/18に全国の無印良品全店舗(438店舗)で販売した「糖質10g以下のパン」の一部で、カビが発生した商品が見つかったことから、同一工場で製造した9商品を回収・返金する。
これまでに体調不良の報告はない。

実をいうとこの無印のパン、今年の始めにもカビ発生の問題で、回収対象となりました。

「ええー、ついこの間にやらかして、1年も経たずにまたやったってのかいーっ!?」
そう思いますか?
そう、ケシカラン脊髄反応しますか?

でも、それじゃあ無印のこのパンを作っている工場が不衛生なのかといえば、そんなことは全くないでしょう。
何故か。
その話を細かく始めてしまうと今回の主旨にすら到達せずにまるっと前編・後編が終わってしまうので、別の機会にゆっくりするとします。
ただし一つだけ結論を言えば、このパンはちょっと凄い特別な製造をしているパンなのです。
というのもなんとパンの「発酵種」の工夫によって保存料を使わず、1ヶ月半以上もの長期保存を常温で出来るようにしているんですよ!

これはもう一重に、企業の努力と技術力というしかない。
そして(さくっと結論からすると)そんな製品を製造するには、それ相応の高い衛生管理が求められるのは当然ですから、そこらにあるような超適当な衛生管理レベルの工場で思っている程簡単に作れるもんじゃないんです。
(そういう工場では、この製法では求められるレベルが高過ぎてて利益が出ないので、普通は製造依頼を断ります)
しかしそれでもやっぱり時として、保存料を使わない常温保存がゆえに、こういうことも生じる。こういう事情もあったりするんです。

おっと話を戻しましょう。
しかもパンのみに限らず、菓子類や乾物など様々な商品で発生しては、メーカーへのクレームとして挙げられ、場合によっては自主回収対象などとなったりするものです。

例えば、先日11月15日には、三友食品のあたりめにカビの発生がみられてこれまた回収対象となったり。

2021年8月10日に販売した「本格あたりめ」において、カビによる汚染が判明したため、回収する。
これまで健康被害の報告はない。

他にも、高島屋で販売されていた京都吉兆の煮物がカビ発生によって、やはり回収対象となったことが報告されています。

2021年11月7日から11月12日まで高島屋店舗、京都駅構内土産物売り場で販売した「本さざなみ煮(柔らかめ 袋)」において、 カビによる汚染が判明したため、回収する。
これまで健康被害の報告はない。

とまあ、こんな感じでリコールサイトをチェックしていると、割と結構な頻度で、まあ1週間に1回程度はポツリポツリとそうした事例に出くわすものです。
これらを見ると、すぐに脊髄反応でケシカラン反応する一般人は多そうですが、よくよく知れば必ずしもそういうものではない、というのが実状だったりするものです。

では、どのような場合に、こうしたことが発生するのか。
これらについてケーススタディを用いて、今回、次回と前編後編に分けて、二回で解説いていくとしましょう。

挿画:ケーススタディ

未開封パンにカビ発生したというクレームが複数発生

少しばかり前のお話です。
お客様の工場で、製造した未開封のパンにカビが発生した、というご相談を受けました。
しかも、それが立て続いて数件ほど複数回見られたのです。
早速ながら、対応の依頼を受けました。

こうした場合、最初にすべきは、カビの同定検査です。
カビ、といっても種類は様々あります。
食品工場で比較的問題になりやすいカビ、工場の製造環境の特性として多い、というカビもあります。
またカビには固有の好む環境がありますので、問題となったカビの種類を特定すればその対策も立てやすくなる、というわけです。

その結果、このカビはいわゆる「クロカビ」だと判明しました。
正式名称「クラドスポリウム属」ってやつです。
うん、やっぱりね。

というのは後でも触れますが、カビの混入が起こった場合、こいつであることが一番多いんです。
実際、家でも工場でも、どこでもよく日常的に空中に浮遊しているカビのことです。
湿度の高い環境を好み、食品関係のカビ発生事故ではダントツに多いカビです。

参照画:クラドスポリウム
Wikipedia

さあ、これらの問題はどうして生じたのでしょうか。

食品工場で問題になりやすいカビとは

まず、カビの基礎的なお話から始めましょう。

なおここら辺の基礎的なお話はいいから、具体的な原因について知りたいというかたは、後編に飛んでみてください。
こちらの前編では、以降、その基礎となるカビのお話を中心にまずはしていこうと思います。

挿画:解説

はい、
それではカビの基礎的なお話です。
飛ばしても結構ですが、これを知ると知らないでは、理解の深さが全く違います。
ましてや食品衛生に関わる者であれば、やはり知っておくべき内容となっているでしょう。

さて。
一般的に80,000種以上はあるとされているカビですが、しかし今回のようなパン、あるいは菓子類やその他の製造工場内で問題となるカビは、意外とそれほど多岐にわたりません。

主に工場で問題になりやすいカビは、次の三つです。
ですから、最低限でもこの3つくらいは知っておくべきです。

食品工場で問題になりやすいカビ
  • アスペルギルス属(コウジカビ)
  • ペニシリウム属(アオカビ)
  • クラウドスポリウム属(クロカビ)

以下、簡単にこれらを解説します。

まず「アスペルギルス」とは、いわゆる「コウジカビ」のことです。

しかしここで言っているものは発酵食品に使われる「アスペルギルス・オリーゼ」とはやや違う、自然界に普通にいる土壌性の代表的な野生カビの一種のことを指しています。
これらの仲間には、恐ろしいカビ毒「アフラトキシン」を出すものもあります。「アスペルギルスフラバス 」
コロニーは緑、黄土色、茶、黒、白、青緑など、菌種によって色は様々です。

比較的乾いた環境を好み、その多くは25℃以上の中温域に生息します。

参照画:アスペルギルス
東京都福祉保険局

次の「ペニシリウム」は、いわゆる「アオカビ」のことです。
医学的には、ペニシリンなど多くの抗生物質のもとになってきたカビであり、またチーズの製造にも欠かせない存在だったりという一方で、日本の工場内にはかなり多いカビでもあります。

しかも乾いた環境で長い期間生きては、ある適した生息条件が揃うとたやすく発生します。
その結果、穀物に発生してカビ毒「マイコトキシン」を生成することもあるほか、しばしば食品内に混入することもある代表的なカビでもあります。

よくおモチやパン、あるいはみかんなどで見られるのは、このカビが多いです。
コロニーは青色を筆頭に、その他、緑や白、オレンジなどもあります。

参照画:ペニシリウム
Wikipedia

そして三つめ、今回問題になったのが、これ。
「クラドスポリウム」は、いわゆる「クロカビ」とよばれるものです。
食品は各製品によって個々の特質があるために各々問題になりやすいカビというものがあるものですが、しかしそれでも食品クレーム全体として見たら最も問題になりやすいのが、やはりこいつじゃないでしょうか。

しかもこいつら、自然界は勿論、一般的な家庭内にも見られます。
お風呂場やエアコン内などの黒い斑点。あれがそうです。

そもそもカビの発生源は、基本的には土壌です。
そこからホコリへの付着などの様々なかたちで空中にフワフワと浮遊するのが一般的です。
そしてこれらのうち、このクラドスポリウム(やそれらに近い種のもの)がおよそ60%以上とすら言われているのですから、どれだけこの種がポピュラーかがわかるでしょう。

結果、先のように品混入の実例が最も多くなり、またその場合、高湿度な環境かあるいは水分の多い食品であることが多くなります。
ただしこのクラドスポリウムカビ毒は生成しません。これは注意が必要です。
カビ=なんでもかんでもカビ毒に結びつく、というわけでは決してありません。

参照画:クラドスポリウム
Wikipedia

以上、これらは「食品工場の三大カビ」ともいわれるような、代表的なものばかりです。
もちろん、この他にも甘い食品での事例が多い「ユーロチウム(カワイキコウジカビ)」や、「アルタナリア(ススカビ)」「フザリウム(アカカビ)」などなど挙げればもっとあるのですが、一辺に出してもいキリがないので、今回はこの3つにポイントを絞ることにしましょう。

いずれにせよ、これら3つが問題になるケースは、非常に多いと覚えておいてください。

作成画:アオカビ
↑ついさっきぼくの部屋で見つけたアオカビ(ペニシリウム)(笑)

カビの生息要因を知っておこう

さて、少しずつカビの特性について迫っていきましょう。
まず、カビの生息要因とは何でしょうか。
これを知ることで、その生息要因を断つことにより、カビの発生を防ぐことが出来るようになります。

尤も、一重に「カビ」といっても多種にわたりますので、一概に全てがこうだとは言えません。
ですが、一般的に多くのカビの主要因としては次の4つがそれにあたります。

カビの生息要因
  • 酸素
  • 水分(湿度)
  • 栄養源
  • 適切な温度
挿画:カビの生息要因

カビの種類によって、その条件はまちまちですが、しかしまずはこれが基本です。

まず、カビの生息には「水分(湿度)」が必要です。
一般的には、湿度60~70%以上を超えると生えやすくなる、と言われています。

またカビの発生しやすい温度は、20~30℃とも言われていますが、それは活動が活性化するということであり、これらの温度以下でもカビはゆっくりと発育します。
つまり、冷蔵状態でもカビはゆっくりゆっくりとですが、発生します。
冷蔵庫にずっと入れていた食品が時折カビを発生させてしまっているのも、そういうことです。

なお、水分活性(Aw)のお話をし始めるとちょっとボリュームが過ぎて本題に行けなくなくなってしまいますので、ここでは深く踏み込みません。
ですがそれが判る方には、今回問題になった「クラドスポリウム(クロカビ)」「アルタナリア(ススカビ)」などは水分の多い高水分活性(0.94~0.99)を好み、「アスペルギルス(コウジカビ)」「ペニシリウム(アオカビ)」はそこまでは高くない中水分活性(0.85~0.93)を、そして「ユーロチウム(カワキコウジカビ)」などが比較的乾性の低水分活性(0.65~0.84)を好む、と知っておいてください。

水分活性とカビの関係性
  • 高水分活性(0.94~0.99):クラドスポリウム(クロカビ)、アルタナリア(ススカビ)、など
  • 中水分活性(0.85~0.93):アスペルギルス(コウジカビ)、ペニシリウム(アオカビ)、など
  • 低水分活性(0.65~0.84):ユーロチウム(カワキコウジカビ)、ワレミア(アズキイロカビ)、など

それから、「栄養源」というのも重要な要因となります。
カビは糖分が大好きです。
だから、その製品に糖分がどのくらいあるかは、カビの発生に大きく関わります。

食品のカビ発生クレームの中でのトップ3といえば、菓子、飲料、パン、の順だと言われています。
言うまでもなく、これらは糖分を多く含むものです。それゆえにこそ、問題になりやすいのです。

カビ発生クレームの比較的多い食品
  • 菓子類
  • 飲料
  • パン類
挿画:研究

カビは酸素なしに活動ができない

そして今回の話において、最も重要になっていくのが、実は一番上の「酸素」です。

カビは、いわゆる「偏性好気性菌」に属します。
要するに、カビが生きて活動し、増殖していく上で、酸素が必要です。

では、酸素がないとどうなるか。
「偏性好気性菌」ですから、死ぬことはありません。
そう、確かに酸素がなくても、カビ胞子は死滅することはなく、生きています。
ですが活動ができず、休止しているような状況になります。

空気中の酸素濃度は21%ですが、このうち酸素濃度が0.1%以下をきるとカビは休止状態になります。
そして再び酸素が加わると、すぐに発芽し、増殖し始めます。

つまり、カビ胞子の増殖を防ぐためには、酸素のない状況に閉じ込めてしまうことが有効になります。
そして一般的な食品包装技術は、これらを利用し、開発されてきているのです。

挿画:×酸素

カビはそう簡単には死なない

もう幾つか、ぼくらが覚えておくべきカビの性質というのがあります。
その一つが「カビはそう簡単には死なない」、ということです。
つまり、カビは乾燥状況に非常に強い。

例えば多くの細菌やウイルスは(ノンエンベロープウイルスのような例外もありますが)、水分のない乾燥した環境で、長らく行き続けることはできません。
なので、数日あるいはそれ以上の時間が経過すれば、そのまま死滅してしまいます。

ですが、カビは違います。
カビの胞子は乾燥状況下でも死ぬことなく生き続けます。
当然、酸素がない状況も同様です。
そして上のような発育条件が揃ったときに、また活動、発育をすすめることになります。

つまり先程ぼくは、「カビの発生要因」として4つのものを挙げました。

カビの生息要因
  • 酸素
  • 水分(湿度)
  • 栄養源
  • 適切な温度

これらですね。
しかしポイントなのは、これらがなくともすぐに死滅するわけではない、ということです。

酸素や水がなくてもカビはしつこつ生存している、とお話しましたね。
またカビはわずかな栄養でも生きていくことができます。
押入れに入れていた洋服がカビだらけだった、なんてこともあるかと思います。
これらは何を栄養にしていたのか。選択のりだったり、よだれや食べこぼし、人間の肌から付着した皮質などです。
そんなわずかな栄養でも生きていけるのが、カビです。

また温度だって同様です。
冷蔵でも死ぬことがない、と上でもお話した通りです。
時折冷蔵庫に保管していた食品がカビていることがあるでしょう。
そのように、カビは冷蔵環境でもそう簡単に死ぬものではない、というわけです。

挿画:解説

食品包装に求められるもの

さて、ここまでカビの基礎的なお話をしてきました。
最後に、ここまで読んできていただいた方に、一つ後編へとつながるヒントを出しておきましょう。
いや、そろそろなんとなく見えてきたのではないでしょうか。

先にも書いたように、カビというものは「酸素」がなければ活動が出来なくなります。
ですから、カビ対策において食品包装に求められるものは、これに尽きるのです。

そう、すなわち
「如何に酸素を通さないか」

勿論、食品包装のためには包装した後に密封してシーリングしなければいけません。
ですから、この工程においても如何に酸素を通さず密閉させるかが重要になります。

それからもう一点。
一端、酸素を通さず包装したとしても、途中で何処かに隙間が生じて酸素が入ってしまっては意味がありません。
先にも言ったように、カビというのはそう簡単には乾燥で死にません。
だからほんのわずかの隙間から入った酸素でも、カビが繁殖を始めるには十分となります。

しかも、食品の製品というのは、思いの外に箱詰め工程や物流、店頭など、様々な環境の中で衝撃に晒されることになります。
よってその包材の強度が少しでも低ければ、それらの間に劣化が生じて小さな穴が生じ、途端に酸素が流れ込むことになります。

つまり、有る程度の衝撃に耐えうる強度があること
これも食品包装資材においては重要なテーマとなります。

…おっと、いい加減詰め込み過多となってきましたので、前編はもうこの辺にしておきましょう。

挿画:ビジネス

前編:まとめ

今回は、前編、後編と二部にわたって、ケーススタディ「未開封のパンにカビが、何故生えた?」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、カビに対する基礎的なお話をメインにしてきました。

少しまとめましょうか。

これまでのまとめ
  • カビの発生要因には、酸素、水分、栄養素、温度が必要である(ただし、これらがなくともすぐに死滅するわけではない)
  • 「酸素」がないとカビは発生ができないが、しかし死滅するわけではなく、再び酸素が加わるとまた発生し始める
  • カビは乾燥状況に非常に強く、そう簡単に死滅しない
  • そのため食品の包装には、「如何に酸素を通さないか」が重要になる

さあ、少しながら原因が見えてきたでしょうか。

次回の後編では、具体的なカビ対策としての包装方法をご紹介しながら、そこにおける様々な原因についてのお話をしていきたく思います。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画