★公開日: 2021年11月20日
★最終更新日: 2021年11月21日
最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、ネット上で先日炎上していた「魚民」の虫の異物混入について、ネット上で見るような素人ではなく専門家の目からどう見えるかをお話するとしましょう。
今回のこの話、実は意外と重要な話だったりします。
本日の時事食品ニュース |
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改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

Contents
居酒屋「魚民」で鍋に多量の虫混入!?
「食品業界ニュースピックアップ」。
ここでは様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていくつもりです。
どうぞよろしくお願いいたします。
さて。
そろそろ寒さがうっすらと感じられ始める今日この頃。
こよみのうえでは立冬を超えて、もう冬突入。
「暮れ」、なんて言葉がそろそろ見え始めると、欲しくなるのは温かい鍋料理ですよねー。
寒風の吹く時期に、お酒を片手に、もつ鍋をつつきながら一杯…。
そんなのも楽しみな時期になってきてますね。
と、そんな昨今ですが。
なんでも東京は赤羽にて、居酒屋「魚民」で出されたもつ鍋に、1000頭を超える多量の虫が混入していたという話が、Twitter上で炎上していた、というのです。
異物混入対策のプロ、食品衛生のプロ、防虫管理のプロとしてはスルー出来ません。
しかもこのことはしっかりと追っていくと、飲食店はおろか、食品工場での防虫管理、異物混入防止対策においても、非常に意味のある、重要なお話につながったりするのです。
どうぞ、お見のがなさいように。

もつ鍋にアブラムシのようなものが多量に浮いていた?
さて、この件が報じられたのは、11月17日のこと。
居酒屋チェーン「魚民」で提供されたもつ鍋に、大量の虫が混入していた−−。
利用者のこんな報告に、ネット上で衝撃が広がっている。運営会社のモンテローザ(東京都武蔵野市)はJ-CASTニュースの取材に、虫が混入していた事実を認め、「飲食店としてはあってはならないこと」だと謝罪した。
経緯など詳細は調査中だという。
なんでもJ-CASTMによれば、モンテローザ(東京都武蔵野市)の運営する居酒屋「魚民」にて、先日来客から、もつ鍋に多量の虫が混入していることを指摘され、それを認め、謝罪した、ということです。
この混入が発生したのは先日11月15日のこと。
来客者は22:30頃に来店し、数品をオーダーした後にもつ鍋をも注文。
しばらく食べ進めた際に、問題が発覚したという。
以下tweet引用。
「食べ進めてる途中で友人が気づく…『ねぇ、この黒いの…全部、虫じゃない?』 まさか〜!ブラックペッパーとかでしょ!と思い見ると紛れもなく全て虫。それも大量の虫。ありえない」

これについて、J-CASTは「 こうした報告ツイートに添付された写真を見ると、アブラムシのような小さく薄茶色の虫やその破片が大量にスープに浮かんでいる。」と書いています。
これが本当に「アブラムシ」、つまりは「アブラムシ類」なのかはちょっと置いておきましょう。
さて続くtweetには、このようなことが。
「1人分に取り分けた皿の中だけで80匹いたので、3人前の鍋には一体どれだけの虫がいたのだろうと思うと吐き気がします。しかも、野菜を使用していないイカ焼きにまで同じ虫が2匹も。それまでに完食した料理たちにもついていただろうなと思った」

そしてこれに対し来客は、J-CAST曰く、「 店員を呼び大量の虫が混入していることを指摘すると、もつ鍋はキッチンに下げられた。店長が不在だったため、店長代理が虫の混入を認めて謝罪。「白菜の洗い残し」が原因だ、との説明があった、とのことです。
まずは、基礎情報ここまで。

異物対策、防虫管理の基本に戻って考える
「信じられない金払え」だの何だののヒステリックな俗情や、メシウマヅラの野次馬ネット根性はよそに一切おまかせします。
そういうのがお好きな方は他にどうぞ。他にいくらでもあるでしょう。
ですが、うちはあくまで食品衛生のプロフェッショナルによるブログ。
ですから、専門家の見地から、これらをつぶさに見ていく必要があります。
さて、この場合、まず最初にすべきことは何か。
それは「混入昆虫は一体何なのか」ということです。
なぜなら、それによって原因と、なすべき対策が全く変わってくるからです。
これは異物混入対策、防虫対策のイロハの「イ」です。
本当に原因は「白菜の洗い残し」なのか。
そうではなく、場内で内部発生した昆虫なのか。
だからイカにも混入したのか。
というか、そもそもイカに混入した昆虫と、もつ鍋の昆虫は同じものなのか。
その相関関係は?
「白菜の洗い残し」で混入した昆虫が、ではどうしてイカにも混入しているのか。
であれば他の料理はどうなっているのか。
もしそれが別の原因なら、再発はしないのか…。
これらを進めていくにも、まずは異物が何であるかを知る必要があります。
これは検査、異物対策、防虫管理、すべてにおける基本中の基本、です。

もつ鍋に入っていた虫がもし「アブラムシ類」、つまり「白菜の洗浄不足」だというのであれば、これは「外部侵入要因昆虫」です。
なぜなら「ソフト(管理運用)上の不具合由来」、つまりは白菜によって持ち込まれたものだからです。
ですが、これが同じイカにも入っていたのはなぜか。
となるとこれは場内で発生した、つまりは「内部発生要因昆虫」ということは考えられないのか。
例えば一部、あがっている「チャタテムシ類」。
もしこれだったら、それは「内部発生要因昆虫」であり、「ソフト(管理運用)上の不具合由来」つまりはカビによって発生したものでしょうから、白菜の洗浄強化なんて対策は全く意味がなくなります。
いくらそれをやっても、また同じようなことがそこでは起こることでしょう。
このように、最初にすべきステップは、まずその虫が何であって、それはどういう要因によって生じた問題なのか、つまりはその虫は「外部侵入要因昆虫」なのか「内部発生要因昆虫」なのかを明確にすること、です。

混入昆虫は何なのか
このように、昆虫の異物混入において最初に重要になるのが、まずはこの「混入昆虫の分類同定」です。
これだけ検体があって、見た感じそれほど虫体破損が少ないので、現物さえあればぼくだってすぐに見ればわかります。
でもこの画像ではちょっとわかりづらいですね。

実はぼくは最初、まだ画像も見ずにこのニュースをきいたときは「ハモグリバエ類」かな、と思ったんですね。
ハモグリバエ類は野菜のカット工場やキムチ工場、白菜の漬物工場などで問題になりやすい昆虫です。
白菜をスライサーでカットし、それを次亜塩素酸ナトリウム液に浸漬し、洗浄殺菌を行います。
するとおびただしいハモグリバエがそこで除去されます。
多いところでは、夏場、月に数1,000~10万頭くらいになることもあります。
当然ながら、幼虫や卵も白菜に多量に付着することが、ままあります。
白菜に関する昆虫の異物混入例としても多い2大代表が、このハモグリバエ類と、泥と水で発生するユスリカ類です。
でも画像を見ると、そういうレベルの話では全くなさそうだ。
何せこのくらいの頭数の混入となると、尋常ではない。
「アブラムシ類」。
なるほど、もし本当に「白菜の洗浄不足」だというのであれば、それはあり得るな。
アブラムシ類もまた白菜を食害し、付着する頻度が非常に多い昆虫です。
一部、「チャタテムシ類」という説が出ている、という話がありますね。
確かに虫体の形状からは、そう見えなくもない。

このように拡大すると、なるほど、一層その可能性が強まってきそうだ。

でも考えるべきは、ではチャタテムシ類はどこで発生していたか、ということです。
第一に、上で書いたように、チャタテムシ類である場合、この場合は「内部発生要因昆虫」です。
つまり場内でカビの問題が生じて、それを発生要因にして繁殖し、商品内に混入した、ということになります。
その場合、なぜこのもつ鍋だけに何千頭も大量混入していたかの理由を説明出来ません。
場内でもしチャタテムシの内部発生で起きていれば、そんなものはもっと前からとっくに様々なかたちで問題になってるでしょう。
これだけの混入事故が発生した場合、まずは真っ先に資材由来を疑うのが妥当でしょうね。
じゃなきゃこんな多量混入は起こりません。
白菜を入れていたダンボール包材にカビが発生し、多量に発生した。
これはあり得るかもしれません。
別にちゃんと記事を書いて解説しますが、ダンボール包材というのはもともと溶解した古紙を重ねて「でんぷん」で重ねて7~8層張り合わせて製造するものです。
ですから濡れれば当然、カビが進行しやすく、昆虫の発生要因にもなりやすい特性があるものです。
それを生野菜を入れて保管するのですから、確かにその線は考えられるでしょう。

重要】なぜイカにも混入したか~一番の問題は何か
さてもう一つ考えておきたいのは、他の商品にもこのアブラムシ類(らしきもの)が混入していることです。
これはどういうことでしょうか。
実は今回の話で、一番大きなポイントは、ぼくはここだとすら思っています。
二次汚染。
こういえば、ピンとくるかたも多いでしょう。
微生物管理、食中毒対策においての重要なポイントですが、それの昆虫バージョンがこいつです。
二次汚染による食中毒。
例えば、生の鶏肉を切った包丁やまな板をしっかりと洗浄せずに、違うものをそこで調理する。
すると、鶏肉に付着していたカンピロバクターなどの食中毒菌が、その包丁やまな板を汚染してしまい、それが広がることになる。
食中毒対策の基本のキ、です。
それと全く同じことが、ここで行われたというわけです。
昆虫の多量に付着した白菜を切った包丁やまな板で、「洗浄せずに」イカを調理した。
だから、イカにも昆虫が付着し、混入したのです。
もつ鍋に多量に混入していたアブラムシ類(らしきもの)が、こちらには少ないのが、その何よりの理由です。
そしてここで重要なのは、「少ないけれど、確実に混入した」という事実です。
だって、これが先の例に出したカンピロバクターならどうでしょうか。
サルモネラならでしょうでしょうか。
カンピロバクターやサルモネラは、少数の菌数でも発症します。
しかも虫と違って、目に見えません。
つまりぼくは何が言いたいのか。
世間やネットでは、やれ店の対応が悪いだの、気持ち悪いだの、何だので炎上している。
あるいは店内の衛生管理がよくないんだ、と炎上している。
でも、ぼくが言いたいのは、そんなとこじゃない。
「白菜の洗浄をこれから気をつけます」
じゃないんだ、と。
だって、見える虫で、これですよ。
これ、間違いなく食中毒、出しかねませんよ?
つまりこの店は、衛生「管理」の「仕組み」が出来ていない。
ネットでの居酒屋経営者のかたの意見で「白菜を洗わないなんて、非常識だ」と怒っている人がいて、いやそれはもう本当にその通りでしかないんですが、でもぼくらからすると「それをしないでいい状況」がそもそもおかしくて、それが「一事が万事」につながっていると、そう考える。
だから、連鎖的に問題が生じているのです。
なのでその「一事が万事」を直さない限りは、似たような問題が繰り返されたり、もっと大きな問題に広がりかねない。
これこそが実は重要なのであり、「洗浄をこれから気をつけます」ではない、ということなのです。
「白菜を洗わないなんて、非常識だ」、はその通り。
では、その「非常識」を産んでいる原因はどこにあるのか、何なのか。
この「一事が万事」は何に由来しているのか。
PDCAのどこかに問題があって、それは見てないからよくわからないけれど、でも「管理」の仕組みにおいて何らかの問題がある。
だから、洗浄で生じた問題が、他に飛び火している。
それは管理の「仕組み」のどこの問題なのか。
ルール(P)なのか、従事者の教育(D)なのか(「魚民」レベルの企業ですから多分これじゃないですかね)、正社員によるチェク・指導(C)なのか、判っていて直さない社風(A/P)なのか…。
ここまで踏み込まないで、目先の「洗浄に気を付けます」では、こういう問題は解決されません。ですから違う問題がまた別に生じるでしょうね。
ここらへん、素人達で炎上して盛り上がるのもいいですが、ぼくらのような食品に関わるプロ達はもっとじっくりと考えるべきではないでしょうか。

まとめ
今回は「魚民」での昆虫の異物混入を題材に、専門家としての分析と考察を試みるとともに、その根底に向けてお話を進めてみました。
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以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
