★公開日: 2021年11月13日
★最終更新日: 2021年11月15日

「昆虫」と「微生物」。
いずれも食品工場における衛生管理対象生物の代表格であり、これをどう「管理」するかが問われる象徴的な対象でもあります。
と、このように双方並び称されることの多いこれら二種ですが、意外とその管理上、その違いについては余り意識的に注目されないことが多いものです。
ではどこがどう違っているのか。今回はそんなお話をしていきたいと思います。

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画

プロを名乗る身なら混合するな

さて。
ちょっとのっけから厳しめの口調でお話させていただきます。
いや、食品関係のお仕事をしている貴方がたに対して、ではありません。
食品衛生のプロ、専門家と呼ばれている、まあ言ってみれば広い意味での同業者、に対してです。

それは、世の食品衛生関連に語られていることの、食品工場や飲食店舗における防虫対策のデタラメさについて、です。
「ぼくの考えたぼうちゅうたいさく」とでも言うかの素人意見が、どれだけ世にまかり通っていることか。
偉そうな肩書の著者が書いた食品衛生関連の本ですらそうなんですから、何をいわんや。

尤もこの世界では結構「あるある」なんですけどね。
食品衛生、なかでも防虫管理、防虫対策のホンモノの専門家ってのは実は結構レアなので、大概はテキトーに思い込んでいたり、現場経験すらないのにPCO業者から聞きかじったことを、さももっともらしく話しているようなウワッツラなケースばかりなので。

そこで時々目にするのが、「昆虫」と「微生物」の管理の根底をごっちゃにしている、というものです。
恐らくはメーカーの品質管理か検査屋あがりで、微生物に関わっていた延長で、防虫管理にあたっている。
だから感覚が微生物管理のままなのでしょう。というか、それしか知らないのでしょう。

具体的には、こんな勘違いです。

「微生物」管理と「防虫」管理を混合しているガチな例
  • 昆虫の捕獲数評価に科学的根拠があると思いガチ
    →残念ながら、ありません。存在しません。以上。
  • 捕虫器の設置根拠が絶対とか思いガチ
    →残念ながら、ありません。存在しません。以上。
  • 何かと目視発見した昆虫を「発生」と勝手に呼びガチ
    →発生していません。外部侵入したものです。以上。
  • 昆虫の生息数をゼロにしないといけないと強迫観念に囚われガチ
    →無理ゲーですから。以上。
  • てゆーか昆虫の生息数をゼロに出来るもんだと(自分では出来ないくせに)思いガチ。
    →おのれがやれ、やってみてから言え。以上。
  • にも関わらず、殺虫剤は使ってはいけない、清掃デー、清掃デー、とか言いガチ
    →同上、てか清掃デーに逃げるな。以上。
  • クロゴキブリを見つけて過剰に危険視しガチ
    →普通に下水由来で来るんですけど。以上。
  • クロゴキブリを見つけて「1匹見たら30匹いると思え」とか言いガチ
    →それ単体で迷入したやつや。以上。
  • そのくせ本当に問題な昆虫類に気づかなガチ
    →要するに素人。以上。
  • そのくせ本当のヤバい問題に全く気づかないので、査察工場の工場長に見えないところでホっとされてガチ
    →要するに素人。以上。
  • だからこういうミクロの「細部」ばかりを言うくせに、「結局この工場の防虫管理はシステム上何が良くて何が弱いのか」というマクロを言わない、てゆーか言えない、わからない、知らない。
    →だから、略要するに素人。以上。

あ……あれ?
おっかしーな、これ割と無限に書けるぞ!?

挿画:驚き

虫と微生物という有害生物

で、何を今回言いたいんだお前は、と。
そう言われそうなので、いい加減本題にバッツリと入りましょう。

冒頭から言っている通りですが、食品工場や厨房施設においての「有害生物」と言ったら、それはもう「昆虫類」と「微生物」なわけです。
で、これの影響をどう最小限に抑えるか、というのが重要なわけです。
(あと、もう一つはネズミですね)

で、それらの二つに共通はあれど、しかし全く違う特徴を持っていますし、管理の焦点も当然ながら違いがあります。
というか、決定的に違います。

勿論、管理上、共通点はあります。
しかし、「共通点がある」ということは、差異も大きいということであり、
その差異を踏まえないと管理がずれる、ということでもあります。
常に神は細部に宿るというもの。

改めて、双方の特質とその違いについて、しっかりと踏まえておく必要があります。

あ、ちなみに今回のお話において「微生物」と呼んでいるのは、カビなどの真菌、食中毒菌を含む細菌・ウイルスについて、と断っておきましょう。

挿画:ポイント

「虫」は見えるが、「微生物」は見えない

ではその双方の一番の違いは、何なのか。
ズバっと結論を、言ってしまいましょう。

【これが結論】:「防虫管理」と「微生物管理」の最大の違い
「虫」は見えるが、「微生物」は見えない
挿画:見える・見えない

…とね。
まあこれが結論なんです。

で、ですよ。
こう言うと生々しく声が聞こえてくるわけです。
そんなこと、よく知っとるわ、と。
当たり前だろ、と。

いや、なと。
知ってねーから。
判ってねーから。
当たり前じゃ全っ然、ねーから。
と、ぼくは言いたいわけです。

だって、ならば問いたい。
じゃあ、なんで上で挙げたような勘違いをするのでしょうか。
それは、その特質を理解・消化していないからです。
とくに、昆虫の管理の特質を理解していないからです。

昆虫と微生物の最大の違い、
それは結論だけを言うなら、成る程、「目に見える」か「目に見えない」かです。
しかしそれは「これを知っていればいい」、という話ではありません。
双方の様々な差異の全てが、考えてみればおよそここを発端としている、ということ自体が重要なのです。

で、その結局。
「昆虫」は目に見えるからこそ様々なステージで問題になるし、
「微生物」は目に見えないからこそ発見しづらいまま大きな問題へと発展しがちなのです。

そして、「昆虫」は目に見えそうなところだけがやたら過剰に重視されて、また目に見える存在なぶんだけ過剰に危険視されるし、目に見える存在なぶん除去がたやすいと勝手に思われている、というわけです。
さながら上の「あるある」のように、です。

挿画:間違い

「虫」と「微生物」の違いとは

「虫」と「微生物」の管理上の最大の違い。
それは、「虫」は見えるが、「微生物」は見えない、だ。
と、ぼくは言いました。

ではそれをよーく念頭に置いて、んじゃ「虫」と「微生物」の管理のどこが違うか、を見ていってみてください。

「昆虫=見える」の特徴

まずは、「見えるもの」である「昆虫」について。
防虫管理からいきましょうか。
「目に見える」存在である「虫」が、「目に見えない」存在である「微生物」の管理と何が違うのか。
そこをポイントに見ていってください。

工場の衛生管理上における「虫=見える」の特徴
  • 直接的な異物要因である
    →死骸自体が、目に見える異物である
  • 製造工程後にも問題が「異物」として残る
    →加熱工程を経ても死骸が残って問題になる
  • 移動力が高く、また移動がランダムで予測不規定
    →リスクを完全に数値化できない
  • 資材・製品への混入防止が最重要
    →目に見える異物混入。
    だから混入防止対策を目的としての工場全域が管理対象になる
    (「工場」に虫を「つけない(侵入防止)」「増やさない(内部発生防止)」「やっつける(早期駆除)」)
  • 重点管理点(CCP)が広範囲に及びがち
    →予測不規定、製造「環境」重視の危害のため
  • よってゾーニング(清浄度区分)の目的は、生息数による清浄度評価の対象エリア区分
    →清浄区域とは、異物混入リスクを優先的に軽減させるべき領域のこと
    (清浄区域と準清浄区域の目的が同じ)
  • 問題においては、健康被害ではなくイメージ(異物混入)の問題が大きい
    →問題は目に見えている異物(虫体)の物理的混入

このように「見える」昆虫類の場合、死骸自体が異物となります。
だから加熱をして死んだとしても、異物として問題が残ります。

また移動力が高い昆虫類は、行動が読めません。
そのためリスクの予測が難しく、またモニタリングによって出される評価というのは、あくまでその環境に対する清浄度評価に過ぎません。
つまり製品の品質評価、異物混入リスクを完全に評価するものではありません。
なので、昆虫のリスクというのは数値化できないものなのです。
ここが微生物とは決定的に違うところでしょう。

当然、数値化できないのですから、捕獲数評価に科学的根拠なんてありません。
となれば、捕虫器の設置に対する根拠というのも存在しなくなります。
冒頭に書いたのは、そういうことです。

そこで重要なのは、混入防止対策です。
ということで、虫自体を工場内や厨房内に、「入れない(付けない)」「増やさない(内部発生防止)」「やっつける(早期駆除)」という、「工場」「厨房」全体に対する対策が自ずと必要になります。
これは「製品」に対して「つけない・増やさない・やっつける」を行う微生物管理とは違ってきます。

工場・厨房に広く混入防止対策を行う、環境管理を行うということは、当然ながら重要管理点、HACCPで言うところの「CCP」は広くなってくるでしょう。

それに、そうなってくるとそもそもゾーニングの目的自体が、「昆虫」と「微生物」とは異なります。
防虫管理におけるゾーニングというのは、昆虫の生息数を清浄度評価に落とし込むための区分です。
ここにおいて「清浄区域」というのは、昆虫の異物混入というリスクを優先的に軽減させるべきエリアのことであって、それは準清浄区域においても目的としては同じです。

このように、「目に見える物理的異物」を管理するための防虫管理というのは、微生物を相手にする場合と変わってくるものです。

挿画:ショウジョウバエ

「微生物=見えない」の特徴

では微生物はどうか。
見ていきましょう。

工場の衛生管理上における「微生物=目に見えない」の特徴
  • 帰結的な健康被害の要因である
    →死骸の残存は問題にならない
  • 製造工程上の管理である程度まで問題を抑制出来る
    →加熱工程などで死ねば問題は消える
  • 移動力は低く、比較的予測可能な存在
    →リスクをある程度数値化できる
  • 資材・製品からの除去と汚染防止が最重要
    →目に見えない汚染。だから除去と汚染防止を目的としての工程管理が重要になる
    (「製品」に「つけない・増やさない・やっつける」)
  • 重点管理点(CCP)は比較的限定的
    →予測可能、製造「工程」重視の危害のため
  • よってゾーニング(清浄度区分)の目的は、交差汚染防止
    →清潔作業区域とは、危害から製品を隔てるための領域のこと
     (清潔作業区域と準清潔作業区域の各目的が異なる)
  • 問題においては、異物混入ではなく健康被害の問題が大きい
    →問題は目に見えない細菌・ウイルスによる健康被害

いかがでしょうか。かなり違っているのがわかるかと思います。
虫と微生物の管理というのは、「見えるもの」と「見えないもの」というその特徴において、これほどまでに違っているのです。

挿画:菌

まとめ

見える「虫」と、見えない「微生物」では、このように対応自体が基本的に正反対なことが多いです。
にも関わらず、「微生物」管理の考えを「虫」に当てはめているケースも時折見かけます。
そういうときにはまず、上のことなどを参照に、問題の対象がどんな存在であるかを、見極める必要があるでしょう。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画

 

 

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