★公開日: 2021年11月6日
★最終更新日: 2022年5月12日

食品衛生のプロが、気になったメディアのニュースを紹介・解説したり、あるいは日々の衛生管理業務で起こったお話などを、さらっと簡単に触れていきます。
そんな日々の雑記帳、今日のお題はこないだの「フードセーフティジャパン」で知った新技術のご紹介をしたいと思います。
なんでも、大腸菌の検査を培養時間なしで数秒で結果を出せる。そんな日が、意外と遠くない未来に来るかもしれない、という、なんだか夢のようなお話です。

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

 

時間がかかりがちな微生物検査

簡単なニュースチェックや、日々の衛生管理の現場で起こった話をサラっとしていく、「今日の衛生管理屋の独り言」。
本日は、先日の「フードセーフティジャパン」で各企業ブースを回らせていただいたときに知った、未来の新技術についてご紹介したいと思います。

さて。
皆さん、ある食品の微生物への安全性を調べるとき、どんな検査を選ぶでしょうか。
まずは、一般生菌数。これでその製品の腐敗変敗、つまりは腐っているのかどうなのか、ということがわかりますね。

さらには幾つかの食中毒菌についての検査を行うことでしょう。
これはもうその製品によって変わってきます。
ですが、そのなかでも一番の定番が何かといえば、やっぱり「大腸菌」の検査ではないかと思います。

ものすごい常識的な話ではありますが、こうした食中毒菌の検査というのは、場合によっては迅速性が重要だったりします。
とくに昨今においては、物流技術の要因を筆頭に市場拡大が進み、結果、一昔に比べて食中毒事件も自ずと拡大化しやすい状況となっています。

にも関わらず、微生物検査には時間がかかりがちです。
でもこれは、仕方がない。
というのも、微生物検査においては細菌の培養時間が絶対的にかかってくるから、です。

例えば、一般的な検査機関で大腸菌の菌数検査を依頼すると、まず単純に、培養時間だけで48時間かかります。
つまり2日以上は最低でもどうしたってかかる、ということです。

勿論、それだけで終わりません。
まず、検査機関が検体を受け付ける。
書類での依頼処理を行い、そして検体の順番に応じて受け取った検体をインキュベーターに入れる。
ここまでもそれなりに時間はかかります。

しかも、培養後には検査を行って、そしてそれを報告書でまとめるのですから、それだけで1~2日は普通にかかります。
となると、通常で「営業日」で数えれば3~4日かかるのが、この業界の常識です。
ましてや土日・連休が入れば、そのぶん遅れます。

割と培養時間が短めな大腸菌で、これが実情です。
ぼく自身、そういう仕事に関わっているのでよく知っています。

挿画:研究者

大腸菌に餌を与えて、即時検出可!?

と、そんな状況が一般的な微生物検査業界ですが。
ちょっと興味深い情報を、こないだの「フードセーフティジャパン」でゲットしてきました。
やっぱり情報ってやつは、足で得るもんですな。

さて、この研究は、「名古屋工業大学」に「槌屋」さんなる企業が加わって、研究を勧めているようなのですが。
これが、結構な画期的。

一言で言えば、大腸菌に人工的な餌を与えて、これにより即座に大腸菌検出を成し遂げるぞ、というお話です。

とはいえこれはまだあくまで研究段階。
まだまだこれからの技術です。
ですが、こういうところまで来ているぞ、と最先端を知るのは重要なこと。
少しばかり見ていきましょう。

では、こちらを。

挿画

名古屋工業大学の研究グループが大腸菌に特化した人工「餌」の開発およびその修飾基板の開発を行う。
また微生物計測システム開発などの実績を有する株式会社槌屋が、水晶振動子マイクロバランス法(QCM)や交流インピーダンス法をベースとした既存の検出システムの改良を行い、検出装置の簡便化・小型化を目指す。
最終目標として、無培養かつ高感度(102CFU/mL)で大腸菌のみを選択的に検出可能な取り扱いが簡便かつ安価な装置の開発を行う。

えーと、細かいことは置いておいて。
結果から言うと、要するにこれは。
「大腸菌が培養なしで即検出出来る」日がくるかもよ。
というお話です。

参照画:名古屋工業大学、研究資料より
名古屋工業大学、研究資料より

簡単に言えば。
名古屋工業大学の研究によれば、細菌は増殖、つまり生き残るために栄養が必要で、そのために栄養を取り込もうと「口」(のようなもの)を開く。
だから、それを人工的に作ってあげて固着させてやれば、大腸菌の検出が出来るだろう、とそういうものらしいです。

つまり48時間の培養時間を必要とせずに、短時間で検出が出来る、というわけです。

参照画:名古屋工業大学、研究資料より
名古屋工業大学、研究資料より

よくわからないけれど、これがその結果。
どうやら30分程度で検出が可能。
その検出感度は102CFU/mLだという。

参照画:名古屋工業大学、研究資料より
名古屋工業大学、研究資料より

そしてこの研究結果に基づいて槌屋が作った検出装置がこれ。
なんでも数秒での計測が出来るというから、大したもの。
まだ試作段階ではあるということだけど、でもすでに完成間もないレベルにまで出来ている。

ちなみにこの名古屋工業大学と共同開発を行っている槌屋さんは、名古屋の地元メーカーながらも検査機器の迅速化についてはエキスパート。
これまでにも迅速な検査装置を開発しており、この分野に明るいメーカーさんです。

しかもなんとこの技術は、大腸菌に限らない。
だからこの「人工餌」を変えてあげれば、違う食中毒菌にも対応が出来るかもしれない。

とはいえ、まだ実用にはちょっと至っていないご様子です。
例えば、コストの問題。
一般的に大腸菌の菌数検査なんて、検査機関に依頼すればほんの数千円程度でしょう。
ですがこれはまだそのレベルにまで至っていない。

なので、市場に出回るまでにはもう少しだけかかることでしょう。
でも、もう少し研究開発が進めば、微生物検査は、ごく数秒で事足りる。
そんな日が、もうまもなく来るかもしれませんね。

以上、今回はそんな、ちょっと明るい未来を照らすようなお話でした。
それでは。

 

 

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