★公開日: 2021年11月2日
★最終更新日: 2021年11月4日

最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、本格的に養殖業へと進出したくら寿司の「オーガニック魚」、そしてその「水産有機」認証とは一体何かについて、前回を踏まえてお話していくとしましょう。

なおこの記事は、前回、そして今回、その次の三回目と、特別に三部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその二回目、中編となります)

本日の時事食品ニュース

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画:くら寿司

有機水産認証って何?という話

(こちらは三部構成の「二回目」になりますので、もし今回から来られた方は、まずは前回を最初に読むとより理解が進むかと思います。
…まあここからでも十分理解はできるよう書いていますが(笑)

「食品業界ニュースピックアップ」。
毎回、時事的な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていっていますが、今回はいつもより長め、特別に三回にわたってのこちらのネタを。(寿司だけに!)

回転ずし大手のくら寿司は28日、すしネタの安定供給を図るため、養殖業の子会社「KURAおさかなファーム」を11月1日に設立すると発表した。
飲食以外の子会社を立ち上げるのは初めて。全国のスーパーマーケットなどへの卸売りも視野に入れる。

挿画:くら寿司のオーガニックはまち

「くら寿司」さんで話題になった「オーガニック魚」について、ではその「水産有機」とは一体何なのか。
今ひとつ聞き慣れない、水産関連の有機JAS規格についてのお話をじっくりとしていきたいと思っています。

実は今回特別に三回に話を分けたのは、この解説をするのにはちょっと尺が必要だからです。
いや、そう別段にこ難しいものではないのですが、ちょっとばかり複雑というか、順を踏んで解説していかないと「水産有機?は?」ってなりやすいからです。
大丈夫。
そのための前編・中編・後編の三部なのですから。
そして、前回はあくまで導入。
ここからが、本題となります。

挿画:有機水産

そもそも「有機JAS」とは

さて今回、どうしてこの「くら寿司」によるオーガニック水産物の認証が日本で初となったのか。
結論から言えば、日本にこれまで水産物に対する「有機JAS」認証がなかったからです。

…と、こう話す時点で、すでに色々と補足すべき前提となる基礎知識が必要ですよね。
にも関わらず、それについて他ではほとんど説明がなされていないのが現実です。
というわけで、ウチでは一つ一つ順番に説明していきますからご安心を。

てゆーか、ぶっちゃけ上の話においてすら、既に「え、有機JAS?よく知らんし」となった人も、結構多いんじゃないかな、と思います。
つまりはいかにこの「有機水産物」認証という話題自体が、色々なものをすっ飛ばしたうえでの「判っている人」向けの話であるか、ということです。
ですから一般の人たちは勿論のこと、食品業界の方々ですらこの話を聞いても、「……?」となるのは至極当然。
そこで今回のお話は、前編部を使ってまずは「有機JAS」について解説していくとします。

と、そんなわけでそもそも「有機JAS」とは何ぞや、ということなんですが。
結論から答えるとすれば、「有機JAS」というのは、有機食品に対し「有機(オーガニック)」と表記できるための「JAS規格制度」の一つ、となります。

…と言っても判らないかと思いますので、まずは基礎中の基礎である「JAS規格制度」から始めるとしましょう。

挿画:JAS規格制度

「JAS規格制度」とは

皆さん、スーパーやコンビニなどで、食品などに付いているこういうマークを見たことはありませんか。

挿画:JASマーク
JASマーク

いや、食品に限らず、様々なところで見たことがあるんじゃないかと思います。
これは「JASマーク」といって、国がある一定の基準以上の品質を備えていることを認めることでつけることが許されるものだったりします。
まず、これが基本の「キ」、です。

JASマークの基準となっている規格というのがあります。
それが、農林水産大臣が定めた品質基準である「日本農林規格」です。
通称、「JAS規格」。これなら聞いたことがあるかもしれませんね。

このJAS規格の法的根拠になっているのが、「JAS法」
正確には、「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」といいます。
JAS法はその名のとおり、農林資源に対する品質の適正表示を目的に定められた法律です。
そしてそこにある規格を満たしている、と認められた製品には先のような「JASマーク」をつけることができるのです。
これが「JAS規格制度」というものです。

ただし、単純にただつけたいというだけでこのJASマークをつけることは出来ません。
というのも、このJASマークの表記を希望する事業者は、国に定められた認証機関による審査を受けなければいけないからです。
そしてこれに合格し、認定製造業者等となると、晴れてその製品にJASマークをつけることが許されるのです。

JAS規格とは
  • 「JAS規格」とは、「JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)」によって定められている
  • 「JAS法」は、農林資源に対する品質の適正表示を目的に定められた法律である
  • 農水省認可の認証機関によって審査が行われ、合格すれば「JASマーク」をつけることができる

ちなみに、ちょっとややこしいのですが、この「JAS規格制度」というのは、JAS法が別に定めている、すべての食品に対する「品質表示義務制度」とは違う制度ですので、ご注意を。
「品質表示義務制度」は、すべての食品事業者に対し、法的強制力をもって品質表示を義務付ける法制度です。

一方、「JASマーク」を使ったこちらの「JAS規格制度」は、別に法的に強制されたものではありません。
ですから、JASマーク表示が必要なければ、わざわざ認証取得する必要はありません。
こちらの規格制度はあくまで、認証取得を希望する事業者のみに限られた話です。

それとここで重要なのは、「JAS認証を取得していない農産物には、JASマークも表示できないし、そうしたJAS規格の農産物だと言ってはいけない」ということです。

「いや、そんなの当たり前だろ。だって認証されてないんだから」
うん、そう思いますよね。
普通そう思いますよね。
だって、法的な規格に認証されていないんだから、認証されていますなんて表記したり主張したら嘘ですもんね。
でもこれ、後で出てきますから、頭の片隅に置いておいてください。

挿画:ポイント

JAS規格の種類

ところで「JAS規格」の法的根拠となっている「JAS法」は、先にも書いたように「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」という長ったらしいものなんですが。
スルーして読み飛ばさずによくその名を見てみると、そこには「農林物資の規格化」とあるのがわかるかと思います。
つまりJAS規格の対象は「農林物資」である、とされている、というわけです。

「農林物資」
何それ?
となるところでしょう。

この「農林物資」なるものも、このJAS法で次のように規定されています。

第二条
この法律で「農林物資」とは、次に掲げる物資をいう。ただし、酒類並びに医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)に規定する医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。
一 飲食料品及び油脂
二 農産物、林産物、畜産物及び水産物並びにこれらを原料又は材料として製造し、
又は加工した物資(前号に掲げるものを除く。)であつて、政令で定めるもの

えー、何を言ってるか全くわからないので、整理すると。
JAS規格の対象「農林物資」というのは、まず酒類と医薬品を除いた食品全般です。
ここには油脂も含まれます。
それから、農産物、林産物、畜産物、水産物といった、いわゆる「第一次産業」によって生み出されるものです。
そして、皆さん食品製造業界が関わるような、それら「第一次産業」の産物を使って加工するもの、です。

乱暴に簡単に言うなら、広く農産物をはじめとした農林水産業に関わる生産物全般、当然ながら食品はくまなく含む、といったところでしょうか。

さて、このような「JAS規」格には、いくつかの種類が存在します。

JAS規格の種類
  • 一般JAS
  • 有機JAS
  • 特定JAS、生産情報公表JAS、など

お、ここでようやく出ましたね、「有機JAS」の名称が。
そう、「有機JAS」というのはこの「農林物資」に対する「IAS規格」のひとつだ、というわけなんですが。
とりあえず、上から一つずつ見ていくことにしましょう。

まず先にも挙げたJASマークですが、これは「一般JAS」というのは、カップめん、しょうゆ、果実飲料などにその品位、成分、性能などの品質に対する規格を定めたものです。

挿画:JASマーク
JASマーク

それから。
今回の話のメインとなる「有機JAS」もまた、先に話した通りこうした「JAS規格」の一つです。
「有機JAS」というのは、農産物や加工食品、畜産物に対し、化学肥料や農薬の使用に対し一定の制限のもとで育てたり作られたりしたものに対し、規格を定めたものです。
つまり、「有機JAS」というのは「有機食品」に対するJAS規格だ、ということになります。

参照画:有機JASマーク
有機JASマーク

これが「有機JAS」のJASマークです。
冒頭での「くら寿司」のオーガニックはまちしかり、「有機食品」を称するものにはもれなくこのマークがついている、ということです。

ついでに、それ以外のJAS規格についても触れておきましょう。

「特定JAS」というのは、熟成ハム類、熟成ソーセージ類、熟成ベーコン類、りんごストレートピュアジュース等などといった、ちょっと普通とは違う特殊な生産や製造方法について規格を定めたものです。
た「生産情報公表JAS」というのは、その名の通り、牛肉や豚肉、加工食品などに対し、誰がどこでどのように作ったものなのかを正しく伝えているかどうか、を規格として定めたものです。

なお、これらのJASマークは2018年、次のようなものに統合されることになりました。

参照画:JASマーク
JASマーク

「有機JAS」とは

さあ、ここまで来てようやく「有機JAS」というものがどんなものなのか、朧げなりにも見えてきたかと思います。
先にも書いたとおり、「有機JAS」というのは、化学肥料や農薬を使わずに…というと実は語弊があるのですが、まあ、ある一定の厳しい基準、制限のもとで作られたり育てられたりしたものに対し、その規格を定めたものです。
もう一度いいますが、このように「有機JAS」というのは「有機食品」に対するJAS規格だ、ということになります。

「有機JAS」制度は、1999年、JAS法の改正時に創設されました。
その際、対象として定められたのが次のものです。

有機JAS規格の対象カテゴリー
  • 農産物(穀物、果実、キノコ、スプラウトなどの有機農産物)
  • 畜産物(牛、馬、羊、豚、鶏他の乳、肉、卵、生体などの有機畜産物)
  • 加工食品(原料の95%~100%が上のもので構成される有機加工食品)
  • 飼料(牧草、サイレージ、TMRなどの有機飼料)

皆さんの多くの食品業界においては、当然ながら3つめの「加工食品」というものが大きく関わるところでしょう。

食品メーカーが有機JAS規格を受けた有機食品として有機JASマークを付けて、製品つまりは「加工食品」を市場に出すときには、当然ながら有機JAS規格を受けた有機農産物や有機畜産物を使う必要があります。
だって、そうじゃないと有機食品にはならないですものね。

で、そうした場合、有機農産物加工食品のJAS規格を認証取得しなくてはいけません。
でないと、出来た製品に有機JASのJASマークを表示することが出来なくなります。
(どんなことをしなければいけないのか、その認証内容については、今度もう少し踏み込んで書くとしましょう)

さて。
上の有機JASのカテゴリーを見て、あれ?、と思いませんか。
農産物は判った。
畜産物も判った。
それを使って食品製造を行う場合も判った。
でも、水産物は?
そう思いませんか?

今回、くら寿司が認証検査を受けて取得したのは水産物です。
しかし、ここにそれは入っていません。
つまり、水産物はこれまで有機JASの対象ではなかったのです。
だから日本で初となったわけですが、これについては次の後編でお話するとしましょう。
とりあえず、今はこんなものがあるのだ、と思っていただければ大丈夫です。

挿画:ハマチ

まとめ

ふう、いい加減長くなってきました。
ね、このようにいきなり話し出すと複雑でこんがらかってきてしまう。
だからこのように順序建てての解説が、必要となってくるわけです。

というわけで今回は、前編・中編・後編と、特別に三部にわたって、くら寿司が今回日本で初めて認証取得したという有機水産物の有機JASについてのお話をさせて頂いています。

まず前回はニュース紹介、および導入についてのお話でしたね。
そしてこちら中編からがいよいよその本題。
まずはその基礎知識として、そもそも「有機JAS」とはどんなものか、について解説していきました。

少しまとめますね。

まず「JAS規格」(日本農林規格)というのは、「JAS法」に基づいて「農林資源」に対してある一定の品質を満たしていると農水省から認められた製品に「JASマーク」をつけることができる、というものでした。

JAS規格とは
  • 「JAS規格」とは、「JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)」によって定められている
  • 「JAS法」は、「農林資源」に対する品質の適正表示を目的に定められた法律である
  • 農水省認可の認証機関によって審査が行われ、合格すれば「JASマーク」をつけることができる

ちなみにこの「農林資源」というのは、広く農産物をはじめとした農林水産業に関わる生産物全般(当然ながら食品はくまなく含む)というものでした。

で、その幾つかある「JAS規格」のうちの一つが、「有機JAS」である、ということでした。

JAS規格の種類
  • 一般JAS
  • 有機JAS
  • 特定JAS、生産情報公表JAS、など

そして、その「有機JAS」というのは次のようなものを、これまで対象にしてきました。

有機JAS規格の対象カテゴリー
  • 農産物(穀物、果実、キノコ、スプラウトなどの有機農産物)
  • 畜産物(牛、馬、羊、豚、鶏他の乳、肉、卵、生体などの有機畜産物)
  • 加工食品(原料の95%~100%が上のもので構成される有機加工食品)
  • 飼料(牧草、サイレージ、TMRなどの有機飼料)

で、こうみるとそれまで加われていなかった「水産物」というのが含まれ、その第一号としてくら寿司の「オーガニックはまち」が認証された。

…とまあ、こういうわけです。

ふう、少しばかり長くなってしまいましたが、これで少しは理解が進んだのではないでしょうか。

次回、三部の最後である後編では、さらにその有機JASについて詳しく見ていくとともに、いよいよそのくら寿司の「オーガニックはまち」にも迫っていきたい、と思います。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画

 

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