★公開日: 2021年11月1日
★最終更新日: 2022年6月8日
最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、いよいよ本格的に養殖業へと進出したくら寿司について、特にそこで養殖される国内初で認証された「オーガニック魚」、そしてその規格である水産物の「有機JAS」とは一体何なのか、についてお話していくとしましょう。
なおこの記事は、今回、そして次回、その次の三回目と、特別に三部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその最初の前編となります)
本日の時事食品ニュース |
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改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

11月1日は「寿司の日」
(こちらは三部構成の「一回目」になりますので、もし「中編」「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
「食品業界ニュースピックアップ」。
ここでは様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていくつもりです。
どうぞよろしくお願いいたします。
さて。
10月も昨日で終わってしまい、今日から11月。
今年もあと僅か2ヶ月しか、もう残っていません。
やれコロナだ何だと騒がれていた今年も、残るところ少なくなってきました。
しかも、このところ段々と気温も低下し、寒さすら見えてきてます。
冬もそろそろ覗かせる時期になってきましたねえ…。
と、そんなおセンチに秋深まる11月ですが。
皆さん、本日11月1日は一体何の日だかご存知でしょうか。
それは「寿司の日」、なのです。

これが制定されたのは、1961年11月のこと。
「全国すし商生活衛生同業組合連合会(全すし連)」が「実りの秋・収穫の秋・米への感謝」の日として、この11月1日を「全国すしの日」としたのがその始まりだとされています。
しかもなんでもこの「寿司の日」というのは、歌舞伎、そしてかの平清盛の孫にあたる「平維盛」に関係しているのだとか。
え?「平維盛」って誰よ?
そう思うんですけど、皆さんは知っていますか?日本史にうといぼくは全く知りませんでした(笑)。
で、ちょっと調べたところ歌舞伎の演目である「義経千本桜」のうち、「鮓屋の段」という作品がどうもあるようなんですね。
そこでこのような下りがある。
この作品の主人公はこの、平家の総大将であった平維盛。
彼は戦に負けて都落ちし、旧臣の縁を頼って大和国、つまりは現在の奈良県のとある鮎寿司(鮓)屋に、寿司職人として身を隠すことになります。そしてやがてその寿司(鮓)屋の娘と恋仲になることもあって、その鮓屋の養子となり、「鮓屋の弥助」へと改名することになる。
…とこの改名の日が丁度11月1日である、というわけなようです。
あ、ちなみにこのころの寿司は、今のようなお寿司ではなく、発酵食品の「なれずし」です。
と、ここでようやくこっちの専門フィールドに持ち込むことが出来ましたね(笑)。
そう、「なれずし」とは寿司の元祖で、魚と一緒に米飯を桶などに詰め込んで重しをし、長期間かけて発酵させることで乳酸発酵を促したものです。
このことによって乳酸作用によってpHが低下し、雑菌の繁殖が抑制されます。
その結果、魚のタンパク質が分解され、アミノ酸の旨味成分を醸造します。
ここらへんの知識は、衛生管理屋ならではの微生物知識です、えへん。(笑)
こうした「なれずし」は冷蔵食品のない当時の日本において、タンパク質を保存する知恵として考えされ、各地に広がりました。
ここでの「弥助」の寿司(鮓)とは、付近を流れる吉野川の鮎を材料としており、桶のカタチから「釣瓶鮨(つるべずし)」と呼ばれ、古来から彼の地に伝えられてきたもののようです。
…おっと、
こんなことをやっているとどんどん字数ばかりが増えていってしまいます。
「なれずし」についてはまた別に書くとしましょう。

くら寿司が養殖業に進出、11月に新会社
さて、いい加減本題に入りますね(汗)。
先日、このようなニュースを見かけました。

回転ずし大手のくら寿司は28日、すしネタの安定供給を図るため、養殖業の子会社「KURAおさかなファーム」を11月1日に設立すると発表した。
飲食以外の子会社を立ち上げるのは初めて。全国のスーパーマーケットなどへの卸売りも視野に入れる。

ほうほう、
あの、スシローなどと競っている大手回転寿司チェーン店「くら寿司」が、養殖業に着手すんのね、ふーん。
で?
って思うじゃないですか。
食品衛生、関係あるこれ?
ってなるじゃないですか。
ちょっと待ってください。
ここで扱う魚がタダモノではないのです。
なんと、「オーガニックハマチ」なのです。
ニュース記事にもちゃんと記載があります、ほら。
自社養殖は11月1日から和歌山県で始め、初年度は50トンの生産を計画。
エサやいけすの水質に配慮した方法で育てる「オーガニック水産物」のハマチを育てる。
え、有機なの?
ハマチなのに?
水産物なのに?
…意味が、わからない…。
しかも。
なんとこれがHACCPに関係している、と言ったら食品衛生関連の皆さん、どうでしょうか。

そう。
ようやくここに至った今回のテーマがこちらです。
くら寿司が日本初の「オーガニックはまち」養殖開始
丁度7ヶ月くらい前のこと。
今年の3月に、あるニュースが報じられていたのを、ご存知でしょうか。
回転ずしチェーン大手のくら寿司は8日、エサやいけすの水質などが国際基準を満たした、日本初となる有機水産養殖・加工規格の認証を取得し、卸売業に初参入すると発表した。

実はこれ、前にやっていたブログでもご紹介いたしました。
その時にも書いたんですけどね。
つまりは、こういうことです。
その大手回転寿司チェーン店でおなじみのあの「くら寿司」が、国内では初となる有機水産養殖・加工規格の認証を取得しました。
その結果、日本初の「オーガニックはまち」の養殖を始めたのです。
くら寿司、ついに日本初の「オーガニックはまち」をゲット!
へーすげーなーそうなんだー、さすがはくら寿司。
…というわけなんです、が。
さあ、皆さん。
これを読んでいる方々に、ちょっとお聞きしたいんですが。
「有機水産」の規格認証なんて、知っていますか?
そうなんです。
知らないですよ。
マジで普通、そんなものを知らないんです。

てゆーか「有機JAS」て何だっけ?
そうなんです。
いや、恐らくですがうちのような専門性の高いブログを読んでおられるような方々は、皆さん、一般的な人々よりも相当なまでに食品業界にお詳しいはずです。
食品業界そのもののプロだったり、あるいは(ぼくがそうであるように)そこに深く関わる専門家だという人も多いことでしょう。
で。
そんな方々でも、んじゃあ「有機JAS」について詳しく説明してください、といきなり問われてもですね、せいぜい「ええと…無農薬?」くらいしか出てこない。
そんなものだったりするんですよ。
(で、それ間違ってますからね。正しくは後にお伝えいたします)
というのも、一般的に「有機JAS」の話というのは「有機農産物」、つまりは農業に関わる話である場合が圧倒的に多いからです。

いや、勿論食品業界だって十分に関係するんですよ?
だって、有機やオーガニックを製品としてうたうような食品メーカーであれば、有機JAS認証を取らなければいけません。
そしてそうした食品工場では、当然ながら有機JAS対応の管理をしなければいけません。
有機JAS認証工場となると、使用する資材や洗剤や化学薬品に大きな制限が生じます。
例えばずっとこのところお話してきた防虫管理にしたって、いくらどんなに昆虫(勿論ゴキブリを含みます)が出ようがネズミが出ようが、殺虫剤や殺鼠剤を含めた薬品のほとんどが使えなくなります。またそれらの使用記録もメタクソに厳しくなるのです。
何を隠そう、ぼく自身、これまで結構関わってきたことも多いです。
しかし。
まず第一に、こうした「有機食品」の食品加工に携わっている方々は、実際のところかなり限定されるはずです。
つまりここの多くの読者にとっては、有機農産物はおろか、有機加工食品ですらかなりの距離がある存在であることだと思います。
しかも。
次に、普通「有機JAS」認証といったら、農産物だったり、畜産物や加工食品、飼料など。
と、ここらへんを通常は対象とするものです。
にも関わらずこれが「水産」ともなると、99%以上の読者の方が「それ何?」となって仕方ない話です。
さあ、このように食品業界に密接な関係であるにも関わらず、判っているようで実はみんな判っていない「有機JAS」。
そんなわけで、ですね。
今回はそんな「実はわからない人」にむけての有機JASの話にすることにしました。
大丈夫、分かりやすさ全ブリモードでいきますから。
それにこれ、知るとマジで面白い話だったりもするんです。
さあ、それではこの前編、それから中編、さらには後編と三回に分けて、この「有機JAS」認証について触れていくとともに、今回「くら寿司」が認証取得を果たした「有機水産」についても解説していくとしましょうか。

まとめ
さあ始まりました、「くら寿司」編。
ここからしばらく、「くら寿司」さんのお話をしていきたいと思っています。
まずは11月早々に、前編・中編・後編と、特別に三部にわたって、くら寿司が今回日本で初めて認証取得したという有機水産物の有機JASについてのお話をさせて頂きます。
まずこの前編ではニュース紹介、および導入についてのお話でしたね。
そしてこちら中編からがいよいよその本題。
まずはその基礎知識として、そもそも「有機JAS」とはどんなものか、について解説していきました。
というわけで、今回はむしろ序編。まずは現状の紹介です。
なんでも「オーガニックはまち」なるものが、国内初で認証された、という。
そしてそれは、「有機JAS」規格として、認められたのだという。
でもちょっと待って。
普通、いやぼくらの一般感覚で言えば、「有機JAS」規格ってのは農産物だ。
水産物について、そんなものを聞いたことがない。
でも、そりゃあそうだ。
だって、これが最初の1号なんだもの。
さあ、そんな水産物の「有機JAS」規格について、これから迫っていこうではないですか。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
