皆様、こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか「絶対に!」聞くことの出来ない神髄中の神髄、「プロが本気で教える衛生管理」を日々、お教えいています。

防虫管理実践編。
リスクアセスメントの最初の項目、「状況評価」。
これを実際にやるためにはどうすればいいのか。それについて前回に続いての後編を、今回はお話していくとしましょう。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

それでは、早速はじめましょう。

今日のポイント
  • 「拡散リスク」評価は、ライトトラップがあるかどうかを確認することが重要だ
  • 「発生リスク」評価は、清掃状況の有無を確認することが重要だ

 

工場内や厨房内

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もしこちらから来られた方は、まずは前編を最初に読んでください。)

さあ、というわけで後編です。
前編では、「状況評価」で行うべき4つのリスクの評価のうち、「環境リスク」「侵入リスク」をどう評価するか、についてお話を進めてきましたね。

防虫対策のリスク区分
  1. 環境リスク:虫が工場や店舗に誘引されるリスク
  2. 侵入リスク:虫が工場や店舗に侵入するリスク
  3. 拡散リスク:虫の生息が工場内や店舗内に拡散するリスク
  4. 発生リスク:虫が工場内や店舗内で発生するリスク
挿画:4つのリスク

なので、こちらの後編では残りの2つ。
拡散リスク」と「発生リスク」について、どのように評価するかをお話していきたいと思います。

環境リスク」というのは、工場や店舗の外側の外部環境についてのお話、自身である程度のコントロールのきく、つまりは管理が可能な敷地内やごく周辺の環境についてのお話でした。
一方、「侵入リスク」というのは、工場や店舗の建屋そのものにどう入ってくるか、という外側に接した部分でのお話でした。

しかし、後編の「拡散リスク」と「発生リスク」というのは、工場や店舗の内側の話になります。
つまり、建屋の内部にどんなリスクがあるのか、ということです。
そしてそれをどう評価するか。
ここが前半とは大きく異なる点です。

つまり。
「寄せない」という「環境リスク」と、「入れない」という「侵入リスク」というのは、そもそもからして「リスクをいかに作らないか」に焦点が当てられています。
しかし、後半の2つ、「拡散リスク」と「発生リスク」というのは、寧ろその逆。
「そうやったとしても作られてしまったリスクをいかに抑えるか」に焦点が当てられています。

そこには、専門家であるぼくから言わせれば、ある種の「諦念」があるのです。

って、なんだか響きが哲学的だなあ。(笑)
とはいえ、本質は、寧ろそれよりも遥かに現実主義的な話です。
それは理想主義の、全くの真逆。
何故ならそれは、「所詮はどうやったって虫の侵入をゼロには出来ない」というものに基づいているから、です。
そういう意味での「諦念」であり、それは逆に言えばリスクマネジメントの基本的な考え方ともいえるでしょう。

リスクはそりゃ、理想的にはむかえ入れないほうがいいに決まっている。
でも、現実は理想どおりにはまずいかないものです。
で、現実的にそれでも生じるリスクについてはどう考えればいいのか。

何せ虫というものは、ガッチガチに固められ、何重にも仕切られ、何度も着替えをさせられ、空気中のチリ(塵埃)の数すら規定するような、そんな医薬品製造工場の内部ですら入ってくるのです。
そんな存在が、たかだ扉やエアー程度で侵入を遮るなんて、出来るわけがそもそもない。
そういう存在だとよく知っているからこその、こういう考え方なのです。

さあ、それを踏まえた上で。
それだって入ってきてしまう虫へのリスクをどう評価するのか。
これを後編では探っていくとしましょう。

挿画:状況評価

状況評価のチェックポイント②

さあ、それではどんなところを見ていけばいいのか。
こちらでも、チェックリストとともに、そのポイントもお教えしていきます。

拡散リスクのチェックポイント

続いて行うべきは「拡散リスク」のチェックです。
つまり、「侵入した虫が工場や店舗でどう広がるか」です。

まずは、ざざっと各々、ハード(設備構造面)、ソフト(管理運用面)ともに見渡していきましょう。

拡散リスクのチェックポイント:ハード(設備構造面)
  • ライトトラップの設置数、設置個所が適切であり、侵入昆虫を捕殺できる状況になっているか
  • 搬出入エリアは前室構造やインターロックになっており、昆虫がたやすく内部に入らないようになっているか
  • エリア毎に間仕切りやゾーニング対策がなされ、昆虫の拡散を抑制出来ているか
  • 清浄区域(製造室)と汚染区域がダイレクトにつながっておらず、準清浄区域(通路や前室)で緩衝できているか
  • 室内の壁天井の合わせ目などはコーキングされ、またヌケもない(内壁や天井裏からの侵入が困難)か
  • 製造室内の壁天井に破損、劣化、クラックがないか
  • 作業員の入場動線からの昆虫侵入の危険が少ないか
  • 廃棄などの作業時の外部ドア開放時に侵入した昆虫が内部に至らないよう構造上工夫されているか
  • 加熱時排気などで清浄区域が陰圧にならないよう吸排気バランスを設計、機能しているか
  • 場内、室内に鼠の侵入が可能な隙間がないか
拡散リスクのチェックポイント:ソフト(管理運用面)
  • 場内ドアや間仕切りの開閉管理に不備がないか
  • 資材動線上、昆虫の持ち込みがたやすい状況にないか
  • 場外からダイレクトな台車、パレット、段ボール包材の持ち込みがなされていないか

…と、ざざっとこんな感じですね。
ある一定以上の規模の工場や店舗など、もう防虫管理がある程度進んでいる、というところにおいてはこのチェックリストに基づいて拡散リスクを見ていくといいでしょう。

ですが、まだ何もしていない。
これからだ、という段階のかた、あるいはもう一度基礎から防虫管理を学びたい。
そういうかたには、ここでのポイントを、次にお教えいたします。

さあ。
ポイント。誰でも出来る一番簡単で重要な拡散リスクの評価方法です。

この段階で考えるべきこと、それは「ライトトラップ」の存在です。
あなたの工場、店舗には青白く光って虫を捕まえる捕虫器、ライトトラップがありますか。

そう、これです。
青白い光を放って虫を集め、ベタベタの捕虫紙で捕まえる、この機械です。
では、それは何のためにあるのでしょうか。

ライトトラップというものには、そもそも2つの目的があります。
ライトトラップの「目的」にして、そのための「機能」というべきでしょうか。
とにかくそういうものがあります。

それは、「捕殺」と「モニタリング」です。

ライトトラップの目的
  • 生息昆虫の「捕殺」:場内の昆虫を効率よく早期に捕殺する
  • 生息昆虫の「モニタリング」:場内の昆虫の生息状況を監視する

この話はまた別にもう少し細かく掘り下げて解説していきます。
ですが、この段階で知っておくべきこと。
それは、まずこの機械は「捕殺」、つまり場内の昆虫を効率よく早期に捕殺するために存在する、ということです。

ですからこの「拡散リスク」に引きつけて言うのであれば、場内に侵入した虫を拡散させずに直ちに殺すために存在する、つまりは「拡散リスクを少なくするために」存在している、ということです。

ということは、どういうことか。
そうです、「ライトトラップのある・なし」を見るのです。

ライトトラップがある・ない?:一番大事で簡単な拡散リスク評価
  • ライトトラップがある
  • ライトトラップはあるけど台数が足りていない
  • ライトトラップがない

ここをまずは見てみるとしましょう。
「ある」という場合、その台数は足りていますか?

飲食店や厨房施設であれば、1~2台。
ちょっとした工場であれば、3台以上。
出入り口近辺と、その先と、最も重要な製品を作っている、製造エリア。
とりあえず今の段階の知識ではそのくらいのレベルで構いません。
まずはそれを基準にして、揃っているかどうかを考えてみてください。

挿画:リスクとは?

ではどうしてライトトラップの有無によって「拡散リスク」を評価すればいいのか。
それだけ少し補足としてお話しておきましょう。

以前の「4つのリスク対策」の話のとき、ぼくはこのようにお話しました。
「拡散リスク」の対策には2つの手段がある、と。
それが「到達阻止対策」と「早期駆除対策」です。

拡散リスク対策の手段
  • 到達阻止対策:いかに昆虫の生息を清浄区域(製造室内)に至らせないようにするか
  • 早期駆除対策:いかに昆虫を速やかに駆除するか

つまり、虫の生息の拡散を何らかの手段で広げないようにする前者の「到達阻止対策」と、その虫を殺すことで生息の拡散を抑えようとする後者の「早期駆除対策」です。
詳しいことは、その前の記事を読んでいただくとして。

こうした2つの拡散リスク対策というのは、逆にいえば工場や店舗において拡散リスクのためのこれらの対策手段を取られているかどうか、ということになります。

到達阻止対策」がなされているか。
つまり、場内の間仕切りや空調機能によって、重要なエリアにまで虫がいかない、生息が拡散しないようになっているか。
早期駆除対策」がなされているか。
つまり、ライトトラップなどで生息している虫を駆除できるようになっているか。

実を言うと、上のリスト内容は、実はそれらを満たすかどうかというチェック内容となっています。
もう一度その目線で眺めてみてください。必ずや、どちらかの目的を果たすかどうかになっているはずです。
というか、上のリストでは1項目目に「ライトトラップ」の有無、つまりは「早期駆除対策」の有無を問うており、それ以外の項目は「到達阻止対策」についての確認です。
それだけライトトラップの重要さが最初にくる、ということです。

しかもライトトラップはその後の管理においても重要さを持つものです。
それが、先のライトトラップの目的その2、「モニタリング」というものです。
これについてはまた後に出てくる話なので、今回は後に譲るとしますが、とにかくここではそのライトトラップによる「早期駆除対策」が出来ているかどうか、に注目して考えてみてください。
まずはそこがスタート、一番簡単にして重要な、拡散リスクの評価ポイントです。

挿画:拡散リスクに対する「早期駆除対策」

発生リスクのチェックポイント

いよいよ4つのリスク、最後となりました。
「発生リスク」のチェックポイントをお教えいたしましょう。

発生リスクのチェックポイント:ハード(設備構造面)
  • 排水溝は清掃しやすい構造になっているか
  • 壁面立ち上がりはアール構造になっているか(破損、ヌケがない)
  • ウェットエリアはドライエリアと区分けされ、また床面の清掃がしやすく劣化しづらい塗装が施されているか
  • 排水升内の残渣が除去しやすい状況になっているか
  • ウェットエリアでは、床や排水溝の勾配が取られ、水はけがしやすい状況であるか
  • 冷蔵庫、冷凍庫周辺、エアコン周辺などの高温度差個所に結露が生じていないか
  • 天井やエアコン吹き出し口その他にカビの発生がみられていないか
  • 内部発生の可能性のある個所にはモニタリング用の捕虫器が適数適所に設置されているか
  • 大型機械は、構造上清掃しやすいつくりになっている、或は分解点検が可能であるか
  • 内壁や床下などに汚水や穀粉などの昆虫の発生要因物が入りこむような隙間、破損が生じていないか
発生リスクのチェックポイント:ソフト(管理運用面)
  • 比較的清掃がなされており、場内が清潔に維持されているか
  • 冷蔵庫やコールドテーブルのモーター部などに、チャバネゴキブリの糞跡がみられないか
  • 天井の各点検口内に、ラットサイン(糞や足跡などの鼠の生息跡)がみられないか
  • ウェットエリアの排水溝、排水升は清潔に維持され残渣などが残されていないか
  • 穀粉使用エリア、保管エリアの清掃はすみずみまで行われているか、コーナーや隙間に営巣跡がないか
  • 清浄区域内に不要な長期保管物が保管されていないか

と、こんな感じです。
「発生リスク」のチェックポイントは、設備構造(ハード)として虫が発生しづらくなっているか。そして管理運用(ソフト)として5Sが出来ているか、つまりは清掃が行き届いているか、という2点です。
それを見るための項目が、上のようなものだというわけです。
そういう視点で、各工場や店舗ではそれらを見ればいいかと思います。

が。
ここでもポイントをズバリ言うならば。
これはもう「清掃」です。
てゆーか、「清掃」一択に尽きます。

だから上のリストでも、ソフト(管理運用)で一番最初に訪ねているのです、清掃が出来てますか?と。
では清掃の有無をどう見るか。
あなたの工場や店舗に、こういうところはないですか?

清掃ができない。わかります。
その問題は知っているけれど、出来ない、現実的になかなか難しい、そういうところはありませんか。いや、あるでしょ、あるんだって。
あるんですよ、どの工場、どの厨房だって。
やれ、機械内だとか、重機下だとか、コールドテーブル裏だとか、天井だとか、冷蔵庫側面だとか、破損した壁の中だとか…。
そういう目を向けたくないところを、今回は「出来る」「出来ない」はちょっとさておいて、どんなものがあるかを評価するのです。
「出来る」「出来ない」は後で考えましょう。
「出来ない」なら違う方法だってあるかもしれないじゃないですか。

なので、これらは「常態化」しているかどうか、で考えてみましょう。
「当たり前の光景としてあるのかどうか」。
その客観的視点を持つことが重要です。

こんな清掃不足はある・ない?:一番大事で簡単な発生リスク評価
  • 汚水だまり
  • 結露、カビ
  • 粉溜まり
  • 食品残渣(落下した原材料のカスなど)
  • 落下製品片(落下した製品のカスなど)
  • 排水溝や排水桝への、排水の長期滞留

そうそう、こんな感じ。
これは上のチェックリストでチェックした工場や店舗でも見ていただきたいですね。
大丈夫。
ご心配はありません。
だって、この道の長い超ベテランのぼくが、これらが一つもない、なんて工場にあったことはほとんどないですから。
そういうものだと思ってください。
いいですか?
「出来る」「出来ない」より、リスクとしての現状把握をすることが重要なんです。
あくまで「現状把握」のための「状況評価」、なのですから。

挿画:状況把握

まとめ

今回は、前編、後編と二部にわたって「状況評価」についてのお話をさせて頂きました。
そしてこちら後編では、前回を継いで続く残りのリスク、「拡散リスク」と「発生リスク」についてお話をさせていただきました。

どちらかというと、「拡散リスク」はライトトラップに象徴されるように、ハード:設備構造としてどうなっているか、というチェック。
「発生リスク」は清掃、つまりはソフト:管理運用をどうしているか、に比重が置かれていますね。

後編でのチェックポイントをまとめると、「拡散リスク」においては、まずライトトラップの存在に注目してみてください。

ライトトラップがある・ない?:一番大事で簡単な拡散リスク評価
  • ライトトラップがある
  • ライトトラップはあるけど台数が足りていない
  • ライトトラップがない

台数の基準は、現状では大体こんなものだと思っていてください。

飲食店や厨房施設であれば、1~2台。
ちょっとした工場であれば、3台以上。
出入り口近辺と、その先と、最も重要な製品を作っている、製造エリア。

そして、「発生リスク」の評価ポイントはこれ。
これは重要です。

こんな清掃不足はある・ない?:一番大事で簡単な発生リスク評価
  • 汚水だまり
  • 結露、カビ
  • 粉溜まり
  • 食品残渣(落下した原材料のカスなど)
  • 落下製品片(落下した製品のカスなど)
  • 排水溝や排水桝への、排水の長期滞留

さあ、全てのリスクについての評価が出来たら、それらをまとめていきます。
うーん、これらのリスクの評点算出にまで話を進めたかったのですが、残念ながら長文になってしまいました。
次は簡単に、その評点の算出についてお話していきましょう。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画:ビジネスイメージ