★公開日: 2021年10月10日
★最終更新日: 2021年10月11日

皆様、こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか「絶対に!」聞くことの出来ない神髄中の神髄、「プロが本気で教える衛生管理」を日々、お教えいています。

防虫管理実践編。
最初に実際に行うべき、「リスクアセスメント」。
そして、そのうちのまずは前回にご紹介した、「状況評価」。
これを実際にやるためにはどうすればいいのか。それについて今回はお話していくとしましょう。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

それでは、早速はじめましょう。

今日のポイント
  • 「環境リスク」のチェックとは虫の「誘引要因」があるかどうかを見ることだ
  • 「環境リスク」評価は、光の漏れ、植物(樹木、緑地)、汚水(下水、側溝、排水だまり)、生ゴミ、余計な保管物・廃棄物の存在確認をすることが重要だ
  • 「侵入リスク」評価は、開けっ放しと隙間・破損の確認をすることが重要だ
挿画:状況把握

 

おさらい:「状況評価」とは

(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)

さて、防虫管理実践編。
色々とやっておきたいことが続いたので、少々空いてしまいましたが、覚えていますか?

具体的には前の記事に遡って読み直していただきたいのですが、簡単にここまでをおさらいしておきましょう。

工場や店舗などでの「防虫管理」について、これまでで色々なことを学んできましたね。
そしてそのうえで、「CAPD」のうちの「C:Check」、「リスクアセスメント」から始めたほうがいいだろう、というお話をこれまでしてきました。

では、その「リスクアセスメント」って何なのだろうか。
その質問に答えたのが、前回【15回】でした。

「リスクアセスメント」には、2つの評価軸がある。
それが、「状況評価」と「管理評価」である。

リスクアセスメントの評価2軸
  • 状況評価
  • 管理評価

先の「状況評価」とは、主にハード(設備構造)やあるいはその取扱い(ソフト)を中心とした工場や店舗の現状に対しての評価のことです。

そして一方で後者の「管理評価」とは、そうした防虫管理に対する工場のマネジメント(管理)という、ソフト(運用状況)に対するシステム的な評価のことです。

「リスクアセスメント」では、これらを合わせることで防虫管理上のリスクを複合的に評価します。

挿画:リスクアセスメントは「状況評価」と「管理評価」のイメージ
リスクアセスメントは「状況評価」と「管理評価」(イメージ)

ですが、このうち「管理評価」はちょっと難易度が高いし、敷居もかなり高い。
なので、まず「状況評価」に重心を置いて実施していくとしましょう。

…というのがこれまでの流れでした。

ではその「状況評価」とは実際にどのように行うのでしょうか。
さあ、ここからが本題です。

挿画:リスクアセスメント

状況評価をどう進めるか

「状況評価」をどう進めればいいのか。
つまり、現状のハード(設備構造)やあるいはその取扱い(ソフト)を中心とした工場や店舗の実情に対し、どう評価すればいいのか。
それには見るべきポイントが存在します。

そもそも、これらから我々は一体何を評価するのでしょうか。
そう、「リスクアセスメント」なのですから、当然「リスク」の度合いを調査(アセスメント)するのです。

そして、「リスク」といえば。
既に、工場における防虫対策上のリスクは、4つのレベルにおいて生じている、というお話をしましたね。

防虫対策のリスク区分
  1. 環境リスク:虫が工場や店舗に誘引されるリスク
  2. 侵入リスク:虫が工場や店舗に侵入するリスク
  3. 拡散リスク:虫の生息が工場内や店舗内に拡散するリスク
  4. 発生リスク:虫が工場内や店舗内で発生するリスク
挿画:4つのリスク

ですから、ここはやはり、それらの4項目に対してのリスク評価をすべきでしょう。

また、防虫対策におけるリスクは、「ハード(設備構造)面」だけではなく、「ソフト(管理運用)面」においても生じることも説明しましたね。
よってその両面を合わせて評価していく必要があります。

つまり、各要因に対し、「ハード(設備構造面)」の問題はないのか。
「ソフト(管理運用面)」の問題はないのか。

これらの両面をあわせてチェックしていく、というわけです。
でもただ、何もなくさあチェックしてみろと言われても、何をどう見ればいいか、一般の方には判らないかもしれませんよね。
そこで、すべきことやポイント、見るべき箇所を次に挙げていくとします。

状況評価のチェックポイント①

実際には、チェック内容は工場や店舗の特性ごとに様々であり、これ以上多岐に渡ります。
ぼくら専門家は、それらを経験値的に踏まえながら、あれやこれやと知識やカンを張り巡らして評価するものです。
しかし、それじゃあわからないでしょうから、最低限みておくべき代表例を下に挙げておくことにします。
まずはこんなところからチェックをしていくといいでしょう。

挿画:状況評価

環境リスクのチェックポイント

最初にすべきは「環境リスク」のチェックです。
つまり、「虫が工場や店舗に誘引されるリスク」があるかどうかです。

まずは工場や店舗の外に出てみてください。
まずは虫にとっての外堀、虫が住んでいる「環境」からチェックしていきましょう。
あなたの工場や店舗の周辺は、どんな環境ですか。
それによって、あなたの工場や店舗の周囲は虫がどう生息していそうでしょうか。

ここでは取り敢えず、自社工場の敷地内、店舗であれば周辺数メートルの範囲について考えてみてください。
つまり、最初は「自分たちでコントロール可能」なことについて評価するのです。

例えば山に囲まれている、林が隣接している、川が流れている、付近に大きなビルや商業施設がある…なんて、コントロール不可能なものはまた後の話にしましょう。
これらについては、またおいおい別途に考えていきます。
それら立地条件などによる外的な要因については、「環境特性」と呼ぶべきものであり、また改めて別に記事を書く予定です。

いいですか、
今考えるべきは「自分の管理できる外部環境」のことです。

それを考えた場合、次のようなことをチェックしてみるといいでしょう。

環境リスクのチェックポイント:ハード(設備構造面)
  • 工場・店舗内外の灯火は、機能上或は配置などで昆虫の誘因を防止できる状況となっているか(防虫ランプなど)
  • 施設内に汚水処理施設やグリーストラップなどの昆虫生息可能箇所が設けられているか
  • 敷地内の緑地率はある程度抑えられている、或は厨房や製造棟から離れた配置となっているか
  • 建屋周囲はアスファルト敷き或は砂利敷きなど、土壌に接していないつくりとなっているか
  • 雨水溝からの昆虫の影響が少ない、或は建屋に対する防虫機能が備えられているか
  • 廃棄施設は製造棟への影響が少ないつくりとなっているか
  • 樹木は製造棟への影響が少ない状態にあるか(樹木種の選定上、配置上など)
  • 工場内や店舗内の臭気が外部に漏洩して誘引してしまっていないか
環境リスクのチェックポイント:ソフト(管理運用面)
  • 緑地帯の整備がなされているか
  • 雨水溝の清掃がなされているか
  • 灯火管理が適切であるか
  • 場内の3S管理がなされているか
  • 廃棄施設、外部倉庫などの管理がなされているか

環境リスクのチェックリストはざざっとこのようなものです。

挿画:チェックポイントが難しい

お、おう………っ!

…となった方もいますよね。
てかなりますよね。
何せ、ちょっとナメられないように難しめに書いてありますからね(笑)。
まあ、これが一般的なチェックポイントをぼくが思いつく限りにざざっと並べてみたものです。

大丈夫、ポイントを教えましょう。
寧ろ、実はどこでもころがっている上のような細かいチェックリストなんかよりも、こっちのほうが重要です。
なので、どうぞこっちのほうをちゃんと読んでください。

さて。
先にも書いたように、環境リスクとは、「虫が工場や店舗に誘引されるリスク」のことです。
では、どうして虫が工場や店舗に「誘引される」のでしょうか。
それは、そこに「誘引要因」があるからです。
つまり、環境リスクのチェックとは虫の「誘引要因」があるかどうかを見ることです。

そして虫の「誘引要因」とは何か。
それは次のいずれかの条件を満たすものです。
1つは「誘引条件」、つまりははからずも「虫の好むものを外に出してしまって呼び込んでいる」条件を満たしてしまうもの。
ここにおいては、実は「光」という存在が、もっとも重要になります。

そしてもう1つは「生息条件」、「虫が住みやすい環境を与えてしまっているもの」です。
虫というのは、「餌と生息場所と温度」で生きています。
ここではとくに「餌」という存在が一番重要なのですが、実は虫の餌は多種多様。
植物を餌にするものもいれば、汚水の有機物を餌にするものもいるし、生ゴミなどを餌にするものもいるし、それらの虫を食べている虫もいる。
なので、ここではとりあえず次のようなものに注目してください。

そして、これらどっちかの条件が満たされることで、虫の「誘引」を与えてしまうことになるのです。

昆虫の「誘引要因」となる環境条件とは
  • 誘引条件:光、臭い
  • 生息条件:自然物(緑地帯や樹木の植物、土壌、他)、水(汚水など)、廃棄物、など
作成画:昆虫の「誘引要因」となる環境条件のイメージ
昆虫の「誘引要因」となる環境条件のイメージ

要するに「誘引条件」、つまりは不必要に虫を呼んでしまう要因を揃えてしまう、「光」と「臭い」。
それから「生息条件」、つまりは虫が住みやすい環境条件となる、自然のもの(植物と土)、水とエサ、棲みか。
これらの2つが満たされていないかを見ればいい。
そしてこれらの条件を与えないように、まわりの外部環境をどう管理できているか、それを見ればいい。
そういうことです。

挿画:誘引要因は「誘引条件」か「生息条件」のイメージ
誘引要因は「誘引条件」か「生息条件」(イメージ)

というか。
その中でも重要なものが、これ↓。

まずは、これだけでいいです。
工場や店舗のまわり、とくに出入り口付近にこれがないか、見てください。

周りにない?:一番大事で簡単な環境リスク評価
  • 光の漏れ
  • 植物(樹木、緑地)
  • 汚水(下水、側溝、排水だまり)
  • 生ゴミ
  • 余計な保管物、廃棄物
挿画:周りにこれらはある・ない?

侵入リスクのチェックポイント

さあ、環境リスクがチェックできたでしょうか。
では次は工場や厨房の中に入って…と言いたいところですが、ちょっとまだ待ってください。
次にチェックすべきところも、外側から少しばかり見てみてもいいかもしれませんよ。

というのは、次は「侵入リスク」。
つまり、「虫が工場や店舗に侵入するリスク」があるかどうかです。

侵入リスクのチェックポイント:ハード(設備構造面)
  • 外部開口個所には侵入防止機能を備えているか(防虫シャッター、カーテン、エアシャワーなど)
  • ドアやシャッターに隙間、破損が生じていないか
  • 差圧管理上、陰圧による外気流入の危険が少ないか
  • 搬出入口は地面から高い位置に設けられているか(地面とフラットな開放個所が少ない)
  • ダクトその他配管、ケーブルの引き込み個所に隙間がないか
  • 製造施設その他に、外部や天井裏へと通じる隙間がないか
  • 場内排水構造は、昆虫の侵入防止機能がなされているか(水封トラップ他)
  • 屋外に亀裂、破損による隙間が生じていないか
  • 建屋に鼠の侵入が可能な隙間がないか(エアコン冷媒配管、ダクト配管など
侵入リスクのチェックポイント:ソフト(管理運用面)
  • 外部隣接ドアの開閉管理が徹底しているか
  • 高速シャッターあるいは防虫カーテンの使用方法に不備がないか
  • 資材などの持ち込み防止対策に不備がないか

こちらも色々ありますが、勿論ポイントを教えます。

まず「侵入リスク」とは、シンプルに、「虫が工場内や店舗内に入りやすいところはどこか(ハード)」、そして「その開閉をちゃんと管理しているか(ソフト)」、だと思ってください。

作成画:昆虫の侵入リスクのイメージ
侵入リスクのチェックポイントのイメージ

工場であれば、搬入搬出のシャッター。従業員の出入り口。排気用のドアやシャッター。トラックヤードや、運転手の入場口…。
店舗であれば、厨房のドアや窓。メインの扉。
これらはぱっと考えても誰もが「侵入リスク」をはらんでいると考えつくことでしょう。
では、それをどうしていますか?
開けっ放しにしていませんか?あるいは、そこに隙間あるいは破損がありませんか?
(意外と扉やシャッターに、虫が入れる隙間は多いものですよ!下だとか側面だとか…)

この2点が実は一番重要なポイントです。
なぜなら「開けっ放し」→ソフト管理の問題であり、「隙間や破損」→ハードの問題、の象徴、代表例だからです。

扉・シャッターにない?:一番大事で簡単な侵入リスク評価
  • 開けっ放し :ソフト(管理運用面)の問題
  • 下や側面の隙間、破損部など :ハード(設備構造面)の問題

他の条件は、また後々に考えてもいいくらいです。

挿画:開けっ放し?隙間がある?

まとめ

ふう、これでようやく状況評価の半分が終わりです。
そろそろ長くなってきたので残り2つのリスク、「拡散リスク」、「発生リスク」の評価については、後編にお話するとしましょう。

というわけで今回は、前編、後編と二部にわたって「リスクマネジメント」のうちの「状況評価」についてのお話をさせて頂きました。
そしてこちら前編では、「環境リスク」と「侵入リスク」についてお話させていただきました。

重要なポイントをまとめます。

まず環境リスク評価というのは、「自分の管理できる外部環境」のことです。
そして、そこに虫の「誘引要因」がないかを確認することです。

虫の誘引要因には、2つの条件があって、そのいずれかを満たしてしまうことで起こります。
一つは、「誘引条件」。
つまりは不必要に虫を呼んでしまう要因を揃えてしまう、特に「」の存在。これが一番問題になる。
あとは「臭い」も一応ね。

それから「生息条件」、つまりは虫が住みやすい環境条件となる、自然のもの(植物と土)、水とエサ、棲みか。
とくに植物と、汚水(水)と、ゴミ(餌)。

だから、最初はもうシンプルにこれがあるかを見てください。

周りにない?:一番大事で簡単な環境リスク評価
  • 光の漏れ
  • 植物(樹木、緑地)
  • 汚水(下水、側溝、排水だまり)
  • 生ゴミ
  • 余計な保管物、廃棄物

そして侵入リスク評価は、もっとシンプルです。
「虫が工場内や店舗内に入りやすいところはどこか(ハード)」、そして「その開閉をちゃんと管理しているか(ソフト)」。
つまり、工場や店舗のシャッターやドアを、開けっ放しにしていないか、あるいはそこに隙間はないか

扉・シャッターにない?:一番大事で簡単な侵入リスク評価
  • 開けっ放し :ソフト(管理運用面)の問題
  • 下や側面の隙間、破損部など :ハード(設備構造面)の問題

まずは最初ですから、それだけを見てくれればいいでしょう。

さて、後編では残る2つのリスク、「拡散リスク」と「発生リスク」の評価についてお話していくとしましょう。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

 

 

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