★公開日: 2021年10月2日
★最終更新日: 2021年10月5日
本日…ではもうなくなっていますが、昨日10月1日が「日本酒の日」だったことを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今回は「日本酒の日」らしく、「酒と食品衛生の話」をしていきましょう。
なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

改めて、10月1日は「日本酒の日」…でした
(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もしこちらから来られた方は、まずは「前編」を最初に読んでください。)
前回でもやりましたが、皆さん本日…ではなくなっていますが、昨日10月1日は何の日だからご存知ですか?
実は昨10月1日は、「日本酒の日」だったのです。
このようにあちこちで日本酒イベントが行われています(KAMPAI!)
ということで、「日本酒の日」企画、「日本酒と食品衛生」の話をしよう。
こちらは後編…と、なるわけなのです…が。
なにぶん前編でがっつりとお話をしまくってしまいましたので、こっちはもうちょいスッキリサックリといきたいと思います。
おっかしーなー、事前では寧ろこっちこそがメインに考えていたんですけどねえ…。

日本酒と食品衛生
さて、そんな「日本酒と食品衛生」についてのお話なんですが。
実は日本酒というのは、一般的には、それほどまでに食品衛生上での問題が多くはない製品であったりもします。
まず、そもそもとしてお酒ですから、アルコールを含んでいます。
つまり、もう製品そのものとして、細菌が行きていくのが困難な環境です。
なので、日本酒というのは、そもそもからして、至極食中毒の起こりづらい製品なのです。
清酒が細菌性食中毒を起こしづらい理由 |
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と、これらのことから、日本酒による細菌性の食中毒というのはほとんど聞いたことがありません。
では、日本酒への異物混入の実情はどうか。
これも、全くないとは言いませんが、それでも他の食品に比べてかなり少ないほうだといえるでしょう。
尤も、これらは日本酒のみならず、全ての酒類、飲料に共通して言えることなのですが。
というのも、日本酒をはじめとする飲料類は、充填(瓶詰め)の際までにストレイナーを経ての工程となるため、そこでフィルターとしてろ過されてしまうからです。
よって、飲料での異物混入の可能性というのは、非常に低い。
まあそれでも近々でも、小規模の製造において、まれにこんなこともあったりします。
まあ、詳しく…とまでは書いていませんが、これに関するウチの見解を読んでみてください。
このように、充填(瓶詰め)の段階でしか、製品であるお酒や牛乳や飲料は、ほとんど暴露しません。
なのでその混入経路やタイミングはかなり限られることになる。
つまり、充填のポイントを局所的に管理すればいい、ということになる。
…もっとも、そうでもないことだって起こり得るのがこの業界の面白い…というと不謹慎ですが、奥深いところだったりします。
どこかで改めてまたご紹介しますが、飲料にゴキブリが入った事例をぼくはご相談されたことがあります。
当然ながら、製品にゴキブリなんぞが混入すればバラバラになりますし、ほとんどがろ過されて除去されます。
では、どうしてゴキブリが入ってしまったのか。
いずれ上げるであろう記事を、どうぞ楽しみにしていてください。

「獺祭」にコバエが混入した事例も
こうした事実を象徴する事例が、例えばこれです。
あの有名酒「獺祭」に、コバエが混入したという2016年の暮れの報道です。

混入したのは、ショウジョウバエ類だということ。
日本酒の混入昆虫としては、一番多いでしょう。
アルコールに誘引されるので、最も今夕リスクが高い。
ショウジョウバエ類が問題にならない酒造なんて存在しない、そんな酒造泣かせのコバエです。

さて。
このニュースで面白いのは、ここ。
引用します。
混入したのはショウジョウバエの一種とみられ、瓶に酒を入れてキャップをかぶせるまでの間に入ったらしい。
(作業室内は)気圧を高くし、風が外に出て行く仕組みで虫が入りにくい。偶発的な混入が考えられる」と説明し、「ご心配をおかけして申しわけありません」と謝罪した。
この日、県岩国環境保健所の立ち入り検査を受けた。
瓶詰めの直後にキャップをかぶせるように作業の流れを改善したという。
目の細かいメッシュでろ過されて充填されるので、製品のお酒自体に蒸しが入っていることはない。
となれば、あとは、①容器である瓶に混入したか、②充填して蓋閉めの間に混入したか、です。
①容器である瓶に混入したか、というのは実はそのメーカーの工程次第で一番可能性の高い話です。
というか、②よりも遥かにありえる話です。
当然ながら、瓶も洗浄殺菌をかけますので、それ以前に入っていた異物などはこの段階で除去されるものです。
しかしその後の瓶の保管状況によっては混入の危険性がないとはいえない。
尤も、充填前に再洗浄する場合が一般的ではありますが。
とはいえ、あとはその工程次第です。
メーカーのかたがこう言っているのだから、充填してから蓋閉めまでそこそこな時間を置いているのでしょう。
普通は、これらをほぼ同タイミングで行うのが一般的ではありますし、ましてや「獺祭」レベルでそれをやっていないのはありえない気がしますね。
あ、ちなみに。
「(作業室内は)気圧を高くし、風が外に出て行く仕組みで虫が入りにくい」というのは全くの嘘じゃないですけど、でも「入りにくい」だけの話です。
ていうか「そりゃ何もしないより入りにくい」だけの話で、相当な気圧管理をしない限りは、虫は侵入します。
確かに清酒製造というのは微生物管理が非常に重要なので、陽圧管理を行って雑菌が外から場内に入りづらい環境を作るものです。
なので微生物に対しての気圧コントロールはしっかりと行っているかとは思います。
ですが、それが自ら移動能力が可能な昆虫に対して有効かは別問題。
ましてやその室内に誘引源であるアルコールがあるのですから、そりゃ陽圧も何のそので割と虫は侵入するものです。
「陽圧化で防虫対策」なんて、そんな甘いものじゃないです。
この手の空調屋だって、空調のプロではあれど防虫対策には全くのド素人ですから、話半分で聞いたほうがいいでしょう。
実際、製造室内でかなり強い陽圧管理をしていたとある洋菓子工場で、ショウジョウバエの内部発生をしていたことがありました。
製造で使われるリキュール臭に誘引されたショウジョウバエが陽圧管理の工場内に侵入し、床面に垂れたリキュールや小麦粉を含んだ腐敗汚水から発生したのです。

日本酒でセレウス菌の食中毒は起こるのか
さて。
先に、ぼくは「日本酒は細菌性食中毒に起こりづらい」というお話をしましたね。
それは明確に、もう一度書きますが、次の理由からです。
清酒が細菌性食中毒を起こしづらい理由 |
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ですが。
これに対し、海外ではなんと。
清酒のセレウス菌汚染実態調査の結果、その国の市場に出回っていた市販製品のうち、25%の割合でセレウス菌の検出があった、というのです。
ええ、ホントかよ!?
25%って、1/4やん、と。
てことは、日本酒は、清酒は、セレウス菌の食中毒の危険性があるってこと!?
大丈夫。
直ちにそこには結びつきません。
第一に、仮に製品内にセレウス菌が検出されたとしても、それイコール食中毒にはなりません。
そしてこの論文には、一番肝心であるセレウス菌の検出菌数や、毒素の有無が書かれていないので、なんともいえない、というのがその実態です。
そして。
そんな、よくわかんない海外の論文に対し、「ざけんな、んなわけあるか!」と日本酒によるセレウス菌食中毒の危険性が低いことを極めて科学的に、論理的に論破がなされているのです。
正直、これ結構面白いので、論文自体を読んでいただくのが多分いいかと思います。
ですが、ここで簡単なダイジェストのみご紹介するとしましょう。
ということで。
まず、そもそもとしてセレウス菌による食中毒には2種類あります。
それが「感染型」の食中毒か、「毒素型」の食中毒、です。
セレウス菌の食中毒 |
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取り敢えず後者の「毒素型」に気をつけろ、というのはここからもわかります。
いずれにせよ、セレウス菌による食中毒においては、105~108/gといったある程度の菌数がないと問題にはなりません。
さて、これらを踏まえた上で、清酒の食中毒を追ってきたいのですが。
で、そもそもセレウス菌というのは本来、土壌や空気中、水などそこらへんのどこにでも普通にいる腐敗菌の一種(Bacillus属)の、通性嫌気性菌です。
なので、確かに穀物原料の食品で問題になりがちな菌ではあります。
よって、米を原料とする清酒においては、原料由来の汚染の危険性が考えられます。
またセレウス菌は芽胞形成菌なので、加熱や乾燥に強いのが特徴です。
つまり酒米に付着したセレウス菌が、芽胞のまま死滅されず製品に残る、そしてそれが許容できないレベルにある場合、セレウス菌による食中毒リスクが考えられる、ということになります。
そして研究の結果、研究者は次のことを導き出しています。
まず研究者は、清酒の製造工程において想定し得るセレウス菌の食中毒リスクの有無を、次の三点から追っています。
清酒製造工程上において想定されるセレウス菌の食中毒リスク |
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で、これらの結果はどうだったか。
さて、前回の前編で解説したように、清酒の製造工程はこのようなものです。

これらを研究者が一つ一つ確認していったところ。
「米麹」の製麹工程、「酒母」工程、「もろみ」工程、いずれの段階においても、セレウス菌の増殖はみられず、毒素形成もされなかった。
つまり細菌の増殖しやすい温湿度でありながらも、やっぱりアルコール発酵内、低pH環境である清酒の中では、セレウス菌は増えたり毒素を作ったりは出来ない、ということをデータとして出してみせています。
そして、次。
これらに付着していたセレウス菌は上槽工程、つまりもろみの「ろ過」工程において除去されている、ということも同様に導いています。
よってそれらの結果、製成した清酒においてはセレウス菌の汚染は限りなく低く、また清酒内での毒素の産生や増殖は難しい、と結論づけています。
では、3つめの市場流通製品の汚染実態はどうなっているか。
研究者は162点の市場の清酒を調べたところ、セレウス菌の検出率は6.7%。
これは一般的な食品の存在量に比べれば低水準といえるものだった、とのことです。
当然ながら、毒素についてもすべての酒で検出限界未満ということで、とくに問題がないことを数値として示してみせています。
つまり、結論として「清酒でセレウス菌の食中毒になる」というのはほとんどありえないし、市場の汚染率が高いというのも、海外の事情は知りませんがでもここ日本においては限りなくありえない話、というわけです。
結論 |
清酒及びその製造工程では、セレウス菌は育成せず、衛生管理上問題とはならない |

実際に日本酒を飲みながら
ところで。
今回のこのタイトルは、「日本酒の日(10/1)」に地酒を飲みながら語る「酒と食品衛生の話」、です。
そう、
「地酒を飲みながら語る」なんですよ。
でもずっと、その「地酒を飲みながら語る」が、出てこない。
でもそれじゃあやっぱり伝わらないし、タイトルにそぐわない。
そこで、ここはやっぱり日本酒を飲みながら語ろうじゃないですか。
いやー、少々はばかられるけれど、でも仕事だからしょうがない。
働きながら飲むなんてどうよともぼくも思うのだけれど、でも仕方ないよねー、だってお仕事だもの。だってもううたってしまっているんだもの。
そんなわけで、看板に偽りなく、実際に日本酒を飲みながら話していくとしましょうか。
何せ、秋ですから。10月ですから。
日本酒の中でも最も美味しく、旨味ののった「ひやおろし」が楽しめる、いってみれば一年で一番日本酒が美味しい旬の時期ですよ。
今、日本酒を飲まずにいつ飲むのかっていう時期ですよ。
そんなわけで、ぼくもいただいておきましょう。

今回いただくのは、新潟の銘酒、「鶴齢」。
山田錦の特別純米、そのままに「ひやおろし」。
実はここ10数年以上、毎年必ず飲んでいるひやおろしの一本、それがこの「鶴齢」であります。
その他にも10本以上毎年飲むべきマイ「ひやおろし」があるのですが、それでもこれはやっぱり外せない。
そんなわけで、今年もやっぱりいただきます、「鶴齢」ひやおろし。
………うん。
くっきりとした甘みと、酸味。
でもそれらがクリアで、明度が高い。
それが、鶴齢クオリティ。
口当たりは濃厚なんだけど、過剰に華やかな吟醸香を主張するでもなく、むしろまろやかでサラリとしている。
そして、含めばりんごのような酸味が嫌味なく、すっと自然にのぼる。
のどごしもジューシーで、旨味が濃い。ひやおろしならではの、その旨味の深さよ。
ああ、濃厚で芳醇で、いい酒だなあ。
そう思えるのが、この「鶴齢」の「ひやおろし」なのです。

嫁さんが休みなので行ってきたコストコのド定番、プルコギ。
それが今晩の肴であります。
しかし、プルコギのがっつり濃い口にも、負けない。
本来そういう酒でもないのだけど、この「ひやおろし」だと違ってくる。
うん、
美味い。
美味いじゃないか、「鶴齢」。

まとめ
今回は10月1日「日本酒の日」にちなんで、前編、後編と二部にわたって「日本酒と食品衛生」についてのお話をさせて頂きました。
そしてこちら後編では、前回を継いで「日本酒と異物混入」「日本酒と食中毒」というテーマに触れさせていただきました。
と、もう10月1日を過ぎてしまっているんですけど、まあいいじゃないですか。
秋といえば、日本酒の季節です。
どうぞ、お酒の好きなかたは「ひやおろし」でも飲みながら、そうでないかたもお好きな秋の味覚でも楽しみながら、読んでいただければ幸いです。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
