★公開日: 2021年10月1日
★最終更新日: 2021年10月4日
本日、10月1日が「日本酒の日」だったことを皆さん、ご存知でしたか?
そこで今回は「日本酒の日」らしく、「酒と食品衛生の話」をしていきましょう。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

Contents
10月1日は「日本酒の日」
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
皆さん、本日10月1日は何の日だからご存知ですか?
実は10月1日は、「日本酒の日」なのです。
このようにあちこちで日本酒イベントが行われています(KAMPAI!)
なんでもこの「日本酒の日」というのは、1978年、「日本酒造組合中央会」によって制定された、とのことです。
いやあ、結構歴史のある日なんだなあ。
ところで。
何を隠そう、いや隠してはまったくないのですが、ぼくは日本酒が、地酒が大好きです。
ですから馴染みの地酒やさんでいつも買い込んでは、それを晩酌として毎晩ちびちびとやっていたりします。
ディープなマニア、というわけではありませんが、それなりの日本酒好きではある、と自負しています。
さあ、そんな日本酒好きのぼくですから、この10月1日、「日本酒の日」にはやっぱりそれにちなんだ話をしないわけにはいきません。
そんなわけで、今夜は日本酒を片手にぜひとも「酒と食品衛生」について、どーっぷりと話していくことにしましょう。
…と鼻息荒げて意気込んでいたのですが…はい。
あまりにも書きたいことが多すぎて、今回の話は、二部構成になってしまいました。(汗)
「もう日本酒の日、終わってんじゃねーかよ!」
うん、うん。
言いたいことはよーく分かります。
わかるんですが、まあいいじゃないですか、酒飲みなんて古来いい加減なもんなんです。
美味しい酒と美味しい話、それがあればいいじゃないですか。
どうぞ、深まった秋を味わうがごとく、じっくりと飲みながらじっくりと読んでいただけると幸いです。

いきなりクイズ:何故日本酒はアルコール度数が世界1高いのか?
さて、この「日本酒の日」にいきなりクイズです。
醸造酒、とよばれる世界中のお酒のなかで、実は日本酒は最もアルコール度数が高いと言われています。
それは一体何故でしょうか。
クイズ |
日本酒(清酒)は、世界の醸造酒の中でも最もアルコール度数が高い酒だと言われています。 それは一体どうしてでしょうか。 |

そう、そうなんです。
実は日本酒(清酒)は世界で最もアルコール度数の高い醸造酒なのです。
イヤそんなことないだろ、ウイスキーや泡盛なんてもっとアルコール度数が高いじゃないか。
そうです、そのとおりです。
ですが、お酒の種類が日本酒とは違うんです。
お酒には、「醸造酒」と「蒸留酒」、というものがあります。
「蒸留酒」というのは、もともと「醸造酒」から作るものです。
醸造酒を蒸留させ、アルコール度数を高める。それが蒸留酒です。
ウイスキー、ブランデー、焼酎、などです。
だからアルコール度数が高いのです。
対して、醸造酒というのは、穀物や果実などを発酵させて作るお酒のことです。
日本酒(清酒)、ワイン、ビール。
これらが醸造酒です。
そしてその醸造酒の中でも日本酒(清酒)はダントツでアルコール度数が高い。
例えばワインだったら7~14%、ビールは5%くらいでしょうから、もっと低いですね。
対して日本酒は、原酒によっては20%ほどにもなる。
これは一体どうしてでしょうか。
実はそこにはぼくら日本人がそれこそ太古の昔からずっとずっと、脈々と重ねてきた、微生物の知恵というものがあるのです。
では、その答えは?
おっと、まだ答えられません。
だって、それには順序立てての解説が必要だからです。
でも大丈夫、
この前編を最後まで読んでいけば、それがわかります。

どうして10月1日は「日本酒の日」なのか
さて、本題に入る前にお約束を、さくっとだけやっておきましょう。
どうして10月1日は「日本酒の日」なのでしょうか。
これには2つほど理由があると言われています。
まず1つは、この10月というのは日本酒を造り始める時期だから、とのこと。
そう、この10月1日は日本酒の世界では「酒造元旦」とされていた、というのです。
すでに10月にはお酒の原料である新米も収穫されています。
そしてこれを使って、この日から避けが作られることになります。
なので、お酒の世界のこよみは、10月から1年が始まります。
そうした「日本酒の元旦」であるとして、この10月1日が「日本酒の日」として制定されるようになった、というわけです。
「あれ?」と思う日本酒好きのかた。
そう、鋭いですね、そのとおりです。
現在では、日本酒は7月がスタートになっていますよね。
ですが、昔は違っていた。以前は10月からその翌年の9月までが1年の単位だったのです。
またそれ以外にも、「酒」をあらわす「酉(トリ)」から来ている、という説もあるようです。
「酉(トリ)」とは本来、酒を入れておく酒壺の意。
そして「酉(トリ)」は、十二支の中では十番目です。
結果、10月=酉(トリ)=酒、となったとのこと。
…とまー、ここらへんについての詳しいお話はネット上でもあちこちに書かれていますので、寧ろそちらを参考にしてみてください。
食品衛生の専門家としてのウチの今回の本題は、あくまで「酒と食品衛生」ですのでここらへんはもう、サラっといきますね。

日本酒こそ、微生物と食の日本文化の真髄なり
さて。
ここからが食品衛生ブログとしての、ウチとしての本題です。
ぼくらの食品衛生の世界というのは、言うまでもなく微生物と密接な関係にある世界です。
そもそも食中毒も、腐敗も、微生物、細菌によって起こされるものです。
しかしその一方で、その微生物、細菌が有用に働くことも存在します。
それが「発酵」というものです。
実は、腐る、「腐敗」という現象も、また「発酵」という現象も、微生物側からみたら何一つ変わりません。
それ自体はただ単に細菌が栄養分を取って、その働きによってタンパク質や炭水化物などの有機物を分解しているだけに過ぎません。
それが人間にとって好ましくなければ「腐敗」であって、有益であったら「発酵」だ、とそういうことに過ぎないのです。
つまり、微生物の生物的な現象とは全く関係なく、ぼくら人間はその自分の勝手な都合によって「腐る(腐敗)」と「発酵」を分けていたのです。
さあ、そんな微生物による「発酵」を用いた食品が、いわゆる「発酵食品」というものです。
おりからのブームで昨今やたらと注目が高まっている発酵食品ですが、しかし。
実を言うと、「酒」というものもまた、その「発酵」によって作られるものだったりします。
どころか、「酒」というのは人類最古の発酵食品、つまりは発酵食品の始祖だとすら言われているのです。
そして。
そんな最古の発酵食品「酒」のなかで、ぼくら日本国民がその長きに培って磨いてきた文化であると誇れるのがこの「日本酒」。
いわゆる、「清酒」というやつなのです。
この「清酒」が一体どのくらいに古いのかといえば、すでに縄文時代後期には、もう存在していたとすら言われているほどです。
なんでも稲作が始められたこの頃、すでにその米にはえたカビによって発酵がなされ、酒の原型が出来ていたという。
すげーなー、最初にカビた米の汁、飲んだやつ。
名もなきその縄文人こそ、「清酒」を産んだ勇者だったのでしょう。
さて冗談は置くとして。
やがてその後、稲作が進んだ弥生時代には、もっと進んだ発酵技術の進化がみられます。
そう、有名な「口噛み酒」ですね。
口噛み酒、って知ってますか。
そう、アニメ映画「君の名は。」でも出てきたアレです。

これ。
アニメでは、巫女でもあるヒロインの女子が、米を口の中でもぐもぐやって、それを吐き出し壺に入れていた。
それが時間が経って発酵し、酒になり、そして主人公がそれを飲む…というシーンがありましたね。
あれは、つまりは「神酒」なのです。お酒だったのです。
ヒロインの「米を口の中でもぐもぐ」で、お酒を作ったわけです。
では、どうしてこんなことで酒が出来るのか。
弥生時代の当時は、米やヒエ、どんぐりなどを、巫女が口に含んで噛み砕き、それをそのまま土器などに入れて保存していました。
すると人の唾液の中にある酵素(アミラーゼ)が米のデンプンを分解し、糖にします。
つまり、現代でいうところの「麹菌」(次項で詳しく解説します)のかわりに人間の唾液のアミラーゼが「糖化」を促したわけです。
で、これを吐き出して保存しておくと、やがて空気中をただよう野生の酵母がその糖を食べて分解する。
「アルコール発酵」、というものですね。
これによって、アルコールが生成され、酒になります。
これが最も原始的な日本の酒の作り方です。
つまり日本酒の始まりは、「神事」だったのです。
一方、「麹菌」を使っての酒造りの始まりについては、その後の奈良時代に書かれた「播磨国風土記」に記録が残っています。
ここには米に生えたカビによって発酵をうながし酒を作ったという記録が残っています。
そしてその後の平安時代には、すでに朝廷に捧げるお酒造りが出来上がっていたとも言われています。
日本酒はどう作るのか:①麹はエライ
さあ、そんな日本の清酒ですが。
皆さん、ご存知ですか?
実は清酒というのは、世界のお酒の中でも高度な発酵技術の産物だったりもするんですよ。
では、何がどうスゴイのか。
これを知るためには、「清酒がどう作られるのか」を知る必要があります。
まず日本酒(清酒)を作る微生物は、次の3つの存在が必要です。
清酒の発酵に関わる微生物 |
|

基本的に日本酒は、米と麹菌と水によって作られます。
そう、原材料としては至極シンプル。
しかし確かに原料自体は至ってシンプルなのですが、そこに様々な知恵の積み重ねがこれでもかと詰まっている。
そんな日本の発酵文化の結晶、日本人がそれこそ縄文時代の古来から重ねてきた微生物の知恵のかたまりこそが、実は「清酒」という存在なのです。
では、どうやって作るのか。
まず、蒸したお米に「麹菌」を付着させ、室温30℃湿度60℃くらいに保たれた「麹室」という特殊な部屋で「米麹」をつくります。
これが清酒作りのスタートです。
「麹菌」。
聞いたことがあるけれど、実はどんなものかよくわかっていない。
そういうかたも実は結構いるかもしれないですね。
このコウジ、つまり「麹菌(ニホンコウジカビ)」というのは日本古来から存在するカビの一種です。
正確には「アスペルギルス属」っていうカビの一つなのですが、しかし実はこのカビの存在こそが清酒のほか、醤油、味噌など日本の伝統的な発酵食品を作るのに欠かせない、何より重要な存在の菌だったりします。
いや、日本にはこの麹菌があったから、豊かな発酵食品文化が生まれ育つことが出来た。そう言っても全く過言ではない。
まさに、日本の「国菌」とされてきた存在です。
正式名は、「アスペルギルス・オリゼー(黄麹菌)」。
漫画「もやしもん」の「醸すぞ」で有名な、アレです。
ちなみに「「醸す」とは「発酵」の意です。

ではどうしてこの「麹菌」がスゴイのか。
それは、この麹菌の持っている「酵素(アミラーゼ)」がスゴイからです。
というのも、この「酵素(アミラーゼ)」が、米のデンプンを、「糖分(ブドウ糖)」に分解するのです。
いわゆる「糖化」というものですね。
この麹菌による酵素分解での「糖化」が、まず清酒の発酵の第一ステップです。
つまりは先の「口噛み酒」では、この「糖化」というものを、麹のかわりに人間の唾液に含まれている酵素(アミラーゼ)で行ったわけです。

日本酒はどう作るのか:②酵母のアルコール発酵で作られる
さて、次に登場するのが、「酵母」です。
麹菌が作った糖に酵母が加わるとどうなるか。
糖を食べて、アルコールを作るのです。「アルコール発酵」というものです。
先の麹菌が作った「米麹」に、この酵母、そして水や米などを加えると、やがて「酒母:しゅぼ(酛:もと)」になります。
その名の通り、清酒の「もと」、です。
そしてさらに水、米、米麹を3回にわけて加えながら(三段仕込み、といいます)発酵を進める。
それが清酒の原型、「醪:もろみ」です。
これをタンクに仕込んで長い時間をかけてじっくりと発酵させる。
すると酵母がその糖分をさらにアルコールと炭酸ガス(二酸化炭素)に分解してくれ、清酒のもととなる原酒が出来ていきます。
この酵母によるアルコール発酵が、清酒の発酵の第二ステップです。
この段階の白くにごったお酒が、実は「ドブロク」です。
その後、発酵を終えたらその「醪:もろみ」を絞って酒粕と清酒に分け、それをろ過し、そして酵母がこれ以上活動しないように加熱殺菌、つまり「火入れ」を行って清酒が出来上がっていくわけなのですが…。
さて。
このアルコール発酵の段階で、ふと思いませんか?
どうしてこの段階で、他の雑菌が増えないのか、と。
ここにも日本人の素晴らしい微生物の知恵があるんです。
「酸」、の存在です。
ここに加えられる硝酸還元菌が作る亜硝酸と、乳酸菌が作る乳酸です。
とくに後者。ここに加えられた乳酸菌は、糖を食べてつくりだす乳酸発酵によって乳酸を作ります。その乳酸が、雑菌の繁殖を抑える役目に使われます。
しかし乳酸菌もやがて高濃度となるアルコールによって死滅されることになります。(※註釈1)
そして自らが糖から作り出すアルコールに耐えられる酵母のみが、清酒の中で生き残ることになる、という仕組みなのです。
ってすごないすか、日本人の酒の、微生物の知恵の奥深さ!
※註釈1:この高いアルコール度数にも耐えてしまって、せっかく作った清酒をだめにしてしまう悪いタイプの乳酸菌の一種がいるのですが、それが俗に言う「火落菌」。
酒造りの最大の大敵にして、清酒の闇落ちの原因菌です。

何故、日本酒のアルコール度数は醸造酒で世界イチ高いのか
しかも、です。
これらのうちにももう一つ、重要な日本人の知恵があります。
さて、冒頭のクイズにそろそろ答えましょう。
クイズ |
日本酒(清酒)は、世界の醸造酒の中でも最もアルコール度数が高い酒だと言われています。 それは一体どうしてでしょうか。 |

この答えのヒントは、日本酒(清酒)ならではの「発酵」の方法、にあります。
代表的な醸造酒を例に、考えてみましょう。
例えば、ワインはどう発酵するのか。
ブドウの皮についた酵母がブドウの糖分をたべてアルコール発酵を行う。これが一番シンプルな発酵です。
「単発酵」というものです。
これに対し、ビールはどうでしょうか。
ビールの場合は、一度麦のデンプンを酵素で糖化させることが必要です。
そしてその麦芽糖を別のタンクにうつして、酵母でアルコール発酵させます。
糖化の工程と発酵の工程が別なので、これを「単行複発酵」といいます。
最初に言った日本酒(清酒)の発酵の高度なところは、この麹と酵母の2つの発酵のステップを同時進行で行うところにあります。
いわゆる日本酒(清酒)独特の発酵法である、「並行複発酵」というやつです。
では日本酒(清酒)はどうか。
先にも書いたように、米に麹菌を加えると同時に、酵母も加えます。
つまり麹菌による米のデンプンの糖化と、酵母によるアルコール発酵が同じタンクで同時に行われる、という独特の工程になります。
「並行複醗酵」と呼ばれるものです。
これ、実はものすごく世界的にも高度な発酵技術なのです。

酵母というのは、糖が増えすぎるとアルコール発酵が衰えてしまいます。
それをタンクの中でほどよく調整して作る。
こうすることで、酵母の発酵が最も効率よく進むようにしているのです。
日本酒のアルコール度数が極めて高いのは、この「並行複醗酵」のおかげなのです。
先の項で、「酒母」から「もろみ」を作るときに、水、米、米麹を3回にわけて加える、とサラっと書いてます。
いわゆる「三段仕込み」といいますが、この細やかな調整によって酵母のアルコール発酵を活性化させるのです。
そう、日本酒こそ日本の発酵の伝統と文化の結晶といえるのは、その所以です。

まとめ
いやー、二部構成だというのに、大好きな日本酒の話ということで、すっかり長くなってしまいました。
でも充実したいい内容だったと思います。
今回は「日本酒の日」ということで、前編、後編と二部にわたって「日本酒と微生物」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、日本酒の作り方を詳しく見ていくとともに、ぼくら日本の微生物との深いかかわりを見ていくことが出来たかと思います。
あらためて冒頭のクイズがこちらです。
クイズ |
日本酒(清酒)は、世界の醸造酒の中でも最もアルコール度数が高い酒だと言われています。 それは一体どうしてでしょうか。 |

これについての答えは、次のようなものでした。
日本酒(清酒)は、ワインのような「単発酵」でも、ビールのような「単行複発酵」でもない、麹菌の糖化と酵母によるアルコール発酵を同時に行う「並行複醗酵」だということです。
これによって、酵母がより効率よくアルコール発酵を進めることができるメカニズムになっており、それゆえに日本酒(清酒)のアルコール度数は高くなる。
これは実は非常に高度な発酵技術だったりするのです。

ふう…。
思いっきり力が入ってしまってついついペン(キーボード)が走ってしまい、結構な長文になってしまいました。
後編では今度は「日本酒と食品衛生」のテーマに、もっと迫っていくとしましょう。
後編はもう少しすっきりと書きますね…。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
