皆様、こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ネット上でもオフラインでも、ここだけしか「絶対に!」聞くことの出来ない神髄中の神髄、「プロが本気で教える衛生管理」を日々、お教えいたします。

さて、「外部侵入」と「内部発生」というものが一体どんなものであるかを、前回までで学んできました。
次に学ぶのは何か。
それは、その「外部侵入」と「内部発生」を踏まえながら、防虫対策というものはどのようになっているか、それはすべからく4つのリスクへの対策として行っているのだ、ということです。
逆に言うのであれば、工場や店舗における虫の対策というのはこの4つのリスクを抑える、ということもでもあります。
ではその4つのリスクとは一体なんでしょうか。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

それでは、早速はじめましょう。

今日のポイント(防虫対策のリスク別区分)
  • 環境リスク:虫が工場に誘引されるリスク
  • 侵入リスク:虫が工場に侵入するリスク
  • 拡散リスク:虫の生息が工場内に拡散するリスク
  • 発生リスク:虫が工場内で発生するリスク
挿画:4つのリスク

 

防虫対策は「何のため」にしているのか

(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)

さて、皆さんの工場や店舗では、どんな防虫対策をしていますか?
どんなものをどのように使って、虫の生息を防いでいますか。
きっと様々な工夫がそこにはあるかと思います。

自動高速シャッターや防虫用カーテン、或いはライトトラップ(青白い灯火で虫を誘引して捕殺する光学式の捕虫機器のことです)といった防虫用ハードウェアを導入したり。
或いは、ドアやシャッターの開閉管理をルール化したり、夜間の不必要な灯火を消したり。

または、建物の隙間を防ぐ。破損したりヒビの入った箇所を直す。ドアの隙間をブラシやゴムでなくす。
こうした建屋の気密性を高めることで、虫が入ってこれないようにする。
これだって非常に有効な虫の対策です。

また場合によっては緑地帯の植栽に対して定期的に伐採するとともに薬剤によって殺虫施工したりもしているかもしれませんね。
グリーストラップや排水溝、床面を毎日清掃するのだって、大切な防虫対策です。
冷蔵庫や冷凍庫の結露水を除去清掃する。エアコン周辺を清掃する。カビ対策ですね。これだって実は防虫対策でもあります。

では、質問です。
これらのことは何故やっているのか、何を目的として行われているのか、考えたことがあるでしょうか。

「防虫対策」なのだから、虫を減らすためにやっているに決まっているではないか。
成程。であれば、もう少し切り込んでお尋ねいたします。
それらの各「対策」は、虫がどのようにしないことを目的に行っているのですか。
つまり、それらの各「対策」は、どんなリスクへの対応を目的に行っているのですか。

どんなリスクのための防虫対策か
  • 搬出搬入エリアの自動高速シャッターや防虫用カーテン
  • ドアやシャッターの開閉管理
  • 建屋の隙間対策
  • 搬出搬入エリアのライトトラップ
  • 排水溝や排水桝の清掃
  • 冷蔵庫の結露水除去清掃
  • 夜間の不要な灯火オフ

さあ、上であげたものを箇条書きにしてみました。
このようなことは、どの工場や厨房でも行っていることでしょう。
そしてそれは当然ながら、意味あがあるからこそ行っているわけです。
なんの意味もないことをするわけがありませんし、無駄なものをわざわざ企業がお金を払ってまで設置することはありません。

ではこれらのことは、一体どうして行っているのですか?
「虫がどうしないために」、つまりはどんなリスクを抑えるために行っているのでしょうか。

それを今回は学んでいくとしましょう。

挿画:リスクとは?

「虫のリスク」を整理しよう

さあ、先の問題、皆さんはおわかりになるでしょうか。
先にぱぱっと回答を出してしまったほうが話が早いかもしれませんね。

どんなリスクのための防虫対策か
  • 搬出搬入エリアの自動高速シャッターや防虫用カーテン →虫を入れさせないため
  • ドアやシャッターの開閉管理 →虫を入れさせないため
  • 建屋の隙間対策 →虫を入れさせないため
  • 搬出搬入エリアのライトトラップ →虫をすぐに捕まえるため(虫の生息を広げないため)
  • 排水溝や排水桝の清掃 →虫を発生させないため
  • 冷蔵庫の結露水除去清掃 →虫を発生させないため
  • 夜間の不要な灯火オフ →虫を寄らせないため

ざっとこんな感じです。
なんとなくだけどわかってた、という方も少なくないでしょう。

さて、これらの答え、つまりは虫のリスク対策のための「目的」は、よく見てみると4つに集約されていることが、上の回答からも判るかと思います。
つまり、この4つです。

どんなリスクのための防虫対策か
  • 虫を寄らせないため
  • 虫を入れさせないため
  • 虫をすぐに捕まえるため(虫の生息を広げないため)
  • 虫を発生させないため

虫を「寄らせない」「入れさせない」「すぐに捕まえる(虫を広げない)」「発生させない」。
つまりはこの4つのために防虫対策が行われているのがわかるでしょう。

そして、工場や店舗でのありとあらゆる防虫対策というのは、この4つのいずれかのリスクを防ぐために行われているのです。

挿画:考える女性

防虫対策における4大リスク

さて、少し整理していきます。

そもそも「対策」というのは、何かの問題やリスクに向かうために行うものです。
企業が「対策」を行うのであれば、相応の効果がなければみすみすコストを捨てることになるのですから、当然そこには想定されるリスク回避なりがあってしかるべきです。
そしてこの防虫対策は、「防虫管理」というリスクマネジメントのために行うものですから、各々はそのリスクを踏まえたうえで行われるのが妥当でしょう。

それでは、工場における「防虫管理」上のリスクはどういったものなのか。
まずはこれを整理しておく必要があります。
そうでなければ、何らかのコストを払っての「対策」がなんのために行われているのかわからなくなってしまうでしょう。

そして、結論から言えば。
全ての防虫対策は、工場の「防虫管理」上で想定される次の4つのレベルのリスクを防ぐために行われています。

防虫対策のリスク区分
  1. 環境リスク:虫が工場に誘引されるリスク
  2. 侵入リスク:虫が工場に侵入するリスク
  3. 拡散リスク:虫の生息が工場内に拡散するリスク
  4. 発生リスク:虫が工場内で発生するリスク

こうしたリスクは外側から内側に向かって考えていくといいでしょう。

まずは一番外側。
つまり、外部環境です。
外周の自然環境で生息している虫が、工場や店舗に寄ってきてしまう、不必要に誘引してしまう、という「環境リスク」。

そして、次は水際。
そうして寄ってきた虫が、今度は工場や店舗に入ってきてしまう、侵入してきてしまう、という「侵入リスク」。

さらには、一旦侵入してしまった虫が、製造エリアや重要な製品がむき出しになる工程にまで生息を進めてしまう、つまりは侵入した虫の生息が広がってしまう、拡散してしまう、という「拡散リスク」。

最後にそうした虫が、工場内や厨房内で内部発生してしまう、という「発生リスク」。

こうした4つのリスクに対してこのように呼ぶことで、それぞれのリスクを、つまりは対策の目的を明確化することが出来るでしょう。
ということは、防虫対策はこれら4つのリスクに対して行われるものであり、それぞれは次の4つの対策のどれかに当てはまることになる、ということです。

防虫対策のリスク別区分
  1. 環境リスク対策(虫を寄らせない)
  2. 侵入リスク対策(虫を入れない)
  3. 拡散リスク対策(虫の生息を広げない)
  4. 発生リスク対策(虫を発生させない)

ではこれらをもう少し詳しく見ていくとしましょう。

挿画:4つのリスクへの対策

環境リスク対策

外周の周辺の自然環境に生息している虫は、できるだけ工場や店舗に寄せたくないですよね。
にも関わらず、寄ってきてしまうことがある。
例えば、工場や店舗の光が漏れてしまうことで、周辺の虫を誘引してしまうことになります。
そうすると、そのぶんだけ工場内や店舗内のリスクが高まることになります。

このように、虫が工場や店舗に寄ってきてしまう、誘引してしまう。そういうリスクを防ぐための対策のことを「環境リスク対策」といいます。

つまり「環境リスク」とは、工場外部周辺に対しての環境的なリスクのことです。
管理対象外である外部自然環境には、工場サイドでは管理しきれない問題を無数にはらんでいます。
しかしそれらに少しでも働きかけることによって、工場への影響を軽減することは可能です。

例えば、緑地帯の選定から、その整備、落葉清掃。雨水溝や排水溝、あるいは外部グリストラップや汚水槽などの定期清掃。
周辺環境での3S管理、など。

こうした工場敷地内を中心とした、工場内への影響軽減としての外側での対策がこれにあたります。
更には不必要に建屋に昆虫を誘引させないための灯火管理、外灯の防虫処理といった誘引源対策も、こうした環境リスクに対しての対策となるでしょう。
言ってみれば、「工場への影響を事前に減らす」、「予めリスクを減らす」というリスク軽減対策がこれにあたります。

侵入リスク対策

外周の周辺の自然環境に生息している虫を、できるだけ工場や店舗の中に侵入させない、「入れない」。
そのための対策が、「侵入リスク対策」です。

「侵入リスク」とは、外部環境から管理領域である工場に侵入する昆虫に対するリスクのことです。
ドアやシャッター、窓の開閉管理、あるいは隙間対策から差圧による流入防止などといった、工場の建屋としての機密性を高めるための対策がここに含まれます。

更には持ち込み対策のためのエアシャワーや、場合によっては開口部床面に対しての持続性のある薬剤による忌避対策なども、このリスク対策の一環です。
工場に昆虫を侵入させないための対策、つまりはリスクを「持ち込ませない」対策と考えると判りやすいかと思います。

拡散リスク対策

「環境リスク対策」や「侵入リスク対策」を経て、それでも侵入してしまった昆虫。
これらに対し、その昆虫が生息を続け、移動することによって工場内にリスクを拡散させてしまう状況を「拡散リスク」といいます。

つまりは、場内に入ってしまった虫の生息をできるだけ拡散させない、「広げない」
そのための対策が「拡散リスク対策」です。

さて、この拡散リスク対策は、その「拡散防止」の目的に基づいて、手段別に大きく以下の二つに分けられます。

  1. 到達阻止対策(いかに昆虫の生息を清浄区域(製造室内)に至らせないようにするか)
  2. 早期駆除対策(いかに昆虫を速やかに駆除するか)

つまり、虫の生息の拡散を何らかの手段で広げないようにする前者の「到達阻止対策」と、その虫を殺すことで生息の拡散を抑えようとする後者の「早期駆除対策」です。
同じ「工場内に虫の生息を広げない」という拡散リスク防止がその目的ではあるけれど、でもそのために行う手段が違っている、ということです。

製造室内に入れさせないためのゾーニング対策、各ドアの開閉管理対策などといった場内の間仕切り対策。
こうした対策は前者「到達阻止対策」、つまりは「いかに昆虫の生息を清浄区域(製造室内)に至らせないようにするか」にあたります。

一方、搬出搬入エリアなどに設置されているライトトラップ。
あれは搬出搬入という虫が入ってきやすい外部隣接エリアにおいて、その入ってきた虫を極力この外部エリアにおいて捕まえて殺してしまうことで、工場内部、とくに製造エリアのような清浄度の高いエリアに虫が侵入してしまうことを防いでいるのです。
つまりこれは後者、「早期駆除対策」なのです。

このような「到達阻止対策」、「早期駆除対策」ですが、これらはあくまで「対策」つまりは先でも述べたとおり、「手段」の違いです。
いずれにせよその「目的」自体は工場内での虫の生息拡散防止、つまりは「拡散」させない、「リスクを広げない」というものであることを理解してください。

挿画:拡散リスクに対する「早期駆除対策」

発生リスク対策

「環境リスク対策」や「侵入リスク対策」、「拡散リスク対策」を経ても侵入してしまった昆虫がいたとします。
これらを今度はいかに場内で増やさないか、つまりは内部発生させないか
そのための対策が「発生リスク対策」です。

具体的には、昆虫が発生するための条件を除去してしまう。発生の予防につとめる。
使用汚水の滞留や、食品残渣、あるいは結露によるカビの進行、穀粉の粉溜まりなどがあれば、そこで虫は発生しやすくなりますから、それを清掃で除去する。
そうすることで虫の発生リスクを抑制する。そんな発生防止(あるいは予防)対策が、この「発生リスク対策」です。

昆虫の発生を抑止するような清掃対策、環境づくりやルールづくりなども重要な「発生リスク対策」といえるでしょう。
いわば、「リスクを増やさない」対策です。

4つのリスクのための防虫対策イメージ
4つのリスクのための防虫対策イメージ

まとめ

今回は、前編、後編と二部にわたって「防虫対策上の4大リスク」についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、その4つがどんなものであるかを見ていきました。

具体的には、次の4つです。
つまり、あらゆる防虫対策というのは、これらの4つのいずれかに区分されることになります。

防虫対策のリスク別区分
  1. 環境リスク対策(虫を寄らせない)
  2. 侵入リスク対策(虫を入れない)
  3. 拡散リスク対策(虫の生息を広げない)
  4. 発生リスク対策(虫を発生させない)

さあ、ここまでは何となく理解が進んだでしょうか。
世の中のどんな虫の対策というのも、全てはこれらの4つのいずれかを満たすためにあるのだ、とおぼえておいてください。
そうすることで、「なるほど、この対策というのは、こうしたリスクを抑えるためのものなのか」と理解が及ぶはずです。

さて、次回の後編では、この基礎知識を踏まえたうえで、もう少しこの「リスク」というものについいて踏み込んで考えていきたく思います。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。