皆様、こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ネット上でもオフラインでも、ここだけしか「絶対に!」聞くことの出来ない神髄中の神髄、「プロが本気で教える衛生管理」を日々、お教えいたします。

さて前回は、昆虫の「内部発生」というものについて、その現象は一体どんなものなのか、をより詳しく迫ってお話いたしました。
そして今回はそれらを踏まえた上で、ではそんな特殊な現象が工場や店舗で起こってしまうのは何故何のか。それらについてお話していくとしましょう。
今回は、皆さんの工場や店舗で防虫対策を行う上で、ぜひとも参考になる話をしたいと思います。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

それでは、早速はじめましょう。

今日のポイント(食品工場で昆虫が内部発生しやすい理由)
  • 工場内は、水を多用するため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、餌が豊富なため虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、餌が豊富なため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、温度差が生じやすいため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、特殊なもの・数量をあつかうため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、冬でも温度が最適なため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、外部環境の影響を受けづらいため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、敵が少ないため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、隠れる場所が多いため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、殺虫剤をむやみやたらに使えないため、虫が内部発生しやすい
  • 工場内は、持ち込みがなされやすいため、虫が内部発生しやすい
挿絵:内部発生

 

「内部発生」する環境とは

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし以下の「前編」をお読みでなければそちらを最初に読んでいただくと理解がより深まります)

さて、前回のお話で昆虫の「内部発生」というものにはそれなりに条件が必要だということを学ばれたかと思います。

昆虫が「内部発生」するためには
  1. 外部侵入条件を満たす
  2. 場内環境が生息条件を満たす
  3. 場内環境が繁殖条件を満たす
挿画:内部発生の三条件

このような三つの条件をその環境が満たしていないと、昆虫というのはそもそも「内部発生」ができません。
じゃないと、単に外から「外部侵入」して、そのまんま死んでしまいます。

しかし逆に言えば、そうした条件を満たすというのは割と特殊な空間であり、またそれにマッチした昆虫にとってはこの上ない最適な環境だということになります。

さて、食品工場や飲食店の厨房というのは、他はない特殊な環境です。
あなたたちにとっては日常化してしまっているので、その特殊性を全く感じないかもしれません。
しかしそれはやっぱり、例えば普段生活するような一般宅のような環境とはやっぱり違っています。
それは「食品を作る」ために特化させた環境であり、その専門性のために作られた環境です。
そしてその「食品を作るための環境」というものが、実はある種の昆虫にとっては、このうえなくマッチした環境となります。
というかそうなるからこそ、本来はその特殊な現象である「内部発生」というものが、そこで起こるのです。
その「食品を作るための環境」という特殊性が、ある種の昆虫における「内部発生」の三条件を満たしてしまう、ということです。

今回はそんな、食品の工場や店舗という「食品を作るための環境」のどんな特殊性が、いくつかの昆虫にとって「内部発生」という条件を満たしてしまうのか。
それについて取り上げていくことで、逆にそれをどうしたら防げるのかを考えていくための有効な材料にしていこうかと思います。

挿画:分析結果

食品工場が昆虫を内部発生させてしまう理由

食品工場や飲食店舗というのが、昆虫を「内部発生」させてしまう条件を揃えた特殊な環境であることは、わかった。
んじゃ、どんな特殊性が昆虫の「内部発生」を満たしてしまうのか。
それをこれからあげていくとしましょう。
そしてそれを知ることで、昆虫の内部発生を抑止、あるいは発生の有無をチェックすることが出来るようになるはずです。

さてその理由は次のようなものです。

食品工場で昆虫が内部発生しやすい理由
  • 水を多用するため
  • 餌が豊富なため
  • 温度差が生じやすいため
  • 特殊なもの・数量をあつかうため
  • 冬でも温度が最適なため
  • 外部環境の影響を受けづらいため
  • 敵が少ないため
  • 隠れる場所が多いため
  • 殺虫剤をむやみやたらに使えないため
  • 持ち込みがなされやすいため

へえ、こんなに多いんだ。
そう思う方はきっと多いことでしょう。
そうです、こんなに多いんです。
それだけ、工場内や厨房内というのは、他と違う特殊な空間なのです。
そしてその特殊性のぶんだけ、昆虫の内部発生というのがしやすいのです。

そしてそれらを細かくみていくことで、いかに食品工場や厨房というのが防虫管理を完全に行うのが難しい環境なのかもおわかりになるかと思います。
つまり、食品工場や厨房というのは、そもそもとしてその特質上、どうしたってある種の虫にとって生息していくためのステキなパラダイスになりやすいのです。
だからこそ、内部発生なんていう特殊なことが起きてしまうのです。

それでは、各々一つずつ見ていくとしましょう。

水を多用するため

まずはやはりこれですね。

生物にとって水というのは、生きていく上で欠かせないものです。
だから水を使えばおのずと様々な生物との関わりが生じます。
虫だって勿論同じです。

そして、食品製造において、水の使用は欠かせません。
よって、(製造品種や製造工程によっても差は大きいでしょうが)工場には常時水を多量に使っている状態になります。
製造のための使用水としては扱わないけれど、清掃だったり何かに使う、というところもあるでしょう。
チョウバエ類などのコバエ類を筆頭に、水場を好む昆虫にとって、こうした水の多用は生息を定着させる重要な条件となりえます。

のみならず、例えば虫を捉えるトラップをあちこちに置いた場合、ゴキブリが一番捕まるのはどこだと思いますか?
それは水場の近くです。
シンクだったり、水を貯めておくようなところだったり(ドレン水受けなど)、排水施設だったり。
何故か。
ゴキブリというのは多少餌がなくてもある程度の期間は生きていけます。
ですが、水がないとすぐ死んでしまうのです。だからその施設内に入ったら、すぐに生きていくために水場を探します。
その結果、水場の近くで捕まるわけです。
それは別に施設内で発生したわけでは必ずしもありません。
ですが生きていくためにまずそうした場所を探し、そして繁殖のためにそういう周辺に卵(卵鞘)を産み落とします。そしてそれらが孵化すれば、もうそれは立派な内部発生になる、というわけです。

餌が豊富なため

食品製造とは、そのまま生物の栄養源となる食物を扱う業務です。
人の食べ物であるとともに、それは同時に多くの昆虫の餌にも成り得ます。
更に製造作業には、そうした資材や製品の飛散が伴いがちです。

それらに対しての除去清掃は勿論ながら欠かせませんが、しかしそれらが残れば残渣となって、製造室内の片隅や作業台下、シンク下、機械内、排水溝内、排水升内などに残り、昆虫の餌となる危険性が高まります。

目がなかなか届きづらい、グレーチングの下の排水溝などで汚水がたまりチョウバエ類などが発生していることはよくある話です。
更にそれらが放置されれば腐敗、発酵、乾燥などを経て、ある種の昆虫の発生条件を満たしかねません。

また小麦粉などを使用する工場では、それらが飛散し、貯穀害虫と呼ばれる昆虫の発生条件を満たしてしまうでしょう。

温度差が生じやすいため

食品製造に加熱、冷却、冷蔵(冷凍)保管といった作業は欠かせません。
また真夏でも品質管理、衛生管理上、空調による温度管理をする必要があります。
このような温度差は、多くの場合「結露」を生じさせます。結露水が滞留すれば、排水由来の昆虫の発生要因になります。
(結露水の滞留から幾つかの昆虫が発生しているのは、よく見るケースです)

更にその結露は、カビを発生させることになります。
すると今度は食菌性昆虫という、カビの胞子を食べて生息する微小な昆虫類の発生要因になります。
貴方の工場の冷蔵庫、冷凍庫に接した壁面をよく見てください。
カビが発生し、チャタテムシ類やヒメマキムシ類が発生しているときが多いでしょう。
(室温16度以上だと要注意です)

また余談ですが、と言いながらすごく有益なお話なんですが(笑)、冷蔵庫はその構造上、上下に冷気が抜けやすく作られています。
(というかメイカーがその上下に虫が発生する危険を考慮して、冷蔵庫を作っているわけがないでしょう)
そのため、目に見えない天井裏や床下(下階)に、結露やカビの影響を与えていることもあります。
このことは、経験値のある防虫管理業者でも見落としがちです。どうぞ、冷蔵庫は左右上下全面に注意して虫をチェックするようにしてください。

特殊なもの・数量を扱うため

工場は、その特質性から様々なものを扱います。
それは我々の生活環境では余り見なかったり、それほど数量的に扱うことのない特殊なものを、多量に扱う環境でもあります。

代表的なものとして、穀粉の多量使用、多量保管というのがあるでしょう。
小麦粉やその他の穀粉は、我々の日常生活量ならまだしも、工場レベルの使用量ともなるとシバンムシ類やノシメマダラメイガなどの貯穀害虫という穀粉由来の昆虫の発生要因となってしまいます。
こうしたものを材料として使用している工場では、貯穀害虫の発生リスクと向かい合う必要があるでしょう。

貯穀害虫が怖いのは、製品や資材そのものが昆虫の嗜好対象であるため、異物混入混入リスクが高い、ということ。
それから、一旦発生してしまった場合その駆除が困難だということです。
何せ、粉の中で生息していますので、薬剤の到達が難しいのです。

工場の穀粉保管エリアや倉庫、棚などの隅に、糸状のものを見つけたら、周辺にこうした昆虫が生息している危険があります。

冬でも温度が最適なため

こと温度というのは、虫が生きる上で重要なファクターです。
事実、寒さの厳しい冬には外ではあまり虫を見ることがないでしょう。
それは冬をこすために、例えば環境耐性の強い卵でやり過ごしたり、じーっとして活動力を低下させるなど虫は様々な工夫をしており、活動を抑制させているからです。

しかし、工場内や店舗内は違います。
さらに調理や洗浄などのために、温水も使うでしょう。
すると他の場所はそうでもなくても、ある一部の箇所は温かくて冬だとしても虫が生きていくのに適した環境になりがちです。
つまり、年間を通じて虫が生きやすい温度を与えてしまう、ということになります。

例えば、温水パイプの断熱材の中や温水洗浄機の内部、コールドテーブルや冷蔵庫モーター部、配電盤の中などは、高温を好むチャバネゴキブリの営巣箇所になりがちです。
また温水使用の排水溝では、冬季でも関わらずコバエ類が発生します。
内部発生に冬は関係ない、と考えるようにしてください。

外部環境の影響を受けづらいため

工場や厨房というのは、その性質上、外界から遮断された空間を作る必要があります。
つまり自然環境の影響を受けない遮断された環境を、人工的に作り出しているのです。

だって夏になると温度が常温同様に上昇してしまう、そんなところで一般的な食品は作れませんよね。
冬になると急激に温度が下がってしまう。あるいは雨が降る日や風がふく日によって場内の環境が大きく変わってしまう。
そういうところで、同じ品質を保って食品を作ることはできません。
だから、意図的にその空間内を外的要因の影響を受けないように作り上げる。
つまりいかにその施設内を、外的影響から遠ざけて設計するか。
それが、実は食品工場というものです。

そのため工場内は外部環境から切り離されているため、自然界の激烈な変化影響を受けづらい状態にあります。

こうなると、どうなるか。
場内は、外部環境とは違った、一定の環境条件が整います。
冬でも寒くない。
雨はふらない。
雪もふらない。
風は吹かない。
昼も夜もない。
真夏の日中のような、昆虫でも活動が低下するような極端な温度上昇が生じない、など。

こうなると、ある生息条件を満たしてしまえば、それはずっと維持されることになのです。
つまり昆虫にとっては、一度生息条件が揃った場合、非常に安定した環境を得ることが出来ます。

敵が少ないため

先にも関係しますが、工場というのは外部から遮断された空間です。
だから内部は一定の条件が維持されることになります。
そしてそこにいる生物は、まあ微生物などは置いておくとしても、せいぜい人間だけとなります。
多くの動物が生息している外界とは、大きく違います。
鳥や小動物が飛び回り走り回っている食品工場なんて、ありえないですよね。(ネズミなんかは時折あるでしょうが、望ましくはないですよね)

つまり、一度工場内に入った昆虫は、鳥や肉食性の昆虫といった捕食する敵から逃れることが可能です。
このことは、他の昆虫の餌になりやすい微小な昆虫にとって、外部環境の変化も少なく、また外敵の少ない工場内は生息しやすい環境となりがちです。

隠れられる場所が多いため

これは割と見落としがちですね。

工場というのは、なにかとモノの多い空間です。
いくら5S管理をしっかりやっていたとしても、どうしたって物品や機械が多く、そのため目の届かない箇所がいくらでもできてしまう。
棚の下、機械の内部、天井の陰のほう…。
目が届かない箇所なんていくらでもあるでしょう。

どうして昆虫の内部発生が気付かれづらいか。発見が遅れるか。
それは、目が届かないからです。目が届かない箇所が多いからです。
こうした場所が多い工場というのは、虫にとっては格好の生きる場所になりえます。

つまり工場内は多くの設備や機械、器具、物品、棚などが存在しているため、隠れて生息する環境としても適しています。

殺虫剤をむやみやたらに使えないため

食品製造という特質上、工場内での殺虫薬剤の使用は限定されがちです。
(かといって殺虫薬剤への過度な忌避もナンセンスだとぼくは思います。昆虫と薬剤の双方のリスクをしっかり踏まえた上で、適した使用をすべきです)

少なくとも、食品を作らない環境に比べれば、殺虫剤の使用はどうしたって限定的になります。
バンバンガシガシお構いなしにむやみやたらとブチこみ使うことは、やっぱりできません。

つまり昆虫の生息の除去手段・機会が限定的な環境である、というのがあるでしょう。
これにより、昆虫は駆除されずに生息する機会を得ることができます。

持ち込みがなされやすいため

工場への侵入手段として、自力での侵入に加え、意外と多いのがこの「持ち込み」と呼ばれるものです。
それは、資材や包材、人や機械、器具、台車やパレットなどと一緒に、昆虫が人的要因で工場内に外から持ち込まれてしまう、という状況のことを意味します。

多くの昆虫は工場内での生息定着が難しく死んでしまいますが、上記のような環境条件が揃った場合、内部発生に至る危険が生じます。
それまで問題のなかった工場が、仕入れ先の段ボールなどに付いてきたチャバネゴキブリを知らずに場内に持ち込んでしまい、内部発生に至ってしまう、というケースはよくある話です。

挿画:考える女性

まとめ

今回は、前編、後編と二部にわたって、昆虫の「内部発生」というものについてのお話をさせて頂きました。
そしてこちら後編では、前回を継いで「工場や厨房で内部発生がしやすいのは何故なのか」について、その理由をあげ、解説していきました。

主な理由はこの通りです。

食品工場で昆虫が内部発生しやすい理由
  • 水を多用するため
  • 餌が豊富なため
  • 温度差が生じやすいため
  • 特殊なもの・数量をあつかうため
  • 冬でも温度が最適
  • 外部環境の影響を受けづらい
  • 敵が少ない
  • 隠れる場所が多い
  • 殺虫剤をむやみやたらに使えない
  • 持ち込みがなされやすい

以上、食品工場や飲食店の厨房というのは、こうしたそれら特有ともいえるような特殊な環境条件によって、虫を内部発生させてしまうのです。

時折、昆虫の発生要件について「水・温度・栄養」、という話を聞くことがあります。
勿論、それが間違っているとは言いません。というか、それも当然に、必要です。
ですが、微生物ならまだしも、虫の場合は、そんな簡単な話ではありません。
寧ろ、このような工場特有の様々な条件が複合的に重なり、内部発生に至る、というケースがほとんどです。

例えば、チャバネゴキブリがどうして発生しているのか。
それは、次のような環境の条件が重なるからです。

  • まず資材と一緒に「持ち込まれる」(外部侵入する)
  • 工場内には水と餌と温度があるから、生息がしやすい ←これ
  • ゴキブリを捕食する敵が少ないから、繁殖がしやすい
  • 薬剤をむやみやたらに使えないから駆除しきれない
  • 冬でも自然環境のように寒くなりすぎないから生き延びやすい
  • 機械の内部など、目につきづらい隠れやすい場所がいっぱいあるから見つかりづらい

と、このように「水・温度・栄養」という先の3つの条件は2つめだけであり、そのほかにも多くの要因が関わっていることがわかるでしょう。

と同時に。
このことは、「水・温度・栄養」がもしあったとしても、それ以外の条件を、どこかでその一つでも断ち切れられたならば、内部発生にまで至らしめなくてもすむかもしれない、ということでもあるのです。
つまりここで重要なのは、工場という特殊環境での特有な内部発生条件を知るとともに、その危険性をいかに軽減させていくか、ということなのです。

これ以降のお話も、それらを踏まえながら、どうぞ読み進めるようにしてみてください。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画:ビジネスイメージ