皆様、こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ネット上でもオフラインでも、ここだけしか「絶対に!」聞くことの出来ない神髄中の神髄、「プロが本気で教える衛生管理」を日々、お教えいたします。

少し概念的な話が続きました。
ちょっとここで現実的なところに戻って、お話をしましょう。
皆さん、虫というのはどうして工場や店舗で「内部発生」するのでしょうか。
これ、結構重要なお話です。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

それでは、早速はじめましょう。

今日のポイント
  • そもそも昆虫の「内部発生」というのは特殊な状況である
  • 昆虫が「内部発生」を行うためには、「外部侵入条件」「生息環境条件」「繁殖環境条件」の三条件を満たすことが必要である
    (それを満たさないと、内部発生が起こらない)
挿画:内部発生

 

「発生している」とは?

ときどきお客さんとお話していると、なんでもかんでも場内に生息いた1頭の虫を差して「虫が発生している」と言われるときがあります。

いや、お客さんは全然いいのです。プロではないのだからまったくもって仕方ありません、そこから学べばいいだけの話です。
しかし、それどころかなんと。食品衛生のプロを名乗る者、専門家なる者、公衆衛生に携わる保健所の方ですら、それを普通に、なんの迷いも衒いもなく、言ってくるじゃないですか。
「発生している」と。
ある1頭の虫に対して、「この発生に対しては…」。

そういう方々には、声を大に言いたいですね、
あんたがたはちゃうやろ、と。

いいですか?
「発生」というのは、つまり「内部発生」というのは、最初に外部環境から虫が侵入し、その虫が工場や店舗の中を生息の場として定着させ、卵を生んでそれが孵化し、育って巣を形成し、そうして世代を繰り返してきている状況のことを指すのです。

ただふと入ってきただけの虫は、「発生」はしていません。
もう少し厳密に言うのであれば、そこに「発生」した(かもしれない)のは、「虫による清浄度汚染の危険性という問題」自体の発生であって、「虫という存在そのもの」ではありません。

あなたから見れば、その「虫」は、まるでなにもない空中から、「ぱっ」と現れたかのように見えるかもしれませし、あなたの目にはその1頭は工場や店舗の中でぞわぞわと生まれ育って出てきた虫の一つであるがゆえに、つまりは「内部発生」した虫の1つであるように映っているがゆえにそう言うのかもしれません。
ですが、「発生」と「生息」は別の問題です。
その虫は、ただそこに「生息」していただけで、「発生」したのかどうかについては別の話です。
(よってそんな1頭だけで「虫による清浄度汚染の危険性という問題」自体が「発生」したと言うのもナンセンスです)

いいですか?
なんもかんも虫は「内部発生」しているわけではないのです。

挿画:内部発生ではない

改めて考える「外部侵入」と「内部発生」

以前の【06】、【07】では、工場や店舗での防虫管理における虫の分類の仕方のお話をさせていただきました。
覚えていますかね、この二つの回は非常に重要なので、忘れてしまっていたらもう一度読み返してみてください。

「虫」というリスクをどう分類するか
  • 外部侵入要因昆虫:管理領域外からリスク(虫)が入ってきた
  • 内部発生要因昆虫:管理領域内でリスク(虫)が生じた
「要因」(リスクマネジメント)から考える昆虫の分類

「要因」(リスクマネジメント)から考える昆虫の分類

この昆虫の分類法は、そもそも昆虫というリスクのマネジメントにおける「要因」によって分ける、という考えのものです。
どうしてそんな分け方をするのかといえば、「要因」が違うのだから「対策」も違うだろ、ということです。

冒頭の例で言うなら、あなたが「発生」だと言ったその虫に対して、清掃したり場内に薬剤散布しても、その虫は「外部侵入」したきたものだから、その対策は効果がないでしょ、ということです。
これらについては上の2回で詳しく書いたので、そちらを参照してみてください。

さて、話を進めましょう。

この「内部発生」と「外部侵入」という考え方、ですが。
私がこの業界に入る頃、それこそ25年以上前の段階で既にこうした区分けの仕方が主流でしたし、今となっては最早PCOのスタンダードといっていいでしょう。
ですから「外部侵入」、「内部発生」という呼び方も、この業界では既に定着しきったポピュラーなものであり、既に知られた管理手法とも言えるものです。

もう一度の繰り返しになりますが、どうしてこういう分け方をするのかといえば、、こうした分類の最大の目的は、防虫「管理」において「要因」を見誤ると「対策」が異なってしまい、期待すべき効果を伴わなくなる、ということでした。
そして、これに付随して、つまりこれを踏まえたうえでもう一つ、実は目的があります。

それは「内部発生対策」こそが、食品工場における防虫管理の要訣であるとともに、こうした分類をすることで、概ねの問題に対して目星を付けることが出来る、ということです。
ここが実は重要なんです。

つまり、「内部発生」というのは、虫が発生している、というのは実は結構特殊な状況なのです。

挿画:内部発生ではない

「内部発生」の条件とは

そう、ある特殊な状況でないと、虫はそもそも「内部発生」をしないのです。というか、できないのです。

よくよく考えてみてください。
なんとなく怖いから、その虫が発生しているように思ってしまう。
なんとなくリスクが高そうだから、その虫が発生しているように思ってしまう。
そういうのを一旦置いて、ちょっと冷静に考えてみてください。
そもそも、そんな簡単に内部発生なんてするのだと思っていますか?

もう一度、言います。
「内部発生」というのは、最初に外部環境から虫が侵入し、その虫が工場や店舗の中を生息の場として定着させ、卵を生んでそれが孵化し、育って巣を形成し、そうして世代を繰り返してきている状況のことを指します。

つまりここには次のようなことが重なって生じているのです。

昆虫が「内部発生」するためには
  1. 外部侵入条件を満たす
  2. 場内環境が生息条件を満たす
  3. 場内環境が繁殖条件を満たす

実はこの3つの段階の条件をクリアしないと、虫は「発生」できません。

まず、そもそも場内に入ってこれなかったら、発生そのものができません。
よく考えると当たり前な話でもあるんですが、その当たり前が実はあまり理解されていません。
まずは一回、外部侵入するんです。
それに例外はありません。
ということは、その虫は内部発生ではなくて、外部侵入である可能性が高いことのほうが多いのです。

次に、その虫が生きていける条件が必要です。
水があって、餌があって、温度があって、で住む場所があって、と生命活動を持続できる環境が必要です。
だから、餌のないところに入ってきても生き残れません。
しかも虫というのは多種多様で、それぞれに餌が違ってたりするものです。
なのでその餌がない場合、あるいはあっても調達できない(保管と清掃がしっかりされている)場合には、それも食べられません。(←ここ地味にめっちゃ重要ですよ!?
そういう虫は内部発生することもなく、やがて死んでしまいます。

例えば、アブラムシみたいな樹木由来の昆虫は、風にのって割とたやすく工場や店舗の中に「外部侵入」をしてきます。
しかしそいつらは、工場内や店舗の中に樹木や植物が生えていなければ、餌がないので、いくら水やら温度やらがあったとしても生きることができません。
なので、しばらくは工場内や店舗内をさまようでしょうが、やがて「内部発生」することなく、そのまま死んでいってしまいます。

では3つ目の条件。
さあ、入ってこれた。水も餌もあった。
そこでようやくそこで繁殖段階に進むことになります。
が、虫によってはそれでも繁殖できない、なんてこともあります。

例えば、アリが多量に入ってきてしまった。
時々あることです。
ちょっとしたひび割れ(クラック)を伝って、入ってきたけれどそこを補修されつぃまえばもうアリは外に出られません。
やむなくそこで生きることになります。
ですが、ここにいるのは働きアリ。女王アリがいなければ繁殖ができない。
土壌じゃないから巣も作れないし、餌も水も温度もあるけれど「住む場所」がない。
なのでこれもやがては死滅していきます。
このように虫にとっては、繁殖条件というのも必要になる。

さあ、どうでしょう。
なんでもかんでも内部発生するわけじゃない。
虫にはこの3段階の「内部発生」条件というのが必要であり、それを満たすからこそ「内部発生」するんです。

挿画:内部発生の三条件

工場での「内部発生」という特殊性

これらのことをよくよく踏まえて考えてみると、そもそも昆虫の内部発生というのはそこそこな特殊状況であり、それらの条件が重ならないと、つまりそんな環境でないと起こるものじゃない、ということが見えてくるかと思います。

昆虫が「内部発生」するためには
  1. 外部侵入条件を満たす
  2. 場内環境が生息条件を満たす
  3. 場内環境が繁殖条件を満たす

つまりここでいう、2と3の条件、「生息・繁殖環境条件」がその虫に当てはまらないとその虫は「内部発生」にいたらない。
多種多様の環境にあわせて生きている、様々な虫はそれぞれ自体がその「生息・繁殖環境条件」が違っています。
だからそれぞれの条件を満たすことが各々の「内部発生」には必要なわけです。

上の話からすれば、樹木由来のアブラムシは樹木という「生息・繁殖環境条件」が工場や店舗内になければいっくら汚水が溜まっていたとしても内部発生ができません。
例えば食肉工場さんの中に樹木はないでしょうから、アブラムシ類は「内部発生」しませんが、一方で汚水の滞留などがある場合にはそれによって繁殖が可能なチョウバエ類などのコバエなどが内部発生の条件を満たしてしまいます。

また他にも小麦粉なんかが床面に散乱している場合、チョウバエ類が「汚水」という「生息・繁殖環境条件」を満たさないので内部発生をすることはありませんが、しかし一方で貯穀害虫、シバンムシ類などがその条件を満たしてしまい発生する可能性が高まります。
でも、ウチじゃ小麦粉は使わないなんていう食肉加工工場さんでは、シバンムシ類がたとえ外部侵入したとしても「生息・繁殖環境条件」が満たせないので、それが内部発生に進むリスクは低くなるでしょう。

こうしたことを考えていくと、昆虫の「内部発生」とはそれぞれの「食品工場」や「飲食店舗」という、ある特有の環境によってこそ生じる、特殊な現象なのだということが見えてくることでしょう。

「外部侵入要因昆虫」は、それこそ虫の種類だけ可能性として考えることが出来ます。
だって、自然界はそれだけの昆虫が溢れているのですから。
昆虫の種類は数万種と言われていますから、そのぶんだけの可能性…なんて環境に由来して生きているからそれほどまでもないのですが、それでも相当な種の昆虫が考えられることでしょう。

しかし、実は「内部発生要因昆虫」というのは、そんなに数が多くありません。
何故なら、「内部発生要因昆虫」というのは、先の通りに工場の特殊な環境を生息・繁殖条件とする昆虫のことであり、全ての昆虫が工場の環境下で内部発生をすることは出来ないからです。

つまり。
工場内というある種の環境において、発生条件を揃えられる昆虫は非常に限られている、ということです。

挿画:分析結果

まとめ

今回は、前編、後編と二部にわたって、昆虫はどうして「内部発生」するのか、についてのお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、そもそも「内部発生」とはどういうものなのか、そしてそのための条件とは何か、ということについてお話させていただきました。

そもそも虫が内部発生するためには、次のような条件が必要であることがわかりましたね。

昆虫が「内部発生」するためには
  1. 外部侵入条件を満たす
  2. 場内環境が生息条件を満たす
  3. 場内環境が繁殖条件を満たす

そしてこれらのなかでも2と3の条件、「生息・繁殖環境条件」がないと内部発生ができない、ということがわかりました。
しかもそれらは虫によって各々異なる。
だから、各工場や各店舗で問題になる内部発生の「生息・繁殖環境条件」というのは、虫や職種によって変わってくることが見えてきたかと思います。

次回の後編では、これらを踏まえた上で、そんな「生息・繁殖環境条件」の視点から、どうして工場や店舗では内部発生が行われてしまうのか、ということに、より具体的に論を進んでみたいと思います。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画:ビジネスイメージ