★公開日: 2021年9月17日
★最終更新日: 2022年5月7日

食品衛生における異物混入対策を行う上で、そもそもとして「異物」とは一体何なのか。それを今回はお話しています。
それを前回に続いてガチに異物対策の専門家が、じっくりと教えます。
しかもそこらへんに転がっているような、やれ「異物 定義」なんかでGoogle様でヒットするような、コピペで書いてるようなお話じゃないですからね。

何せ後半には、「虫の異物混入は賠償請求対象か、を専門家が答える」なんて一般的に興味がありそうな話にも少しばかり触れていますので、どうぞお楽しみに。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画:異物混入対策

 

PL法での異物混入

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もし以下の「前編」をお読みでなければそちらを最初に読んでいただくと理解がより深まります)

というわけで後編です。

前編では、そもそも「異物」とは何か、という定義付けを改めて行うとともに、法律上での「異物混入」というものの取り扱いについてお話してきました。
なかでも食品衛生のメインの法律である、「食品衛生法」においての「異物」の扱いは、ぜひとも押さえておくべきポイントです。

「食品衛生法」上での「異物」の扱い
不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるものは、販売、製造、輸入、加工してはいけない
(食品衛生法第6条)

とまあ、このように「食品衛生法」においては、「人の健康を損なう」ような異物混入の製造販売を法として禁じているわけです。
ですが一方で、その「異物」に関しての取り決めは書かれていません。
そして、「人の健康を損なうおそれのない」異物混入に関しては、法としては禁じていないことになります

…と、ここまでが前回のお話です。

さて、食品衛生法ではこのように「健康被害がおきる可能性の低い異物混入」については法律内であることが書かれています。
ではそれ以外に、異物混入を取り締まるような法はないのでしょうか。

唯一関わるのが、「製造物責任法(PL法)」でしょう。

製造物責任法というのは、製造物の製造物の欠陥により、人の生命、身体、財産に被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償責任について定めた法律です。(1条)

ちょっとこの「PL法」のポイントを見てみましょう。

第二条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。
2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう

ええと。
まず「PL法」でいう「製造物」というのは「製造または加工された動産」だという。
つまり食品工場やその他の場所などで製造・加工された食品も、それにあたります。

製造物が、つまりは工場などで作った食品などの製品が「欠損」していた場合、ということですが、この「欠損」ってのがどういうものかがここで説明されています。
で、その場合、製造者は賠償責任を取れ、というのが、この「PL法」のメインの主旨です。

さて、ここでいう「欠損」というのは、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いている」ことを言う、とありますね。
これも食品衛生法に近いことが書かれています。
つまり、食品衛生法で言うところの「人の健康を損なうおそれがあるもの」にあたる。

なおPL法では、主にその「欠損」を次のように分類しています。

「欠損」の分類
  • 設計上の欠陥
  • 製造上の欠陥
  • 指示・警告上の欠陥

これらの中で食品の異物混入に関わるのは、2つ目「製造上の欠損」でしょうか。
その説明として、「製造・管理工程に問題があることで、設計仕様どおりに製造されず、製品に安全性の問題がある場合」となっています。
だから、例えば製造中にラインのステンの機械片などが混入してしまい、それが金属探知機をすり抜けて製品として市場に出されてしまった。
そしてそれを消費者が口にして口内を切った、なんてことがあればそれは、食品衛生法上でも「健康を損なう」問題であるうえ、この「PL法」においても賠償責任対象とされてもやむなし、というのがわかります。

が、これでも「製品に安全性の問題がある場合」ということはここでも強調しておきましょう。
そして一般的に、金属異物でもない限りは人の健康を損ねるような異物混入がそうそうあるのかというと、結構難しいところだとは専門家として一応伝えておきます。

挿画:製造物責任法で訴訟

ゴキブリの異物混入は「PL法」対象となるのか

えーと、本来はここでガチに扱うつもりはなかったのですが、一般の方からの質問が多いので、簡単にだけ触れておきます。
というのも、こういう質問です。

「食品への虫の混入は、企業への賠償責任となるのか。」

これねー!
いや、今回は本当にさらっとしか触れませんよ、本題じゃないので。

例えば、製品の中、あるいは外食で食べた料理の中にゴキブリが入っていた。
これは、食品衛生法の違反にならんのか。
そして、PL法でいうところの製造物の「欠損」であり、製造者は賠償責任すべきではないのか。
つまり企業への賠償責任となるのか、というお話です。

この件については、話すと長くなりますので、別途どこかで必ずそれだけを取り扱う回を設けることにします。
ですが、ここでは簡単に、結論だけ触れておきましょう。

様々なケースがあるので一概にはいえません。
ですが、一般的には、「およそ無理」、です。
てゆーか、普通に「無理」です。

ネット上でたまーに見ます。
牛丼屋に入ったら、ゴキブリが入ってた。
気分が悪くなった。ふざけんな。精神的被害を被った。だから訴えてやる。
どうぞ好きにすればいい。
でも、そんな妄想は世の中に通用しません。
これは異物混入の専門家のぼくが言うのだから、本当です。

で。
こういう問題に対し、法律の専門家である弁護士は、ネット上でよくこう言っているのを見かけます。

「賠償責任の可能性がある」。

あのですねー…。

ズバリ、言います。
それは、「可能性がある」というだけです。
あなたもぼくも、今日、外に出て歩いていたらそこにトラックが突っ込んできて交通事故で死ぬ可能性がある。ゼロじゃない。可能性はあります。
そういうのと同じ意味での、広義の「可能性がある」というだけの話です。
そして法律の専門家はあくまで法律の専門家であって、食品衛生の専門性を何も知りません。

少なくとも虫を摂食したことで起こり得る疫学事例なんて調べたことはおろか、そんなものが世にあることすら全く知らない、ただのネットのコピペの繰り返しで自分の事務所の記事を書いている、法律の専門家達です。

ですから、あなたが「虫の入った牛丼を食べて気分が悪くなったから、精神的慰謝料を払え」なんておよそ勝手な言い分がこの世の中で都合よく通じるなんてことは、「通じる可能性が欠片もない」とまでは言いませんが、しかしそれが「食品衛生法」を違反していて、「PL法」によって製造者による賠償責任が生じることで認められるなんてことは、「可能性としては低い」、早い話が「2021年の現状においてほとんどない」です。

これ以上のことは、改めてまたどこかでお話しますので、そちらをお楽しみに。

ちなみに、2005年、健康食品の中に「エトキシキン」、いわゆる抗酸化剤の一種が混入していたことに対し、「精神的苦痛を生じたから、これはPL法でいう身体を侵害したに該当する」という言い分で、製造物責任に基づいて賠償請求を求めた裁判が行われたことがあります。
(無許可添加物混入健康食品慰謝料請求事件)

「エトキシキン」は食品添加物としては、少なくとも日本では認可対象外です。
なので、この場合は完全な異物混入です。
それが、健康食品として販売されていたものに混入していたというのです。

とはいえこれが健康被害を起こしたのか、それが医科学的に立証出来たか、といえば、まあ不可能だった。
大体、何かを食べたことによる健康との因果関係なんて、そんな皆さんが思うほど簡単に立証できるものではないのです。
ましてや虫1匹を同じ釜で煮込んで、加熱して、およその食中毒菌が死滅した中で、どう健康被害を立証しようとするんですか?

で、結局のところ「健康には被害はなかったが、精神的に苦痛にあった」と訴えた。
これが「身体の侵害」に該当するから賠償しろ、と訴えた。

そんな暴論は、当然ながら裁判で認められることはありませんでした。
精神的苦痛を受けただけでは、PL法第三条の「身体の侵害」とはならない、としたのです。

これが、PL法における食品への異物混入に対する判例です。
弁護士のお偉い先生方、それでも昆虫の異物混入への質問に対してその返答、「可能性がある」でマジでいいんですか?

異物の分類と、注意すべきこと

おっと、スイッチが入ってしまった。
話をもとに戻しましょう。

今回のお話のテーマは、「異物とは何か」です。
「異物混入は賠償対象か」ではありません。
何だったらそのテーマで、また別にたっぷり書きますので、待っていてください。

そんなわけで、「異物」とは、に戻ります。

さて、異物の分類というものは、世には幾つかあります。

まず、よくネットで見るのがこれです。
先の「食品衛生検査指針」で書かれている、異物の分類法です。
そう、その名の通りに食品衛生の「検査」の指針として書かれている分類法です。

これはまがりなりにも「厚生労働省監修」というお上のお墨付きがあるので、どこでもそれを引っ張り回しては、さももっともらしく書かれることが多いです。

異物の分類
  • 動物性異物:人由来(毛髪、爪、歯など)、昆虫、その他の動物由来(獣毛、糞、骨片、鳥の羽毛など)
  • 植物性異物:植物(植物片、木片)、微生物(細菌、カビ)、その他(紙片、糸くず)
  • 鉱物性異物:金属(釘、金属片)、鉱物(ガラス片、貝殻片、セメント片)、樹脂(ビニール片、プラスチック片)

と、こんな感じですね。
さも知っているげに「異物とはこのように分類されるのだー!」って感じに、そこかしこでよく書かれています。

で。
ちょっと意地悪な話を本当のプロが、本当のこととして言いますが、こういう分類をしている「異物対策」サイトについては、少しばかり構えてかかったほうがいいことが多いです。
何故か。
異物混入の現場を、食品製造の現場を知らないからこういう分類を、何の考えもなくしてしまいがちだからです。
どういうことか。

それは、本当の現場での異物対策のプロからすれば、これらは一緒くたにする意味があまりないからです。

例えば「動物性異物」だと言ったところで、毛髪の混入と、虫の混入と、骨片の混入は、意味が全く違います。
ケースバイケースのことも多いですが、一般的に、毛髪混入は従事者衛生や工程管理の問題であり、虫の混入は防虫管理上の問題であり、骨片の混入は資材由来です。
製造現場において、それらをひっくるめて分類することに意味がほとんどない。
そりゃ言ってみれば「動物性」として括れるよね、でそれがどうしたの?って感じです。

そんなものをひっくるめて、ではどうして「動物性異物」として区分しているのか。
それは、そもそもの見る目が食品工場や店舗という現場主体ではなく、検査室だからです。
「検査屋」の視点から出てきた結果を分類したものだからです。

つまり、異物を分析検査する目からすれば、これは区分としたら「動物性だ」というわけなのです。
しかし製造現場からすれば「いやそりゃただの検査の結果だろ」となります。

でも、それもそうなのです。
だって、この分類の出自はなんですか?
そう、前回にも上にも言いましたね。
その本のタイトルは、「食品衛生検査指針」なんです。
つまりこれは、「検査本」における、「検査」上での「分類」なわけです。
異物検査を行ったら、色々なものが届けられた。
それを検査結果から分類したら、こんな感じだった。以上。それがこれです。
だから製造現場でそんな異物分類が使えるわけがないのです。

それはそれで、勿論、あってもいい。
でも「異物対策屋」がそれを何の疑いもなくドヤ顔でそれを語るのであれば、それは違います。
だって異物対策上では全く違うものを、一緒くたにしていることに全く気がついてない。
お前はプロとして、製造の現場として、「要因」として、考えられねーのかよ!
そうなります。
少なくとも、異物対策の専門家のぼくとしては、そう思いますね。

さて、冒頭に異物の分類には「いくつかある」と話しました。

例えば、時折用いられるのが、「硬質異物」「軟質異物」という分類ですね。
こっちのほうがシンプルだし、まだ製造現場側に寄り添っています。

何故か。
要するに、有毒性などを別にして、食品衛生法上において危険な異物混入というのは、えてして「硬質異物」の場合です。
食べて口内を切った、とかいうものです。

だからこれは、そうした健康被害への危険性のある・なしで区分している。
ある意味ではこちらのほうがまだどちらかといえば実践的といえるかもしれません。

挿絵:異物混入ダメゼッタイ

まとめ

なんだか今回は、あっちゃこっちゃに尖ってばっかりだなあ。(笑)
とはいえ一流の専門家を名乗る以上、こういうプロフェッショナリズムに関わる話にはついムキになってしまいがちです。

と、そんなわけで今回は、前編、後編と二部にわたって「異物とは何か」ということについてのお話をさせて頂きました。
そしてこちら後編では、前回を継いで「PL法」での「異物」の扱いをお話しました。

そして、「虫の異物混入は賠償請求対象か、を専門家が答える」なんてことにも触れてみました。
結論は、「違います」です。
勿論、ケースバイケースでしょうが、少なくともそこかしこの弁護士サイトで見る「可能性はある」ではありません。

彼らは法律のプロなのでそう言うのでしょう、そういう立場もあっていいと思います。
しかしぼくは法律については全くのドシロウトですが、食品衛生のプロです。
その上で、どこにどう健康被害が生じる可能性があるのか、ないのかをよく知っています。
そうした意味で、彼らは食品衛生のドシロウトですから、なんとなくのイメージや一般的想像から「可能性はある」としか言えないのもわかります。

おっとこの話はまた別にするとしましょう。
異物の分類は…どうでもいいかな、あんまり使えるもんじゃないし。
そういうのもあるのか、と頭の片隅で思っている程度で十分です。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

 

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