★公開日: 2021年9月16日
★最終更新日: 2021年9月17日

食品衛生における異物混入対策を行う上で、そもそもとして「異物」とは一体何なのでしょうか。
今回は基本に立ち返って、「そもそも異物とは何か」という、食品衛生上での「異物」のありようについてお話いたします。
これ、実は意外としっかり踏まえていないことがあるんですよ。
それをガチに異物対策の専門家が、じっくりと教えます。

しかも今回は、途中「虫の異物混入は賠償請求対象か、を専門家が答える」なんて一般的に興味がありそうな話にも少しばかり触れていますので、どうぞお楽しみに。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿絵:異物混入対策

 

そもそも「異物」とは

(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)

皆さん、新型コロナウイルスのワクチンは摂取されたでしょうか。
ぼくはこの下書きを書いている2021年9月14日、近くの病院でようやく1回目の摂取をしてきました。
現状のところ、熱などは出ていないのですが、腕が痛いというか重いというか、ちょっと左手があまりうまいこと使えていない感があります。

と、そんな最中にも、またもや異物混入が各所で報道されているではありませんか。
まずは神奈川県鎌倉市にて、ファイザー社のワクチン内に、1mm程度の白い浮遊物という異物の報告が。

しかもその白い異物は、同神奈川県の相模原市でも複数発見されています。

こうした報告がその他の都市からもあがっており、このファイザー製ワクチンが問題視されているなか、ぼくもそのファイザー製ワクチンを摂取してきたわけなんですが。
それはさておき、今回はそんな「異物」についてのお話です。

さて。
このように、医薬品はもちろん、食品にも許されない異物混入ですが、では皆さん。
そもそも「異物混入」における「異物」とは一体何でしょうか。
これ、意外としっかり踏まえていないことが多かったりします。

そこで今回は、その「異物混入」における「異物」とは何なのか、という話を異物混入対策の専門家として、していきたいと思います。

挿画

「異物」の定義って?

皆さん、異物ってなんでしょうか。
異物っとはどのように定義されているのでしょうか。

本来、そこに含まれている想定されていない存在。
なんとなく、そんなイメージがありますよね。

辞書で調べてみると、こんなことが書かれています。

「異物」とは
  1. 普通とは違ったもの。違和感を与える奇異なもの。
  2. 体内に入ってきて、または体内に発生して、周囲の体組織になじまないもの。
    「目に異物が入る」「腹部の異物を摘出する」
  3. 死体。死骸(しがい)。

うーん。
なーんか、こう、食費衛生として考えた場合には、ピンと来ませんねえ…。

大体ぼくらは食品衛生のプロであって、言語学の専門家でも何でもない。
そこで、もう少し食品衛生上での専門用語としての「異物」について、扱ってみようと思います。

すると、次に調べて出てくるのは、これです。

「異物」とは (「食品衛生検査指針」より)
異物とは、生産、貯蔵、流通の過程で不都合な環境や取扱い方に伴って、食品中に侵入または迷入したあらゆる有形外来物。

これは「公益社団法人日本食品衛生教会」というところが出している「食品衛生検査指針」の第9章などに記載されている定義です。
これは厚生労働省が監修していますので、ある意味では公的なお墨付きがついている、と捉えてもいいでしょう。

一般的にネット上で「異物」とは、と調べると真っ先に出てくるのがこれです。
後にも触れますが、そこではご丁寧に「異物」の分類なども書かれていますので、あちこちでもっともらしくそれらを掲載しているのがネット上で見られます。
ぼくのような専門知識を持ち合わせてなくとも、誰でもコピペで書けるのでとても便利ですね!(皮肉)

あ、この話は後にも出てきますが、この定義を出しているのは「食品衛生検査指針」だというのも、ちょっとしたポイントです。
いいですか?
「食品衛生検査指針」ですよ。
食品衛生の、「検査の」指針ですよ。
つまり、検査屋の本で書かれたものである、ということです。
「食品衛生においての、こと検査という部門において、こう考える」という話です。

「それがどうした」と思いますよね。普通、思うでしょう。
だって、これに触れているのは、ネット上でもうち以外一つもありませんでしたから。
まあそういうニッチな世界ではありますけれど。
後にまた別の話題として詳しく話に触れますが、要するにこれは検査屋から見たら、という見方であって、製造現場におけるというものではない、ということだけは現段階で「一応」言っておきますね。

(そう見ると、ほら、なんとなく「食品中に侵入または迷入した」ってところ、他人事っぽく見えて来ません?)

挿絵:異物検査

意外と曖昧な「異物」の定義

もう少し、法的な根拠をさぐっていくと、いつものように「食品衛生法」に向かいます。
何度もあげる、お約束の「食品衛生法第6条4号」ですね。
食品への異物混入は、これによって規定されているという、この世界では非常に重要な法律です。
なのでぼくらプロはここらへん、暗記してすらすらしゃべれるのが普通です。

「食品衛生法」での異物混入の取り扱い

第六条 次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。

一 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。
ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。
二 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。
ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。
三 病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。
四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。

これが、日本国内における食品の異物混入防止の法的根拠です。
このように、法の中にしっかりと「異物の混入」と書かれています。

つまり、日本では食品への異物混入について、このように書かれていることになります。

「食品衛生法」上での「異物」の扱い
不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるものは、販売、製造、輸入、加工してはいけない

ここでのポイントの一つは、「異物混入」そのものを法律で咎めているわけではない、ということです。
異物混入によって健康被害が生じる可能性があるもの」を売ったり作ったりしてはいけませんよ、ということです。
そして、この話はテーマが変わってくるのでまたゆっくりとお話しますが、「異物混入、イコールただちに健康被害になる」とは限らない、というのも事実だったりします。
これ、一般の人たちは大きく間違っていることが多いです。
そこは明確にしておきたいポイントです。

おっと、今回のテーマはそこではない。
なので話を戻します。

ここで何が今回言いたかったのかというと。
まず、食品衛生上での「異物」とは、確かに食品の中に入っているはずのないものだということはわかった。
でも、それが一体どんなものかということまでは具体的に法的に定義されていない、ということ。
そして「こういうものが入っていてはいけない」ということに関しては、「健康被害がおきないもの」と、相当なまでに曖昧だということです。
よって、その種類や大きさ、数などについての法的な基準は、基本的に存在していない、ということになります。

挿絵:異物の定義は曖昧?

日本での「異物」と各国の「異物」の違い

ではどうして、そのような異物の法的基準が存在しないのでしょうか。
それは、異物というものを公的に定める基準事態が難しいからです。
つまり「これを食事と一緒に食べて健康に被害を及ぼすかどうか」というのは、一般の人が思っているほどそう簡単に、そう単純に、その医科学的な因果関係が出せるものじゃない、ということです。

では他国ではどうなっているか。

各国での「異物」の法的基準
  • 日本、EU:種類や大きさ、数などについての具体的な基準なし
  • 韓国:長さ2.0mm以下は異物と認めない(口の中で異物を完治できる大きさという判断から)
  • 米国:最大7.0mm以下の異物は外傷、重症の原因にはほとんどならない、としている(一部例外あり)

とこのようになっています。
これらのどっちがいいのか、というのはなんともいえないところでしょう。

法的基準があれば明確なぶん、しかし逆に言えばそれ以外は異物とされない、ということにもなります。

このうち面白いのは米国。
米FDAが、1972年から1997年にかけての異物混入事例190件を評価した結果このようになったというのですが、その一方で様々な基準も設けているのが訴訟国家というか。

例えば、「ピーナッツバターには100gあたりに昆虫断片50個」だとか「缶詰トマトなら100g中にハエの卵5個とウジ1頭、ウジだけなら2頭まで」とか、「アップルバターだと100g中4本以上のネズミの毛」とか、そういう基準が存在するという。
ということは、アップルバターを買ってネズミの毛が入っていても、2本だったら問題ナシ、とされることになるのか…?

まあ、海の向こうの事情はぼくの専門外なので、興味あるかたはどうぞ。
一応ソースはこちらになっています。

挿絵:FDA

まとめ

今回は、前編、後編と二部にわたって、異物混入における「異物とは?」というお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、日本における「異物」の定義についての解説を行いました。

なかでも、食品衛生法上でのこの「異物」については、しっかりと覚えておくべきでしょう。
これが前編の最大のトピックです。

「食品衛生法」上での「異物」の扱い
不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるものは、販売、製造、輸入、加工してはいけない

次回の後編では、さらにその「異物」の法的な位置づけと、製造物責任上でどうなるのか。
また、異物の分類はどうなっているのか。
さらには冒頭に触れた、「虫の異物混入は賠償請求対象か」なーんて話にも迫っていくとしましょう。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿絵:ビジネスイメージ

 

 

 

 

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