最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、死者も出たという石川県は金沢市の介護施設で発生した黄色ブドウ球菌による集団食中毒についてお話していきます。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

本日の時事食品ニュース

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

挿画

 

石川県金沢市で黄色ブドウ球菌食中毒、死亡者1名

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もしこちらから来られた方は、まずは「前編」を最初に読んでください。)

「食品業界ニュースピックアップ」。
様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていくこちら。
今回は前回の続きということで、こちらのニュースについてのお話となります。
まずはニュースを再び紹介いたします。

今月2日、金沢市の介護老人保健施設から「複数の入所者に下痢や嘔吐(おうと)などの症状が出ている」と金沢市保健所に連絡がありました。
保健所が調べたところ、前日に施設で昼食に出た「たまごグラタン」などから黄色ブドウ球菌が検出され、食中毒と断定しました。
入所者14人が食中毒の症状を発症し、このうち1人は2日に亡くなったということです。

このように、黄色ブドウ球菌による集団食中毒が発生し、先の通り、70代女性の死者が1名出た様子です。

こちらのニュースに際し、前回では昨今の黄色ブドウ球菌の食中毒事件報道をあげるとともに、統計データに基づいた黄色ブドウ球菌食中毒の実情についてを、これまでお話して参りました。

今回は、もう少しこの「黄色ブドウ球菌」というものに迫っていくとともに、黄色ブドウ球菌食中毒にはどんなものがあったのか、などといった事例にもふれていきたく思います。

挿画:グラフとデータ

黄色ブドウ球菌とは

さて、そろそろ黄色ブドウ球菌とはどういうものか、についても触れておくとしましょう。

尤もここらへんの基礎知識は、調べれようと思えばいくらでもどこにでもある情報なので、ここではあくまでごく簡単かつわかりやすさを重視して、お話しておきます。

どこにでもいる黄色ブドウ球菌

というわけで、なんだかちょっと怖くなってきているかもしれない、この黄色ブドウ球菌ですが。
実を言うとそもそも「黄色ブドウ球菌」というのは、ぼくら人間の体にどこにでも普通に付着して生きている細菌、つまりは「常在菌」です。

健康な人間の、たとえばあなたの皮膚の表面や、鼻の中だったり、喉だったり、腸の中だったり。
食中毒菌とはいえ、(諸説ありますが)一般的に30~40%以上の人が保有している、とも言われています。

そんな常在菌なので、人間にも様々な影響を与えます。
例えば、手や足をケガして絆創膏をはる、とします。
するとその傷口が化膿することがありますよね。そこには大量の黄色ブドウ球菌が存在しています。

そもそも「ブドウ球菌」というのは、まるでブドウの房のように球体状の菌が集まっている集合体のようなものです。
それらの中には例えば「美肌菌」で知られる「皮膚ブドウ球菌」のような、人間によい影響を与える味方の細菌もいるのですが(とはいえコイツも時々体内に入ってしまって悪さもするんですが)、今回の話題の中心たるこの「黄色ブドウ球菌」はさまざまな病気の要因をつくる、典型的な悪者の菌です。

実はおでき(毛包炎、せつ、蜂窩織炎など)のような膿瘍も、この黄色ブドウ球菌による病気です。
これが悪化した場合、 肺炎や骨髄炎なども起こしかねません。
また例えば、病院内の感染症で知られる「MRSA」(メチシリン耐性菌)というのは、さながらこの黄色ブドウ球菌がキングボンビー化したようなものです。


Wikipedia

黄色ブドウ球菌は「毒素型」の食中毒菌だ

さて、そんな厄介者、毒の食中毒菌としての黄色ブドウ球菌に話を戻しましょう。
食中毒菌として見た場合、黄色ブドウ球菌というのは典型的な「毒素型」の食中毒菌です。

毒素型」というのは、細菌が作った毒素を人間が食べてしまうことで食中毒を起こす、というタイプのことです。
これは食品内で増殖した菌を取り込むことで食中毒となる、例えばカンピロバクターや病原大腸菌のような「感染型」とはタイプの違う食中毒です。

細菌性食中毒の区分
  • 感染型:食品内で増殖した菌を摂取して食中毒となる
    (カンピロバクター、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、病原大腸菌、ウェルシュ菌など)
  • 毒素型:食品内で菌が増殖する際に毒素を産生し、その毒素を摂取して食中毒となる
    (黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌など)

※「感染型」のうち、細菌が腸内などの体内で増えるときに毒素を作り、食中毒を起こすもの(病原大腸菌、ウェルシュ菌など)を「生体内毒素型」と呼んで別に区分することもあります。

これらは微生物と食中毒にかかわる基礎知識なので、覚えておいたほうがいいでしょう。

熱にも強い厄介な「エンテロトキシン」

さて、そんなわけで黄色ブドウ球菌は典型的な「毒素型」の食中毒菌です。
というのも黄色ブドウ球菌は、食品内で増殖するときに「エンテロトキシン」という毒素を産生するのです。
そして食品と一緒にこの「エンテロトキシン」を食べてしまい、食中毒が発生します。

一般的には、食品のなかで黄色ブドウ球菌が105~106/g以上に増えないと食中毒にいたるエンテロトキシンを作らない、と言われています。
ですから、黄色ブドウ球菌の食中毒防止には菌の増殖をおさえることが重要になります。

しかしそもそも黄色ブドウ球菌というのは、「通性嫌気性」です。
「通性嫌気性」というのは、酸素があっても増殖できるし、なきゃないで増殖できる、という細菌のことです。
だから大体の食品内で増殖が可能だ、ということになる。

しかもこの「エンテロトキシン」は厄介なことに構造的に安定しているため非常に頑丈で、いったん作られてしまうとそう簡単に毒性をなくすことが出来ません。

そもそも黄色ブドウ球菌自体は、加熱によって死滅させることができます。

食中毒菌の死滅温度
食中毒菌の死滅温度

このように、黄色ブドウ球菌自体は65℃10分の加熱で死滅しますし、もっと高い温度であればより短い時間で死滅が可能です。
ですが、作られた毒素は別。
普通の加熱で破壊(不活性化)することはありません。

だから黄色ブドウ球菌食中毒は、再加熱では防げない。
ここがまず厄介なところの一つでしょう。

挿画:弁当

塩分にも強い黄色ブドウ球菌

それから黄色ブドウ球菌は塩にも強い細菌で知られています。
一般的には菌の繁殖を抑えることができる塩にも、です。
だって夏に汗をかくぼくらの皮膚にもいるんです。
そりゃあ塩分にも強いはずだ。

黄色ブドウ球菌の食中毒で最もポピュラーだったものは、ご飯もの、なかでも「おにぎり」です。

例えば、ケガした手でおにぎりを握るとします。
するとその手に付いていた黄色ブドウ球菌がごはんを汚染します。
絆創膏からももちろんすり抜けて、付着することでしょう。

「おにぎりに塩を加えれば菌の繁殖を防げるから大丈夫。」
そう思っている人は多いでしょうし、実際にも相応の効果は期待できるかもしれません。
しかし黄色ブドウ球菌は別です。
なぜならこの食中毒菌は塩にも強いからです。

海の中で生きる食中毒菌、腸炎ビブリオのような「好塩性」ではないのですが、こちらは「耐塩性」、つまり塩に耐えることの出来る菌。
実際、10~15%くらいの高濃度下でも増殖できるというのですから、大したもの。
そして塩分のある食品内でも増殖できる、ということは毒素「エントロトキシン」を産生できる、ということ。つまりは食中毒を起こす危険性がある、ということです。

しかもおにぎりは基本的に冷蔵保存をしません。
皆さんもご存知でしょうが、ご飯は基本的に冷蔵保存するととたんに美味しくなくなります。
だから常温で置いておくことが多い。
しかしこの黄色ブドウ球菌の発育温度帯は、10℃前後(6.7℃)以上48℃です。

これらもあって、昔から家庭でのおにぎりやお弁当による黄色ブドウ球菌の食中毒は多かったのではないかとも言われています。

挿画:おにぎり

黄色ブドウ球菌食中毒の特徴

どどど、と基礎情報をあげさせたので、ここで少し整理・補足します。

まず黄色ブドウ球菌はどこにでもいるし、人間の皮膚にもいる常在菌だ。
だから素手で食品にふれると、そこから黄色ブドウ球菌の汚染が広がってしまう
ましてやケガしていたり化膿していたりした手ではなおさらのこと。
つまり、黄色ブドウ球菌の食中毒の発生原因の多くは、人の皮膚に触れての汚染です。

だから、工場や店舗では、食品を取り扱う際には手袋を付けるわけです。
ご家庭でも、おにぎりをお弁当にしたり長時間常温でおいておく際には、手袋をしたりラップでご飯をくるむ、型を使うなどをしたほうが無難でしょう。

さて、食品に付着した黄色ブドウ球菌は、増殖の際に「エントロトキシン」という毒素を作り出します。
その毒素を人間が食品と一緒に口にし、体内に取り込むことで食中毒となります。

また多くの食中毒菌同様、黄色ブドウ球菌が増殖しても、エンテロトキシンが作られていても、食品の成分を変質させるわけではないので、味自体は変わりません。
つまり、食べたとしてもそれらに汚染されているかどうかはわからない、ということです。

しかし黄色ブドウ球菌は、ある程度の菌数に増殖しない(105~106/g以上)と食中毒にいたるエンテロトキシンを作りません。
なので黄色ブドウ球菌食中毒防止には、菌の増殖をおさえる、つまりは冷蔵保存が重要です。
とくに冷蔵保存下、10℃以下だと黄色ブドウ球菌は増殖をほとんどしなくなります。
(死滅はしません)

では、どんな食品での黄色ブドウ球菌食中毒が多いのか。
まず第一に、素手で食材にふれるようなメニューです。
例えば、おにぎりのようなもの。
実際に原因食品でも、握り飯やいなりずし、巻きずしなどのほか、弁当や調理パンなどの複合調理食品がしばしばあげられます。

さて、黄色ブドウ球菌というのは、典型的な毒素型の食中毒菌です。
つまり、毒素を作って人間がその毒を食べることで食中毒になるタイプの食中毒菌です。

なので、毒素自体を食べてなるため、「感染型」の食中毒に比べて潜伏期間が短いのが特徴です。
(摂食後1~6時間、平均3時間)
主な症状は、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢など。
発熱は普通はなく、健常者の場合は割と軽症で回復も早いともに言われています。
(セレウス菌に近い)

しかし高齢者の場合、嘔吐などにともなうショック症状もあるため、今回のような死亡事故につかなることもごくまれにはあるようです。
まあ、それでも前回のとおり、近年では少なくなり過去20年は出ていないのですが。

挿画:おにぎり

戦後最大の集団食中毒、「雪印事件」

さて、黄色ブドウ球菌食中毒の基礎的なお話は以上となるのですが、この食中毒菌のお話をしたらこのことに触れないわけにはいきません。

前回、黄色ブドウ球菌食中毒の年間患者総数のグラフを出したかと思います。

黄色ブドウ球菌食中毒の年間患者数推移
黄色ブドウ球菌食中毒の年間患者数推移

これですね。
このグラフで2000年に、どーんとこの年だけ突き抜けるような患者数が出ているのがどうしたって、気になりますよね。
じつはこの突出こそが14,780人もの患者を生んだ、戦後日本最大の集団食中毒事件と呼ばれる、かの悪名高き雪印集団食中毒事件です。

この集団食中毒事件は、2000年、6月に関西一円にて発生し、大問題になりました。
当時ぼくはすでにこの仕事についていたのですが、業界全体を揺るがすような大事件に戦慄したことを覚えています。

今から思えば20年前。
考えようによっては、たった20年とも言えるでしょう。
そして何よりもこの事件は、今尚、ぼくらに食品衛生を語る上で非常に重要な示唆を与えてくれるものでもあります。

とはいえ、この事件の話はそんな短く簡単に扱うようなものでもありません。
何せ2000年以降の食品衛生の根底を覆す、と言ったら大げさかもしれませんが、でもそんなインパクトを放った1件だったからです。

なので、この「雪印食中毒事件」に関しては、改めてまた近いうちにそれだけの記事を書いていこうかと思ってます。
何せそれに十分に足るような事件でしたし、そしてそれは今もなおぼくらにとって重要なことを教えてくれるからです。

挿画:考える女性

まとめ

今回は前編、後編と二部にわたって黄色ブドウ球菌による食中毒について、二部構成でお話をさせて頂きました。
そしてこちら後編では、前作を引き継ぎながら、黄色ブドウ球菌とはどのような細菌なのか、どのような食中毒なのかについてお話いたしました。

そして最後に触れた、「雪印食中毒事件」。
これね、
マジで面白いです。
面白い、といってしまうと不謹慎にも聞こえるかもしれませんが、でも本当に面白いのです。
なのでこれについては、近くじっくりと扱いたく思っていますので、お楽しみに。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

挿画:スーツ女性と相談