★公開日: 2021年9月12日
★最終更新日: 2021年9月12日
最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、石川県は金沢市の介護施設で発生した黄色ブドウ球菌による集団食中毒についてお話していきます。
しかもこれ、なんと死者が出ているのですよ。黄色ブドウ球菌の食中毒で。
なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)
本日の時事食品ニュース |
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改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

Contents
石川県金沢市で黄色ブドウ球菌食中毒、死亡者1名
(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)
「食品業界ニュースピックアップ」。
ここでは様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていくつもりです。
どうぞよろしくお願いいたします。
さて。
先日9月2日、石川県金沢市の介護施設で黄色ブドウ球菌の食中毒が発生していたことが報道されていました。
しかも、ここでは食中毒による死亡者が1名出ています。
どこでも全く言われていませんが、これは結構珍しいことです。
ではちょっとニュースから見ていくとしましょうか。

今月2日、金沢市の介護老人保健施設から「複数の入所者に下痢や嘔吐(おうと)などの症状が出ている」と金沢市保健所に連絡がありました。
保健所が調べたところ、前日に施設で昼食に出た「たまごグラタン」などから黄色ブドウ球菌が検出され、食中毒と断定しました。
入所者14人が食中毒の症状を発症し、このうち1人は2日に亡くなったということです。
このように、黄色ブドウ球菌による集団食中毒が発生し、先の通り、70代女性の死者が1名出た様子です。
実を言うと、黄色ブドウ球菌による食中毒で死者が出るのは、近年においては珍しいことです。
厚生労働省の統計をさかのぼっても過去10年黄色ブドウ球菌食中毒による死者は出ていませんし、過去20年まで見て、2000年に1名出たくらい。
つまり、規模的にはそれほど大きなものではなかったものの、これは20年ぶりに死者が出た黄色ブドウ球菌による食中毒、となったわけです。
もっとも実はそう大きくは報じられてはいないものの、黄色ブドウ球菌の食中毒自体は、時折ぽつりぽつりと発生しています。
例えば、昨月8月には千葉県で、なんと「東京パラリンピック」の開催関連者9名が、飲食店の販売したのり弁当(ちくわやインゲンの天ぷら、チキンステーキなどが入っていたとのこと)を食べて黄色ブドウ球菌による食中毒を発症。

このように7月から9月にかけて、黄色ブドウ球菌の食中毒は増加する傾向にあります。
また今年の5月中旬には、早くも新潟の介護施設で黄色ブドウ球菌の集団食中毒が発生。
こちらでは25人の患者数がみられました。
このときの食中毒要因は、クリームとカステラを挟んだ菓子パンであった、とのことです。
では今回は、そんな黄色ブドウ球菌の食中毒を実際あのデータなどを見ながらより詳細に追っていきたいと思います。

近年の黄色ブドウ球菌食中毒はどうなっているか
近年の黄色ブドウ球菌食中毒の実情はどうなっているのでしょうか。
厚生労働省の統計データなどをもとに見ていくとしましょう。
さて、いつもながら一般的に「食中毒が多い」などという場合、次の二つのデータをともにかけあわせることでそれを評価します。
食中毒の「多さ」の評価軸(食中毒の状況別分類) |
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「事件数」とは、食中毒が発生した件数のこと。
「患者数」とは、食中毒になった患者の数のこと。
これら双方から、「食中毒の多さ」を判断します。
だから厚生労働省の食中毒の統計データには、その双方が集計されているのです。
さあ、それでは、ここからは実際にその双方から近年の食中毒統計を見てみましょう。
これはぼく自身が、厚生労働省の統計報告から独自に作ったグラフとなります。
まずは事件数です。
- グラフ1:事件総数

おや、と思いましたか。
そうです。
実は2000年以降、黄色ブドウ球菌による食中毒の事件数は、かなりの減少傾向にあるのです。
この右下がり感は、なかなか順当と言っていいでしょう。
というのも、もう少し遡ると1980年代半ばくらいまでは年間200件以上の発生があったとも言われているのです。
しかしそれ以降は次第に減少が続き、90年代に入ってようやく100件を割るようになって上のような状況に至った、と言われています。
とくに以前に比べると2010年代以降は年間の事件数が、ほぼ20~30数件程度、と比較的少なくなってきているのがわかります。
これは昨今増加傾向にある、例えばカンピロバクターなどとは対照的なことでしょう。
食中毒要因の移り変わり |
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黄色ブドウ球菌食中毒の患者数の変化
事件数のほうはこのように理解ができたことでしょう。
では「患者数」はどうか。
こちらもデータに基づいてみていくとしましょう。
- グラフ2:患者総数

まず何よりも、2000年に、どーんと突き抜けるような患者数が出ているのがどうしたって、気になりますね。
後にも語りますが、この突出こそが14,780人もの患者を生んだ、戦後日本最大の集団食中毒事件と呼ばれる、かの悪名高き雪印集団食中毒事件です。
よってこれはちょっと置いておくとしても、「事件数」のデータに比べるとそう右下がりでもないかな、という感じもしますね。
つまり、事件数までは如実に減少がみられていない、のかなと…。
ちょっと突出がえぐいので、その翌年2001年以降のみを拾ってグラフにしてみるとしましょう。

うん。
確かに、2000年代には4桁を超える患者数が出ていた。それに対し、特にここ数年は1/2以下にまでは減っている。
でも、その動きが顕著になるのは、2010年代に入ってから。
それまではそこまで順調に減っているわけでもなく、また時折ぽつりと高まる年もある。
まとめていうならば、日本国内の黄色ブドウ球菌食中毒は、近年、全体的に見ればともに減少傾向にある。
しかしよく見ていくと、「事件数」は確かに順調に減ってきているけれど、患者数はそれに比例するほどにも至っていない。
そういう事実が見えてくるかと思います。
実際、1件あたりの患者数というのは昔に比べて増えている、というデータもあったりします。
これをどう見るか。
実はある研究所は、これらについて黄色ブドウ球菌食中毒は近年「集団化」の傾向にある、と統計から算出しています。
そして事例を追っていくと、その要因に「どんぶり弁当」というキーワードが見えてくる、と主張しているのです。
どういうことか。
つまり、近年は物産展や野外イベントが昔に比べて頻繁、かつ大規模に行われるようになった。
そうした「食のイベント化」、それにともなう「大量調理の機会の増加」が黄色ブドウ球菌食中毒の集団化を加速させた、と意見しているのです。
ぼくは、それが本当かどうかはわかりません。
しかしながら、黄色ブドウ球菌という食中毒菌の特徴上、たしかに食品の適切な保管が難しくなりがちな野外での食イベントの場などで大量調理の機会が増えればそういうことにもなりかねない、とは想像がつくところです。

黄色ブドウ球菌の食中毒はいつ発生しやすいのか
では黄色ブドウ球菌の食中毒は一体いつ発生しやすいのでしょうか。
なんとなくイメージとしては、夏に多いという感じもしますよね。
でも先の事例は、9月に入ってから発生していましたし、例として出したものの中には5月というものもあります。
では実際のところはどうなんでしょうか。
近年の過去約十年、2010年から2020年までの黄色ブドウ球菌食中毒の発生数を、今度は月度別に集計してみました。
それが次のデータです。

これを見ると、なるほど、たしかに7月、8月の発生が顕著であることがわかります。
そしてそれに次いで、今月度9月と梅雨時期である6月が続いています。
一方で12月から4月というのは、黄色ブドウ球菌による食中毒の発生は非常に少ない、というのもわかります。
実際、0件という年も多く目についていました。
これは一体どうしてでしょうか。
それは黄色ブドウ球菌という細菌の特徴にもつながる話だったりするのです。

まとめ:前編
今回は前編、後編と二部にわたって黄色ブドウ球菌による食中毒について、二部構成でお話をさせて頂いています。
そしてこちら前編では、黄色ブドウ球菌食中毒の統計データを用いてどのくらい増減してきたのか、あるいはいつの発生が多いのかを見ていきました。
次回の後編では、より詳しく黄色ブドウ球菌に迫るとともに、黄色ブドウ球菌の食中毒事例などにも迫っていきたく思います。
以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。
