「本当に大丈夫なのか!?」「なんで保健所は黙っているんだ!?」などと数日前、テレビやネット、Twitterで話題になっていた、「鶏のレア唐揚げ」。
ぼく個人の見解では、「うーん、ギリで大丈夫」といったところでしょうか。

ではどうして「ギリで大丈夫」なのか、また何故「ギリ」なのか。
食品衛生、異物混入対策、微生物対策のプロが、専門家としての立場から解説していきましょう。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

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ネット騒然!鶏のレア唐揚げは本当に大丈夫?

(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)

先日のこと。
Twitterで、とあるテレビ番組で紹介された料理が「本当に大丈夫なのか?」と話題になっていました。

その内容というのは、2021年8月30日深夜に放送された朝日放送のバラエティー番組「なるみ・岡村の過ぎるTV」についてのこと。
なんでも大阪のグルメを紹介する番組の中の一つとして、「鶏のレア唐揚げ」というものが取り上げられたというのです。

大阪・朝日放送のバラエティー番組で紹介された「鶏のレア唐揚げ」について、肉の中心部が生っぽく見えるとして、食中毒の恐れがあるのではとツイッターで指摘が相次いでいる。

唐揚げを出す店では、「基準はクリアしている」と取材に説明するが、大阪市では、「加熱が不十分だと危険はある」としている。
朝日放送は、「規制などを調べて、問題はないと判断した」と説明した。

えーと。
これって…安全かどうかという前に、美味しいんですかね…。

まあ、美味しいかどうかはぼくはその専門家ではないのでさておきますが、ネット上で問われていた「安全」かどうかについて、専門家として答えていきたく思います。

鶏のレア唐揚げは、恐らくは、本当に(ギリ)大丈夫

さてその「本当に大丈夫なのか」と言われている「鶏のレア唐揚げ」ですが、結論から言えば、恐らくは、「本当に大丈夫」です。
とはいえ冒頭の通り、「ギリ」です。
もっともその「ギリ、本当に大丈夫」も幾つかの条件によって「ギリダメ」にも「ギリ大丈夫」にも、そのどっちにも揺れかねないくらいにかなり際どいところではあるのですが。

ただし、冒頭に断っておきますが、その「本当」というのがどのくらい「本当」なのか、については幅があるところでしょう。
例えば、上にも引用した大阪市の発言(誰がどう言っているのかも前後文脈も全く判らないですけど)なる「加熱が不十分だと危険はある」というもの。

何を言っているのかという感じで(まあとはいえ逃げの姿勢が見え見えですが)、こんなのはどの商品にしたって同じことで、そりゃ加熱不足なら危険は何だってあんだろ、というものです。
それを含めりゃ、そりゃあ「本当」じゃありませんが、でもだったらそこらの定食屋の焼き肉定食だって「加熱が不十分だと危険はある」となりますからね。

そういうのをナシにして普通に考えれば、この「鶏のレア唐揚げ」を食べて食中毒になる危険性はそれほど高くはないものと思われます。

あ、勿論ですが、この番組で紹介されているものに限りますからね、ぼくがここで言っているのは。
ぼくは「鶏のレア唐揚げ」という料理がすべて、本当に大丈夫だと言っているわけではないですよ。
なので世間一般で家庭で「それじゃ安全なら鶏のレア唐揚げ作って食べよう」って言われてどうなっても、ぼくは一切知りません。
そういう意味で、(ただの逃げにしか全く見えない)大阪市の意見はある意味正しいとも言えますね。

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「鶏のレア唐揚げ」がなぜギリ大丈夫かを考える

では、どうして「鶏のレア唐揚げ」は「ギリ大丈夫」なのか。
こういうときにこそ、食品衛生の専門知識というものが活かされるときでしょう。
いやあ、腕がなるなる!(笑)

さて、こういうときはどこから手をつけるべきなのか。
まずは何よりも「そもそも鶏肉由来の食中毒はどんな菌で起こるか」というリストアップをする、というのが、食品衛生の世界でつちかってきた優れた叡智です。

こうしたリストアップのことを、専門的には「HACCPにおける鶏肉の生物学的危害要因」…なーんて言うわけですが、今回はせっかくのキャッチーな美味しいネタ。
是非とも一般の方々にも判りやすくしたいので、ここではやめておきますね。

さて、その「鶏肉の食中毒ではこれが怖い」リストがこれになります。

鶏肉の食中毒ではこれが怖いリスト(鶏肉の生物学的危害要因)
  • サルモネラ属菌
  • カンピロバクター・ジュジュニ(コリ)
  • 病原大腸菌 (腸管出血性大腸菌O-157含む)
  • 黄色ブドウ球菌

つまり、この「鶏のレア唐揚げ」然り、鶏肉を料理する場合にはこれらの食中毒菌による被害をいかに抑えるか、が重要になります。

ちなみにこれらは、およそ危険性が高いと思われる順のリストとなっています。
つまり鶏肉の食中毒要因といったらやっぱり、「カンピロバクター」、「サルモネラ」が、ダントツ。
それに次いで、「病原大腸菌」あたりまでが、一般的にその代表例です。

ではこれらの細菌は一体どうして鶏肉を汚染してしまうのでしょうか。
それは鶏の内蔵(腸管)の中にあった菌が、鶏肉として食用に加工されていくうちに肉に付着し、汚染してしまうためです。

鶏が屠殺されて、枝肉、そして部分肉へと解体処理が進むわけですが、この際にどうしたって腸の中のおびただしい菌にふれることになります。
実際に付着せずとも、例えば作業者の手指だったり作業機械や器具、使用水などなどによって汚染はなされるわけで、これを防ぐのは現実的にはほぼ不可能なのです。
つまり、高確率で鶏の生肉自体は、上のような菌の汚染を受けている、そう思っていいでしょう。

この中でもとくに注意すべきは、「カンピロバクター」です。
というのも、カンピロバクターは鶏の腸内などにごく普通に生息しているからです。
結果、鶏生肉はかなりな確立で汚染されているものです。
なにせ一般的に市場流通している鶏生肉の汚染率は30%から80%の間、とすら言われています。
(厚生労働省調べでは、加工後段階では60%以上とすら報告されているくらいです)

しかし鶏にとってこの菌は病原菌ではないので、事前の食鳥検査ではわからない。
とりあえず、ほとんどの鶏肉はこのカンピロバクターに汚染されていると考えていいでしょう。

それから鶏肉が古くなるとサルモネラ属菌が懸念されますし、場合によっては病原大腸菌による汚染ということもあるかもしれません。

あるいは、鶏の皮膚に付着していた細菌がやはり加工の際に汚染してしまう、場合によっては作業員の手指や加工器具などに触れていたものが付着する、なんてこともあるでしょう。
黄色ブドウ球菌」などがそうですね。
ここらへんまでが、まあ一般的に鶏肉の食中毒を考えていく上で重要となる食中毒菌です。

その他、より詳細かつ本格的に検証を行っていくのであれば、「ウエルシュ菌」や「エルシニア・エンテロコリチカ」、「リステリア・モノサイトゲネス」なども考えられなくもないですが、ちょっと専門域が高まりますので、今回は置いておきます。

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どうやって鶏肉の食中毒を防ぐのか

ではこれらをどう防げばいいでしょうか。
食中毒菌にはそれぞれ失活させることができる温度があります。
つまりどのくらい加熱すればいいか、ということが予め定められています。
例えば、こんなふうにです。

食中毒菌の死滅温度
食中毒菌の死滅温度

どうでしょうか。
これで見る限り75℃1分以上の加熱でおよそ対象の食中毒菌を失活させることができることがわかるでしょう。

さて、一般的に唐揚げを作るための加熱温度ってどのくらいでしょうか。

一般的には、だいたい180℃以上でしょう。
低温の油で揚げるのだとしても、100℃は当然ながら越えているかと思います。
この温度で加熱を加えれば、いくら中がレアだからとはいっても1分くらいは揚げるために油に漬かっているのでしょうから、先のリスト内の菌を死滅させるには十分すぎるといえるでしょう。

これがまず、「本当に大丈夫」の最大の理由、科学的根拠です。

ただし一応、触れておきますが「黄色ブドウ球菌」。
こいつは「毒素型」といって、「エンテロトキシン」という毒を作ってそれを人間が食べることで食中毒を起こさせる細菌です。
こいつの場合、いったん食品内に毒素を作られてしまうと、その毒素は揚げたり炒めたりなどの普通の加熱調理では失活できません。
なのでそうした食中毒の発生ケースもないわけではないでしょうが、でもちょっと待って下さい。
その場合はレア唐揚げだろうがミディアム唐揚げだろうがウェルダン唐揚げだろうがなんだろうが、であればそもそも鶏の唐揚げ自体が「大丈夫」ではなくなります。
つまり、「レア唐揚げだから大丈夫じゃない」という条件ではなくなる、ということです。

…おっと、少し長くなってきてしまいましたね。
ある程度の基礎的な「本当に大丈夫」の根拠を解説したところで、前編としてはこのへんにしておくとしましょう。

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前編、まとめ

以上、前編では「鶏のレア唐揚げ」について、ギリ「本当に大丈夫」という観点からその根拠について、まずの基礎的な解説を行いました。

ここまでの前編の話をまとめるのであれば、こんな感じです。

「レア唐揚げ」はギリ「本当に大丈夫」な理由
  • 鶏肉の食中毒要因となる細菌は、サルモネラ属菌、カンピロバクター、病原大腸菌、黄色ブドウ球菌などである
  • これらは加熱調理、75℃1分以上の加熱で死滅できる
  • 唐揚げには100℃以上1分以上の高温調理を行うのが一般的であり、その調理過程に先の食中毒菌は死滅が可能である

では後編では、これらに加えて更にもう少し踏み込んで話を進めていくとしましょう。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。

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