最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、魚の中に生息しているアニサキスを電圧死させるという目下研究中の新技術と、アニサキスの最新食中毒事情についてお話していきます。

本日の時事食品ニュース

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

 

アニサキス食中毒対策に新技術が開発か!?

「食品業界ニュースピックアップ」。
ここでは様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていくつもりです。
どうぞよろしくお願いいたします。

さて、今日は8月26日に報道されていた、アニサキス対策の新技術についてお話するとしましょう。
なんでも魚の中のアニサキスに電流を流すことで、魚の肉に影響を与えることなく死滅させ、刺し身での可食を可能にする、というのです。

ではちょっとニュースから見ていくとしましょうか。

熊本大の浪平(なみひら)隆男准教授と水産加工会社ジャパンシーフーズ(本社・福岡市)の共同研究チームは、魚の切り身にいて食中毒を引き起こす寄生虫アニサキスの新たな殺虫方法を開発した。
加熱や冷凍といった従来の方法と異なり、瞬間的に発生させる大電力「パルスパワー」を利用し、生食用の切り身の品質や味を落とさず退治できるという。


ニュースイッチ

ほう、これはなかなか面白い取り組みですねえ。
これが実際の現場に導入出来るとしたら、アニサキス食中毒対策に一石を投じるものとなることでしょう。

では今回は最新のアニサキスによる食中毒事情をも踏まえながら、少しこれらを追っていくことにします。

最多の事件数をほこるアニサキス食中毒

知っている方もいるかもしれませんが、アニサキスの食中毒は事件数ではここ近年ずっとトップランカーです。
現在近々で統計が取られている昨2020年(令和2年)のデータを見れば、一目瞭然です。
これはぼくが厚生労働省の統計を元に作った、食中毒の年間事件総数グラフです。

事件数の多い食中毒要因
  1. 寄生虫(アニサキス他)
  2. カンピロバクター
  3. ノロウイルス

この傾向は、若干の増減、順位の変更があれどそれほど大きくは変化しません。
とくに近年、アニサキスの食中毒はかなり増加傾向にあります。

一体どのくらい増加しているのか、思わず興味を刺激され、過去の厚生労働省統計を漁ってしまいました。
こちらを御覧ください。

これを見る限り、ここ数年トップ上位ランカーのカンピロバクター(黄色線)やノロウイルス(紫色線)が著しく下落傾向なのに対し、アニサキス(水色線)の食中毒事件数は寧ろ劇的に上昇しています。

特に印象的なのは、昨年の2020年でしょう。(一番右)
カンピロバクター(黄色線)やノロウイルス(紫色線)がぐんと落ちているのにも関わらず、アニサキス(水色線)は過去最多の2018年にギリ迫っています。
これはどうしてか。

ぼくらのようなコアな食品衛生業界ヲチャーならずとも、ここらへん、なんとなく察しがつくことでしょう。
そう、例の新型コロナウイルスの猛威。
それによって外出制限が著しくなされるとともに、外食が激減し、そして手洗いやアルコールでの手指消毒が一般化した。
そうしたことで昨2020年の食中毒データというのは少々特殊な状況を反映しているのです。

しかしながら、それでもアニサキスだけは減っていないんですね。
それは、魚の中に生息しているアニサキスは減るわけではないですし、それを食べればアニサキスによる食中毒は発生するからでしょう。

近年アニサキスが増加したのはなぜ?

アニサキスをめぐる近年の食中毒データにおけるターニングポイント。
それはやはり、2018年でしょう。

グラフをもう一度みてください。
この2018年にアニサキス(水色線)が、ノロウイルス(紫色線)やカンピロバクター(黄色線)の二大巨頭(?)をさしおいて最多に躍り出ているのがわかるかと思います。

このことは当時、2018年度の食中毒をめぐる最大のトピックとなりました。
そしてそれ以降、先の通り昨年を含めても三年連続で最多の食中毒要因となっています。

ではアニサキスの食中毒はどうしてこんなに急激に増加したのでしょうか。
実はこれには諸説あります。

まず、よく言われるのが「元々昔から多かった」説です。
下の、アニサキスのデータだけを抜き取ったグラフの年度推移を見てみてください。
2012年以前は、0件となっています。

これはアニサキスという寄生虫は2012年までは地球上に存在しなかったということなのでしょうか。
勿論、これまたそんなわけがありません。
単に行政が食中毒として取り扱わず、報告義務が存在しなかった。
だから統計に出てきていない。それだけです。

しかしそれが世に認知され、公式に認められたのが2013年からのこと。
というのも2012年12月28日の食品衛生法施行規則の一部改正によって、アニサキスが食中毒の原因物質の種別に加えられたのです。
アニサキスのグラフ数値が2013年からあるのは、そのためです。

それでいきなりアニサキスは食中毒の表舞台に出てきた、というわけです。
いや、表なのか裏なのかは判りませんが(笑)、いずれにせよ可視化され、注目が集まった。
かくして結果的に世間に認知されれば、皆「アニキサス食中毒だ、病院に行こう!」となります。

かたや患者をアニサキス食中毒だと診断した場合、医師は24時間以内に行政への届け出を行うことが義務付けられることになりました。

このような注目ぶりには芸能人も実は一役買っていたりします。
例えば渡辺直美さんがテレビで「痛すぎて泣いた」などと語ったりしたことで一躍有名になったのも、記憶にまだ新しい話。


吉本興業

それと、「病院での内視鏡技術や対アニサキスの診断技術の向上」説、というのもあります。
確かにこれだけ増えていればニーズも高まるし、医療技術だってそりゃ上がるというもの。
結果的に、アニサキス食中毒だと診断される機会が増えた、と。
成る程、ぼかあ医療には詳しくありませんが、一理はあるかもしれない。

更には、「魚介類の流通技術の向上」説。
つまり生鮮食品の低温流通が発達して、遠隔地で水揚げされた新鮮な魚が出回るようになったから、なんてことも言われていますが、これはどうなんでしょうか。

この話によく引き合いに出されるのが、サンマです。
昔はサンマというのは焼き魚だった。
しかし流通技術の発達によって刺し身でも食べられるようになりました。
となればアニサキス食中毒の危険性も高まるだろう、というのがその根拠です。

特にカツオでのアニサキス食中毒が近年増加している、という声はここ近年、まことしやかにしばしば聞こえていました。
これはカツオの流通量とどう関係しているのかぼくにはわかりません。
事実、カツオが多かった年も数年前にあったのは確かでしょうが、しかしながら厚生労働省データによれば昨年ではサバやアジなどがそれを上回っており、必ずしもカツオとの関連性が高いものではないデータを示しています。

さらには、そもそも海中に生息しているアニサキス自体がここ近年で急増した、というマジかよ説というのものあります。
まず、温暖化による海水温の上昇によって増加したという説。
さらにはアニサキスの終宿主であるクジラやイルカが増えている、という説。

もっともここらへんにまでなると、さすがに食品衛生のぼくの専門知では負えませんので、詳しい方におまかせするとしましょう。

アニサキス食中毒を予防するためには

一般的に、アニサキスの予防のためには「加熱」か「凍結」しか決め手となる予防手法がありません。
厚生労働省は特に次のような対策をするよう告知しています。

アニサキス食中毒予防
  • 70℃以上(60℃以上なら1分以上)の加熱
  • マイナス20℃24時間以上の凍結
  • 生食の場合、新鮮なものを選んで早期に内臓を除去し、4℃以下で低温保存する
  • 内蔵の生食をさける
  • 目視による幼虫除去

アニサキス対策に新技術が

さて、そんなアニサキス食中毒に対し、九州に本社を構える水産加工会社「ジャパンシーフーズ」が熊本大学研究所と一緒に共同開発したのが、今回冒頭に取り上げた「アニサキス感電殺虫装置」とのことです。

上の記事によれば、この殺虫装置は魚に電流を流し、電気の力(パルスパワー)によってアニサキスを死滅させるのだということ。

この装置の優れているところは、生食の魚に対して効果が期待できる、ということでしょう。
「冷凍」や「加熱」などによる品質の劣化をさせることなく、アニキサスを死滅できる、ということで水産加工業界では大きな注目を集めている、とのこと。

すでに地元メディアなどでも取り上げられている様子。

なんでも、これらの記事によれば今後2年以内に製品化の目処があるのだということです。
これはちょっと注目していきたいところですね。

まとめ

今回は、新たに発表されたアニサキスの電力による殺虫技術のニュースに触れながら、アニサキス食中毒の現状や最新データなどをご紹介いたしました。

さて、みなさん。
これを書いているのは、8月28日。あともう数日で、8月が終わります。
ということはもう間もなく夏の終わりとともに、秋を迎えることになりますが、実は。
アニサキスの食中毒は秋が多い、という声があるのをご存知ですか。
ていうか、それって本当なんでしょうか…。

では、これについても、近く統計データを追いながら検証していきたく思っています。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。