最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、埼玉県の消防学校で発生したウェルシュ菌による集団食中毒についてお話していきます。

なおこの記事は、前回、そして今回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら②はその後編となります)

本日の時事食品ニュース

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

 

ウェルシュ菌による食中毒

(こちらは二部構成の「後編」になりますので、もしこちらから来られた方は、まずは「前編」を最初に読んでください。)

「食品業界ニュースピックアップ」。
ここでは様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていくつもりです。
どうぞよろしくお願いいたします。

さて、今日は8月23日に報道されていた、埼玉県は鴻巣市での食中毒について、前回同様お話するとしましょう。
前回は、この集団食中毒が食中毒菌の一つである「ウェルシュ菌」によって引き起こされたものであり、またそのウェルシュ菌とはどのようなものかについて、解説いたしました。

こちらの後編では、ではそのウェルシュ菌がどうしてそのように集団食中毒化しやすいのか、その理由や対策などについて解説していきたく思います。

ウェルシュ菌が集団食中毒する理由①酸素を好まない

それでは本題です。
何故、ウェルシュ菌は集団食中毒になりやすいんのでしょうか。

そもそもとして、ウェルシュ菌の食中毒の多くが大量に調理されるような給食や仕出し弁当で起こることが多いから、ということがあるでしょう。
何せウェルシュ菌食中毒のことを別名、「給食病」と言うくらいです。

では、なぜウェルシュ菌は「給食病」、つまりはそのような給食や仕出し弁当などの、大量調理で問題になるのでしょうか。
それはウェルシュ菌の細菌としての特徴に由来しています。
幾つか理由がありますので、順を追って説明します。

まず、前回も少し触れましたが、そもそもウェルシュ菌は自然界にも普通にいるため、その汚染を防止することは現実的ではありません。
何せ土壌にもいますし、どこにでもいます。
ですから菌汚染を防ぐのが難しい。まずこれが前提的な要因です。

それから、厄介さんの理由、その1。
前回にもお話したとおり、ウェルシュ菌は「偏性嫌気性」です。
「偏性嫌気性」というのは、酸素のあるところではあまり増殖しない菌のことです。(あまり、なので少々あっても増殖することがあります)
つまり、酸素を好みません。なので酸素のないところで増殖するのです。
ですから、スープやカレー、煮物などの中の、酸素のないところで増殖します。

ここ、食品衛生において微生物に向かう上でちょっと重要なことでもあるので、もう少し補足して説明しておきましょう。

細菌の生体というのは様々で、ぼくら人間とは違って必ずしも生きるのに酸素を必要としないものもいます。
これらのことから細菌の区分の仕方は幾つかあるのですが、その中の一つとして、増殖する際に酸素を必要とするのかどうか、という分け方があります。
それは、

  • 酸素が増殖に必要
  • 酸素があってもなくても増殖出来る
  • 酸素があると増殖できない

の三つです。

微生物の酸素要求性による区分
  • 好気性菌:酸素が増殖に必要(カビ、カンピロバクターなど)(※註釈1)
  • 通性嫌気性菌:酸素があってもなくても増殖できる(大腸菌、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、サルモネラ属菌、酵母など)
  • 偏性嫌気性菌:酸素があると増殖できない(ウェルシュ菌、サルモネラ属菌、ボツリヌス菌など)

※註釈1:生きるのに酸素は必要だけど少量が必要だという「微好気性菌」を含む。(カンピロバクターなど)

これらのうち、ウェルシュ菌というのは、酸素があると増殖できない類である「偏性嫌気性菌」に含まれます。

ところで、人間の腸内というのは、基本的に酸素がありません
だから、こと食中毒との関係でいうのであれば、食中毒は腸内で問題となるのですから、当然ながら「酸素がない環境で増殖する細菌」が問題になりやすくなります。

ということはつまり、酸素があってもなくても増殖できる「通性嫌気性菌」(これが多いです)と、それと一部、酸素がないと増殖できるようになる「偏性嫌気性菌」。
多くの食中毒菌がこれらの2つに当てはまるのは、そのためです。
(カンピロバクターは一応「好気性」の一つには含まれるのですが、しかし実際は生きるのに酸素は必要だけど少量が必要だという「微好気性菌」なのです。)

さて、ちょっと話が複雑になってきたので、ウェルシュ菌に戻りましょう。
上の区分でいえば、ウェルシュ菌は「偏性嫌気性菌」です。

何かを和えたり混ぜたり、炒めたり。
こうした調理の環境では酸素があるので、ウェルシュ菌は増殖はあまりしません。

ですが、カレーやスープ、味噌汁などの液体状のものを大型の鍋でグツグツ煮込む。
そんな状況になると、そうした料理内の液体中に溶けていた空気が加熱によって、追い出されます。
するとその料理内は、酸素のない状況が作られます。

こうなると、大量にカレーやスープや煮込み料理を作るような環境では、ウェルシュ菌は絶好の増殖条件を満たすことになります。
ウェルシュ菌が「給食病」と呼ばれる所以が、これです。

ウェルシュ菌が集団食中毒する理由②高熱に強い

次の、ウェルシュ菌の厄介さんの理由その2は、「他の菌よりも熱に強い」ということです。
どうして他の菌よりも熱に強いのか。
それは、ウェルシュ菌が「芽胞」というバリアのようなものを独自でつくる「芽胞形成菌」だからです。

このように、ウェルシュ菌は高熱などの過酷な条件になるとバリアのような芽胞を形成して、身を守って過ごし、その後また生息条件が整えば増殖します。
つまり、グツグツと調理されているカレーなどの汁の中では芽胞によって守られた環境でじーっと生き延び、それらが調理を終えて冷めていく、増殖の温度帯になったところで発芽して増殖するのです。

しかも、ウェルシュ菌の芽胞は極めて熱に強いのが特徴です。
何せ、100度で1~6時間の加熱にすら耐えるほどです

ですから普通の調理ではまずもって死滅出来ません。
結果、多くの食中毒菌が死滅する加熱調理の中、ウェルシュ菌だけが残っているというケースが生じます。
こうなると、食品内はウェルシュ菌の独壇場となります。
菌というのはその性質上、ライバルである他の菌がいなくなると、俄然増殖を増すという特徴を持っているのです。

それともう一つ、ここで厄介なことがあります。
ウェルシュ菌は芽胞を作るときに毒素を作るのです。
これが「エンテロトキシン」というものです。こいつこそが、食中毒を引き起こします。

しかしエンテロトキシン自体は、熱に弱いので加熱によって失活が可能です。(60℃10分間)
ですが、ここ、後でまた出てきますので、覚えておいてください。

ウェルシュ菌が集団食中毒する理由③冷却中に増えやすい

これまでのことから、ウェルシュ菌は、酸素のない煮込み料理などの汁の中で、芽胞を作って高温状況を生き延びます。

でもこれだけではまだウェルシュ菌は増殖は出来ません。
まだ芽胞のなかで静かにしています。

となると重要なのは、「如何に早く加熱した食品を冷やすことで、ウェルシュ菌が増殖しやすい温度帯を速く抜けるか」ということになります。
冷温ではウェルシュ菌はそう増えないからです。

さあ、ウェルシュ菌が厄介さんである理由、その三。
しかも、ウェルシュ菌は増殖温度帯が他の菌よりも高め(43~47℃)なので、それほど冷却が進んでいない状況から増殖が出来る上、その増殖速度(世代時間)も相当に速い。
だから、他の菌が増殖していないのに、ウェルシュ菌だけ増殖することが可能になります。

また。
先にも触れたとおり、このウェルシュ菌は、いわゆる「嫌気性菌」です。
つまり、酸素がないところでしか基本的には増殖しません。
逆に言えば、スープやうどんの汁、カレー、煮物など、多量に作ればその中で多量に繁殖することが可能になります。
だから、給食などでの大規模食中毒が起こることになります。
(こうしたものは、多量に作るとなかなか中心まで冷えづらい、という問題もあったりします)

つまりは料理中に「酸素がない」、そして料理の「温度がゆっくり下がる」。
これらの条件が揃った場合、ウェルシュ菌は一人生き残り、そしてまだ料理が高めの温度のときからすでに芽胞から発芽し、めきめきと増殖を始め、短時間で増えていくというわけなのです。

ウェルシュ菌が厄介さんな三つの理由
  • 酸素がない煮物やカレーなどの料理中で増殖する(偏性嫌気性菌)
  • 高温にとてつもなく強く、普通の調理法では死なない(芽胞形成菌)
  • 増殖温度帯が高く、また増殖速度(世代時間)も短い

ウェルシュ菌食中毒は小腸内で起こる

さてこのように料理内で増殖したウェルシュ菌を、人間が食べるとどうなるか。

まず、ウェルシュ菌自体は増殖しようが食品の味は変わりません。
というのもウェルシュ菌は増殖の際にタンパク質などを分解しませんので、食品に大きな影響を与えません。
当然ながら、カビのように目に見えるわけでもない。
だからその給食を与えられた人には、その料理の中にウェルシュ菌が増殖しているかどうかの羽Bつが出来ません。

そうして体内に取り込まれたウェルシュ菌は、体内の消化液から守るために芽胞を形成し、また身をかくします。
そしてこの際に、さあ、先にも言いましたね。芽胞が毒素を出すのです。
そう、「エンテロトキシン」です。
これによって食中毒が発生する、というのがウェルシュ菌の食中毒なのです。

仮に食品内で毒素エンテロトキシンを生成したとしても、加熱や胃の働きで失活されてしまいます。
しかし、腸内では話は別です。

つまり。
ウェルシュ菌の食中毒というのは、食品内で多量に増殖したウェルシュ菌を、食品を介して人間の体内に取り込む。
そうして体内で芽胞となったウェルシュ菌が小著内で作る毒素「エンテロトキシン」によって、大量の食中毒が引き起こされる、というわけです。

ウェルシュ菌対策は速やかな冷却が重要!

そろそろ長くなってきたので、対策について話を向けていくことにしましょう。

さあ、ここでもう一度ウェルシュ菌の厄介さん要因三つを見てみましょう。

ウェルシュ菌が厄介さんな三つの理由
  • 酸素がない煮物やカレーなどの料理中で増殖する(偏性嫌気性菌)
  • 高温にとてつもなく強く、普通の調理法では死なない(芽胞形成菌)
  • 増殖温度帯が高く、また増殖速度(世代時間)も短い

そもそもどこにでもいる菌で、酸素のない料理中で増殖する。しかも加熱しても死なない。
そして、増殖温度帯が高くて、増殖速度も早い。
ということは、いかに料理後の食品を速く冷まして、その増殖時間帯を短くぬけるか。
これこそがウェルシュ菌対策の最大のポイント、ということになります。

そう、ウェルシュ菌の食中毒は、冷却の失敗が要因であることがほとんどです。
これがウェルシュ菌食中毒の原因の大半をしめています。

そもそも、加熱殺菌した食品をいかに迅速に冷やすか、というのは非常に重要にして基本的な食中毒対策なのです。
ですから、一般的な工場であれば、ブラストチラーや真空冷却機などの冷却システムを用いて、その増殖温度帯を如何に通過するかの対策がなされるものです。

ですが、そうした高額な機器は、小規模の仕出し弁当工場や給食工場には備わっていません。
何せ作ったものをすぐ食べてもらうため、そうする必要が、基本的にはありません。
ですから、その多くはせいぜい、温かいうちに速く食べてもらう。
じゃなければ、扇風機や冷蔵庫などで冷やす、といった方法が取られていたりします。
ですが、これらの冷却方法は多量の食品を冷やす方法として、それほど適してはいません。

しかしこの段階で、知識のある調理者であれば、食品を小分けして冷蔵庫にしまうなどの方法を採るのでしょうが(小分けの段階で空気に触れるため、増殖を押さえる効果もあります)、これが知識がない調理者の場合、寸胴鍋に入れたまま常温放置、せめて扇風機などを当てる程度にしてしまいます。

まあ、そんなことで食品が完全に冷却出来るわけがなく、結果、多量の食品がウェルシュ菌で汚染されることになります。

ウェルシュ菌対策
  • 調理後は、出来るだけ小分けして冷却する
  • 作り置きをなるべく避け、調理後は出来るだけ早く喫食する
  • 出来ない場合は、10℃以下で冷保存する
  • 前日などに加熱調理したものは、十分に再加熱する

まとめ

今回は事件数は少ないものの、一回の事件で大量の患者を生み出すウェルシュ菌についてお話しました。

最後に、改めてウェルシュ菌の食中毒のポイントである、「厄介さんの三つの理由」を押さえておきましょう。

ウェルシュ菌が厄介さんな三つの理由
  • 酸素がない煮物やカレーなどの料理中で増殖する(偏性嫌気性菌)
  • 高温にとてつもなく強く、普通の調理法では死なない(芽胞形成菌)
  • 増殖温度帯が高く、また増殖速度(世代時間)も短い

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識は勿論、その世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。