最新の食品業界ニュースから気になった話題を定期的にピックアップし、食品衛生管理のプロの目線からコメントさせていただきます。
今回は、埼玉県の消防学校で発生したウェルシュ菌による集団食中毒についてお話していきます。

なおこの記事は、今回、そして次回と、二部構成でお話させて頂いています。
(こちら①はその前編となります)

本日の時事食品ニュース

改めまして、皆様こんにちは。
食品衛生コンサルタントの高薙です。
ここだけしか聞くことの出来ない神髄中の神髄、
「プロが本気で教える衛生管理」を、毎日皆様にお教えしています。

 

埼玉県でウェルシュ菌の集団食中毒発生

(こちらは二部構成の「前編」になりますので、もし「後編」から来られた方は、まずはこちらを最初に読んでください。)

「食品業界ニュースピックアップ」。
ここでは様々な食品衛生関連のニュースを取り上げ、専門家としての解説を加えていくつもりです。
どうぞよろしくお願いいたします。

さて、今日は8月23日に報道されていた、埼玉県は鴻巣市でのウ食中毒についてお話するとしましょう。

まずこの集団食中毒は、食中毒菌の一つである「ウェルシュ菌」によって引き起こされたものです。

「O157(腸管出血性大腸菌)」だとか、「ノロウィルス」だとか、「カンピロバクター」だとか、そこら辺のメジャーな食中毒については耳にしたことがある、という方。
そんな方でも、もしかしたらこの「ウェルシュ菌」による食中毒、というと「え、何菌だって?」という方も、結構おられるのではないでしょうか。

そんなマイナーめな食中毒菌でありながら、しかし実際にはこのように大規模な食中毒をも起こし得る。それが「ウェルシュ菌」なのです。

ではちょっとニュースから見ていくとしましょうか。

埼玉県は22日、鴻巣市の県消防学校の食堂でウエルシュ菌による食中毒が発生したとして、22~24日まで3日間の営業停止処分にしたと発表した。
(略)
食品安全課によると、17日の午後6時半から、食堂の定食などを飲食した105人のうち、学生の20代男女54人が腹痛や下痢などを発症。
(略)
鴻巣市保健所が調査したところ、患者25人からウエルシュ菌が検出され、患者が共通で飲食した場所が限られることなどから、同食堂で提供された食事が原因と判断した。

このように、埼玉県で54人の集団食中毒が発生した様子です。

さて、54人というと結構な規模のように思うかもしれませんね。
ですが、こう言ってしまうと少々問題があるかもしれませんが、ウェルシュ菌というのは大規模の集団食中毒になりやすい特徴を持つ食中毒菌です。
ですので、このくらいはそこそこ頻繁に発生したりもします。

例えば同じ埼玉県内で、今年の初頭2月にはなんと、700人越えの学校給食によるウェルシュ菌の集団食中毒が発生して大きな話題となりました。

また昨月7月には、福井県の高校にて、野球部寮内の食堂での食事が原因で、93人がウェルシュ菌食中毒に。

また6月、962人を出してこれまた大きな話題となった、富山県での給食の牛乳による食中毒事件において、その牛乳の中からサルモネラ菌以外に、ウェルシュ菌の検出もなされました。
(だからといってこれがウェルシュ菌での食中毒かは別の話ですが)

さあ、どうでしょう。
こうやって見てみると、あれあれ、マイナーで知らなかったけれど、でもあながちバカに出来ない食中毒菌だったりもしますよね。

しかも、上の事例などからも判るように、食堂や給食などの大量調理施設で、ドーンと大量に引き起こしやすい。
つまり、その食中毒の被害となるののは、得てして子供たちだったり養護施設などのご老人だったりという方々だったりもするのです。
(まあ重症化するのはまれでもあるんですけど、でもだったらいいっていうわけじゃないですもんね)

ではこのようなウェルシュ菌の大規模な集団食中毒は、どうして発生するのでしょうか。
より詳しく見ていくとしましょう。

ウェルシュ菌とは

このように、ウェルシュ菌食中毒の一番の特徴として、まず何よりも「集団化しやすい」ということが挙げられます。
つまり、食中毒一発での患者数がえらく、膨れ上がる。
これが、何はさておきウェルシュ菌食中毒、最大の特徴です。

おっと、その前にそもそも「ウェルシュ菌ってなんだよ」、という方も多いことでしょう。
そこでまずは、ウェルシュ菌について基礎的な話をしておきます。
知っているよ、という方も今一度復習のつもりで、どうぞ確認してみてください。


Wikipedia

ということで、以下、簡単にウェルシュ菌をご紹介します。

さて、このウェルシュ菌は「芽胞」という熱に強い頑丈な菌のバリアを形成する、いわゆる「偏性嫌気性」の食中毒菌です。

「………は?」
ってなりました?
オーケー、オーケー。順を追って説明しますね。

一部の細菌は、生きるのに厳しい環境にさらされると、めちゃくちゃ頑丈で耐久性の高い細胞の殻にくるまって、それをバリアのように使って生き延びようとします。
これが「芽胞」です。
この「芽胞」によって、細菌は高熱の環境の中でも生き延びることが可能になります。

もっともこの芽胞を作れる細菌は限られているのですが、このウェルシュ菌はそうした芽胞を形成できる菌の一つなのです。
ということは、高熱で加熱したとしても、つまりは調理でぐつぐつと鍋に煮られたとしても生き残ることが出来る菌でもある、ということです。

一般的な方々は、「しっかり加熱したから食中毒は大丈夫だろう」と思うかもしれませんね。
でもこのウェルシュ菌というのは、そうした中でも生き残ることが可能な菌なのです。

さらに特徴がもう一つ。
それが「偏性嫌気性」の菌だということです。

この「偏性嫌気性」というのは、酸素のあるところではあまり増殖しない菌のことです。
ですから、スープやカレー、煮物などの中の、酸素のないところで増殖します。
尤も少しくらい酸素があっても増殖するのがこの偏性嫌気性の厄介なところでもあったりします。
しかもタンパク質を分解させないため、その菌が付着した食品を食べても味にも変化がなく、ですから食べても気づきません。

実はウェルシュ菌は、土壌や水中など、自然環境にも広く分布しています。
土壌菌ですから酸素のない土中にいますので、野菜なども汚染されています。
また人間や動物の腸内にも普通にいる菌でもあります。
というか、実はウェルシュ菌には種類が幾つかありまして、でその仲間の一部が食中毒を起こす毒素を作る悪い菌なのです。

さて、そんなウェルシュ菌が大量に増殖した食品を人間が食べてしまうとどうなるでしょうか。
ウェルシュ菌は人間の腸内に入ると、毒素(エンテロトキシン)を作ります。
ウェルシュ菌による食中毒は、このようにして発生するのです。

ただしウェルシュ菌の食中毒は、規模は大きいですがそれほど重症にならないことが多いです。
およそ一日程度で回復することも多いので、問題が深刻化しないこともままみられます。

集団食中毒になりやすい、ウェルシュ菌

さて、先の項の最初に、ぼくは「集団食中毒になりやすいのが、ウェルシュ菌の食中毒の怖いところだ」という話をしました。

今回取り上げた事件では54人の患者が出ていますが、その前の給食では700人以上もの患者が出ています。
このように、ウェルシュ菌での食中毒は、1回での発症者数が得てしてめっちゃ跳ね上がるものです。

さて、一般的に「食中毒が多い」という場合、次の二つのデータからそれを評価します。

食中毒の「多さ」の評価軸(食中毒の状況別分類)
  • 事件数:食中毒が発生した件数
  • 患者数:食中毒になった患者の数

事件数」とは、食中毒が発生した件数のこと。
患者数」とは、食中毒になった患者の数のこと。
これら双方から、「食中毒の多さ」を判断します。
だから厚生労働省の食中毒の統計データには、その双方が集計されているのです。

さあ、それでは、ここからは実際にその双方から近年の食中毒統計を見てみましょう。
これはぼく自身が、厚生労働省の統計報告から独自に作ったグラフとなります。

実は近々の昨2020年のデータというのはちょっと特殊な事情でもあったので、もっとわかりやすい一昨年前、2019年のデータをここでは使うとしましょう。

  • グラフ1:事件総数
事件数の多い食中毒要因
  1. 寄生虫(アニサキス他)
  2. カンピロバクター
  3. ノロウイルス
  • グラフ2:患者総数
患者数の多い食中毒要因
  1. ノロウイルス
  2. カンピロバクター
  3. ウェルシュ菌

どうでしょう。
ちょっとこれらのデータの要因や細かいことは近く別の記事で扱うことにしますが、とりあえず今回ここで一つだけ押さえておきたいこと。
それは、ウェルシュ菌での食中毒というのは、「事件数」はそう対して多くはないくせに「患者数」がやたら多い、ということです。

これは、一回の事件で発症する患者数が多いからです。

実際、データからも判るようにウェルシュ菌は、事件数でいえば、かなり少ない。
だって、年間22件しかない。
同じ細菌性食中毒だって、先のカンピロバクターは年間300件近く発生しているのに、です。
にも関わらず、そんなに患者数では大きな差がない。

もう一つグラフを。こっちのほうがわかりやすいかな。
このグラフのようにそのさらに前年である2018年においては、
年間の事件数がたった8件なのに、患者数においては、カンピロバクターより多い2000人越えになっている。

では、これは何故なのでしょうか。
後編ではその理由に迫りながら、ウェルシュ菌の食中毒をいかに防ぐか、などについてもお話していきたく思います。

まとめ

今回は埼玉県で発生したウェルシュ菌の集団食中毒ニュースに触れながら、事件数は少ないものの、一回の事件で大量の患者を生み出すウェルシュ菌の食中毒についてお話しました。

後編は、これらを踏まえながら、ではどうしてそのような集団化がしやすいのか。
またそれを防ぐにはどうすればいいか、などについて解説していきたいと思います。

以上、このように、このブログでは食品衛生の最新情報や知識、またその世界で長年生きてきた身だから知っている業界の裏側についてもお話しています。
明日のこの国の食品衛生のために、この身が少しでも役に立てれば幸いです。